第21話 白の魔法書

「あれ?私、ハクトさんの前で魔法使いませんでしたっけ?」


そういえばエレナは転倒した馬に癒しの魔法、回復魔法を使っていた。


「そ…そうだった!回復魔法って事は【知恵の神】ツァラの加護持ちってことか!」


加護を受けずに魔法を使えたから、その辺の常識がよく分かっていない。


「家では母と私がツァラ様の加護を受けていて、【光の神】の加護は父が受けているんです!癒しの魔法は使える人は少なくて貴重なんですよ!」


自慢気に笑うエレナが自分の髪を撫でる

本当に綺麗な髪だなと思っていると、髪を撫でたその手に絆創膏のようなものが貼ってある事に気がつく。


「その手…もしかして怪我してるの?」


「母のお料理を手伝っていたんですけど、ちょっとミスしちゃって…魔法で治す程じゃなかったので…」


切ってしまったであろう手を抑えるエレナの顔は少し赤くなっているように見える。


その時ふと思い付く


「俺には使えないかもしれないけど、癒しの魔法を教えてもらってもいいかな?」


「も!もちろんです!っあ痛い!」


嬉しそうに椅子から立ち上がったエレナだが、テーブルを勢いよく叩いた為に怪我していた手が痛かったようだ

しっかりしてそうなイメージだったが意外とおっちょこちょいなのかもしれない…


部屋の一面に並べられてる本棚にエレナが歩いていく


「ちょっと待っててくださいね!この部屋は昔話書斎に使ってたんですよ!たしかここにもあったはずなので…ってあれ?…なかなか取れない…きゃー」


上段の本を取り出そうとしたエレナに本の雪崩が襲う

おそらく隙間なく詰められ固くなっていたのであろう


「だ!大丈夫!?」


駆け寄り本の山の中からエレナを救出する


ふと思う。

エレナが部屋に来てから平然を装っているが、ずっと緊張している気がする。


それに、手を怪我してるのに叩きつけたり、本を無理やり取ろうとするエレナを見ていると心臓の音がやかましい程に強く聞こえる


…まさか…これが恋ってヤツか!?


出会った時も可愛いって言うか、綺麗な髪だなと思った。でも恋なんかしたことないし感情がわからない!



本の山から抜け出し、ありがとうと言うエレナを見ていると考えがまとまる。


いや。うん。違うな。これはドキドキじゃないハラハラだ…危なっかしい所見ていると心配になるもんな。


等と考えていると1冊の白い本に目が止まる。

この本は見覚えがある。


魔法大全集~全ての魔法をここに示す~【下位魔法編】


本の表紙にマーロ文字と一緒に日本語で、でかでかと書いてある。


「こ…これは!」


「知ってるんですか?」


「いや…似ているだけだと思う…」


エレナが探していたのはこの本のようだ。

知っているかと驚いているが、知っているも何もこれを書いたのは俺と大和だ。


全てをここに示す。と書いているのに無駄な書き込みをし過ぎて下位魔法の内容しか書けなかった。

ちなみに、下位の他にも中位、上位、最上位と全部で4つの魔法書を書いたのを覚えている。


たしか幼い頃に父の部屋から出てきた1冊の黒いノートを真似て書いた気がする。内容は覚えてないが…


散らばっている様々な本を戻し、魔法大全集を手に取ると自分が作った魔法書よりだいぶ厚みのあることに気がつく。


セレナがテーブルの上に置いた魔法大全集を開くと、やはり見たことある内容が書いてある。


魔法の名前に、その内容や効果等の説明書きその隣には下手くそな絵でそのイメージが描かれている。

ただこの魔法書…ほとんどがマーロ文字で書かれているが魔法の詠唱だけは日本語で書いてある。

これは詠唱は漢字で書いた方がかっこ良かったからだ。

果たしてこの世界の人も読めるのだろうか?



パラパラと魔法書を捲るエレナ


「たしか癒しの魔法はこの辺に…ありました!」


癒しの魔法

ホーテム

詠唱

「汝の苦しみ痛みを和らげ、その原因たる傷を癒したまえ」

切り傷や擦り傷を癒し回復させる。ただし過度な出血等は抑えられない。



やはり、魔法の名前も内容も同じだ。


試してみるか…



「エレナ悪いんだけど、その絆創膏剥がして俺の前に手を出してくれる?」


「絆創膏?あ!このカットバンですか!問題ないですよ!でも本当に試すんですか?出来るかなぁ…」


この世界はカットバンって言う地域なんだね。


「まぁまぁいいから!手を出して!」


カットバンを剥がして手を差し出すエレナの顔は少し緊張しているように見える


切り傷のあるエレナの手に自分の手をかざす


「じゃいくよ。」


「は…はい!」



脳内で切り傷が治っていくイメージをし唱える。


「汝の苦しみ痛みを和らげ、その原因たる傷を癒したまえ」


【ホテーム】


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