そして、僕らは
1
1月4日、横浜ドーム。毎年恒例の年始大会が行われていた。
第1試合は女子プロレス提供試合として、6団体から若手が一人ずつ登場。その中にはララの姿もあった。
第2試合はロイヤルランブル。二分ごとに次々と選手が登場してくるという試合形式だった。所属選手のみならず、他団体の選手や元所属のベテランも参加するお祭り的な試合だった。
その後は、チャンピオンシップが続く。6人タッグ、ジュニアタッグ、ジュニア、タッグ。そしてメインは、ヘビー級のチャンピオンシップ、ケビン・ハント対マスダ・タカヒサ、の予定だった。しかしチャンピオンは来日を拒否。急遽ベルトが返上され、チャンピオン決定戦が行われることになった。
カードは、マスダ・タカヒサ対大鯱銀河。昨年はベルトを所持していた大鯱が勝利した組み合わせであった。
ベルトを失ってから宙ぶらりんの存在になっていた大鯱にとっては、千載一遇のチャンスだった。再びベルトを獲るための。そして、ドーム大会のメインという。
大歓声が沸き起こる中、大鯱は花道を歩いてきた。相撲のときには経験したことのない、大きな会場。光が眩しい。
大鯱は、一つの決意を胸にリングに立っていた。これまでの人生は、後悔ばかりだった。大相撲に入った時も、プロレスに移籍した時も。もっとたどれば、学校で選んだ部活も。自信が持てずに、結果ばかりを求めていた。焦るばかりに、周囲とぶつかることもあった。
「異例のトレード」と呼ばれて以来、心のどこかで沙良星のことは気にしていた。チャンピオンになった自分に対して、沙良星は幕下上位で停滞していた。本来なら直接対決するはずだった木宮改那。若くてかっこよくて強い。乗り越えられる勝算の全くなかった相手。
今、会場のどこかにララがいる。この試合も見ているはずだ。
どういう運命のいたずらか、好きになった人は木宮に憧れていた。ララが見つめる視線で、確信した。ララの心の中には、プロレスラー木宮が生き続けているし、力士沙良星に対しても好意を抱いている。
勝たなければいけない。
マスダに勝って、沙良星にも勝つ。
突然巡ってきたチャンスを生かせる人間かどうか。これを生かせる人間ならば、きっと大丈夫だ。
告白も成功する。
大鯱は、ゴングが鳴る時間を静かに待っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます