第4話

 それから母さんとやたら混んでる病院に行って、結局学校に着いたのはお昼休みの時間だった。






 骨には異常なし。でも1ヶ月は安静に。






 1ヶ月。



 1ヶ月も、野球ができない。



 試合なんか絶望的。



 やっぱりあのラッキートランプはインチキだ。






 僕は唇を噛み締めた。






 何だよ弁当食いに来たのかよって、教室に入った途端、クラスメイトにからかわれる。



 だから僕はとりあえず笑った。






 笑ってればさ、楽しそうに見えるじゃん?



 だから必死で笑って、悔しいとか何か腹立たしいとか。そういうのを、誤魔化すんだ。いつも。






 誤魔化して誤魔化して。






 その先に何があるのか、分かんないけど。



 笑ってたら。笑ってた方が。良いことがあるんだって。きっと。






「まーくん、どうだった?」

「捻挫だって。1ヶ月はおとなしくしててって。透は?」

「1ヶ月か………。透くんは先輩に呼び出されてる」

「また?」

「また」






 透はオシャレでカッコいい。



 でもその見た目とは裏腹に、熱くて真面目で曲がったことが嫌いなやつ。



 野球部を思って先輩だろうと構わず意見する。






 意見するから煙たがられて………。






 本当はとっくにレギュラーになってもおかしくない実力があるのに、僕の方が先にレギュラー入りした。






 のに。






「まーくん」

「ん?」

「あんまり溜め込んじゃダメだよ?」






 何も言わないのに、何かを察したらしい友弥が何でもないように言ってくれた。






「…………うん」

「飯、食った?まだなら先に食っちゃおう。透くん待ってたら昼休み終わっちゃう」






 友弥が笑って、お弁当を出し始める。



 だから僕も笑って、鞄からお弁当を出した。






「野球、したいなぁ………」






 こんな時は、身体を動かすのが一番。



 小さなボールを追いかけて。打って走って投げて。



 そうすればあっという間に胸のモヤモヤなんてスッキリ晴れるのに。






「治ったら死ぬほどやろうよ」

「付き合ってくれる?」

「透くんと3人ならね。まーくんと2人だと本気で死ぬわ」

「何だよ、それ」

「まーくんは加減を知らない力加減バカ男だからね」

「そんなことないよっ」

「あるよ」






 ちょっとムカついて。でも、嬉しくて。



 友弥のお弁当箱から玉子焼きを盗んだ。






「あ!!俺の玉子焼き食うなよ!!」

「友弥んちの玉子焼きやっぱ最高!!って、僕の唐揚げ!!」

「まーくんちの唐揚げは絶品!!」





 今度は友弥に唐揚げをとられて。



 透が不機嫌そうな顔で戻ってくるまで、僕たちはお互いのおかずを食べあって、笑い続けた。

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