↓第39話 かのじょの、おもわく。

「ほんっっっ――…………とうにゴメンネェ!!」


 手足を縛られた焚川は、やってきた迷子たちを前に土下座した。

 完全なる服従の姿勢。

 きっとライオンを前にしたハムスターはこんな感じだ。


「ちゃんっっっッッ……と説明してもらいますからね!」


 腕を組んで仁王立ちの迷子。

 視線を直視できないまま、焚川は口を開いた。


「説明するより、アレを見てもらったほうが早いワ」


「?」


 焚川の視線の先には、山積みにされたキャリーケースがある。

 そういえばシスタークリムゾンにやってきたとき、彼女がハリーに運ばせていたのを思い出した。


「あれがどうかしたんですか?」


「中を見てくれるゥ?」


「……」


 迷子はキャリーケースを開ける。

 すると中から子供用ドレスがたくさん出てきた。


「な、なんでこんなものが?」


「ほかのヤツも開けてェ」


 別のケースを開けると、今度は形の異なった木の枠が入っていた。


「な、何に使うんです?」


「それは棺桶よォ」


「か!??」


「組み立てて使うの。パーツを変えればお好みの棺桶がつくれるワ」


 焚川は言うと、


「この棺桶は我が社の新商品なのォ。売り出すためにミズ・メイコをモデルに起用したくって……きっと映えるワぁ」


 言いながら恍惚とした表情を浮かべた。


「そのために眠らせてドレスを? っていうか撮影用の機材はスター・レイの中では?」


「あとでこっそり持ってくるつもりだったのよォ! 屑岡は死んだし、適当に理由をつければ、パイロットの二人だってカメラくらい貸してくれると思ったのォ!」


「やっぱり変態ロリおばさんじゃないですか……」


「そ、そんな目で見ないでェッ! それにおばさんじゃないからァ! まだ若いからアっ!」


 完全に迷子に引かれる焚川。

 そんな軽蔑の視線にもだえながら、焚川は続ける。


「ひと月前にシスタークリムゾンの搭乗リストを調べたのォ。そこにあなたの名前があってピンときたワ。これはチャンス! 屑岡の秘密を探るついでに一枚撮っておこうってネッ!」


「『ついでに』ってなんですか『ついでに』って……。やってることがストーカーです」


「仕事熱心と言ってちょうだいッ! だ、だいじょうぶよォ……ワタシ……一線は越えない主義だから……ッ!」


 ハァハァと息を荒げて迷子にすり寄る焚川。

 睡眠薬の時点で一線を越えていると思うが……。

 迷子は冷めた目で彼女を見る。


「……やっぱりただの変態ロリおばさんです」


「と、とにかくゴメンなサイッ! グラビアができたら棺桶のサンプル送ろうと思ってたノ! ぜひ我が社と契約をッ!」


「しませんからっ! わたしは100億万歳まで生きますからぁッ!」


 そして「シャーッ!」とネコのように威嚇いかくする迷子。

 焚川は涙目になる。


「い、言っておくけどワタシは犯人じゃないからッ! 信じて! ブラックも屑岡も殺してないからッ!」


「どうでしょう……わたしは信用できませんけど」


 腕を組んで目を細める迷子。

 疑いが完全に晴れたわけではない。

 とりあえず焚川が、変に歪んだ情熱を持っていることだけはわかった……。


「あー、ちなみにロリおばさんを擁護するわけじゃないけどさぁ――」


 そこでうららは、一本の縄状のものをさらす。


「これ」


「なんです?」


「メジャーだよ。迷子が眠ってるとき、オバサンこれで寸法を測ろうとしたんだ」


 焚川が迷子に馬乗りになったとき、首周りに巻いたのがこれだった。

 縄で首を絞めようとしたのではなく、サイズを測ろうとしたらしい。

 焚川は弁解する。


「いずれはメイコモデルの棺桶を販売したいのォ。入る入らないは別として、部屋に飾れるファッショナブルな棺桶よォ。どぉ? ステキと思わなぁい?」


「誰が買うんですそれ……」


「だーかーらぁー! 飾るだけでいいのォ! どう? 映えるでしょ?」


 ファッションとしての棺桶を力説する焚川。

 迷子にはよくわからなかったようで、難しい顔をする。


「と・に・か・くっ! わたしでハァハァするの禁止です! やったことは事実なんですから、しばらく反省してくださいっ!」


「そんなァー!」


 ――と、いうわけで。

 焚川は倉庫で隔離されることになった。

 一応、完全な白ではないので、ゆららのもとで監視されることになる。

 うららが焚川を肩にかついだ。


「キャーーー! どこさわってんのよォ!」


「暴れるなって。でないとクナイでおしり刺すぞ」


「ひぃっ!」


「ついでにカードキーも没収な」


「ひゃっ……! だからどこさわってんのよォ! ちょ、胸――」


「うるさいな、デカいのは声だけにしろよ。……っていうかなに食べたらこんなにおっきくなるんだ?」


「あらぁ? お子様ニンジャにはオトナの魅力が輝いて見えて?」


「……やっぱり刺そうかなコイツ……」


「やめて、ちょ……アッ! ダメッ! ちょ、だからどこさわって――やんっ!」


 焚川をクナイでツンツンするうらら。

 イヤと言いながらも、彼女の頬が赤いのは気のせいだろうか……。

 そこに迷子が声をかける。


「あ、うららん! わたしも倉庫にいきます!」


「ん、聞き込みか?」


「はい。毒グモさんがなにか知ってそうなので」


「よし、わかったぜ」


 三人は部屋をあとにする。

 頼みの綱は、世界最強の暗殺者にかかっていた――

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る