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 大鯱がさらに攻める。だがうまくかわしたマスダは、背後から組み付いた。長い手足を絡みつかせる、卍固めだった。

 必死にロープに手を伸ばす大鯱だったが、マスダは体を倒すとグラウンド式卍固めに持ち込んだ。大鯱の両肩がマットにつく。

 大鯱は、天井の光を見た。じっと見た。光が交わっていた。

 カウントが入れられる。ワン。ツー。

 スリー。

 ああ、駄目だったよ。

 大鯱は、光を眺め続けていた。

 初めて幕内に上がって、負け越した時。

 関脇に上がって、10敗した時。

 兄弟子と喧嘩して、あることないこと噂された時。

 いつだって、世界は明るかった。



マスダ・タカヒサ〇 46分07秒 グラウンド卍固め ×大鯱銀河 (マスダが新チャンピオンに)



「やっぱり来ていたんだな」

「あ、見つかりましたか」

 沙良星の前に、根木原が立っていた。浴衣姿の大男は、見つからない方がおかしかった。

「プロレスは久々か」

「ええ」

「寄ってくか?」

「え、どこに?」

「大鯱のところだ」



 控室で、大鯱は微笑んでいた。

 突然降ってわいたチャンス。そういうものを生かせる奴がトップになるんだろう。

 僕は、その器じゃなかった。

 いろいろな想いを、かみしめるための時間だった。

「大鯱、いいか」

「はい」

「えーと……失礼します」

 その声に、大鯱は目を丸くして振り返った。そこには、沙良星がいた。

「いやあ、お恥ずかしい試合をお見せして」

「そんな。素晴らしかったですよ」

「そうかな……たぶん、あまり評価はされないと思う」

 大鯱は苦笑した。沙良星は、答える言葉が見つからなかった。

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