第26話 もやもや

「星よ我が指先にその光を与えたまえ」


【スタラ】





「光れ(ひかれ)!光れ光れ光れ光れ光れ!!!お願いだから光ってよ!」


既に練習を初めてから1時間以上が経過している。


手本を見せたあと試してみたり、一緒に詠唱をしてみたり、唱えるポーズを変えてみたり、精霊の光を眺めてみたり、星の光を窓から眺めてみたりと、試行錯誤を重ねながら練習をしているが今のところ1度も成功していない。


それにしても自分の指先に発狂気味に語り書けるエレナの姿は知らない人が見たら恐ろしい光景だろうな…


「エレナ、さっきから顔色が悪くなってきてるし少し休憩しよう!というよりも、今日は諦めて別の日にまた練習しないか?」


部屋が暑いこともあるかもしれないが、元々白かったエレナの顔は更に白くなり額には大粒の汗が見える。


「嫌です!絶対に成功させるのでハクトくんは何か気がついたことがあったら教えてください!」


そう答えるエレナの表情には強い意思を感じる。

父であるファウノへの気持ちもだが、何かを決めたら成功するまで諦めない強さを持っているのだろう。

エレナには自分の意見をあまり言えない気の弱いイメージを持っていたが間違っていたのかもしれない。


「分かった、でも1度休憩はしよう。これだけ暑いと体調も崩しやすいだろうし」


暑いからと言ったが、実際は顔の白さが気になる。余りにも青白い気がする、まるで生気を吸われたようだ。


「そうですね…分かりました1度休憩します。

夏とはいえ最近は本当に暑いですよね…あの、エアコンつけても良いですか?」


「エアコン!?この部屋にエアコンなんてあるの!?」


部屋のなかを見渡すがエアコンらしき物はない。

しいていえば部屋の角に30センチ四方の白い箱が取り付けられてるくらいだ。


これがエアコンなのか?


近づいて手をかざすと自動で箱の正面が丸く開くと共に冷たい風が吹いてくる。


少し背伸びをし穴のなかを覗くと4つの目と目が合う。

そこにはトイレにもいた青い精霊と緑をした小さな竜巻の形をした精霊が入っていた。

おそらく水の精霊と風の精霊だろう、心地よい冷たい風が顔に当たる。


エアコンまであるとは精霊とは便利なものである。


箱の中にいる精霊を見つめながらエレナに問う


「なぁ、エレナ…このエアコンって温度調整とかできるの?」


「エアコンは初めてですが?出来ますよ!失礼のないように精霊さんに頼めば調整してくれますよ。精霊さん、少し強めに20℃くらいまで下げてくれますか?」


エレナの言葉に箱の中の精霊がコクりと頷き、髪がなびくほどの風が吹き出す


まさかの音声機能付き!



エアコンをつけてから5分も経たないうちに暑苦しかった部屋は冷たい空気に入れかわってしまった。


精霊様々である。


向かい側に座る、エレナも額から汗が消え涼しそうに見えるが相変わらず顔は白いままだ。


「やっぱり私には出来ないんでしょうか?加護を受けてないのに使うなんて無理なんでしょうか?」


窓の外で輝く星を見つめながらエレナが独り言のように呟く


「でも他の魔法を使ったときのように生命力は消費してるんですよね…」


魔法書にも過度な生命力の消費は個の生命活動に支障をきたすと書いていた。

顔の白さは生命力の過度な消費が原因のようだ、詳しく状態は分からないが危険な気がする。


「今日は諦めよう、これ以上の生命力の消費は危険に見える。でも生命力は消費してるのに魔法が発動しないってどういうことなんだろう?」


止めようと思っていたのに思わず疑問を口にしてしまう。


「あ!すみません!1人で没頭してしまってました!これくらいの生命力の欠乏なら練習してるときにもなるので大丈夫です!

それよりもそうなんですよね、こんな経験は始めて何です。普通は失敗したら生命力も消費しませんし、何も起こらないはずなんです…」


エアコンで冷えた頭で冷静に考える。


「魔法は発動しないのに生命力は消費する。つまりは魔法事態は成功しているのに現象として現れないってことかな?」


「それはどういうこと何でしょう?」


言葉にしてみたは言いが自分でも分からない。


魔法に対するイメージは出来ている。行使するためのエネルギーである生命力もある。


他に何か足りないものがある…


「もしかして…出来ると思ってない?」


「そんなことないです!ちゃんと使いたいと思ってます!そんなこといわないでくださいよ…」


努力を否定するような言葉にエレナが落ち込んでしまう。


「ごめん!エレナを責めてるわけじゃないんだ。でもこれまでの常識を覆すのはそう簡単なことじゃない。無意識なのかもしれないけどエレナはさっき加護を受けてないのに使うのは無理なのかって言ってたし」


「え!私、口にしてましたか!」


「独り言にしてはしっかり言ってたからな!」


エレナが今度は1人で顔を赤くしている


「まぁ…何というか…気休めかもしれないけど…もし自分を信じれないならエレナを信じる俺を信じろ!!」


我ながら少しくさすぎたか?

恐る恐るエレナの顔を見るとぽかんとしている


「あの…エレナさん…何か言ってくれないと凄く恥ずかしいのですが…」



「プッ…フフフ…フフ…フフフフ…」


うつむいたエレナは笑わないように我慢しているのだろうが身体が小刻みに震えている


「分かってるよ!くさすぎるセリフだったって!でもそんなに笑うことないじゃないか!」


あー恥ずかしい


「違うんです…ほんと、ハクトくんは何も悪くないんです…フフフフ…」


笑い涙を拭きながら顔を上げたエレナはまだ笑っている


「あーもういいもんねー!さすがの俺もすねちゃうもんねー!これからは教えてって言われても教えないからねー」


「ごめんなさい!ごめんなさい!本当に違うんです!昔、私が憧れていた人の口癖が「俺を信じろ」だったので、少し面白くなっちゃいました!」


憧れていた人…俺って事は男だよな…


少し心がもやっとする。


「でも、ハクトくんを信じれば出来る気がしてきました!今なら出来る気がします!ハクトくんも私を信じてちゃんと見ててくださいね!」


自分の顔を軽く叩いたエレナが指先を見つめ集中し詠唱を始める。

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