↓第25話 たすけをもとめる、声。
立薗の聞き込みを終えたあと、迷子は北側通路へと向かう。
それはカティポへの聞き込みを行うためだ。
彼女ならブラックや屑岡の情報を知っているかもしれない。
そんな思惑を懐きながら中央フロアの扉を潜ると、思わぬ人と出くわした。
「はなせ! 俺は関係ないッ!」
「お待ちください社長! お話を!」
屑岡と、それを引き留めるハリーだ。
迷子は二人の前に立ち、話しかける。
「屑岡さん! やっと話してくれる気になったんですね!」
「違う、トイレに行っただけだ! 俺は部屋に戻る!」
「社長、隠し事はよしてください! 今ここですべてを話して――」
「うるさい! 知らないと言っている! わかったらここを通せ!」
屑岡はあくまでも喋らないようだった。
ハリーも彼がなにか隠していることには気づいているようで、正直に話すよう説得している。
しかし屑岡は力づくで腕を振り払う。
ハリーも無駄と判断したのか、がっくりと肩を落とした。
「クソッ……それよりハリー、このステーションには救命艇があったよな?」
「ええ、そうですが……まさか乗るつもりで?」
シスタークリムゾンの下部――ちょうどこのフロアの真下あたりに、救命艇の格納庫がある。
これは万が一のトラブル時に、ステーションから脱出するためのものだ。
「その救命艇でここを脱出するぞ」
「ま、まってください。あれはまだテスト段階です! それに救命艇までの通路は建設途中なので、外から命綱をつかって移動しないと船体まで辿り着けません!」
「しかし燃料くらいは積んであるだろ? それに過去のテストもオールクリア。あとは最終調整をするだけだ。自室には宇宙服もあるし、船体まで辿り着けばなんとかなる」
「ダメです社長、危険すぎます! それならせめて自室でおとなしくしていたほうが――」
「いいかハリー? このままだといずれ殺される。見ただろあの死体を。イカれた殺人鬼が今でも俺たちの心臓を狙ってるんだ!」
「し、しかし……」
「イヤならここにいろ。俺はゴメンだ」
屑岡はガリガリと頭を掻くと、ポケットの中をまさぐり、「チッ」と舌を鳴らす。
「おいハリー、睡眠薬は持ってないか?」
「いえ、もしかしてもう予備が?」
「最近寝つきが悪いんだ。もっと強力なヤツを……」
「飲みすぎは身体に毒です。医師からも警告が――」
「うるさい! とにかく早く救助を呼べ! 今すぐにだ!」
ジャケットの
ハリーは項垂れるようにイスに座る。
そこへ迷子が声をかけた。
「ハリーさん……」
「ミズ・メイコ……申し訳ない、こんな見苦しいところを」
「屑岡さん、不眠症なんですか?」
「ああ、かなりのね。新薬の副作用なんだ」
「新薬?」
「一時的に脳を覚醒させる薬でね、睡眠を強制的に短縮させるんだよ。ワーカホリックの社長らしい注文さ、ホスピタルエリアの研究チームに開発を命じている」
「自ら被験者なんですか?」
「ああ、そのせいでこの有様さ。だから専門の医師に頼んで睡眠薬を出してもらってるよ。このあいだなんか忙しいからって、私が薬を取りにいかされたんだ」
「ハリーさんが?」
「シスタークリムゾンの視察でよく顔を合わすからね。秘書以外のスタッフにも雑用を振るのさ。私だけじゃなく、ボブだってコーヒーを買いに行かされてたよ」
ハリーは肩をすくめる。
「無理言ってかなり強力なヤツを処方してもらってるんだ。あれじゃ身体がもたない」
「そうだったんですか……」
迷子はカタルシス帳にメモをとると、話題を切り替えた。
「屑岡さんはあくまで逃げ切るつもりですかね?」
「おそらくは……もうなにを言ってもムダかもしれない」
「たしかにあの態度、一筋縄ではいきそうもありませんねぇ……」
迷子は頭を振る。
屑岡が正直に話してくれたら、もしかしたら犯人への糸口がつかめるかもしれないのに。
露骨に口を閉ざすその姿勢が、屑岡の怪しさを一層際立たせた。
「――あれ? そいいえばボブさんは?」
迷子はふと視線を巡らせる。
そういえばボブの姿が見当たらない。
「ああ、彼ならミズ・アリスと一緒にキッチンに向かったよ」
「またピザですか? とんだ食いしん坊さんですね」
迷子は呆れて鼻を鳴らす。
「ところでミズ・メイコ。捜査のほうはどうだい?」
「ん~、まだこれといった進展はないかと。これから毒グモさんにお話しを伺おうと思っているんです」
「毒グモ……あの殺し屋の?」
「そうです」
「未だに信じられないけど……でもミズ・ユララと対峙する彼女からは、異様なものを感じたよ。ミズ・メイコ、なんなら私も同行しようか?」
「ご心配ありがとうございます。大丈夫です。倉庫にはゆららんもいますし、ハリーさんはここを見張っていてください」
「……わかった。くれぐれも無茶はしないように」
「はい!」
迷子はビシッと敬礼すると、カティポが待つ北側通路へと向かう。
ドアを出て、歩きながら考える。
少しでも有力な情報が得られるよう、そう願いながら倉庫への道のりを進むのだが……
「だっ、誰かああぁぁぁー--ッッ!!」
それは突然だった。
血だらけのボブが、こちらに向かって走ってきた――
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