↓第6話 むずかしいしょるいは、よみません。

 宇宙船『スター・レイ』に搭乗するのは13名。

 立薗の案内で、みんなは検査ゲートの前に集まった。

 リストで確認をとったあと、一人ずつ持ち物検査を行い先へ進む。

 機密保持のため、所持している携帯端末は没収となった。


「でゅふふ。みなさんお待ちくださーい!」


 クツクツと肩で笑いながら、ゲートの前にアリスが歩み寄る。

 彼女は持ってきたジュラルミンケースを開けて、中から青い液体の入ったカプセルを取り出した。


「宇宙船に乗る前にこれを飲んでくださーい! 飛びますよー? 飛んじゃいますよー?」


 言ってることはよくわからないが、説明によるとこれは『酔い止め』のサンプルらしい。

 たしかにカプセルの表面には識別番号が印字されている。

 製薬会社ステラルークスが、研究・開発する宇宙酔いに効く薬のモニターとして、今回の搭乗者はこれを飲むことになっているのだとか。


「あァン? いつアタシがモルモットになったよ?」


 そんな中、銀髪の女性は露骨な苛立ちを見せた。

 それを見た乗客は、一瞬、口に運ぼうとしていた手を止める。


「モルモット? ノンノン、書類を見ましたかー? 見ていましたかー?」


「しょるいィ?」


 アリスの物言いに、銀髪の女性は眉をしかめる。

 不機嫌そうな彼女の前に、白髪の男性が静かに一枚の紙切れを突き出した。


「フゥ……これを見ろ」


 それはあらかじめ搭乗者にサインしてもらった同意書だった。

 道中で起こったトラブルや、それにともなう責任に関しての注意事項が記載されている。

 そこには『酔い止めのサンプルデータをとる』という項目が記載されてあった。


「そういうことだ。静かにしてろ」


「……チッ」


 舌打ちすると、銀髪の女性は乱暴にカプセルを飲み込む。

 白髪の男性も摂取せっしゅして、二人はゲートの先へと進んだ。


「なぁ迷子、あの書類ってなにが書いてあったんだ?」


「さぁ……おやつは一人500円までとかですかね?」


 ちゃんと文面を読まずにサインした二人の横で、ゆららが頭を押さえながら首を振る。

 もうツッコむ気にもなれない……。


「あむ……ゴクン。さぁ、わたしたちもいきましょう!」


 迷子たちもカプセルを飲み込んで、ゲートの向こうへと進んでいく。

 しばらく動く歩道に乗って移動していると、ガラス張りの通路の向こうに大きな宇宙船が見える。

 スター・レイだ。


「わぁ!」


 巨大なエイの形をしたその機体に、思わず気持ちがたかぶる。

 これは余談だが、地上に帰還した際の滑空かっくうを考慮して、このような形になっているらしい。

 車輪を出せば滑走路の移動も可能だ。

 次世代型重水素エンジンを搭載しており、従来のように大量の燃料を消費せずに大気圏を突破することが可能になった。

 垂直離着陸とホバリングが可能で、状況に応じて海の上でも着陸できる。

 また、精密な操作をコンピュータで制御しており、基本的には自動操縦により目的地まで移動する仕様だ。


「機体内部は過度な重力を受けない構造になっているんですね。乗り心地はかなり快適みたいですよ?」


 迷子はカタルシス帳のデータを見ながらわくわくしていた。


「それではみなさま、席についてシートベルトの着用をお願いします」


 乗客はスター・レイに乗り込み、立薗から説明を受ける。

 それからパイロットのハリーとボブの挨拶を終え、エンジンを点火した機体は滑走路を力強く突き進んだ。


「いっきますよーっ!」


 迷探偵を乗せた宇宙船は、コバルトブルーの空を飛翔する――

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