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マスダのドロップキックが、大鯱の顎を打ち抜いた。
メインイベント。重たい攻撃で流れを引き寄せられそうになるたびに、マスダのドロップキックが放たれた。
観客の反応はあまりよくない。がむしゃらな大鯱に対して、今日のマスダは単調に映っていたのである。しかしそんなことも構わず、続けてマスダはドロップキックを放っていった。
何度倒されても、大鯱は起き上がった。エルボー。チョップ。前へ前へと攻め込んでいく。そしてついにマスダを捕まえ、サンライズ・スクリューで投げ飛ばした。そして無理やり引きずり起こすと、今度は裏サンライズ・スクリューでもう一度投げ飛ばした。
倒れたマスダの背中に腰を下ろし、足をつかもうとする大鯱。必殺技、雲竜の体勢だ。だがマスダは足を跳ね上げて逃れると、低空ドロップキックで大鯱を蹴り飛ばした。
「面白くない……」
ララは思わずつぶやいた。これは、マスダが勝つ流れだ。大鯱に、流れを持っていかせない。それはわかる。それにしても。
マスダだけではないのだ。大鯱も様子がおかしい。
チャンピオンがいないというだけで、ここまで歯車が狂うのだろうか。
そもそも彼を挑戦者にしたことこそが、おかしかったのではないか。
ケビン・ハントは強かった。けれどもそれは、レスラーとしてではなかった。大鯱だって、相撲ならば彼に負けなかっただろう。けれども、そういうことではないのだ。
あの時、大鯱はハントの足首を破壊したとされる。両足でのアンクルホールドが決まっていたかどうかは、今でもマニアの間で論争になっている。総合格闘技からのオファーを断ったとされる大鯱は、逃げたとも言われている。本気を出せば総合でも戦えるのではないかと言う人もいる。
様々なものが渦巻いて、ドーム大会のメインは、とても噛み合わないものになっている。ララは、怖かった。自分がもし今リングに立っていたら。何ができるだろう。どうすればいいだろう。
ふらふらになった大鯱が、マスダの喉に肘をぶつけていった。エルボーというよりはかちあげだった。うつぶせになったマスダに、再度またがる大鯱。しかし今度は、ボストンクラブの体勢ではなかった。両腕でマスダの額を絞り上げる。フェイスロックだ。そして両足の裏ででマスダの右足首を絞り上げる。その技は実況席では「フェイスロック・ウィズ・アンクルロック」と呼ばれた。
突如現れた新技。しかも、ストーリーの感じられる技だ。これは獲れるのか? ララは思った。しかし苦悶の表情のマスダは、ロープまで這っていって手を伸ばした。
会場がため息に包まれる。いつの間にか観衆は、若き天才ではなく、相撲出身の不器用なレスラーの方を応援していたのである。
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