↓第21話 くしざしの、じょうけん。

 迷子は犯人がわかったと言い切った。

 ボブは生唾を呑み込んで、迷子に詰め寄る。


「だ、だれなの? こんなヒドイことをしたのは!?」


「フフフ、それはですねぇ――」


 迷子は少しもったいぶった様子で、


「エイリアンです!」


 ビシッと犯人の名前を口にした。


「え?」


「エイリアンです!!」


 大事なことなので二回言った……。


「わたし観たことあるんです。透明になったエイリアンが、密林でコマンド部隊を襲うやつ!」


「ミズ・メイコ、それって●レデターじゃあ……」


 ボブは困惑する。

 迷子は昔、祖母の部屋でいろんな映画を観ていた。

 その中には最近のものだけじゃなく、かなり古い映画もあった。

 その記憶が、彼女の脳裏によみがえる。


「今もどこかに潜んでいるかもしれません! 早く見つけないと大変なことになります!」


 キレッキレの迷推理がはじまってしまったが、しかしボブがおかしな反応を見せる。


「あわ……あわわわわ……」


「ど、どうしたんです?」


「いや、通路の死体を思い出しちゃって……」


 ボブは腰を抜かしてその場にしゃがみこんでしまった。


「ほんとに大丈夫ですか? 顔色が悪いですよ?」


「ああ、ゴメン……クセなんだよ」


 言いながらボブはペンダントを取り出していじりはじめる。


「ボクが小さいころの話さ。弟が誤って農業器具で大ケガをしたんだよ。そのときの出血量がひどくてね……何針も縫う大惨事だった」


 ボブはトラウマを掻き消すように首を振る。


「幸い弟は助かったけど、今でもその出来事はトラウマさ。多くの血を見ると腰が抜けて立てなくなるんだ」


 ボブは「できればかすり傷でも見たくないね」と力なくつけ加えた。


「そうだったんですか。もしかしてペンダントをいじるのはおまじない的な?」


「――これかい?」


 ボブは自分が無意識にやっていることを認識し、ペンダントの裏面を開ける。


「こっちに『自分の愛するもの』の写真を入れてるんだ。これを感じれば少しは心も落ちつく」


 そこには『ピザの画像』が貼られていた。

 ……アツアツのできたてだ。


「……なるほどです」と、迷子は一言だけ返す。


「あれ、ミズ・メイコも一緒かい?」


 すると、そこに一人の男性が現れる。

 ハリーだ。

 焚川の荷物を運び終え、中央フロアに帰ってきた。


「一応、社長に声をかけてきたよ。でもやっぱりダメだ。部屋からは出てこない」


「ハリーさん! エイリアンを見かけたらわたしに教えてください!」


「……え?」


「犯人はエイリアンです! どこかに潜んでいるかもしれないので!」


「ええと……映画の撮影でもはじめるのかい?」


 ハリーは困惑する。


「相手をナメちゃいけません! 槍の扱いだってきっとスゴイですよ。ブンブンのおりゃーです!」


 迷子は槍を振り回す素振りをみせる。


「死体を刺すにはおよそ170センチ以上の身長が必要なんです。エイリアンなら余裕ですよ。ちなみにお二人は何センチですか?」


「わ、私は192センチ」とハリーが答え、


「ボクは172センチだけど……」ボブがおずおずと答える。


「ムムム、お二人ともあやしいですね。エイリアンの素質があります!」


 迷子に睨まれて、二人は沈黙する。


「とにかくみなさん気をつけてください。相手は天井とかに張りついているかもしれませんので!」


「「……お、OK」」


「ハッ、もしかしたらすでに人間に変身してるかも! 迷ってる場合じゃありません、わたし行ってきますっ!」


 二人に告げて、迷子は走り出す。

 どうやら犯人候補にエイリアンも追加されたようだ。

 自動ドアを潜り、東側通路に消えていく迷探偵。

 その背中を見つめたまま、二人は唖然と顔を見合わせた――



       ☆       ☆       ☆



「フフン。聞き込みをすれば、エイリアンだってボロがでるはずです!」


 得意気に言いながら、迷子は通路を走る。

 ……と、そのとき。

 視界に思わぬものが飛び込んできた。


「あれは……」


 通路の向こうに誰かが倒れている。

 エメラルド色をしたフワッフワの髪の毛が見えた。


「そ、そんな……」


 迷子の背筋がゾワっとする。

 その姿には見覚えがあった。


「なんで……どうして……」


 会って間もないが、間違いないと確信する。


 それはアメリカの記者。

 

 タビー・クエーサーの死体だった――

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