↓第29話 ーい! 起きてくださーい!

「うららー--ん! 起きてくださー--い! 朝ですよー--!」


 うららの部屋にやってきた迷子は、入り口のチャイムを押しながら彼女を呼ぶ。

 備えつけのモニターを覗き込んでみるが、一向にうららが出てくる気配がない。

 まだ寝ているのだろうか?


「ムムム……うららんってば!」


 迷子は頬を膨らませる。

 ゆららが負傷して大変だというのに、それでも暢気のんきに眠っているこの状況に腹が立ってきた。


「もう知りませんから! うららんのピザぜんぶ食べちゃいますから!」


 そんな捨て台詞を吐きながらチャイムを50回くらい連打する。

 しかし扉の開く気配はないので、仕方なく迷子は諦めることにした。


「はぁ……もう放っておきましょう」


 そして向かいにある屑岡の部屋を訪れる。


「屑岡さぁーん。もしもーし、みんなで食事でもどうですかー?」


 チャイムを鳴らしながらモニターを覗き込むが、相手からの返事はない。

 一瞬、寝ているのかと思ったが、単純に無視をしているだけかもしれない。

 みんなの前に姿を晒せば、それこそ質問攻めになる可能性だってあるからだ。

 あきらかな動揺を示していた屑岡だが、このまま沈黙を貫き通すつもりだろうか?


「ん~出てきませんねぇ……」


 辺りは水を打ったように静かだった。

 待っていても仕方ないと判断し、迷子はガックリと肩を落とす。

 屑岡は放置することにして、最後に残った人物の部屋を訪ねることにした。


「…………」


 焚川たきがわリオナ。

 葬儀屋の社長である彼女は、今の迷子にとっては子供を喰らう魔女にしか見えない。

 できれば話したくないのだが、しかし無視するわけにもいかなかった。

 迷子は意を決して部屋のチャイムを鳴らす。


「も、もしもーし。焚川さぁ~ん……」


 恐る恐る探りを入れてみる。

 すぐに出てくると思ったが、焚川の声は聞こえない。


「……?」


 迷子は首を傾げる。

 モニターは沈黙したままで、やはり現れる気配がない。


「どうしたんでしょう?」


 それから数回呼んでみるも、やはり彼女が現れることはなかった。


「……出てこないものは、仕方ありませんね」


 半分ホッとして、迷子は踵を返す。

 とりあえずやることはやった。

 帰って食事の手伝いでもしよう。

 そう思いながら迷子は中央フロアへと戻るが。

 その背後で『ある人物の部屋のドア』が、わずかに開いたことに気づくことはなかった。


 過ぎ去る迷探偵の背中をじーっと見つめる部屋の主は。

 あたりを警戒しながら、モジュールへと向かった――

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