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 環日本プロレスの夏は、タッグリーグが名物だった。10組が総当たりで戦い、上位2組が決勝戦で優勝を争う。ファンは、出場チームを予想したりなどして開催前から楽しんでいた。

 だが、直前になってよくないニュースが流れた。出場予定者の一人、飯合めしあい涼太がけがで欠場することになったのである。飯合がタッグを組むはずだったのは、柴橋健。団体を背負ってきたエースであり、人気も高い。彼もまた欠場になるのではとファンは心配した。

 そんな中、次のような発表がされたのである。



<飯合涼太選手の欠場に伴い、柴橋健選手のタッグパートナーは大鯱銀河選手に変更となりました>



 ほとんどのファンにとって、この発表は予想外のものだった。理由はいくつかある。例年、タッグリーグにはシングルのチャンピオンは参加しない。チャンピオンに休息を与えるという意味もあるし、もし優勝した場合、タッグベルトに挑戦すると同日にシングル選手権ができない、という会社の都合もあった。

 ただ、大鯱に関しては最も大きな理由は「タッグが下手」というものだった。これまで何人かとタッグを組んだものの、しっくり来たことがなかった。連携などもタイミングよく行うことができないし、上手く相手を引き立てることもなかった。なにより、パートナーとのストーリーが作れなかったのである。

 ファンにしてみれば、大鯱組に何を期待していいのかわからなかったのだ。それだけに、飯合の代わりに柴橋とタッグを組むというのは誰も予想できなかったことなのである。

 実は、大鯱自身も予想していなかった。突然社長に呼ばれて、出場が決まったのである。

 すでに次シリーズでの、リボルバー・ジャックとのタイトル戦は決まっている。そんな中でタッグリーグを戦うというのは、なかなかに難しいことだった。

「君に期待していることがある」

 大鯱は、社長室に直々に呼ばれた。現在環日本プロレスの社長は、親会社から派遣された長篠が務めていた。以前は食品会社などの再建に手腕を振るっていたやり手である。

「なんでしょうか」

「柴橋の光を盗むことだ」

「光、ですか」

 漠然とした指摘に、大鯱は腑に落ちないといった表情をしていた。彼は具体的な言葉の方が好きである。

「そうだ。君には闇がまとわりついている」

 言わんとしていることの意味は、なんとなく大鯱にもわかった。多くのプロレスラーたちには、華がある。

 それは見た目でもあるし、動きでもあるし、にじみ出るものでもある。大鯱には、それがほとんどない。いや、なくなったのだ。

 大相撲時代は、人気力士だった。華があった。それは、大相撲という背景では目立つ色だったからだ、と大鯱は考えていた。プロレスという世界の色では、チャンピオンになってもあまり目立てていない。

「どうしたら盗めるでしょうか」

「光源を探すことだ。柴橋は常に光っている」

 社長の目が光っていた。

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