第6話

 嘘はダメ。嘘はダメ。嘘はダメ。






 ぶつぶつと繰り返しながら、5時間目と6時間目の間の休み時間、職員室に向かう。






 野球部顧問の坂本先生に、足のことを相談しに行かなくちゃ。






 職員室のドアをノックして、開ける。






「失礼しまーす」






 奥の窓際に坂本先生を見つけて、入っていく。






 って、そのすぐ近くに真鍋先輩が居る!?何で?何でえええええ!?






 まさかの展開に、僕の心臓がばくばくし出す。



 坂本先生のすぐ横、長澤先生のところ!!






 何で、何で、真鍋先輩がーー!!






 早く職員室を出て行ってくれ!!という僕の願いも虚しく、真鍋先輩は長澤先生と話し込んでいる。






「坂本先生、あの」

「おお、新井ーー。聞いたぞ、怪我したって?」






 坂本先生!!声!!でかいって!!






 あまりの声のでかさに、真鍋先輩がこっちを向いた気がした。



 ひいい!!ってなる、僕。



 でも、先生声でかい!!なんて、もちろんそんなことを言える訳もなく。






 坂本先生は続ける。






「残念だったなー。せっかく今度の試合、センタースタメンでって決まってたのに」

「え、あ、はい」

「どうしたんだ?足」

「あの、えと、これは」






 嘘をついちゃダメ。






 ラッキートランプの、言葉。






 嘘はダメ。嘘は、ダメ?この状況、で?






「朝練に行くとき、遅刻しそうで、道路に飛び出しちゃって」

「危ないな、お前。それで?」







 それで?って、なんてこと聞くんだ、先生!!






 変な汗がじわりと滲む。



 真鍋先輩、確実に僕のこと見てるんだけど!!






「え、と。自転車と、ぶつかりそうになって、転んで」






 下を向いて、小さい声でボソボソっと言ってみる。






「それで捻ったのか?」






 でも坂本先生はやっぱりでっかい声で。



 ああもう、ああもう、ああもう!!






「………はい」

「バカだな、お前………」

「はい、すみません」

「とりあえず………1週間休め。1週間したら様子見てちょっとずつ顔だしてくれればいいから」

「はい、分かりました」






 ペコリと坂本先生に頭を下げて、ドアに向かう。






 もう、生きた心地がしないよ!!変な汗でまくりなんだけど‼︎






「失礼しましたー」






 まだ長澤先生と話している真鍋先輩を確認して、僕は職員室をあとにした。






 嘘はダメ。






 うん、ついてないよ!!つきたかったけど!!ものすごく嘘を言いたかったけど!!



 これで大丈夫だよね?これでラッキートランプのお告げ?はクリアしたよね?






 痛む足を引きずって、教室に向かっていたら。






「新井!!」






 後ろから誰かに呼ばれ、振り向くと………。






 そこには、真鍋先輩が、居た。






 なっ………ななっ、何で僕、真鍋先輩に呼ばれてるのーーーー!?

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