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 攻めなければ。沙良星はいつもよりも眼光鋭く土俵に向かっていた。

 いろいろ悩んだが、「とにかく前に出る」、という言葉しか思い浮かばなかった。親方にも言われたことだ。ただ、受けてからの技で勝つ甘美さは忘れられない。

 受けるのと、受け止めるのは違う。駒ノ城の言葉が胸に突き刺さっている。確かに、十両上位相手には受け止めきることができない。そうなれば、一度受けてしまえば勝機がないことになってしまう。

 今日の相手は津軽力。力強い取り口の実力者だ。とにかく先手を取る。その気持ちで沙良星は立った。

 両まわしをがっちりと取った。と思ったが、相手は両下手を取っても差しになった。このまま潜り込まれてはいけない。上手の位置が少し深い。今は均等を保っているものの、押し込まれる感覚がある。

 攻める。どうやって? 自分なりの方法で。これまで培ってきた技で。

 沙良星は腰にぐっと力を入れると、津軽力の体を持ち上げた。両上手を使って釣り上げたのである。相手は140キロほどあるだろうが、それぐらいの相手はプロレスでも持ち上げていた。

 足をじたばたさせる津軽力だったが、どうしようもなかった。土俵際まで歩いていった沙良星は、土俵の外に津軽力を下ろした。



沙良星(1勝0敗) 釣り出し 津軽力(0勝1敗)



 沙良星は、いつになく充実感を抱いていた。そう、この感覚。何度も何度も、相手を持ち上げて投げてきた。あの日柴橋をハーフハッチで投げた感覚は、今でも体が覚えている。

「盛り上がってましたよ」

 花道では、ニコニコと笑顔の沙良萬田が待っていた。現在は沙良星の付き人である。なんでもプロレスラー時代から沙良星のファンだったらしい。

「よかった」

「そのまま後ろに投げるんじゃないかと思いました」

「先に髷がついて負けそう」

「確かにそうですね」

 一応反り技というものはあるものの、ブリッジで相手を投げるのは相撲では非現実的だ。ただ、応用はできるかもしれない。

 沙良星は、いつもより胸を張って歩いていた。

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