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ハントの強烈なパンチが、大鯱の頬を打ち抜いた。オープンフィガーグローブは薄く、その衝撃はかなりのものだった。大鯱は倒れずに踏ん張り、張り手を放った。しかしハントは、首を振ってそれを避けた。
試合開始から、まだ二分しか経っていない。それでも観客たちは、理解していた。ハントは、プロレスをしに来ていない。技を受けようとせず、本気で大鯱を倒しに来ている。
総合格闘技の土俵に引きずり込まれては、大鯱に勝ち目はない。大相撲で関脇にまでなり、プロレスで活躍していると言えど、MMAの技術はまったく持ち合わせていないのだ。
ハントは、先日の試合で村中憲吾を秒殺した。傷一つ負わなかった。今日も元気いっぱいである。プロレスの経験者でもあり、やろうと思えばきちんとした攻防も見せることができるはずだ。しかし彼は、最短で勝ちを目指していた。大鯱の内腿に、ローキックを見舞っていく。
静まり返っていた会場から、大鯱コールが生じた。それは、大合唱になっていった。大鯱の人気が出始めているためでもあったが、何より観客はプロレスラーの味方なのである。
激しい打撃に、大鯱の体がぐらつく。総合格闘技の試合ならば、ハントは追い打ちをかけただろう。しかし彼は油断した。プロレスラーがここから何かできるとは思わずに、ダウンするのを眺めようとしていたのである。
だが、大鯱は素早く動いた。ハントの胸に頭を付け、右足で内掛けをし、左手で右足をつかんだ。そして一気に相手を倒したのである。相撲でもめったに見ることのない技、「三所攻め」であった。そのまま上になった大鯱は技をかけようとするが、ハントは下からでもうまく相手をコントロールした。絶対的に有利なポジションをとらせず、コツコツと相手の腹を殴っていく。
大鯱が攻めあぐねているところを、ハントは勢いを付けて体を押し上げ上下を逆転させてしまった。上を取られた大鯱は、防戦一方になった。力任せに抜け出そうとするが、ハントがそれを許すはずもなかった。
そして、ついに大鯱の右腕が捕らえられた。アームロック。万事休すかと思われた。しかしなぜか、ハントも苦悶の表情を浮かべていた。大鯱が両足でハントの右足首を挟み込んでいたのだ。誰も見たことのない技、足によるアンクルホールドだった。普通素人にそんな技はできないのだが、相撲時代の大鯱は遊びで後輩たちにかけていたことがあったのだ。ただ挟み込みだけでなく、指をめり込ませてもいる。力士の足の指の力はとてつもない。
だが、そのような技でギブアップをするわけにはいかなかった。ハントは力を込めて大鯱の腕を絞り上げた。歯を食いしばっていた大鯱だったが、ついに左手でマットを叩いた。
ケビン・ハント〇 6分55秒 アームロック ×大鯱銀河 (ハントが第18代KPWチャンピオンに)
会場が静まり返った。そして、ブーイングが沸き上がった。
大鯱は左腕を抑えながら起き上がったが、ハントは立ち上がることができなかった。右足首が完全に破壊されていたのである。
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