↓第3話 ー……ア~、カワイイ、ザイバツ。

「お待ちしておりました」


 入り口で迎え入れてくれたのは、一人の美しい女性だった。


「わたくし、社長の秘書を務めております『立薗たてぞの』と申します」


 渡された名刺には、『立薗沙華たてぞのさやか』と書かれている。

 スーツ姿にキリッとしたメガネが似合う、いかにもデキる秘書といった印象だった。


「ハローハロー、ワタシ、メイコ。カワイイ、ザイバツ」

「ふふ、大丈夫ですよ才城様。わたくしも日本人ですから」


 そう言って硬い表情を崩す立薗。

 英語が苦手なことを悟られ、迷子は少し恥ずかしくなった。


「あ、えと……はじめまして。よろしくお願いします」


 握手を交わすと、それに続けてうららとゆららも自己紹介をする。

 立薗はキリッとしたメガネを正し、口を開いた。


「本日は視察にお越しいただきありがとうございます。さぁ、こちらへ」


 彼女の案内に従って、三人は建物の中を進む。

 下を向けば顔が映るほどピカピカの床。

 上を向けば天井が小さく見えるほどに高い吹き抜け。

 周りはすべてガラス張りで、外の景色が丸見えだった。


「へぇ、周りはビルみたいに高い岩壁に囲まれているんですねぇ。ほんとSF映画の世界みたいです」


「ふふ、こんな場所に本社を建てるなんて変わってますよね」


 立薗が招くほうへ行くと、外へ出る専用のドアがあった。

 外にはバスが待機しており、四人は乗り込む。


「宇宙船のターミナルにつくまで、しばらくお待ちください」


 立薗の案内とほぼ同時に、バスが動き出した。

 迷子は窓から身を乗り出し、辺りの景色を見渡す。

 ターミナルへの一本道には、ところどころに分かれ道があった。

 広大な赤い大地の向こうには、様々なエリアが点在している。


 有刺鉄線が張り巡らされた廃棄物(スクラップ)エリア。

 近未来的な建物が並ぶ社員の宿舎エリア。

 買い物には事欠かないショッピングエリア。

 その他にも研究施設エリアや、体調を崩した際のホスピタルエリアなど。

 なにが起きても、自社のエリアで対応できる準備が整っていた。


「アストロゲートは多岐たきにわたる事業を展開していますので。広大な土地にそれなりの施設が必要なんです」


 立薗はそう語る。


 迷子が「おみやげはどこで買えばいいですか?」と、瞳を輝かせながらたずねると、


「ふふ、ターミナルの販売エリアをご利用ください」


 立薗は微笑みながらそう返した。

 ――それから数分後。

 キキーッというブレーキ音を響かせてバスは停まる。

 外に出た迷子は、思わず声が出た。


「わぁ……!」


 正面には宇宙船のターミナルが広がっていた。

 パールホワイトに光る、丸いドーム状の建物。

 そこからアンテナのように伸びる管制塔。

 無駄のない洗練されたデザインは、『近未来』というワードを脳裏にいだかせた。


「これもSF映画に出てきそうな外観ですね」


「そうですね。実際、我が社の施設はロケーションに使われることもあるんですよ」


「ロケーション?」


「映画やゲームの背景に使う、3Dモデルなどの参考ですね」


「へぇ……」


「さぁ、こちらへ」


 会話をしながら一同はターミナルの中へと移動する。

 自動ドアの向こうでは、一人の男性が待ち構えていた。


「やぁ、初めまして。アストロゲート代表、『屑岡芥くずおかあくた』です」


 さらっとジャケットを着こなす黒髪の彼は、ラフな握手を求めてくる。


「はじめまして才城迷子です」


「いやぁ、才城家のお嬢様に視察いただけるなんて光栄です」


「屑岡さんのご活躍はうかがっております。元は優秀なエンジニアだったんですよね?」


「ええ、このAI管制塔の開発にも携わっているんですよ」


「AI……ということは無人ですか?」


「そうです。熟練の管制官なみにいい仕事をしてくれます」


「どうりで静かだと思いました」


 迷子は辺りを見る。

 確かに乗客意外の気配がなかった。


「さすがアストロゲートの技術ですね」


「ハハ、嬉しいお言葉です。本日は心ゆくまで宇宙の旅をご堪能ください」


 簡単に挨拶を済ませると、屑岡は立薗に目配せをする。

 どうやらこれからまだ仕事があるみたいで、先にこの場を去った。


「それではわたくしもこれで。お時間になりましたらお呼びしますので、しばらくお待ちください」


 立薗も付き添いのため、一礼してこの場を去る。

 数瞬のあいだ、沈黙が場を満たした。


「メイちゃん、私は疲れたからそこのベンチで休むわぁ」


「あ、じゃああたしは探検してくるぜ!」


「そうですか。それならわたしはロビーを散歩してきます!」


 三人はそれぞれの思惑で、ひとまず解散する。

 迷子はショルダーポーチに手を入れて、『あるもの』を取り出した――

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