↓第38話 を、気づいたな!

「――……お、気づいたな!」


 迷子が目を覚ますと、そこにはうららの姿があった。

 どうやら自室に連れてこられ、ベッドの上で寝かされていたらしい。

 徐々に頭がはっきりとして、焚川に眠らされたことを思い出す。


「た、焚川さんは!? 焚川さんはどこに!?」


「まぁ、落ち着けよ。あのロリコンおばさんは縄で縛ったから。今、ヤツの部屋で転がってる」


「……そうでしたか。というか、うららんはいつのまに?」


「えと、そのことなんだけど……」


 うららは気まずそうに頭を掻いてから、


「眠ってたのはウソなんだ。ゆららから伝言をもらったあと、実はずっと起きて迷子の見張りをしてたんだよ」


 ポケットから一枚の紙切れを出す。

 そこにはシスタークリムゾンで起こった状況や、迷子を見守ってほしいなどのメッセージが書かれていた。


「ええっ!?」


「悪かったよ。でも途中まではほんとうに寝てたんだぜ? ゆららが密かに解毒剤を打ってくれたおかげで、早く目覚めることができたんだ」


「それじゃあどこかで一服盛られたと?」


「おそらくな」


 うららは補足する。


「ちなみに迷子にも打ったぜ。さっきのが最後の一回だから、今度眠ったらしばらく起きない。なるべく注意して行動しろよ」


 迷子は腕の注射痕を見ながら「……わかりました」と頷く。

 うららは続きを話した。


「んで、あたしは眠らされたワケだけど、そもそもスター・レイで全員倒れたことを考えると、すでにあのとき仕込まれていたのかもな。犯人の目的は知らないが、とにかく解毒剤が完全に効くまではしばらく部屋で休んでいたってワケ」


「そうだったんですか……」


「ちなみに迷子があたしの部屋でスイーツ喰ったのも見てたからな。ムカついたからこっそりポケットのカードキーを盗んでやった」


 うららは迷子のカードキーをチラつかせる。


「あーっ! って、もしかしてわたしの部屋で喰い散らかしたのって――」


 迷子は自分の部屋が散らかっていた光景を思い出す。

 思えばそのゴミは、どれもスイーツ関連のものばかりだった……。


「だっていっぱい寝たらお腹すくし。ちょうど冷蔵庫あるし」


「さいあくです! このドロボウニンジャ!」


「どっちがだよ。あたしの分、食べたくせに」


「ムムム……わたしは一つしか食べてませんから! あんなに食い散らかしてませんからぁ!」


 子供の口喧嘩のような争い。

 一旦、お互いに冷静になる。


「とにかくだ、焚川におかしな雰囲気があったからマークしてたんだよ。そしたらビンゴ。迷子がヤツと部屋に入る瞬間、バレないようにドアの下にクナイを挟んだんだ。オートロックが作動しないスキをついて、あとから部屋に侵入したってワケ」


 焚川は油断していたため、うららの存在に気づかなかった。

 とはいえ気配を消したまま、一瞬で室内に潜入するニンジャスキルはさすがだ。


「やべぇぜ、あのロリコンおばさん。おまえを裸にしてハァハァしてたもんな」


「ハァぁぁあアアッッ!!??」


「はは、大丈夫だって。ハァハァするまえに止めたから」


 迷子はゾゾっとして自分の身体を確かめる。

 服はどうやら、うららが着せてくれたらしい。


「はは、じゃないですよ! ロリコン選手権優勝じゃないですかっ! やっぱり魔女だったんですね! もう許しません!」


 一言ひとこといってやろうと、迷子は焚川の部屋へ向かおうとした。

 が、しかし。


「ちょ! まぁ、待てって」


 うららは迷子の手を掴む。


「なに言ってるんですか! シスタークリムゾンを混乱に陥れた張本人ですよ! 牢屋に入れる前に、わたしがガツンと言って――」


「いや、それがさ……」


 うららは視線を泳がせる。

 気まずそうに顔を上げたあと、なんとも言えない表情で迷子にこう告げた。


「焚川は犯人じゃないんだ」


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