第7話 『何やってんだあの馬鹿は』




「―――は!」


「んなぁっ!?」



 魔槍アルフォンスが勇者ギルド354位の肉体を横薙ぎに振るわれて吹き飛ばす。


 『何故バレた!?』とでも言いたげな裏切り者こと、サンダガの表情を見て嘲笑いながら俺は、2人の姿を魔法で確認したのだった。



 え?どういうことだって???

 まぁまぁ、待ってくれ。


 話は数十分前に遡る――




 ◇◆◇




 「おい、アル。」


 「なんだ?」


 「裏切り者の件についてだが。」


 「ああ〜、………行くぞ」


 アルはワイバーンを指笛で呼んだあと、すぐさまやってきた飛竜の背に飛び乗って手を振って挑発してくる。


 はぁ…本来なら別に勇者ギルドやってるやつが従魔ギルドにいても文句は言わないんだが。


「俺は見張りをやる。アルは実行犯だ」


「なんだよその言い方。人を犯罪者みたいに言いやがってこの」


「暴力沙汰なんだから間違って…るわ。

 スパイは拷問してもいいからな。(倫理どこ)」


 倫理観?

 そんなもんは…あれ、どこにおいてきたんだろう。


 少なくとも忘れ去った時間は覚えてねえな。

 ………。マジで、どこになくしたんだろうか。


「アル、頼んだぞ」


「任せろ、レースト」


 流石に不法侵入者に温情はくれてやらないぜ。



 こうして、俺は一旦出た従魔ギルドへ再び戻り、他の知り合いには『昼飯とってきたでござる』といって誤魔化した。



 ◇◆◇



 よくよく考えれば、いくら改装されたといえど本質は変わっていない(机で判断)従魔ギルドに墨ならまだしも絵の具バリバリに使った絵画なんて許される訳が無い。


 危ねえ、ラビの絵に惑わされるところだった。


 そして詳しく魔法で探査するとどうやら巨大な絵画の裏には部屋?というか通路があり、

 勇者ギルドの不法侵入者がいた。


 調べてみるとサンダガという雷魔法を得意とするシーフ系勇者らしい。


 ハッキリいってバカみたいに弱い。

 向いてないよ、君?と言ってやりたい。


 許せねえ、俺たちの楽園を穢した罪は重いぞ貴様ァァァ!!!


 そうこうしていると戦闘が始まったらしい。

 防音結界は中の戦闘音を丸聞こえに(魔法使用者のみ)できるので結構わかりやすい。



 アルフォンスの槍が高速で完璧な不意打ちを受けて無防備なサンダガの全身を貫き、浅く出血させる。


 「せやぁあああ!」


 「う、ぐおおお!?」


 真正面を向いた状態から左回転し、その勢いを利用しながら右斜め上に槍の棒の部分を叩き込んだらしいアルフォンス。


 くぐもったサンダガの声が聞こえた。


 「クソ、サンダーダガー!」


 「バリア!」


 魔槍の能力でバリアを展開して、

 電気の短剣を防ぐアル。


 「畜生!短剣術“投擲”!」


 「喰らえ、ビスえもんの魔道具“簡易障壁”!」


 人を“狸にも猫にも見えない型ロボット”みたいに言うんじゃないよ。


 全く…。

 それにしても中々に強くなったなアルフォンス。


 多分、相当ステータスは伸びてるはずだ。


 「塵と化せ裏切り者が!!!」


 「ふざけんじゃねぇ!俺は盗賊ギルド103位だぞ!?」


 「黙れそれになんの意味があるってんだ!」


 罵倒しながら魔槍の属性を炎にして、

 突き技を放つアルフォンス。


 サンダガが既知の事実を叫ぶ…何がしてえんだ?


 アルも俺と同じことを考えたのか黙れ小僧といいたげな顔をしている。


 いやぁー、魔法って便利だな。

 流石に女湯までは覗けないけど。(女湯は鉄壁カッコ物理)


 「うぉぉらああ!」


 「ぐおわああ!?」


 灼熱を纏ったアルの魔槍がサンダガの身体を穿ち抜いた。


 「が…は…」


 「ふぅー、終わったぜ?」



 俺は念話という魔法で『了解』と伝えた。

 ついでに『死んでないよな?』と聞くと当たり前だろと返ってきたので安心している。


 さぁさぁさぁ。

 サンダガ君は何が目的だったのかな?


 質問してみましょ!

 ……体に(ボソッ)


 唐突に暗黒微笑を浮かべた気付いた者はいなかった。



 ◇◆◇



 「がはっ、ひぃ…も゛ぅ゛、許じ…」


 「お、終わったか?」ザシュ


 「言いながら殺すなよ…片付け面倒なんだぜ?」


 「それくらいギルドにやらせりゃいいだろ。

 俺は人類最凶だぞ?」


 「はあ…全く」


 なんとなく嘘をついたがキッチリ会話()は聞いていた。

 用済みになったサンダガ君は邪魔なだけなので丁重に退場を願ったのだ。


 この世から、という枕ことばはつくものの。


 まぁ裏切り者には死をって言葉があるくらいだから別にいいだろう。


 後片付けは別にやらなくても森に放置でOk。


 勝手に森の心優しい魔獣たちが掃除食事してくれるさ。


 「吐いた情報なら全部メモ帳に書いてあるぞ」


 「流石ですねぇ!」


 俺はアルの纏めたメモを確認した。


 『・雇い主はいる。

 ・名前はゴーフェス・ルドラー

 ・勇者はこのことを知っているか?との問いについての返答だが、知らないそうだ。

 ・盗賊ギルド2位の暫定ルドラー氏に脅されたのち、報酬はくれてやると伝えられたため受けたそうだ。』


 ふむ、フェスがそんなことをしたのか。

 信じ難い…か?


 いやあの男は前々から野心が強く、警戒対象として見た時期もあったはず。


 それに俺自身、結構度数の高い酒をがぶ飲みしていたのもあって朧げだがヤツは大勢の前で『いずれは勇者ギルドはオレのモノにする!』と宣言してたような…?


 まぁ、いずれにせよ…。


 「何やってんだ?あの馬鹿勇者は。」


 まさかとは思うが…俺との“約束”を忘れた訳じゃないだろうな。




 もしもそうだとするなら、

 王国を滅ぼさなければならない。

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