↓第28話 てーぶるの上。

「ど、どうしたんですか、これ?」


 中央フロアのテーブルには、いくつものコップが並べられ、飲み物や食べ物が置かれている。

 タビーからトレーを受け取ったボブが、迷子に語りかけた。


「やぁミズ・メイコ。どうだいこの眺め?」


「どうって……それより身体は大丈夫なんですか?」


「目覚めてからはこのおとおりバッチリさ。ミズ・ユララが死んでなくてなによりだよ」


「そうですか……。というよりここでパーティーでもはじめるんですか?」


 迷子はテーブルに並んだ食べ物や飲み物を見る。


「まぁ、なんというか殺人事件のあとにさっきの騒動だろ? なんだか気分が落ち込んじゃって……気分転換にどうかと思ったんだ」


 嘆息気味に顔を伏せるボブ。

 悪いことが立て続けに起こってしまい、気が滅入ってしまったようだ。


「お腹が空いているとイライラするっていうし、一度みんなで食事でもどうかなってね」


「なるほど、そういうことでしたか」


「ちなみに毒は入ってないよ。監視カメラも作動してるし、ボクが責任をもって保証する」


 ボブは親指を立てる。


「今、ミスター・タビーにも手伝ってもらってるんだ。さっきフラフラしながらやってきて「おなかすいた」って。なんか寝起きみたいだったけど」


「そういえば廊下で寝ていましたね……」


 ピカピカの床に横たわるタビーを思い出す。

 迷子がモフモフ頭を想像していると、ボブはテーブルを見渡しながら言葉を続けた。


「とにかくゆっくりしていきなよ。少し時間はかかるけど、おいしいものを用意するから。今ハリーがみんなに連絡をとってる」


 フロアに備えつけてある電話の前に、ハリーの姿があった。

 ちょうど話し終えたようで、ボブが声をかける。


「どうだった?」


「ああ、どうやらミスター・パクは映画に夢中らしい。今観ているのが終わったらこちらに来るって。あと、サーヤはスケジュール調整が忙しいってさ」


「そっか。しかし映画はともかく……サーヤはあいかわらずのワーカホリックだね。こんなときだってのに勤勉なのも考えものだよ」


「まぁ、社長の無茶ぶりがヒドイからね。今にはじまったことじゃない。終わったら来るからコーヒーを用意してほしいって」


「OK、そっちはまかせてよ」


「じゃあ、西側のみんなにも聞いてみるよ」


 ボブとの会話を終えたハリーが再び受話器を取ろうとすると、


「それならわたしが呼んできます。今からうららんを起こしにいくところなんです」


 迷子が間に入って手を挙げた。


「そうかい。じゃあ頼もうかな」


「まかせてください!」


 胸を張って了解すると、


「それじゃあいってきますっ!」


 と言って西側通路へと向かう。

 その去り際。

 偶然、タビーと目が合った。


「…………」


 彼は気まずそうにしながら、そそくさとキッチンのほうへ駆けていく。

 迷子は思った。

 もしプリンセスの言うことが正しければ、彼は自分の身分を偽っていることになる。

 実際ネームプレートの写真は別物だったし、タビーの素性も怪しい。


「む~……」


 だが、ここで彼を言及することはなかった。

 もし相手を詰めたことで、まわりのみんながさらに不安におちいるかもしれない。

 食事の準備をしている今はそっとしておこう。

 お腹を満たしたあとで、こっそりタビーに問いただしても遅くはない。


「今は我慢です」


 そう自分に言い聞かせ、迷子は中央フロアをあとにした――

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