大学院③

 自転車をこぐ。涙は一滴も出やしない。今ごろ、店で春希は何をしているだろうか。起こっているのか、泣いているのか、ボーっとしているのか。まあ、どうでもいいけど。


家のドアを開けると、さっそく私はLINEアプリを開けた。そして、ミナトとの会話を見ると、まだ未読のメッセージが届いていた。

『俺は、この一週間いつでも空いてるぜ。店は、勝手に決めちゃうけどさ、HappyHOTっていう店がいいらしいよ』

うお!届いてる!私はあわてて、返信を返す。

『私は、今日空いてるの。まだまだ時間あるから、夕方4時30分から行ける?』

ミナトは、今スマホを見ているようだ。

『分かった。んじゃ、4時30からな!!』

私は、クスッと笑った。4時30分の「分」が抜けてることに気づいたから。そして、なぜかかわいいミナトの返事がハッピーだったからだ。


 勉強していた私は、チラリとデジタル時計を見た。「4:13」自転車に乗っていくから、さほど遠くはないだろうが、これくらいに出ていた方がいいかも知れない。私は、ノートと参考書を閉じ、自転車のカギを持って外へ出た。


自転車をこぎだすと、とんでもないやつが出てきた。

(くそ、あいつ私のことを追跡していたのか・・・・・)

春希である。

「ククク、みーつっけた」

不気味な笑い声を発しながら、春希はライオンのようなスピードで追いかけてきた。


チリンチリン

周りの人をどかしていく。申し訳ないけど、これはさすがにまずい。カフェの位置を確認しながら、私は自転車をこぐ。後ろを見ると、春希も自転車に乗っていた。そして、怪我をしている女子高生がいた。

「悪いやつ」

何かの決意のように、静かに私は言った。


 少し回り道をしながら、私はカフェに着いた。カラフルな、「HappyHOT」と書かれたのぼりをくぐる。すると、ミナトは先に待っていた。

「よぉ」

顔を少し赤くして、ミナトは言った。オシャレな制服に、オシャレな文字で「津田湊」と書かれている名札。ミナトよりもそちらに惚れこんでしまった。


「ねえ、ミナト。私、さっき追われてたの」

最初の話が、これというのは不穏だろうが、仕方があるまい。私は、春希にこれまでいろいろされたことを全て話した。

「そうか・・・・・そりゃ大変だったな。春希のことは前から聞いてたが、ここまでとは。女子高校生も可哀想に」

完全に共感してくれた♬これなら、大丈夫だろう。


「ああ、マスター。注文お願いします」

ひとまず、メニューを注文する。

「ここのカフェ、これがイチオシなんだよね」

と、ミナトが言ってくれたものを私は注文した。

そこから、これまでの話とかいろいろしていて、春希なんか忘れていた。本当に忘れていた。

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