小学校入学②

 そして、まだ桜が咲いている季節に迎えたのは、「一年生を迎える会」だった。

今年の六年生は、みんなイケメンが多かった。女の子は、みんな優しかった。


「あのさ、花園が六年にラブレター書いたんだってよ」

「へ~!バカなやつだな、恋愛を分かってない」

「まあ、一年生だもんな」

ふと聞こえたのは、三年生の声だった。

花園美沙はなぞのみさは、私の親友だ。美紗は、六年の児童会長、坂場誠二ばんばせいじに恋をしていた。ついに、ラブレターを渡しちゃったのか。


で――今、美紗は、バカにされてる。

その話を、横目に、いや、横耳立てて聞いていた時に、私はやっと理解した。

――普通にラブレター渡したり、告ったりしたら、明らかに馬鹿にされる。


***

 迎える会で、私は準備をしていた。それは、ラブレター渡すこと。

迎える会の遊びは、縦割り班ごとのブースになっていて、最後に自分の班のブースで遊ぶという仕組みになっている。


陸斗と私は、違う班だったけど、ちょうど出くわすから、秘かに書き溜めて置いたラブレターを渡そうと思っていた。

***


 そこに、三年の声だ。

ラブレターを渡す、それだけはファーストステップだけで終わらせることができる。経験済みだから、すんなり通ると思っていた。

――それは、現実世界では違うらしい。

もっと、恋愛を勉強しないと、思いを伝えられないと思って、今のラブレターは、遊び中に、ビリビリに引き裂いてゴミ箱に投げ入れた。


遊びは、とっても楽しかった。でも、それ以上にキモチのことが勝っていた。恋愛ってどうやったら勉強できるんだろう。誰かに教えてもらわなきゃいけないのかな。でも、そうすると明らかにん誰かにバカにされる。

幼稚園時代のことで、私はたくさんバカにされた。園長先生にも笑われた。だから、バカにされるということは自分がダメで、バカっていうことだと思っていた。

だから、この抑えきれない感情は、どこかへぶっ飛ばしておくことにしておいた。


 下校の時、たまたま会ったのは最近全く話していなかった、俊一朗だった。

「なあ、三年の声聞いたか?」

「聞いた。恋愛って思うものと違うらしいね」

「そうだな・・・・・」

俊一朗も、当然、たくさんバカにされていた。あの声を聞いていたってことは、私と同じ感情を思いているハズ。


「なあ、また今度、やり直さないか?一回、これはやめにしよう」

「え――」

「フるわけじゃない。ただ、勉強して、ちゃんとした恋をしたいんだ。君のことが好きだからこそだ」

ドキッと来た。これが、本当の恋の感覚——

「分かった、そうしよう。私も、ずっと好きだからね!」

「ああ」

たった一旦の恋の別れだと思っていたその時は、花弁が積もった道でのことだった。

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