第8話 それは誰の記憶にも残っていない御伽噺のようなもの
三百年前、王国は一度滅びた。
いや、正しくは支配者階級の人間が一夜にして皆殺しにされたのだ。
殺害方法はいずれも爆殺。
激しい損壊のある四肢が揃っているか怪しい死体は、全て十字架に磔にされたという。
この三百年前の記録は、王国の隠された宝庫に一文のみ遺されている。
『星々に手を出してはならない』
旧王国で何があったのか。
何故、穢れた王子のみ生かされたのか。
何故、住民の記憶が残っていないのか。
そんな記録は王国のどの文献にも載っていない。
しかし、未だ王国の封印は遺されている。
まるで、また王国が滅びの危機に瀕することを予見しているかのように。
◇◆◇
第一王子は王国の忌まわしき過去、という題名の古びた本を閉じた。
宝庫には王族すら入ることを許されていない。
しかし、その代わりかは知らないが王位を継承する者にこの本が国王より贈られる。
「星々とは…なんなのですか。」
第一王子“シン”
正式にはシン・a・ヴィクトリア。
それが、宰相に問うた。
「グレモリー、答えてくれ」
「……いえ、私にも」
元公爵の愛娘にして、
現宰相の才女。
グレモリーはそこまで言って首を横に振った。
そうかとやや落ち込み気味なトーンで応えたシン王子は前に向き直った。
「………」
グレモリー宰相は何も答えない。
その身に最も近いものを隠して。
「……旧王国は、一体何を敵に回したのだ」
誰にでもない問いは、
静かに、そして誰にも届かず掻き消えた。
「……………ア――ラ―は――取―――て貰――。」
怒りは消える。
しかし、恨みは。
今尚生きている恨みはどうだろうか。
◇◆◇
「へっくしゅ!?」
「どうした?」
「風邪ひいたかもしれん」
「あれ、俺馬鹿は風邪ひかないって聞いたんだけどこれデマ?」
「どストレート過ぎるディス。俺でなきゃ見逃しちゃうね。」
「あだっ」
とかいいながらアルの頭をひっぱたく。
全く、……。
「おい、アル。」
「なんだ?」
「お前――いや、なんでもない。」
「レースト、王立学院でなんでもないは犯罪だって習わなかったか?」
「うーん習ってねえかなー」
いや気持ちはわかるけどね。
それとこれとは話が別って事よ。
「ま、それよりもだ。」
アルの肩に手を置く。
首を傾げたアルに次の計画を伝えた。
「悪徳貴族は制裁しましょうだ。
この国じゃ私刑は許されていないがな」
「悪徳貴族、ねぇ…。
誰を始末するんだ?」
「悪徳と枕ことばに付くなら誰でもいい。
本質は別にあるからな」
悪徳貴族如きいつでも始末できるのだ。
別に今みたいな重要なタイミングで殺る必要は特にない。
が、
「俺と勇者にのみ通じるメッセージ。」
「………」
「お互いによく覚えいない三百年前のお話さ」
俺と勇者は、あのとき出会った。
「アル、お前には…これから起きる事件の記憶を王都の民衆から全て消し去ってほしい」
そういって俺は魔道具…否、
専用の【神器】を手渡した。
一時的な使用権限と共に。
「催眠ってやつだな」
「そうらしいぜ。」
中々に便利な神器だと思う。
「
「………勇者、か。」
アルのつぶやきは既に俺の耳には届かなくなっていた。
「そっちがその気なら、俺は今度こそ反撃を選ぶぞ」
自然と零れた今度こそ、という言葉の意味に気付くのは、また後のお話。
◇◆◇
『封印が急速に弱まっています。』
『応急措置として暴力衝動を高めました。』
『推定される被害は最低でも3名の貴族の殺害、もしくは個体名:レオルド・
組まれたプログラムが高速で演算を始め、被害の軽減策を提案し続ける。
『秘匿称号の開放は行いますか?』
『現状は様子見をしたほうが良さそうです』
『了、では封印の再構築を行います』
王国のとある場所、光り輝くモノたちが命令を密かに遂行していた。
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