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自分は、変わっただろうか。
沙良星は、自問自答していた。十三日目を迎えて、五勝一敗。悪くない成績だ。
だが、もっと成績の良い者が、当然いる。しかも、身近にいた。
現在幕下で全勝なのは、沙良越と、盾若草。本日二人の取り組みが組まれており、勝った方が優勝である。
そして、勝敗に関わりなく、二人は間違いなく十両に上がれる成績だった。
意識する二人に、同時に上がられてしまう。沙良星にとって、これほど悔しいことはなかった。
追いつくためには、少しでも星を挙げておかねばならない。
ただ、気持ちがまっすぐにはなれていなかった。美濃風部屋はすでに、全体的に初めての優勝力士、そして関取誕生に向けてそわそわしていた。沙良星も、その空気にのまれていたのである。
気が付くと、出番がやってきていた。よくわからないうちに取り組みが始まり、気が付いたら右上手を引かれていた。粘ったものの、じっくりと時間をかけて寄り切られてしまった。
そして、その後沙良越も負けた。残念よりも先に、沙良星は安堵した。「全てを持っていかれることはなかった」と思い、その思いの醜さに嫌気がさした。
その日の夜、美濃風親方は沙良星を自分の部屋に呼んだ。
「失礼します」
「まあ、座れ」
「はい」
親方はまっすぐに沙良星の目を見ると、こう言った。
「来場所は、沙良越の付き人になれ」
「……はい」
拒否する権利はない。親方の言うことは絶対だ。
後輩の付き人になる。屈辱的だが、珍しいというほどのことではない。番付こそが正義なのだ。
「俺の言っている意味が分かるか」
「来場所だけ……ということですね」
「そうだ」
沙良星は来場所、幕下一桁台に復帰する。そうなれば、彼もまた十両昇進が見えてくる。関取になれば、付け人をすることはなくなる。
「精進します」
「いいか。お前は本当は今頃、三役になってるはずの逸材だ」
「……」
「横綱が言ってたよ。対戦したいから、早く上がってきてほしいって。ブレンバスターで投げ飛ばしたいって」
「ふふ」
沙良星は思わず吹き出してしまい、慌てて真面目な顔を作った。
「もし景ノ海がプロレスラーになったら、どうなると思う?」
「スターでしょうね」
「お前も、なれよ」
目を閉じて、唇を噛んだ。そうだ、自分はプロレスではチャンピオン、横綱だった。
僕も、ならなければ、沙良星は苦い表情のままで、何度もうなずいた。
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