第5話 夏の思い出2
カランカランカラン
夏の間一生懸命に鳴く蝉の声の中、鈴の音が境内(けいだい)に響く
パンパンと2拍手し思いを願い一礼する
「とうまにぃとやまとさんは何をお祈りしたの?」
ウキウキした目で癒真が問いかけてくる
「俺は【光の神】アテン様に世界平和を祈っていた!」
「我は【闇の神】アンラアテップに力を授けよと」
「いや…そんな知らない神の話されても、ここの神様困ると思うよ…」
癒真は深くため息を吐いた後、境内にある家に駆け出してゆく
「おばあちゃんに会ってくるね!」
この神社には年に数回参拝しており、父が亡くなって以来、境内に住む神主の老夫婦には仲良くして貰っている。
神主であるおじいさんはよく竹箒(たけほうき)で掃除をしているのだが今日は若い神主が掃除をしていた。
「あの!すみません、長老…いや神主さん居ますか?」
長老、この神社の神主をその見た目から俺と大和は勝手に長老と呼んでいた
眉も髭も立派で白髪のおじいちゃん
長くなった髪を後ろで結わえてるのが印象的だ
「長老って…宮司のことか…すまんが、体調崩して入院してるんだ」
若い神主は苦笑いをしている。
長老には来る度に剣の稽古をして貰っていた
剣の先生であり師匠とも言える存在だ。
「大丈夫なんですか?」
年始に会った時は元気だったのに…
「まぁ…見た目よりずっと元気だからな、すぐ退院してくるさ!」
話を聞くと、この神主はタケルさん
宮司であるおじいさんの孫であり大学の休みを使い手伝いに来ているらしい。
おじいさんは大きい病気と言うわけではなく年齢を考え大事をとったとの事だ。
「もしかして…お前らうちの爺さんによく突っ掛かってたガキか!」
どうやら俺たちの事を見たことがあるらしい。
「突っ掛かってた訳ではない!修行をして貰ってただけだ!」
初対面の人には大人しい大和にしては珍しく反抗的だ
大和も宮司が好きだったから言い方にムッとしたのかもしれない。
「じゃあ爺さんの代わりに稽古つけてやるよ!待ってな!」
そういうとタケルは家から木刀を持ってきた。
「俺も昔から爺さんに鍛えられてるからな!2人まとめてで良い!どこからでもかかってきな!」
師匠である長老には勝ったことはないが孫に負けるわけにはいかない!
「2人まとめてとは舐められたものだ!聖騎士を超える俺の強さを見せてやろう…いくぞコクヤ!」
聖剣エクスアンシャル構える
「あぁ…あの態度を我が剣で粛清する!久々の共闘だハクト!」
大和もすでに魔剣フィフスヘルフラグラナスを抜いている
「「覚悟しろ!」」
境内に吹く風が縁側を通り涼しげな風鈴の音を鳴らし
板張りの床は軋む音で人の存在を教えてくれる。
縁側に座り兄と大和の稽古を見ていた癒真だがその音に気がつき振り向く
「はい、ゆまちゃんスイカですよ」
「わぁ!おばあちゃんありがとうございます!」
スイカを受け取り癒真がすっと腰を動かすと空いたスペースにおばあさんが座る。
「お兄ちゃん頑張ってるわねぇ」
ふふふと優しく微笑むおばあさんとは逆に癒真はムッとしている。
「こんなことしてなんの意味があるのかな?」
癒真の表情にまたおばあさんがふふふと微笑む
「男の子はみんな強くなりたいものなんだろうねぇ」
カンカンと木刀を叩く乾いた音が境内に響く
「もう高校生なんだよ…なんか心配になっちゃうんですよ…」
「ゆまちゃんはお兄ちゃんが大好きなんだねぇ」
おばあさんに図星をつかれ少し恥ずかしくなる
「そんなことないです…」
微笑むおばあさんに頭を撫でられ更に赤面するのであった。
稽古を終え神社裏の清流に向かっている。
「全然ダメだったね!」
くっ…癒真は何で嬉しそうなんだ…
「一般人相手に本気を出すわけにはいかない!それにこの剣は悪を断つためにあるんだからな!」
タケルさんは実際、強かった…
「我が本気を出したらこの地域が吹き飛んでしまうからな…」
大和も相当悔しそうだ。
「タケルさんって師範代ってやつなんだってよ!おばあちゃんが言ってた!」
「師範代って!剣道のか!?」
「剣道とは違くて、古流剣術?って言ってたよ!
おじいちゃんは師範って言ってた!」
道理で強いわけだ…全然当たらないんだもの…
「おじいちゃん、昔は強くて厳しいから鬼って言われて有名だったて!あんなに優しいのにねぇ」
思い返すと会うたびにやっときなさいと言われた素振りや打ち込みの量は年々増えてた…
かっこいいから続けてるけど。
「でもタケルさんも誉めてくれたよな!無駄は多いけど振れてるしセンスがあるって!」
そんな人に誉められてたと思うと嬉しい
「まぁ…みる目はあるな…」
大和も嬉しそうだ
心技体か…長老もタケルさんも言っていた。剣の道は深いな…
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