第9話 魔剣士ハクト

異世界転生を果たしたハクトは【光の神】の使者である白竜ウルティゲルヌスことウルと[中央都市ウガリット]に向かっていた


[中央都市ウガリット]はこの大陸で一番の大都市らしく

[北の首都エトルリア]と[南の首都オセティア]を繋ぐ貿易の要所であり、大陸全土から人が集まっている都市だ。


それにしても異世界転生したと言ってもあまり変わった感じがしない。

モンスターとか倒したりすると思ってたのに拍子抜けだ。

服装もそのままだし、特殊なスキルを貰ったわけでもない。

1つ言えば背中の聖剣が少し重くなったくらいだ。



「ウル、方向は合ってるのか?」


子ドラゴンのウルは気に入ったのかずっと頭の上に乗っかっている。


「あぁ、このまま真っ直ぐで問題ないぞ!」



朝から歩きっぱなしだ…丘の麓の森をひたすら歩いている。

半日もあれば着くと言ってたはずだが空を見上げると太陽はもう真上にある昼頃だろうか…


「なんだあれ?太陽の中に…何かいる?」


そう思っていると大きな影が落ちる

重い羽音と共に急な突風が吹き抜け周りの木々が揺れる。


今のは何だ?相当大きかった…異世界に飛行機?


「ウル!今のは?」


「ドラゴンだ!街の方に向かっている!」


「ドラゴンだと…間違いないのか?」


「間違いないぞ!レッドヘルドラゴン!普通は山奥に生息してるはずなんだ!」


ウルがこのサイズだから勝手な勘違いをしていた。そうここはまだまだ知らない世界、異世界なんだ。



「ハクト!あいつが街を襲ったら大変なことになる!行くぞ」


「あ…あぁ…」


あんなものと戦えるのか…

心が少し重くなる、しかし今は考えても仕方ない


とにかくドラゴンを追う為に駆け出す…





広く切り開かれた林道で馬車がドラゴンに追われている


「なぜこんなところにレッドヘルドラゴンが!お前らも死にたくないだろ!急げ!」


馬車に乗った片腕の男が手綱を叩き馬を急かしつける


「パパ!私が戦う!」


「ダメだ!お前1人で何が出来る!後ろの母さんと妹を守るんだ!」


男の隣に座る黒髪の少女が父親に意見するが受け付けない。


「このままでは逃げ切れんぞ…」


男の額に汗が滲む


「なんだ!」


馬車を執拗に追うドラゴンが耳を裂くような雄叫びをあげ、驚いた馬が脚を絡ませ馬車が横転してしまう。


ドラゴンの口元から炎が溢れる。

馬車程度であれば飲み込んでしまいそうな口が開かれるその時…




「きなさい!ウーラ!」


金髪で耳の長い女の声に合わせ、翠玉色の怪鳥が現れる。


飛び立った怪鳥は甲高い鳴き声と共に上空に舞い上がり滑降の勢いのまま鋭い爪でドラゴンの首元を鷲掴みにするが、ドラゴンは唸りながら屈強な力で振りほどき火炎の息吹きを放つ

怪鳥が旋回しギリギリのところでかわす




「ニャッシシシシ!」


【ズーカ・アレス】

呪文に合わせ全身の筋肉が活性化する


「こっちだ…にゃ!」


飛び上がった猫耳の女がドラゴンの頭にハンマーの様に握った拳を叩きつける

鈍い音が響きドラゴンの頭が沈み込む


「硬ったいにゃー!」


度重なる攻撃にドラゴンの目付きが変わる。

猫耳の女を睨み付け火炎を放つが女は着地と同時に身をかわす。


「しまったにゃ!!」


火炎の先には横転した馬車が…



【ウィント・ボレアーノ】


黒髪の少女が展開した風の障壁に火炎がぶつかり轟音と共に拡散する。





「ウル!今の音は!」


「レッドヘルドラゴンの鳴き声だ!近いぞ!林道の方からだ!このまま真っ直ぐ走れ!そうすれば林道にぶつかるはずだ!」


生い茂る木々を避けながら全力で走る


先に林道が見える

ここを抜ければドラゴンが…


森を抜けると共に轟音が響き土埃が辺りを包む


「どうなってるんだ?」


強い風で土埃が晴れる



「こ…これは…」


視界に思わぬ光景が飛び込んでくる。

ドラゴンと大きな鳥が戦ってる?

それに人も戦ってるのか…?

手前には馬車が…人が倒れてる…



「なんなんだよこれ…」



心臓が高鳴る…汗が頬を伝う…見ているはずなのに視界がぼやける…


…ト…ハ…ト…ハクト…


名前を呼ばれてる?誰に?



「しっかりしろ!白戸斗真!!!」



ウルの強い声に我に返る

視界が鮮明になり心臓の高鳴りも落ち着く

目の前にウルがいる…気がついていなかった…



「白戸斗真!いや…ハクト!お前はなんだ!」


俺は何か?


「お前は誓ったんじゃないのか?」



【弱きを守り邪悪を滅せよ、各(おの)の正しき行いが和の道となす】


「あぁ…誓ったずっと祈ってきた、アテン様にも死んだ父さんにも。」



ウルが微笑む



「もう一度聞くぞ、ハクト…お前はなんだ?」



愚問…



「俺はハクト【光の神】アテンを仰ぎ、聖騎士にして最強の魔剣士、ハクトだ!」


ウルと目が合う


「行くぞ!ハクト!」


「あぁウル!お前に俺の力を見せてやる!」


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