↓第5話 りんせんたいせい、です。

 瞬きをするヒマもなかった。

 目を見開いて襲いくる銀髪の女性に、しかしメイド二人は超反応で戦闘モードに切り替わる。

 うららは迷子を自分の背中に隠し、ゆららは脱力して両腕を垂らすと、前屈みになって独特の暗殺術の構えに移行した。


「――よせ」


 火花が散るその刹那せつな

 男性の一言が、その場をしずめた。


「場をわきまえろ。すべて台無しにする気か?」

「あァン? いいだろヤっちまっても」


 男性の言葉を受けて、銀髪の女性は不機嫌なセリフを吐く。

 戦闘は一時中断したものの、張り詰めた空気が緩むことはない。


「チッ、うるせぇな。アタシはオマエたちのことなんかどうでもいいんだ。強いヤツとヤれたらそれでいい」


「そうか。しかし契約は契約だ。仕事を放棄した場合、オレはおまえのボスに報告することになる」


「……チッ」


 銀髪の女性は睨みをかせながら舌打ちする。

 白髪の男性は常闇とこやみのような瞳で、静かに女性を一瞥いちべつした。


「…………」


 沈黙の中、空間をまとう殺気が停滞する。

 やがて銀髪の女性が腕を下ろし、


「勘違いするな。アタシはいつでもおまえをれる」


 男に捨て台詞を吐き、メイドたちを横目にこの場を去った。

 そんな彼はうんざりした様子で嘆息する。

 静かにメガネの位置を直すと、彼女のあとに続いた。


「……な、なんだったんでしょう?」


 目の前のやり取りに、迷子はポカンと口を開けていた。

 弛緩しかんした空気の中、ようやくメイド二人は両腕を下ろす。


「大丈夫か迷子?」


「メイちゃん、ケガはなぁい?」


「え、あ、はい……」


「あの銀髪、けっこうヤバいな」


「ええ、それに『この匂い』……ひょっとすると――」


 二人の思わせぶりな言葉が気になり、迷子はカタルシス帳をめくる。

 しかし、あの二人のデータは載っていなかった。


「うららん、ゆららん。あの人たちはいったい――」


 迷子が尋ねようとしたとき、


「たいへん長らくお待たせ致しました。それではみなさまこちらへ」


 立薗がみんなを呼びにきた。

 いよいよ出発するらしい。


「…………」


 タイミングを失った迷子は、とりあえず言葉を引っ込める。

 質問ならあとですればいい。

 気持ちを切り替えて検査ゲートへ進むことにしたのだが、


(……『この匂い』って?)


 のちに迷子はあの二人の正体を知ることになる。

『この匂い』の意味も含めて――

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