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灘田のチョップが、何発も大鯱の胸板に叩き込まれた。しかし、大鯱はビクともしない。そして大鯱が一発、逆水平を返すと灘田の体は吹っ飛んだ。
灘田の引退試合は、第一試合に組まれた。それは、彼の申し出によるものだった。ついに後半の試合には出ないままだったが、それは彼の実力によるものである。チャンピオンとの試合と言えど、「相手のおかげで」良いところに出ることは潔くないと考えたのだ。
会場には、家族の姿もあった。「勝ってくるよ」と彼は言ったが、誰もその言葉は信じていなかった。実力の差は歴然としている。しかしだからと言って、つまらない試合になるとは限らない。
プロレスとは、生き様を見せるものだからだ。
灘田は、何度も起き上がった。そのたびに大鯱は、打撃を叩き込んだ。いつも以上に、技らしい技は出さなかった。
エルボーを続けて放ち、ようやく灘田は大鯱を倒した。そして、背中に乗ってホストンクラブを仕掛ける。若手はこの技を最初の必殺技にするという伝統がある。だが、大鯱は前進すると、すぐにロープに手をかけた。さらにエルボーを打とうとする灘田に強烈な張り手を食らわせ、ふらつく灘田の喉に右手を当てた。左手はタイツをつかみ、灘田の体を持ち上げる。豪快に叩きつけられた灘田は大鯱に抑え込まれ、スリーカウントが入ったのであった。
大鯱銀河〇 7分26秒 のど輪落とし→体固め ×灘田弘年
セキワケ・スプラッシュも、雲竜も出さずに大鯱は勝利した。それが、彼の答えだった。
「おい灘田。初めて対戦したチャンピオンはどうだった? 実力差を感じたか? お前が努力してたのはよく知っている。ただ、お前が決めた道だ、引退を止めはしない。これからは最高の裏方を目指せよ」
大鯱のマイクに、灘田は何回もうなずいた。
メインイベントが終わると、突然重厚な音楽が流れ始めた。そして花道から、長身の外国人が駆け込んできて、リングに乱入した。彼はオープンフィンガーグローブをはめており、リング上にいたレスラーたちを次々と殴り倒していった。
「ケビンだ!」
観客が彼の正体に気が付いた。MMAで活躍し、アメリカのプロレス団体、WWWWEにも出場したことがある格闘家のケビン・ハントだったのである。
「オオシャチサン! ネムラセマス!」
マイクを握ったハントはそう言うと、リングを下りて颯爽と去っていった。
こうして次の挑戦者は、ケビン・ハントに決まったのであった。
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