第21話
真鍋先輩、遅いなーーー。
来るからって、言われたから、僕は教室でおとなしく待ってた。
もう誰も居ない、静かな、ここ。
つまんなくなってきて、窓際の席にうつる。
窓の向こうは、部活をやるたくさんの人たち。
「野球、やりたいなぁ」
ランニングが終わって、終わった順にキャッチボールが始まってる。
1ヶ月できないって、結構キツイな。
キャッチボールをやるユニフォーム姿の中に、友弥を見つけた。
今日はサボらず出てるじゃん、なんて、嬉しくなっちゃう。
キャッチボールの次は、恐怖のノックだよね。
滝沢先輩の時なんて、本気で吐いたこともあったっけ。
でもだからこそ、体力もついたし、レギュラーにもなれた。
早く。
早く、やりたいな。
1ヶ月も離れて、僕、練習ついていけるのかな。
夕暮れの、ちょっと薄暗い教室で、ひとりぽつんとしてて、考えが段々と後ろ向きになってく。
「悪い、遅くなった」
先に帰ろうかな。
身体も冷えてきて、そんなことを思っていたら、真鍋先輩が肩で息をしながら走ってきた。
来て、くれた。
やっぱり僕の心臓が、どきんって、跳ねて。
「あ、大丈夫です」
「寒くない?」
「大丈夫、です」
「本当に?」
「本当はちょっと寒い」
「悪い」
とんって、目の前に、昇降口にある自販機で売ってるミルクティーが置かれた。
「あったかいやつ。待たせた侘び」
「ありがとう………ございます」
「飲んだら行こう」
「…………はい」
ミルクティー。
昼間に先輩が言った、僕の髪の色。
何でミルクティー?ホットならお茶もあるよね?
先輩、どうしてこれを選んだの?
なんて、聞けるはずも、なく。
ペットボトルの蓋を開けて、一口飲む。
甘くてあったかくて。
………ドキドキ、する。
「渡瀬も早佐も、いい動きしてんなー」
「僕だってあの2人には負けないですよ」
2人が褒められたのがちょっと悔しくて、思わずアピールする。
真鍋先輩は僕をチラッと見て、笑った。
「知ってる」
「え?」
「新井、目立つから。よく見てた」
「………目立ってなんか」
「ミルクティーみたいな髪の色だなって、ずっと思ってた」
視線をまたグラウンドに戻して、こめかみを掻いてる。
近くには、行けなかったけど。
近くでは、見てなかったけど。
僕も真鍋先輩のこと、知ってたよ。
いつも最後までボールを蹴ってるところ、遠くから、見てたよ。
「ちょっと、くれ」
「え?」
手をあっためていたペットボトルを真鍋先輩が、抜き取って。
………飲む。
僕のほっぺたが、耳が、絶対赤くなってるって、分かる。
間接キス…………なんて、思っちゃう僕は、本当にもうどうしたらいいんだろう。
「あまっ」
ペットボトルの形のままの手の中に、もう一度あったかいのが戻ってきて。
「新井のサイドスロー、キレイだよな」
胸の奥が、ぎゅって、なった。
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