第4話 夏の思い出1

「あつい~」


妹の肌から汗がしたたり落ちる


「ほら、ゆま飲み物飲みな」


「とうまにぃありがとう」


夏休みも残り少なく季節は進んでいるがまだまだ日差しが強い。

暑いと文句を言う癒真だが、出掛けるのは楽しいのだろう、嬉しそうに水分補給をする笑顔には癒される。


俺、大和、癒真の3人は墓参りに向かっていた


昨晩は夕食後に母も含めゲームをしていたが少し盛り上がりすぎて寝るのが遅くなった。

その為に皆、朝起きるのも遅く出発は昼前11:00頃になってしまったのだ。


そういえば仕事に出掛ける母も眠そうだったな



目的地は自宅の最寄り駅から7つ程移動したところにある神社

そこに白戸家、黒田家、共にお墓がある。

田舎だが自然も豊でよい場所だ

天気も良く、晴れた空の青さと、生き生きとした夏の木々を揺らす風が気持ちよい。



まぁそれでも汗は止まらないけど。



「こんなに暑いのに2人ともそんなロングコー着てるから尚更暑く感じるんだよ」


俺は白のコート、大和は黒のコートを日頃から着用している。


「魔剣士としてこの服装は当然の事。この服は特別な素材で出来ている為、ちょっとした攻撃なら弾いてしまう!

それに急な敵が現れた時に直ぐに戦闘に入らなくてはならいしな!

【弱きを守り邪悪を滅せよ、各(おの)の正しき行いが和の道となす】神の教えだからな!

何があってもゆまは俺が守る!」


隣で大和がうんうんと頷いているが今にも倒れそうな顔をしている。


「何が守るよ…敵なんかいない…学校でもにぃのせいでバカにされるんだから…」


癒真が何か呟いていたが聞き取れなかった。


「それにその背中の剣もだよ!無駄にリアルだから電車乗る時変な確認取られちゃったじゃん!凄く恥ずかしかったんだよ!

出掛ける時くらい普通の服着てください!」


暑いからか癒真が少し不機嫌だ。俺のせいではない。


「はいはい、分かりました!それにほら着いたぞ!ゆま!」


駅から徒歩5分程


目的の神社は特別に綺麗なわけではないが時期になると地元の人が多く訪れ、古き良き雰囲気がある場所だ。

近くに清流が流れているため川遊びのついでにお参りする人もいるのではないだろうか。



「帰りにお参りしていこうな!」



神社近くの共同墓地


神道式


神社にはお墓がない、正しくは神社の敷地内にはお墓がない。


神社とは神道の祭祀を行う場である。

神道では死は穢れ(けがれ)とされおり鳥居の内側や敷地内に墓地は設置されず、神道式のお墓は民営墓地に設置されることが多いのだ。



「ゆま!先に行っててくれ!俺と大和は水持って行くから!」


鉄バケツに水を貯める


勢い良くひねった蛇口からは押さえつけられてた力が解放されたように放水され、鉄バケツの底を跳ねた水滴が顔や体を濡らす。


「これだけ暑いと水が気持ちいいな!」


顔にかかった水滴を拭いながら大和を見ると


「あばばばば」


鉄バケツを沿った水がしゃがんでいる大和の顔面を直撃していた


びしょびしょじゃねぇか…




とにかく鉄バケツに水を貯めお墓へと向かう



先に着いた癒真はせっせとお墓の掃除をしていた。


「何でやまとさんびしょびしょなの?」


「水の精霊と戯(たわむ)れていた」


いや、お前がバカなだけだよ。


白戸家奥津城


黒田家奥津城


父と大和の母が眠っているお墓だ。


家も隣同士だが墓も隣である。


「やまとさんのお母さんのお墓も掃除しておいたよ!」


「ゆまちゃん。すまぬ…後は我がやろう。」



「よし!掃除は終わったな!」


3人で頑張ったかいもあり綺麗になった

きっと父も喜んでるだろう


榊(さかき)を供え、蝋燭(ろうそく)に火をつける。


姿勢を正し二礼二拍手一礼をする。


神道では、人間は死後に神になると考えられており、ご先祖を祀る墓前でも、神様を祀る神社と同様の礼拝をするのだ。



「お父さんお酒好きだったのかな?」


お供えした清酒を見つめ癒真が聞いてきた。

癒真が1歳の頃に他界したため、父との記憶はないのだろう


「ごめん…俺もそこまで分かんないや。帰ったら母さんに聞いてみよ」


父の顔は覚えている、遊んでくれたことも

でも年々曖昧になってきている気もするのが悲しい


お父さんは神様になっていつも守ってくれてるんだよ


でも母に言われたこの言葉は忘れないだろう


この頃からだ神様に憧れはじめたのは。


(父さん、母さんと癒真は任せてよ)



「よし!神社にお参りしたら川で遊ぶぞ!」



「うん!」



父さんまた来るから見守っててくれ!





※注…神道式のお墓や作法に関しては個人的に調べたもので間違いがありましたらすみません。

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