↓第31話 よくみると、あれは……

「ありがとうメイちゃん」


 倉庫についた迷子は、トレーの食事をゆららに渡す。

 カティポは依然として眠ったままで、プリンセスはいじけてイモムシみたいに床を這っていた。


「腕の調子はどうですか?」


「少し痛むけど……心配ないわぁ」


 軽く腕をさすりながら、ゆららは不安気な迷子に微笑む。

 表情には出さないが、きっと痛みを我慢しているに違いない。


「それよりメイちゃん。捜査に進展はあったぁ?」


「う~ん、まだなんともいえません。犯人につながる決定的な証拠もなければ、その動機すら不明ですし」


「……そう」


 捜査は行き詰まっていた。

 屑岡がなにか話してくれたら、少しは状況が好転するかもしれないが。

 やはり『4年前の罪』というところが、事件のカギを握っているように思える。


「やっぱりエイリアンが潜んでいるかもしれません。油断しているといきなり襲われますよ!」


 本気で心配する迷子に「うふふ、そうねぇ」と、おっとりした笑みを返すゆらら。


「とにかくあせってもしょうがないわぁ。いつでも動けるように、今は英気を養いましょう?」


「……そうですね」


 迷子は気持ちを切り替えるように頬を叩く。

 今できることは、ピザを口に運ぶことくらいだ。

 しばらく雑談を交えながら、食事の時間を過ごす。


「――ごちそうさまぁ」


 全部食べ終わったゆららは手を合わす。

 迷子は持ってきたトレーを手に取ると、立ち上がった。


「それではまた来ます。ゆららんも気をつけてください」


「メイちゃんもねぇ」


 中央フロアに戻る道中、迷子はぼーっとガラスの向こうに広がる景色を眺めた。

 青く広がる地球の大地が、なんだか懐かしく思える。


「はぁ……わたしたちは無事に還れるんでしょうか?」


 ひょっとしたらエイリアンに食べられるんじゃないかと思い、迷子はブルっと身体を震わせる。


「わ、わたしはおいしくありませー--ん!!」


 変な妄想を振り払うようにして、迷子はぴゅーっと通路を駆け抜ける。

 中央フロアのドアが開いた瞬間、顔にモフっとしたものがぶつかった。


「わぷっ! ……ちょ」


 植物……いや、タビーの髪の毛だった。

 たたらを踏んだ迷子は、改めて彼を見る。


「なにやってるんですかドアの前で――」


 ――――。


 なにか様子がおかしい。

 タビーはひどく怯えていた。

 口元をわなわなと震わせ、迷子の袖を引っ張ってなにかを訴えようとしている。


「り……り……!!」


 よく見るとタビーだけでなく、フロア全体に違和感があった。

 静かすぎる。

 辺りの時間が止まったみたいに、そこにいるみんなが天井を見上げて沈黙していた。


「……みなさん?」


 全員の視線が集約する先に、迷子も自然と目を向ける。

 そこではじめてハッとした。

 ドーム型の天井、その外側になにかいる。

 それは生き物。

 宇宙服を着た――人間。

 見たことのあるシルエットに、誰もが確信する。

 

 あの人だ。

 

 けど、いつあんな場所に?

 そんな疑問をはらみながら、震えて目を見開く。

 疑いようもない。

 間違いない。

 それは背後から巨大な槍に貫かれた、屑岡本人の死体だった――

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