3
攻めなければ。沙良星はいつもよりも眼光鋭く土俵に向かっていた。
いろいろ悩んだが、「とにかく前に出る」、という言葉しか思い浮かばなかった。親方にも言われたことだ。ただ、受けてからの技で勝つ甘美さは忘れられない。
受けるのと、受け止めるのは違う。駒ノ城の言葉が胸に突き刺さっている。確かに、十両上位相手には受け止めきることができない。そうなれば、一度受けてしまえば勝機がないことになってしまう。
今日の相手は津軽力。力強い取り口の実力者だ。とにかく先手を取る。その気持ちで沙良星は立った。
両まわしをがっちりと取った。と思ったが、相手は両下手を取っても差しになった。このまま潜り込まれてはいけない。上手の位置が少し深い。今は均等を保っているものの、押し込まれる感覚がある。
攻める。どうやって? 自分なりの方法で。これまで培ってきた技で。
沙良星は腰にぐっと力を入れると、津軽力の体を持ち上げた。両上手を使って釣り上げたのである。相手は140キロほどあるだろうが、それぐらいの相手はプロレスでも持ち上げていた。
足をじたばたさせる津軽力だったが、どうしようもなかった。土俵際まで歩いていった沙良星は、土俵の外に津軽力を下ろした。
沙良星(1勝0敗) 釣り出し 津軽力(0勝1敗)
沙良星は、いつになく充実感を抱いていた。そう、この感覚。何度も何度も、相手を持ち上げて投げてきた。あの日柴橋をハーフハッチで投げた感覚は、今でも体が覚えている。
「盛り上がってましたよ」
花道では、ニコニコと笑顔の沙良萬田が待っていた。現在は沙良星の付き人である。なんでもプロレスラー時代から沙良星のファンだったらしい。
「よかった」
「そのまま後ろに投げるんじゃないかと思いました」
「先に髷がついて負けそう」
「確かにそうですね」
一応反り技というものはあるものの、ブリッジで相手を投げるのは相撲では非現実的だ。ただ、応用はできるかもしれない。
沙良星は、いつもより胸を張って歩いていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます