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ララは、目をきょろきょろとさせていた。いざ目の当たりにするとなると、どうしていいのかわからなくなったのだ。
福岡場所、初日。今から、十両土俵入りである。
先頭で入ってきたのは、新十両の沙良星である。元プロレスラー、木宮改那。三年以上かけて、十両に上がってきた。
どんな気持ちで見ればいいんだろう。ララは、ずっと心が揺れていた。けれどもいざ沙良星が入場してくると、その姿に見とれてしまった。
プロレスラー時よりは多少大きくなったものの、あの頃と変わらぬ筋肉質な体だった。大きな背中には、いくつかの傷が見えた。初めて見る臀部も、肌つやが良かった。
ララは、目を見開いていた。そして思った。「この力士を応援したい」と。
沙良星は十両最初の一番に組まれていた。塩をまく量は少ない。鋭い目つきは、プロレスのときと変わりなかった。
時間いっぱいになった。沙良星はやや立ち遅れたが、相手をがっちりと受け止めた。右を差し込むと、まわしをつかまないままに相手を振り回した。素人目にも強引に映ったが、とにかく投げを打ち続けた沙良星が、投げ切って相手を転がした。
沙良星(1勝0敗) すくい投げ 紫砲(0勝1敗)
「ずるいなあ」
思わずつぶやいたララだったが、少しほっとしてもいた。木宮が相撲の世界でも活躍していることもあるが、プロレスラーの時から彼を知っていて良かった、と思ったのだ。なぜなら力士の彼を最初に見ていたら、ララは相撲の世界を目指したはずだからである。
本当ならもう立ち去ってもいい気持ちだったが、招待された手前最後の取り組みまで見た。沙良星よりもかっこいい力士は、結局現れなかった。
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