第20話 暗黒竜ヴリトラ
誰だろうか?
「はーい!」
扉を開けるとそこにはエレナが立っていた。
上着を羽織ってはいるが中は白いネグリジェ、そこに綺麗な黒髪が映えている。
その姿に思わず息を呑む。
「あ…あの…」
1度は目が合ったがまたうつ向かれてしまう。
あの…と言った後エレナはうつ向いたまま止まってしまった。
静寂の中、またファウノの笑い声が聞こえてくる。
このままだと話が進まない気がする…
「ここで話すのもなんだから中に入りますか?」
ハッとしたエレナが答えてくれる
「お…お邪魔します…」
「どうぞお入りください!って…まぁ家にお邪魔させてもらってるのは俺なんだけどね!」
自分の部屋じゃないのに少し緊張してしまう。
「お!エレナじゃないか!どうしたんだ?」
部屋に入ってきたエレナに気がついたウルがベッドからパタパタとエレナに飛んでいく。
「ウルちゃん。ハクトさんに助けてもらったお礼をちゃんと出来てなかったからお話に来たの」
「別に気にしなくてよいぞ!ハクトはそんなこと気にしないさ!」
ウルを抱えたエレナが、それでもちゃんとしたいのと微笑む
「こちらにどうぞ!」
窓際にある対面式の2人掛けのテーブルに座る
部屋の明かりとは別に月明かりに照らされるエレナにまた見とれてしまう。
「あの…今日は助けていただいて本当に…あ…ありがとうございました。…ウルちゃんもありがとう」
対面して座ってはいるがうつ向いたままのエレナは、ほとんどウルに話しかけている感じだ。
「別に気にしなくて大丈夫!困ってる人を助けるのは当たり前だから」
「そ…それでも…ありがとうございます。」
まずい…このままではまた沈黙が続いてしまいそうだ
エレナはあの話好きのファウノの娘だとは思えないほどおしとやかだ。
エレナの父のファウノはよく喋るし笑いかたも豪快だ。
顔は父にそっくりだが性格は全く違う。
記憶の中の父親は話は好きだが落ち着いていて優しく笑う人だった。
まぁそれは良いとして、とにかく今は何か話さなければ
「そういえば!エレナ…さんも明日、冒険者になるんだよね?何か理由でもあるの?」
「は…はい!私、10年くらい前に両親と共にここから牧場に移ったんですけど、その時からずっと牧場で生活してて…
でもパパ…あ…父は昔はよくいろんな所で仕事してたみたいなの、その時の話を聞いていたら私も世界を回って見たくなって!それでどうしても冒険者になりたかったの!」
やっぱりファウノは昔は違う仕事をしていたのか。勝手なイメージなのかもしれないが、ここの建物も貴族が住んでそうな建物だし、応接間には様々な文化の物がおいてあった。
あとエレナは話しやすい事なら会話が出来そうだ。
「ハクトさんは何故、冒険者になりたいんですか?」
「俺は…暗黒竜を倒すために冒険者になろうと思ってる。ある人との約束ってのもあるんだけどさ。」
ずっと仰いできたアテン様に頼まれたら断れないし、力になりたいと思っている。
「…暗黒竜って…暗黒竜ヴリトラですよね…止めた方が良いですよ…確かにエルフの里や様々な村が被害にあってるって聞きますけど…
国や軍に任せれば良いじゃないですか…」
心配してくれてるのだろうか?
エレナは完全に下を向いてしまった。
「大丈夫!俺にはこの聖剣もあるし!困ってる人がいるなら尚更放っては置けない【弱きを守り邪悪を滅せよ、各(おの)の正しき行いが和の道となす】ってのがアテン様の教えだから」
テーブルの上に置いていた聖剣エクスアンシャルを手に取り掲げる
レッドヘルドラゴンと戦ったときに気がついたが、この世界に来てから本物の剣になっていた。
お年玉や小遣いを貯めて通販で買ったものだったんだけど。
「そういえば、パパ…あ…父もその剣は貴重な物だって言ってました!
で…でも…剣が凄いもので、いくらハクトさんが強くても…」
ウルがエレナの言葉を遮る
「エレナ!心配ないぞ!おいらがついているんだ!」
「ウルちゃん…」
何故ウルは自信満々だ。
でもエレナの言葉を聞くにはファウノは聖剣の事を知っているのかもしれない。
この屋敷はアテン像が置かれていたし【光の神】を信仰しているのだろうか?
「そういえば、アテン様の像が置かれていたけどファウノさんとかエレナさんは【光の神】の加護を受けてるのか?」
この言葉にエレナがキョトンとする
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