2
環日本プロレスの夏は、タッグリーグが名物だった。10組が総当たりで戦い、上位2組が決勝戦で優勝を争う。ファンは、出場チームを予想したりなどして開催前から楽しんでいた。
だが、直前になってよくないニュースが流れた。出場予定者の一人、
そんな中、次のような発表がされたのである。
<飯合涼太選手の欠場に伴い、柴橋健選手のタッグパートナーは大鯱銀河選手に変更となりました>
ほとんどのファンにとって、この発表は予想外のものだった。理由はいくつかある。例年、タッグリーグにはシングルのチャンピオンは参加しない。チャンピオンに休息を与えるという意味もあるし、もし優勝した場合、タッグベルトに挑戦すると同日にシングル選手権ができない、という会社の都合もあった。
ただ、大鯱に関しては最も大きな理由は「タッグが下手」というものだった。これまで何人かとタッグを組んだものの、しっくり来たことがなかった。連携などもタイミングよく行うことができないし、上手く相手を引き立てることもなかった。なにより、パートナーとのストーリーが作れなかったのである。
ファンにしてみれば、大鯱組に何を期待していいのかわからなかったのだ。それだけに、飯合の代わりに柴橋とタッグを組むというのは誰も予想できなかったことなのである。
実は、大鯱自身も予想していなかった。突然社長に呼ばれて、出場が決まったのである。
すでに次シリーズでの、リボルバー・ジャックとのタイトル戦は決まっている。そんな中でタッグリーグを戦うというのは、なかなかに難しいことだった。
「君に期待していることがある」
大鯱は、社長室に直々に呼ばれた。現在環日本プロレスの社長は、親会社から派遣された長篠が務めていた。以前は食品会社などの再建に手腕を振るっていたやり手である。
「なんでしょうか」
「柴橋の光を盗むことだ」
「光、ですか」
漠然とした指摘に、大鯱は腑に落ちないといった表情をしていた。彼は具体的な言葉の方が好きである。
「そうだ。君には闇がまとわりついている」
言わんとしていることの意味は、なんとなく大鯱にもわかった。多くのプロレスラーたちには、華がある。
それは見た目でもあるし、動きでもあるし、にじみ出るものでもある。大鯱には、それがほとんどない。いや、なくなったのだ。
大相撲時代は、人気力士だった。華があった。それは、大相撲という背景では目立つ色だったからだ、と大鯱は考えていた。プロレスという世界の色では、チャンピオンになってもあまり目立てていない。
「どうしたら盗めるでしょうか」
「光源を探すことだ。柴橋は常に光っている」
社長の目が光っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます