↓第7話 ぞくぞくします。
宇宙に到達したスター・レイは、しばらく遊泳の時間を設ける。
乗客に微小重力を体験してもらったのちに、シスタークリムゾンへと向かう予定だ。
やがてハーネスを装着した身体がふわりと浮く感覚を覚え、迷子のテンションはさらに上がる。
「うわー! 浮いてる、浮いてますよー!」
興奮した様子でベルトを外し、手足を動かす。
ほかの乗客も同じように微小重力を実感していた。
「やほーっ! フライングニンジャだぜ!」
その横でうららは、空中を平泳ぎしながらキャッキャとはしゃぐ。
ゆららは
「! あれは――」
迷子は外を見る。
地球。
そこには静かに広がる青い球体が、壮大にゆっくりと回転していた。
悠久の歴史が脳に流れ込むような感覚を覚え、迷子は心を鷲掴みにされる。
「――きれいです」
それしか言葉が出なかった。
人はほんとうにすごいものを見ると、語彙力を失うものなんだと実感する。
「それではみなさま、間もなく出発しますのでお席にお戻りください」
立薗の案内にハッとして、迷子はハーネスを手繰り寄せる。
席に戻るとベルトを閉めて、窓の外をずっと眺めていた。
「ふぅ、はしゃぎすぎてあちいよ。クーラー効いてないのか?」
うららが胸元をパタパタ扇ぎながら、座席の上部にある空調の向きを調整する。
自分のほうに風があたるようにして、満足そうな表情を浮かべた。
「はぁ、生き返るぜ……」
と、そのとき。
機内でなにかがピカっと光った。
気のせいかと思ったが、乗客全員が同じような違和感を覚えている。
「なんでしょう今の――」
するとほとんど間を置かずにまたピカっと光った。
それはどうやら、窓の外から放たれたのだと気づく。
乗客は光のほうに視線を向けた。
「――!!?」
そして一様に唖然とした表情になった。
光だ。
目の前を一瞬、巨大な光が横切ったのだ。
「――――」
音もなく現れたそれは、もしかすると流れ星の
しかし違った。
光は戻ってきたからだ。
しかも目も眩むほどの
スター・レイを包み込むほどの大きさで、視界を麻痺させるほどに神々しい。
「わわわわわー--っッ!?」
迷子は真っ白に染まる世界で目を細めた。
ひょっとするとなにかの演出かもしれない。
けれど案内役の立薗が困惑するところをみると、どうやら仕組まれたものではなさそうだ。
これはハプニングだろうか?
そんなことを考える暇もなく、船内の赤いランプが点灯しはじめる。
つまり緊急事態を知らせるものだ。
スター・レイがなにかしらの異常を感知したということだ。
同時に警報も鳴り響いている。
乗客は半ばパニックになっていた。
「どうした、なにが起こっている!?」
社長の屑岡は声を上げ、立薗に詰め寄る。
「おちついてください。わたくしにもなにがなんだか――」
「うるさい! だとしたら大問題だ! こんな演出聞いてないぞ! 今日は大事な商談が……」
「――社長?」
「と、とにかく視察は中止だ! 進路を変えて一度地球に帰還を――」
屑岡が怒鳴りつけた次の瞬間。
その後ろでバタバタと乗客が倒れはじめる。
光によるショックか、あるいは別の原因によるものか。
ただただ人が倒れて、動かなくなっていった。
「なっ……これは……」
それに続くように、立薗も意識を失う。
なにが起こっているのかわからないまま、電源が切れたように屑岡も倒れた。
「う……うららん……ゆららん……」
迷子も膝から力が抜け、閉じかけた
目の前には主人の身を案じて手を伸ばしたメイドたちが意識を失っていた。
「…………」
迷子も瞼が重くなってきた。
一瞬、死んでしまうのかとイヤな妄想が頭をよぎる。
そんな中、おぼろげな意識の中で人影を見た。
ぼんやり視界に映るのは、見覚えのあるシルエットだった。
出会って間もないが、その姿は確かに覚えている。
ふんわりとしたエメラルド色の髪の毛に、星のように澄んだ瞳。
アメリカの記者であるタビーは、迷子に手を伸ばしながら
「り……り……」
なにを伝えたかったのかはわからない。
だが、相手は自分を知っているような、そんな親しみを瞳に滲ませているような気がする。
「……――」
やがて身体が自由を失い、迷子の意識は混沌とした闇に呑まれていった。
自分は、死ぬのだろうか?
彼の手を掴むこともなく、
そこで世界は真っ暗になった――
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