大学院①

 大学院に入った。ミナトはというと、大学院には入らなかった。どっかのバイトをしているらしい。たまにLINEでやり取りするが、顔は全く見ないままだ。何か、寂しかった。


「あんたも、もう大学卒業して、院か・・・・・この大人っぽくなった姿、あなたにも見せたかったわ・・・・・」

「私はすでに見てるよ???」

「ああ、そっちじゃなくって、あなたのお父さん。春男のことよ。もう少し生きれたはずだったのにねぇ・・・・・」

私は、何も言えなかった。

春男が見ていたら、なんと言ってくれただろう?穏やかだったから、真摯に祝ってくれて、一緒に外食して、お酒を飲んでいたのかな・・・・・。

そんな妄想をしながら、私と母は静かに正座した。私がおりんを鳴らして、二人合掌していた。


 早速、家を出る。朝、いつも会うのが麻子ちゃんと美紗ちゃんだった。色々愚痴れるし、ストレスが溶けていくときが、この二人といる時だった。

でも、今日は二人ともいなかった。代わりにいたのが平野さんだった。

「あ、あんたか。そうだ、いつもの二人がいないって思ってるんでしょう?」

答える前に彼女は続けた。

「あの子たち、あんたたちの味方らしいから、春希と一緒に口と足と手でフルボッコにしておいたわよ。ククク・・・・・あの二人、『絶対復讐してやる』とか、『あんたのこと一生許さない』とか臭いこと言って泣きながら学校へ行ったわよ」

仰天している間もなく、私は涙をこらえて反論した。

「何でそんなことしたんですか?そんなことしても何の意味もないでしょう?なんで、絶望ハルキもあの子たちをやったんですか?」

「ああ、春希はこう言ってたわ。『あいつが俺を好きにならないのは奴らがそそのいているからだ』って」

バカだ。あいつは本当にバカだ。私は、信号が青になると真っ先に駆けだした。あの二人を助けるために。


校門に着くと、二人が待っていた。

「良かった、来てくれると思ってた!!」

「さくらぁ~~~」

二人とも涙ぐんで抱き着いてくる。

「くるし・・・・・」

「それじゃあ、終わってから武道場で頑張ってね!!」

え?麻子ちゃん何言ってるの?

「応援してる!!」

応援って・・・・・???

「え?平野に聞いてないの??平野も柔道やってるみたいだから、柔道場でやってやるって」

「そうなの・・・・・?」

ま、まあいいや。私、結構強かったから。ここで平野さんを下せば、大きな自信になるはずだ。まあ、やることに損はないと思う。


 授業が終わると、すでに帯を締めた平野が待っていた。隣には、柔道部の教師もいる。

「ククク。待ってたわ。あの子らの仇を取れればいいわね・・・・・ククク」

「・・・・・!」

私は、何も返さずに、拳を握っていた。


――絶対に勝ってやるんだから!!

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