第3話

キーコンカーコン、キーコンカーコン


 4時限目の終わりを告げるチャイムと同時に昼休みが始まった。


 「ナタ、飯食おうぜ」

 「ナタくん飯一緒に食べましょ」


 いつも爽やかな雰囲気の柏カシワ諭サトルとひょうきんな今村イマムラが奈多羅の席に来た。

 昼休みになると二人はいつも奈多羅の席で昼飯を食べており、神空カミゾラ奈多羅ナタラは下の名前で呼ばれると怒気を表すため、下の半分をとり愛称で『なた』と呼んでいた。


 「ああ、もうそんな時間か」


 授業に集中していたせいか奈多羅は大きく背伸びをし、筋肉をほぐす。そして自分の持ってきたバックに手をかけ白いカップとお湯の入った魔法瓶を取り出した。誰もが目にしたことがあるその食べ物を奈多羅は好んでいた。

 そんな奈多羅をほぼ毎日見ていた諭が口を開いた


 「また、カップ麺か、身体に悪いぜ。なんだったらお前の弁当も俺の母さんに頼んでやろうか」


 「いやいいわ、

   俺はこれを好んで食べているんだ。」


 「またあれだろ、この食べ物だけは都会も田舎も変わらないってやつ。頭いいのにときどきアホだよね、ナタって」


  「うるせぇよ」


 今村は軽い悪態をついたが奈多羅は軽く受け流した。


 神空奈多羅の親は二人とも村の役所に勤めており、かなり厳格な父親と母親だった。そのためか奈多羅は頭脳明晰でありテストでは毎回ほぼ満点が取れるまでになったのだが、神空奈多羅の性格は少々荒々しい性格であり、親とは対立することが少なくなかった。。。



 「なんか面白い話はないかね〜」


 集まってはいるが黙々と昼食を取っている3人。小中高、合計11年間一緒に過ごしてきた3人は話題が尽きており、いつも面白い話題を探していた。今村の毎日繰り返される質問に二人が目を合わせる。

 すると


 「なあ、二人ともまずこれはここだけの話にしてくれ」


 「まあいいけど」


 真っ先に話し始めたのは柏諭だった。諭はまず二人に口止めをすると奈多羅と今村は不可思議そうにしたが自分達に損はないと思い了承した。


 「昨日聞いた話なんだけど、この村の『神様』についてだ」


 「「神様」」


 諭が『神様』と口にすると奈多羅と今村は口を揃え、驚きと同時に顔に笑みが浮かべ、二人は諭の方を見返す。


 「そんな目で見るなよ。まあ聞けって、これからが面白いんだ」


 ふーん、と二人は仕方なさそうに聞く姿勢をとった。


 「そ、そうか。 

   じゃあ、続きをどうぞ」


 よし、と諭は一つ咳払いをすると語り出した。


 「これは昔々の話だ・・・」

————遥か遠い国から番いの神がこの土地に降り立った。その番いの神はただ広いだけで草木一本生えてない平らな土地だったこの土地を何を思ったか自分達の住処に決め、社と山を作った。番いの神が作った社は石と純金で作られ、当時誰も見たことがない異文化の城だった。山々は社の周囲を覆うように高く聳え立ち、社への行手を拒んだ。

そして番いの神がこの土地に住み出したことで、何もなかった周囲にはいつしか川が流れ、緑が育ち、動物が生まれ、人間が移り住み、村ができた。

 社の近くに移り住んできた村人は番いの神を敬うようになり対話を試み、番いの神はそれを受け入れた。そのとき番いの神はそれぞれ夫が『シャン』、妻が『マー』と名乗り信仰を深めた。夫のシャンの神はゴツゴツした肉体と男らしい太い声をしており、とても男らしい様子で、妻のマーは美しい肌と美しい見た目をしており、とても静かであまり喋らない清楚な女性だった。村人達は神達に自分達の村の名づけを頼むと、神達は『三叉村』と名付けた。

そして共存を選んだ人間と神は互いに人間は祈りと捧げ物、番いの神は豊作を与え合い、束の間の平和が訪れた。————


 「で、それが三叉村って言うのか?神も仏もいなさそうだけどな、仏様に似たじいさんならたくさんいるけど」


 今村はにやけた表情で場を茶化すようにツッコミを入れたが諭が気にする様子はない。奈多羅は麺を頬張っていた。


 「まあまあ、最後まで聞けよ。そこはこれからわかるから」


 そう言うと再び諭は喋り出した。


—————時は流れていき、番いの神がこの土地に現れてから千年の月日が流れた頃、まだ神と人間は共存しており、平和が続いていた。村は栄、神の社には村から選ばれた巫女と護衛役の兵士が付き従い、社はさらに大きくなった。社の最上階には山々の隙間から村が一望できる天守閣が作られ、神達は寛いだ。。。


 そんなとき突然、遠くから伝わってくる地鳴りが社と村に響き渡った。

 シャンとマーの神は狼狽えた様子で社の天守閣から外を見た。すると数時間前までは晴れていた空は荒れ狂い、風は渦巻き、次第に滝のような雨が降ってきた。その影響で近くの川の水はすぐに氾濫寸前まで来ていた。


 「ここまで追って来るというのか、、、」


 シャンの神は天を仰ぎながらそう呟くとその目からは一滴の雫がそっと落ちる。マーの神はそんなシャンの神の腕にそっと身体を寄せた。


 「マー・・・

  もうここにはいられない」


 マーの神が小さく頷くと神達は互いに腕を組み、宙へ浮かんだ。社に仕えている村人全員が天守閣に集まっており、20人ほどの村人がその光景を不安げな面持ちで観ている。すると、神達は村人達のいる天守閣の方に振り向いた。


 「村人よ、急な話だが我らはこの土地を去る。」


 「なぜですかシャン様、私どもが何かご無礼を致したのでしょうか」

 「シャン様マー様どうかどうかこの土地にいてくださりませ」

 「シャン様!」

 「マー様!」


 村人達は一人一人が神達の存続を願う声を上げたが、神達の意志は変わらなかった。


 「我らの愛する人間達よ、我らは去る。だが我らの力はこの土地に根付いた」


 シャンの神は豪雨の雑音の中、太い声を荒げてそう言うと、社に仕える村人達は『神達が去る』と言う真実と『力が根付いた』という言葉に不安と混乱に包まれていた。すると、シャンの神の少し後ろにいたマーの神が村人達の前へ出た。


 「私たちの力は確かにこの土地に根付きました。

   私の力はこの社とあなた方の村がある土地、そしてその周辺に宿りまいた。もうこの土地が枯れる日は二度と来ることはないでしょう」


 マーの神は落ち着いた、甘く澄み透った声をしており、初めてその声を聞いた村人達の中には感涙しているものもいた。そして神達がいなくなったあともこの土地が前の荒れ果てた土地に戻らず、未来永劫枯れないと言う言葉に不安げな面持ちだった村人達の顔が少し和らいだ。その様子を見ていたシャンの神は再び村人達の目の前へそっと出ると


 「マーの力は土地に宿った。だが我の力は意志あるものに宿る。意思持たぬものがもっても意味のない力だ。

 そしてそれは今ではない。我の力は大きすぎる。千年足らずここにいただけでは誰かに宿るほどにはならぬのだ。だが目には見えぬが確かにここに根付いた。それは次第に自然の力を吸い大きくなる。千年、千年後、我の力はこの土地に住む人間の誰かに宿るだろう。。。」


 シャンの神はそう言い終わると神達は天守閣にいる村人達に背を向け、西の空を仰ぐ。すると、その瞬間空から雷が落ちた。落雷は宙に浮いている神達に直撃し、辺りは激しい雷鳴と眩い光に包まれ、村人達の視界は閉ざされた。

 落雷の光は奇怪なことに数秒間続いた。村人達の視界が開けた頃には雨は止み、黒雲の隙間から光芒が差していた。番いの神は姿形一つ無く、残っていたのは宙に浮いた落雷の残り火だけだった。。。


 番いの神がいなくなったこの土地の住人は番いの神に仕えた巫女の中から次なる名主を決めた。一連の番いの神の出来事を神達の側で見て、神達当人からも土地の始まりの話を聞いていた名手は子が生まれると、子に代々この出来事を伝えるよう命じた。————————


 「おしまい」


 諭は語り終わると——ふぅ——と一息つく。


 「ふぅ、やっと終わったか」


 「・・・」


今村は長い話を聞かせれ、肩が凝ったのか背伸びをした。奈多羅はまだ麺をすすっており、机にはカップの残骸が重ねられていた。


 「どう、面白かったろ。この町に昔神がいたって思うとワクワクしちまうよな」


 満足げに諭は二人に感想を求めるが、今村はあまり信じてなさそうで、半ば呆然としており、奈多羅は麺を啜っていた。

 すると、麺を啜っていた奈多羅が箸を止めた。


 「なあ諭、そんな話誰から聞いたんだ?伝えられてきたなら、村の全員知ってるんじゃないのか」


 「ああ、それなんだけど、この話俺のばあちゃんから聞いたんだよ。」


  奈多羅の問いに少し言いにくそうに首に手を当て、答えた諭に、——んっ——と今村が諭の方を見た


 「諭のばあちゃんって確か認知症になって巫女やめたんだったよな」


 「まあそうなんだよな〜、でもまあ、確かに認知症になってからよくわからないこともたまに言うけどさ、こんな具体的な長話を認知症になってから話したのは初めてだったんだ。だから、ちょっと特別な話なんじゃないかと俺は思うんだよな〜」


 諭は前のめり気味にそう言った。すると今村と奈多羅は——ふーん——と肯定も否定もしない返答を返した。。。


 三杯目のカップが空になった頃、奈多羅は周りがやけに静かなことに気づき、ふと黒板の上にある時計を見た。そしてその時計は5時限目が始める5分前を指していた。


 「やっべ、時間見ろ二人とも」


時計を見た3人は慌てて体操着に着替え、第二画棟中枢にある体育館へ急いだ。。。。5時限目は体育の授業だ。

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