↓第27話 すごく、あやしいです。
「なーんでこうなるんですかー? なーんでこうするんですかー?」
アリス改め『プリンセス』は、すぐさま後ろ手を縄で縛られ、迷子たちの手によって倉庫まで運ばれた。
一方、暴れていたカティポは酔いが回って爆睡状態。
どうやら内蔵の位置をズラして肺へのダメージを拡散させたようなのだが、それでもこうやって生きているのが不思議なくらいだ。
プリンセスの傍らで気持ちよさそうにイビキをかいている姿は、呆れるを通り越して言葉が出ない。
また暴れないように、こちらもしっかりと縄で縛っておいた。
「とーにーかーく! プリンセスさんもおとなしくしてもらいますからね!」
「なんでなのー? なんですのー? この縄ほどいてよー!」
「なんでじゃありません! だって、めちゃくちゃ怪しいじゃないですかぁ!」
「不審者ですかー? わたし不審者なんですかー?」
仁王立ちする迷子に愚痴をこぼすプリンセス。
「不審者選手権ならぶっちぎりで優勝ですよ。だいたいなんですか『プリンセス』って? 製薬会社のアリスさんは架空の人物なんですか?」
「フフフ、ご安心を。彼女は不思議の国の住人じゃあありません。本物のアリスさんは今ごろ夫婦で旅行に出かけています。多忙な彼女に代わって今回のプロジェクトを極秘で請け負ったのがこのわたし。大丈夫、酔い止めのサンプルデータに偽りはありません」
「仕事請負人かなにかですか? ますます怪しいです……」
「だーかーらー、わたしはプリンセスだってぇ~。ぷ・り・ん・せ・すぅ~!」
身体をメトロノームのように揺らしながらプリンセスは訴える。
迷子は腕を組んだまま、疑うように目を細めた。
「言ってることが意味不明です。やっぱり不審者です」
「違うってばぁ~! もう! ……そうですねぇ、強いて言うなら『怪盗』ですかねぇ~?」
「え、かいとう?」
「イエス!」
「怪盗……?」
「解答!」
「…………」
「…………」
「やっぱり優勝です」
「なんでぇ~!? なんでなの~!?」
迷子は静かに倉庫のロープを手に取ると、『秘義・
「うえぇ~!? ちょっとぉ~!」
「ムダよぉ。メイちゃんの縛りは、縄抜けの術でも解けないんだからぁ」
腕を押さえながらゆららが嘆息する。
「わたしはフツウに縛ってるだけです。コソドロさんの無実が証明されたら解いてあげますよ」
「コソドロじゃなくて怪盗! か・い・と・うぅ~っッ!!」
「とにかくおとなしくしてもらいます。ゆららん、引き続き見張りをお願いできますか?」
「そうねぇ、さすがの私もこの状態じゃあ……」
負傷した腕をさすり、懸念を示す。
「悪いけどメイちゃん、姉さんを呼んできてもらえるぅ?」
「……そうですね、わかりました。備えあれば嬉しいな、です!」
迷子は一度うなずくと、
「迷ってる場合じゃありません、ディス・イズ・ニンジャを起こしてきます!」
そのまま倉庫から出ていった。
目指すはうららが眠る個室――西側の通路。
「……ん?」
その道中。
中央フロアに差し掛かる手前の、キッチンの入り口付近で迷子は足を止める。
エメラルド色の髪の毛をフワフワと揺らしながら、中からタビーが出てきた。
その手には大きな配膳用トレーと、上には香ばしい香りを漂わせたピザが載っている。
「え? なにしてるんですか?」
迷子が呼び掛けると、ビクリと肩を震わせた彼は、走って中央フロアのドアを潜っていった。
「ああ、ちょっと!」
やましいところでもあるのか、そそくさといなくなるタビー。
直感で怪しいと感じた迷子は後を追うが、ドアの向こうで待っていたのは意外な光景だった――
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