↓第32話 んんンおえあアぁぁあァァ……!!
「オ……おえエェエエェェェぇぇぇ…………ッッ!!」
あまりにもショッキングな光景に、ボブはたまらず
そこにいた全員が言葉を失い、ただ天井を見上げていた。
「ど、どうしてこんなことに……」
迷子もどうしていいかわからない。
さっきまで部屋にいた彼が、なぜ死体となって現れたのか?
なるべく冷静になって、現状を頭の中で整理する。
彼は宇宙服を着ており、背後から胸部を巨大な槍で貫かれていた。
宇宙服は専用のワイヤーで繋がれており、その身体はフワフワと宙をさまよっている。
ヘルメットにはサンバイザーがかかって表情は窺えない。
しかし宇宙服に表記された部屋番号がはっきりと認識できる。
そのためここにいた誰もが、彼を屑岡と判断した。
「あ、ああ……!」
ハリーが屑岡を指差す。
身体を繋いでいたワイヤーがピンと張り、どういうわけか宇宙服に固定していたフックがガチャンと外れた。
槍が刺さったまま、屑岡は宇宙の果てへと流されていく。
「お……おえェアアアぁぁァァ…………ッッ!」
その光景を見たボブはまた吐いた。
乗客は成す術もなく、ただ茫然とする。
「ぐ……ぐグ…………ッ」
震える奥歯を噛み締めて、迷子は自分の頬を何度も叩く。
「迷ってる場合じゃ……ありませんッ!」
混沌とした気持ちを払うかのように、彼女は西側通路へと駆けていた。
「あ、メイコさんッ!」
それを見たパクが反応する。
腕時計をいじりながら、迷子のあとを追いかけた。
「な、なんで……なんでこんなことに……ッ!」
ハリーは膝を突いて、その場で顔を伏せる。
立薗は天井を見上げたまま、言葉を失い放心してしまった。
「り……りぃぃ…………っ」
タビーは恐怖に怯え、テーブルの下で小さく震える。
第二の殺人が起こってしまった。
その事実は乗客たちに動揺を広げる。
「屑岡さんッ! 出てきてくださいッ! 屑岡さんッッ!!」
屑岡の部屋にやってきた迷子は、ドアを叩きながら叫ぶ。
しかし反応は返ってこず、沈黙だけが辺りに広がった。
「メイコさん、彼は死んでいたんだ。この中にいるはずは……」
パクは言う。
部屋から出てこないのではなく、部屋にいないから出てこないのだと。
実際、死体が浮いていたわけだし、そうとしか思えない。
「うぅぅ……ッ!!」
迷子はうつむきかけた顔を上げ、再び走り出す。
「メイコさんどこにッ!?」
「南側通路です! あの槍には見覚えがありますッ!」
屑岡に刺さっていたのは巨大な深紅の槍だった。
そこには金色の装飾がほどこされていたが、あれは南側通路に飾ってあった太陽神ルーの槍、『アラドヴァル』に似ている。
もちろんオブジェクトではあるが、鋭利な先端の殺傷力は充分だ。
もしなくなっていたとしたら、犯人は南側通路から槍を持ち出した可能性が高い。
「ハァ……ハァ……ッ!!」
迷子は息を切らせて走る。
中央フロアから南側通路へ抜け、そしてオブジェクトが飾ってあった場所に辿りついた。
「…………そんな」
なかった。
深紅の槍、アラドヴァルが消えていた。
壁に飾ってあったハズなのに、どこにも見当たらない。
「ど、どうなってるんだ……?」
やってきたパクも、壁を見つめながら
彼もまた、ここに槍があることを確認した一人だったからだ。
やはり屑岡に刺さっていたのは、ここにあった槍で間違いないのだろうか?
「犯人はいつ槍を持ち出して屑岡さんを……」
なるべく落ち着いて、迷子は頭を働かせる。
乗客のみんなは、南側通路以外の場所にいた。
つまりここから槍を持ち出すには、必ず中央フロアを通らなければならない。
中央フロアでは料理の準備をしていて、南側通路に移動した人はいないハズだ。
仮に槍を持ち出したとしたら、あまりにも目立つし監視カメラにも映る。
だとすればどうやって犯人は凶器を持ち出したのだろう?
「そもそも彼はなぜあんな場所で……」
迷子は宇宙空間で死んだ屑岡の状況に違和感を覚えた。
なぜ外に出たのだろう?
ここである仮説が浮かぶ。
たしか屑岡がトイレに行ったあと、ハリーに対してこんなことを言っていた。
『救命艇を使って地球に還れないか』と。
それに対してハリーは無理だと言った。
そもそも救命艇の稼働はテスト段階だ。
安全に動かないリスクがあるし、おまけに救命艇の場所に行くには命綱をつけて、外からシスタークリムゾンの下部まで移動しなければならない。
もしかして一人で脱出しようと考えたのだろうか?
「たしか宇宙服は各部屋に一着用意されていたはずです。屑岡さんの部屋の位置だと、誰にも気づかれずモジュールから外へ出ることも可能ですよね……」
迷子は考える。
彼の部屋は西側通路にあり、且つ、モジュールへ出る扉のそばにある。
救命艇を独り占めしようとした場合、人目に触れず脱出を試みた可能性はゼロじゃない。
「……迷ってる場合じゃまりません!」
迷子はすぐさま踵を返し、中央フロアへと向かう。
「ああ、ちょっと!」
パクも慌てて迷探偵のあとを追いかける。
中央フロアに到着した迷子は、未だ混乱の
そしてぐったりする立薗のところまで行くと、彼女の肩を掴んでこう言った。
「今すぐコントロールルームへ!」
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