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 双楽園ホール大会、第1試合。舞燐女子プロレス提供試合ということで、二人の女子レスラーがリングの上に立っていた。青いコスチュームを身にまとった月尾ララは、トップロープから真っ赤なコスチュームのブラッド・アイに飛び掛かる。両足で首を挟み込むと、そのまま縦回転して相手の体をリングにたたきつけ、丸め込む。身動きの取れなくなったブラッド・アイは、スリーカウントから逃れることができなかった。



月尾ララ〇 8分3秒 ラララ・ラナ ×ブラッド・アイ



 拍手が聞こえる。ようやくここまで来たんだ、とララは思った。

 たまたま見た深夜放送で、初めてプロレス中継を観た。そこで目を奪われたのが、木宮改那かいなだった。大きくて強くて、しなやかで美しかった。

 私もプロレスラーになりたい、と思った。

 元々思い立ったら即行動、といった性格である。様々な団体のことを調べた結果、最も入れそうだったのが舞燐女子プロレスだった。

「何かスポーツはやってた?」

「一輪車を十年!」

「合格」

 そんなわけで見事女子プロレスラーになったララは、努力を重ねてデビュー二年目でトップ戦線に食い込むまでになった。

 だが、ララは常に浮かない表情をしていた。彼女が入門してすぐに、木宮がプロレスをやめてしまったのである。

 憧れの対象が、プロレスに導いてくれた人が、プロレスをやめてしまった。

 もやもやした思いを抱えたまま、プロレスを続けてきた。そして、かつて木宮が輝いていた、環日本プロレスのリングに立つ日が来たのだ。

 いつもの何倍もの観客が見守る中で、試合ができた。それは気持ちがよかった。ただ、皆が見に来たのは自分たちではない。そして、今のチャンピオンは木宮ではない。

 控室のモニターで、ララは試合を見守った。タッグリーグ公式戦は、どの試合も盛り上がっていた。そしてメインイベント。現チャンピオンの大鯱と、環日本プロレスを背負ってきた男、柴橋のタッグが現れた。

 ここまで5連敗。飯合とのタッグならば、ありえない成績だ。二人のタッグは、見るからにぎこちない。そもそも、大鯱があまりにも未熟だと、ララは思っていた。

 木宮と入れ替わるようにして、環日本プロレスに入門した大鯱。元々恵まれた体躯で関脇まで務めた逸材であり、体力は申し分なかった。ただ、プロレスのセンスがあるかは疑わしい。チャンピオンになっても、ララのその感想は変わらなかった。

 試合は、大鯱が攻め込まれていた。相手の波状攻撃に遭い、グロッキー状態だ。だが、ラリアットを仕掛けてきた相手をそのまま捕まえると、背中に手を回して抱え込み、大きく体をひねって投げ飛ばした。

 それは柴橋の得意技、サンライズ・スクリューだった。

 そして柴橋がリングに上がり、そこに突進してきた相手のタッグパートナーを捕まえてサンライズ・スクリューで投げ飛ばした。大鯱と柴橋は目を合わせて、大きくうなずいた。

 柴橋は試合権利のある相手を無理やり起こすと、ジャーマンスープレックスで投げ飛ばした。そして、大鯱がコーナーから降ってくる。セキワケ・スプラッシュだ。

 そのままスリーカウントが数えられる。

 柴橋・大鯱組、初勝利だった。



柴橋健・大鯱銀河(1勝5敗 勝ち点3) 22分17秒 サンシャイン・スプラッシュ→体固め 壁本剣矢・永出邦明(3勝3敗 勝ち点9)



「ふうん」

 ララは、感嘆とも溜息ともとれる息を漏らした。

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