第7話

「は、はいっ………!!」






 真鍋先輩のことは、知ってる。有名人だもん。



 この学校で真鍋先輩を知らない人なんて絶対居ない。






 ただ、僕が知ってる真鍋先輩は、いつもユニフォーム姿。



 そしてグラウンドでボールを追いかけている姿。



 サッカー部のみんなが帰ってからも、野球部1年生の締めのランニングが終わるまで、ずっと一人でボールを蹴っていた。






 一人で、ずっと。






 僕は真鍋先輩を見て練習の大切さを知った………かも?






 ってゆーか‼︎



 遠目でしか見たことがない、あの真鍋先輩に何で僕は今呼ばれてるの!?






「新井、足、怪我って何」






 僕の側に近づいて、低い声でボソッと言う真鍋先輩。



 まわりからの視線が、痛い。



 僕は直立不動の体勢で、真鍋先輩を見た。






 射るような視線。






 こ、こわい。しかも何で僕の名前知ってるの!?






「朝の、あれか?」






 泳ぐ視線の僕を、じっと睨み付けて確認するように。






 嘘をついちゃダメ。






 ラッキートランプが頭を過る。






 もう、本当に、誰か助けて…………。






「う………えと、その………」

「はっきり言え、はっきり!!」

「はっ、はい!!あのっ………その………そうです………」






 こわいーーーー!!






 僕はもう半泣き状態で、俯いて答えた。



 その時「ちっ!!」っていう舌打ちとため息と、それから最悪だ……っていう呟きが聞こえて。






「ごめんなさい…………。あの、真鍋先輩に怪我はなかったですか?」

「ああ、俺は別に」

「良かった……………」






 袋叩き回避!!






 真鍋先輩の前だからもちろんできないけど、内心僕はガッツポーズをした。



 今のこの状況は心臓ばくばくものだけど、僕の足、試合に出られないことは最悪だけど。






 真鍋先輩に怪我がなくて、本当に良かった。






「新井の家、あそこだろ?今日ぶつかったところ」

「え?………はい。そう、です」






 最悪だ……からの話題の変わりように、僕の頭がついて行けず、思わずまじまじと真鍋先輩の顔を見てしまった。






 この人、本当にカッコいい。てか、カッコ良すぎる。






「お前が部活出られない間、自転車で送り迎えするから」

「ええ!?」

「俺チャリ通だから、乗ってけ」

「えええええ!?」

「んだよ、文句あるのか?」

「えええええええ!?なっ、ないです!!ないですけどっ!!」






 ちょっと待って!!送り迎えって、送り迎えって、ナニ!?






「携帯、ない?」

「あ、あります………」

「貸せ」

「ええっ………」






 僕が制服のズボンから出したスマホを、強引に取って、真鍋先輩が何やらいじる。






「連絡、するから」

「ちょっ………真鍋先輩!!」

「何だよ?文句あるのか?」

「なっ…………ないです…………」






 文句なんて山ほどあるに決まってる!!



 何でこんな展開になってるの?何で?どうして?






 頭がパニックで、もうどうしていいか分かんない。






「行くぞ。もうチャイム鳴る」

「ははははいいいいっ………⁉︎」






 だからどうして!?






 真鍋先輩が、僕の腰に腕を回して身体を支えてくれる。






 ふわりと香る、真鍋先輩の、良いにおい。






 僕は、色んな人の色んな視線をいっぱい浴びながら、真鍋先輩に支えらて教室に戻った。

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