第20話
真鍋先輩にやっぱり支えられながら教室に戻ったら、透と友弥が興味津々!!ってにやけた顔で寄ってきた。
「随分遠い音楽室だね、まーくん」
「プリントやって出しといてやったからな、まー」
「うん…………ありがと………」
「まーくん?」
「まー?」
それどころじゃなくて。透と友弥どころじゃなくて。
何か日本語おかしい?
でも本当に透と友弥どころじゃなくてね。
僕、どうしたらいいんだろ。
思わず出るため息。
『HR終わったら来るから、無理しないで座ってろ』
さっき、ドアのところでボソッとそう言って、真鍋先輩は3年生の校舎に戻って行った。
カッコいいな。
優しいし。スマートっていうかさ。
まだドキドキしてる。
ピアノまで弾けちゃうって、反則じゃない?
「真鍋先輩チョーかっこいい。いいなぁ、新井くん」
名前もあんまり分かんないクラスの女の子たちが目を輝かせてる。
そうだよね?カッコいいよね?
普通そう思うよね?
もう1回ため息をついて、何となく僕は、リュックの中からラッキートランプを取り出した。
そして何気なく箱の裏側を読んで。
机に突っ伏した。
「まー?」
隣の席の透が心配そうな声で僕を呼ぶ。
僕さ、使い方間違ってない?
不安になって、箱を握る。
「どうした?」
その声が、本気の心配声だって分かって、顔をあげた。
友弥は自分の席に戻っていた。
「トランプの使い方、間違ってないかなって」
「何で?」
「1日に1枚、占い代わりに、何かに迷ったとき、決めるときにも、1枚って。僕、やみくもに使ってるじゃん」
朝、1枚ひいてる。それはいいよね?
でもそれ以外はなんか違わない?
迷ってる時でもないし、決める時でもないし。すごく適当にひいてるよね?
「いいんじゃね?別に」
「ええーー、そうかなぁ」
「いいこと、なかったの?」
「え?」
「6時間目。だって、必ず幸せに導いてくれるんだろ?」
透が頬杖をついて僕を見る。
幸せって思うことが、あったんだろ?って、そういう顔。
「あった、けど」
「じゃあいいじゃん」
「いいのかなぁ」
「なら、今使えば?」
「え?」
「この使い方でいいか迷ってるから、決めるために」
なるほど。
透の言葉に妙に納得して、僕はトランプを箱から出した。
シャッフルして、えいっってひく。
「いつも思うけど真剣だよな」
「真剣にもなるって」
バカ笑いする透を横目に、トランプを見る。
ダイヤのQ…友達優先
「じゃあ、いいんじゃね?」
ひょいって僕から取ったトランプを見て、透が口の端っこだけで笑った。
「選択の繰り返しじゃん、毎日って。常に何かを選択しなきゃいけない。迷って、決める。その繰り返し。迷う前にひくか、迷ってからひくかの違いだろ?」
「うん………」
「迷う前にひいて、迷った時にトランプの言葉に従えば、結果は同じなんじゃないの?」
ううーーーん。
分かるような、分からない、ような。
じっと透を見たら、透が大丈夫だよって言わんばかりに昔から変わらない天使みたいな顔で笑った。
「友達優先だって。俺の言うこと優先な」
んっ、てトランプを僕に突きつけて、透は帰る準備を始める。
僕もトランプを箱にしまって、帰る準備を始めた。
友達優先、なら。
僕の大丈夫かなって心配より、透の言葉を優先して、信じて、いいのかな。
これで、いいかな。
そんなことを考えながら、先生が来るのを、ぼんやりと待っていた。
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