第10話

 足が、痛いけど。試合には出られなくなったけど。

 へこんでるけど。






 それでも何か、そこまでへこんでなくて。






 ラッキートランプのおかげ、っていうか、真鍋先輩のおかげ?



 真鍋先輩のおかげってことは、やっぱりラッキートランプのおかげ?






 明日も朝来るからって、視線も合わさずに真鍋先輩は行っちゃった。






 うん。どうしてかやっぱり、嬉しくて。






 部活なしで帰るなんて、いつもならテンション下がりまくりなのに、真鍋先輩が見えなくなるまで、玄関の前に立って見送った。



 ちょっと向こうの方。信号で止まった真鍋先輩が振り向いて。






 …………手を、振ってくれた。











 いつものように夕飯後、僕んちの両隣に住む透と友弥がやって来た。



 これはいつの頃からかの日課。一緒に宿題をやったり、ただ喋ったり、時にはそのまま朝まで寝たり。






「で、何だったの?今日のは」

「まー、思いっきり拉致られてたな」






 宿題を終えた友弥が、ゲームをしながら聞いてきた。



 透も宿題をやる手を止めてニヤニヤしている。






 嘘をついちゃダメ。






 またラッキートランプの言葉が頭に浮かんで。






 ………何か言いたくないんだけど。






 だって僕しか知らない、真鍋先輩、だし。






「まーくん、何一人でニヤけてんの?」

「まー、キモい」

「にっ………ニヤけてなんかないよ!!しかもキモいって何!?」

「いや、すっごいニヤけてたし。ねぇ?透くん」

「ニヤけてたよな、友弥」

「う、うるさいよ、もう!!」






 顔が赤くなった気がしてノートや筆箱を片付けるふりをして、後ろを向いた。






 こうなったら何か言われる前に何か言おう!!さらっとね、さらっと!!






「職員室でたまたま会ったの!!坂本先生に部活どうしようって聞きに行ったら、隣の長澤先生のところに真鍋先輩が居て、足のこと聞かれちゃったんだよ」

「長澤先生サッカー部顧問だもんな」

「真鍋先輩、今日の朝練に居たしね」

「朝練に居たんだ?」

「時々抜き打ちで来るから緊張するーーーって、サッカー部のやつらが言ってた」






 そっか。それであんな時間に通りがかったんだ。



 3年生だから、本当はもう引退してるもんね。






 3年生、か。






 そう思ったら、僕のテンションは一気に下降して。






 何でかなって、不思議だった。

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