【魔眼の勇者】は引きこもりたい
あずま悠紀
第1話
プロローグ ------
さてどうしたものか、と俺は目の前の少女を見ながら考える。見た目はまだ10歳前後といったところだろう。銀髪紅瞳という特徴も、俺には見覚えがあったしなによりその容姿にも面影があった。
( 魔王 クレイマンの妹)ミリムとかいう名前だっけ?
(それに、よく見ると着ているドレスはクレイマンの部下である鬼人族オーガロードの女戦士ヒナタ=サカグチのものと同じだもんなぁ)
しかし何でここにいるのか、それが問題だった。そもそもあの豚王ゼオルさんを裏切ってまでこちら側に来たのは予想外だし、何よりそんな事をしてクレイマンが許すはずもないのだ。だから、何か事情があると思った方が良いと思うんだよなぁ。
(まあ良いか、まずは情報を引き出さねーとな)
俺は意識の無い彼女に回復薬グレートを一瓶飲ませると様子を観察した。
それから暫くすると、彼女は目覚めたのだがやはりまだ覚醒していない様でボーっとしていた為、とりあえず状況を説明する事にした。
まずここが何処なのかを説明しようとしたら、「アムール先生! 大丈夫ですか!?」などと叫びつつ扉を壊しそうな勢いで駆け込んで来た生徒達に取り囲まれてしまった。しかもその先頭にいたのはベニマルであり、彼の後からシオンにシュナと続き、その後ろからソウエイやレオン達も入ってくる。
ははは……そりゃ来るよな。心配掛けちゃったんだろうけどちょっとタイミング悪すぎだわ……。でも今は仕方ない。説明は後にしてコイツ等を宥めないとな……、なんて考えていたら案の定騒ぎ始めた皆だったが………… 結局その場を収めたのは、いつの間に来ていて状況を察知していたディアブロだった。
(マジ有能!)
という訳で落ち着いた場を作り直した後。全員にお茶を入れて貰い落ち着かせて貰った後、ようやく話を進める事が出来たわけだが、その話を纏めるとこんな感じだった。
何でも先程迄行われていた緊急評議会の結果を聞いたクレイマンは激怒して、即座に軍を召集したらしい。当然、クレイマン軍は俺達が居るこの場所を目指して進軍を開始しているようだが、そこで一つ問題があったそうだ。
(豚人族オークの将軍 バレッタが居なくなったってどういう事?)
なんでも彼女達は今回の軍議に参加しようとしていなかったみたいだけど、その理由について聞いた所によると「私達鬼人は誇り高い種族であります故! 例え相手が人間種であろうと戦う意志が無い者に手を下す事は有り得ませぬ!」との事だったそうなのだ。
だがしかしクレイマンはそれを咎めなかったのだという。それはつまり、相手に対する侮りがあったと言う事になるのだろうけど、何故クレイマンは彼女を見逃すという選択を取ったのだろうか? 俺にはその理由がよく判らないのだが、ベニマル達に聞いてみるとこういう事であった。なんでもクレイマン軍にはまだ大兵力と言える数の兵士は残っておらず、それ故にこの場での戦闘を避けて撤退する可能性も考慮したらしい。その為クレイマンとしても無闇に攻め入る事は躊躇われたらしく、「ならば相手の真意を探る為にもこの城に留まるべし」というのが、今回選ばれた将軍の殆どの総意だったという訳である。
(なるほど、それで偵察隊としてヒナタを派遣したって事ね。納得しました!)
(で、クレイマンの軍が接近しているという話になったから、慌ててこちらに向かったのか。なーるほど)
まあその判断自体は正しいと思うよ。もしも敵の正体がわからなければ迂闊には攻め入れなかっただろうしね。そしてクレイマンの性格上、そういう慎重な姿勢を取られたなら下手に手出しは出来ないだろうと俺は考えた。
(うん、これなら大丈夫かもね。俺の方からクレイマンに接触して、停戦条件を話し合えば問題ないだろう)
そんな風に考えて俺は立ち上がった。
(さてさて)と気合いを入れる。
(この世界に召喚されてから早数ヶ月。俺も少しは成長してますよっと)
実はついさっき俺は究極能力アルティメットスキル『暴食之王ベルゼバブ』の力を使い、クレイマン軍の情報を解析していたのである。まあそこまで複雑な内容を知る事が出来るわけではないんだけどさ。それでもクレイマンがどの程度の兵を集めているのかぐらいなら把握出来るだろうと考えていたのだ。そのお陰で、既にその兵数が三万程度である事がわかっている。
(こっちは十万人以上いるから、勝てないとまでは言わないが負ける要素は無いんだよな。クレイマン軍は魔獣軍団だし)
そもそも魔王のクレイマンが率いるのだから強いのが当たり前。しかしだからこそ舐めて掛かると痛い目を見そうだとも思ったのである。それにあの豚はどうも怪しいし油断して足元を掬われたくないという思いもあったのだ。
そしてその判断は正しかった。
(よし、問題ない。いける!)
俺達とクレイマン軍との戦いが始まった。
(まずは予定通り)
俺は『魔力感知地図マギアナルビーツ』で周囲の状況を把握した。そしてそれをそのまま自分の脳内へ投影させる。
するとその視界の中で味方の集団の位置が赤い点で表示される。
俺はその中に、敵軍の赤点を確認すると、そこに狙いを定め一気に飛び込んだ。そして拳による連打攻撃を喰らわせてゆく。すると俺の通った場所から爆炎が巻き起こる。これは、『灼熱波動ヒートウェーブ』『煉獄覇闘撃ヘルズブリッツ』『竜華滅砕陣リュウカホウクジン』、『武聖連舞ムセイレンバイ』の四つの究極能力アルティメットスキルを複合させて放つ俺の必殺技の一つである『紅蓮剛波フレイムタイラント』の一撃であり、この攻撃の恐ろしさは既に経験済みである以上、クレイマンにも俺の姿が見えているはずだった。
案の定、クレイマン軍から悲鳴が上がり、俺に向けて魔法や矢が飛んで来る。しかしそれらは全て、シオン達の障壁に阻まれて届くことはない。
(やっぱりそうか。流石にこれだけの兵を統率していれば簡単に倒せないよな)
予想通りの展開に満足しつつ俺は進撃してゆく。そして遂に俺は、敵軍の本陣へと辿り着くとそこにはクレイマンと思しき人物が座っていた。
(こいつがクレイマンか? 見た目はまだ子供にしか見えないんだが)
その少年は一見普通の人間のように見えた。しかしその肌は青白く透き通るように見え、何よりその眼は赤く輝いていた。間違いなく人間では無く魔物である。それも魔王級の強さを持つ上位の存在だと思われるが、それが人間の姿をしているのは違和感が有った。
「よく来たな。だがここまでだ! 我こそはこのクレイマン様の軍師にして参謀! お前に引導を渡してくれる!」
などと叫ぶがその姿はどう見ても強そうには見えないし、何よりその態度に苛立ちを感じる。なので俺はとりあえず黙らせた上で、話し合うことにした。
(面倒臭い奴はさっさと倒すに限る!)
俺が拳を振るおうとしたその時だった。
突然目の前の男が、何も無い空間から現れた黒い球体によって拘束され飲み込まれてしまったのである。
(んな!? え? な、何が起こった?)
驚く俺の前で更に驚くべき事が起きた。何とその黒い球はそのまま霧散したのだ。
そしてその中に包まれていた男は無傷で、不機嫌そうに現れたのだ。その男の顔は先程のクレイマンよりも更に若く見えた。しかしそれでもやはりその容姿は魔王級の力を持つ存在であるのは間違いなかった。
そいつの外見はクレイマン同様に人族の子供のようだ。だがその瞳の色は黒く濁っており、どこか病的な雰囲気を感じさせる存在でもあった。しかし何より驚いたのはその服装だった。全身黒装束で統一されており、まるで忍者のような格好をしているのである。その雰囲気からも只者ではないと感じさせてくれたのだ。そして何より特徴的な部分があった。それは額にある第三の目サードアイが開眼されているという事だ。それがどういう意味を持つのかは俺の想像を超えた領域での話だが、本能的にヤバいと感じたのは確かだった。
「おいおい。何勝手に俺の部下を殺してんだよ。せっかく上手くいきかけてたってーのに台無しだぜ」
「悪いな、しかし部下思いなんだろ? なら文句はねーだろ」
「ハッ! 冗談キツイな。まあ別にいいけどよ」
そんな会話を交わす二人は、互いに全く緊張感を持っていない様子だった。それどころかまるで旧知の仲のように気安い感じなのである。しかしそこで初めて気付いた。
(そういえばコイツも魔人なんだよな? って事は、コイツ等二人も兄弟なのか? 似てるっちゃあ、確かに似ているような気もするけど。まあ確かに顔は同じだけどさ。でも何かこう、全然同じに見えないんだよな。クレイマンはもっと邪悪な感じがしたがコイツからは何も感じない)
そこで思い出したように、俺達を襲って来た少年の事を思い出して尋ねた。
「おい! さっきの男をどこにやった?」
だが返って来た言葉は信じられないものだった。
「ハア? さっきのヤローならテメーが殺したんじゃねーのか? 自分でやっといて覚えてねーのかよ。馬鹿かお前?」
「俺が殺したのは豚王だけであってお前じゃねーよ。それに豚は喋らなかったし、さっきまでここにいたクレイマンも人間型オークの筈だ。俺が言ってるのはクレイマンの弟の事だよ!」
「弟だ? 何を訳わかんねー事言い出してるんだ? 俺はクレイマン本人だが? つまんねえボケかますな。殺すぞ?」
俺の問いかけに対し心底呆れたといった表情を見せながらクレイマンは答えた。そして、もう一人の方はその俺の言葉を気にする事もなく、相変わらず不機嫌そうな表情を見せているだけである。
この二人にはどうしても俺の言葉を理解して貰う必要がありそうだ。俺は自分の究極能力アルティメットスキルである暴食之王ベルゼバブの権能『大罪之剣キングソード』を使用し、クレイマンに話しかける事にした。
俺の『大賢者』は、クレイマンから得られた情報によりクレイマンの能力を看破していたのだ。
クレイマンは魔王で間違い無いのだが、その魔王種とは少々毛色の違う魔王であるらしい。クレイマンの配下である二人の魔人は、その魔王を『七曜の老爺』と呼ぶらしく、クレイマン自身も、クレイマン自身が魔王だとは名乗らないらしい。
クレイマンを『大魔王ルシファーロード』と呼び、もう一人の少年を、『傲慢なる水竜王コキュートス』、『虚栄なる雷龍帝インドラ』、『憤怒なる地亀帝アグニ』、とそれぞれ呼んでいるのだという。そしてこの世界に存在する全ての魔王が、この三人の支配領域から発生しているらしい。
(つまりこの世界の全ては、この三人の魔王によって生み出されたものだって訳か。しかもこのクレイマンという魔王はその中でも特別な存在で、他の三魔王から絶対的な忠誠を誓われているんだとか)
俺はクレイマンが言っていた言葉を思い返したが意味不明であった。
この三人が生み出したのだから自分こそが真の意味で支配者なのだ、という宣言なのだろうか? しかしそれでは『大罪之剣キングソード』で解析した際に判明した能力との矛盾が発生する事になるのだ。
(能力解析アナライズによるとこの『傲慢なる水竜王コキュートス』と『虚栄たる雷龍帝インドラ』の能力と性格傾向が一致していないしなぁ。これ一体どうなってるんよ? というかさっさと終わらせて早く元の世界に帰りたいよ)
俺は溜息をつきつつも話を続ける事にした。そして結局クレイマンから得られたのは、その力の詳細のみとなってしまったのである。しかしそれだけの情報で十分過ぎる程の価値はあっただろう。
クレイマンが持つ三つの究極能力アルティメットスキルは、それぞれの『色欲』、『嫉妬』、『怠惰』を司る。その力は俺の知る魔王を遙かに凌駕していたのは事実だ。
クレイマンが持つその三つの能力『万物ノ主』によって呼び出された者達。それが、この二人の『魔王』だったのである。
(こりゃマジでとんでもない奴が現れたもんだ。魔王の魔王級の力、なんて生易しいもんじゃないだろ)
クレイマン本人は魔王を名乗ってはいないようだが、その力が本物である以上は最早、クレイマン=大魔王と考えてもいいだろうと思う。しかしここで新たな問題が発覚したのである。(そういえばコイツ等はさっきの少年が何者かを知っているようだったよな。まさかクレイマンと同じ魔王の一人って訳でもあるまいし。この『怠惰』なクレイマンですら部下が殺された事には怒っているしな。あの子も俺の予想が正しければ魔王クラスの存在だって事なんだけど、流石にそれはあり得ないしな。そもそも魔王同士は相容れない関係なのが暗黙の了解になっていると聞いていたのに)
俺はクレイマンから得た情報が真実かどうか確かめるために、『魔王覇気マオウハキ』を放った。これは『竜闘気ドラゴンオーラ』、『竜覇気ドラゴニックフォース』、『魔王闘気デモモギタリオン』の三つを複合させて放つ俺の必殺技の一つで、この必殺技を発動している間は、あらゆる存在に対してプレッシャーを与える効果があり、同時に相手の実力を測る事も出来るのである。しかしそれは発動者の実力次第であり、『覇気使いバトルマスター アムール』の異名を持つほどに成長した今となっては威力を調整可能な為、特にデメリットも無い。ただし相手が強すぎる場合は逆効果となる可能性はある。なので今の相手に対しては少し抑えめで使用したのだ。その甲斐あって二人は全く意に介さないという様子だったが。
俺の目の前にいるのは間違いなく、俺の見立て通り本物の魔王級の存在である事が確認出来た。しかしそんな俺の考察も一瞬にして吹っ飛ぶような出来事が起こったのだ。なんと『七つの原初トリニティー』の一人である、アムールがそのクレイマンに向かって攻撃を開始したのである。
「待て!! 何やってんだ!」
咄嵯に止めに入ったのは、ソウエイだった。
だが既に時遅く、ソウエイーーベニマルの手は止まらなかった。その手には既に黒刀『夜天獄ヨテンごく 』を抜刀しており、その一閃がクレイマンに届こうとしたその瞬間。クレイマンを拘束していた黒い球から突如無数の手が現れ、その腕を掴んだのである。それはまるで意思を持つかのように動くその手が、ソウエイの攻撃を阻止したように見えた。
しかしその直後、クレイマンを捕らえていた黒い球がまるで爆発したかのような衝撃を伴い粉々に吹き飛んだのである。そしてそこには先程のダメージ等、微塵も感じさせぬ、無傷の姿の少年がいたのだ。
(おいおい、どんな防御力してんだよ! しかもあれだけの攻撃を受けながらも全く堪えてねーって事か?)
そして次の行動は俺が驚く番だった。何と先程の少年が再び動き出したのである。
少年は先程と同様に、突然俺達の前に現れたのだ。しかしその少年の姿を見て思わず固まってしまう。
何故ならそこに現れた少年の瞳が、先程とは打って変わり美しい紫色に光輝いていたからである。更にはその身に纏う雰囲気が別次元の強さへと変わっていた。
(さっきまでは弱そうな雰囲気だったのに、何だよコイツ。この強さは異常だぞ!)
俺は直感的に悟った。この場に現れたのはこの世で最強の生命体なのである、と。そしてそれはこの世界の最強生物であるアムールさんが放った『大賢者』の言葉により証明されてしまったのである。
「解、この者は『七つの原初トリニティ』の一柱、究極能力アルティメットスキル『虚飾之王ベルフェゴール』の所有者。そしてクレイマンと同じく『暴食之王ベルゼバブ』の究極能力アルティメットスキルを所有する魔王級です」
俺の心は恐怖に支配されそうになった。
だがそんな俺とは違い、冷静な者もいた。それは魔王ミザリーと鬼人の少女二人である。その三人は即座に戦闘態勢に入り、少年を取り囲もうとしていた。
それを見て俺達も少年の援護をするべく動いたのであるが、そこで少年の一言を聞いて俺達の動きが止まった。少年は何と言ったと思う?「あ〜らら。君達まで来るの? 面倒くさいな〜」
これが後に、魔王の代名詞と言われる事になる少年ーーー『虚飾之王アアストリアン』所有者ーーークレイマンとの出会いだった。
クレイマンという魔王は『虚飾之王アアストリアン』の力により自分の姿を、この世には存在しない存在ーーークレイマンという少年に変えていた。
そしてこの姿のクレイマンを相手にする事がどれだけ危険な行為かを『虚飾之王アアストリアン』所有者クレイマンは身を持って知っていた。この能力で作り出せる偽物は精巧で、一見本物と見分ける事は困難を極めるのだ、しかし本物と違い思考回路は無く命令通りに行動するのみ。その為に危険度は非常に低くなっていた。
そしてその事はクレイマン本人もよく理解していた。故に、魔王ミザリーはクレイマンのその余裕ある態度に疑問を抱く。
(こいつは一体、どういう奴なんだ? あの少年の正体も知っているし、私達の知らない情報を多く持っているみたいだし、本当に侮れないわ)
そんな風に思案していたその時である。『暴食者グラトニー』の所有者のヴェルダが動き始めた。
そしてクレイマンの意識がヴェルダに集中した隙を狙い、クレイマンに向けて『煉獄覇炎撃ハルジオンフレアバースト』を解き放ち、そしてクレイマンを吹き飛ばしたのである。そして間髪入れずにクレイマンを追撃するように攻撃を仕掛けようとした。
だがその刹那、今まで何もしなかった『七つの原初トリニティ』の一人が動き、そしてその手を薙ぎ払っただけで、その『魔法破壊マジックブレイク』の応用技とも思える攻撃を、いともなく消し去ったのである。そしてクレイマンは傷一つなく平然と立ち上がり、そして呟くように言葉を発した。「やれやれだぜ。相変わらず無粋な野郎だ。もう少し空気を読んでもらいたいものだな」
その声を聞いた瞬間、その場の全ての者が一斉に凍りついたのである。
それはまるで魂の根底にまで刻み込まれた、根源的な恐れのような感情だった。しかしそれを成したのが、ただの一人の人物であるという事が皆の混乱をより深いものとしている原因でもあったのだ。
しかしそんな中で、一人だけがその少年の異質さに気づいた。それが『魔王』の称号を有するミザリーである。
その圧倒的なまでの威圧感に、本能が告げるのだ。目の前の存在は人間ではなく、それどころか魔物でも亜人ですら無いと。その存在の本質は、自分など及びもつかぬ高次の存在なのではないかと。
そしてそれを裏付けるのは、先程からの言動の数々。その一つ一つの所作を目で追っていくだけでも、只ならぬ技量の片鱗を窺わせるのである。その佇まい、視線の流し方、呼吸の仕方。どれも常軌を逸した、まさに超常的な存在に相応しいものであったからだ。
(これは間違いない、この男は『神』だ!)
しかし『魔王』の二つ名を冠するミザリーがそう確信しても、周りの者には到底信じられるような話では無かったのだ。
それはそうだ。何しろ見た目が『人間種』そのもので、尚且つ自分達より遙かに格下である筈の存在が、この世界において頂点に近い力を有している存在なのだといきなり言われても信じる事が難しいだろう。いやむしろ信じたくないというのが本音かもしれない。
そんな事を思案するミザリーの前でクレイマンがヴェルダと会話を交わしているようであった。
ミザリーはそれを聞き逃すまいと耳を澄ませるが、その内容はあまりにも不可解極まりないものでしかなかったのだ。
まず最初にヴェルダはクレイマンに対し、この世界に害を及ぼすつもりなのか、その真意を問う。だがその問いに返って来た答えは実に奇妙なものだった。なんとこの世界で好き勝手に遊び回るために、『勇者』に倒された『元』魔王として復活しただけなのである。そしてその復活には、とある条件があるかららしいのだが、それは今は話せないと言われてしまったのだ。だがそれでも『魔王』を名乗るには理由があったらしく、「だってさぁ、『元』とは言え魔王を名乗ってたら、そこの少年達を殺せって言われた時に、抵抗して殺される訳にはいかないじゃない。だって俺は死にたくないもん。それにさ、『勇者』を殺さないと、俺の目的を果たせないしね!」
その台詞を聞いて、クレイマン以外のその場にいる全員は戦慄した。何故なら今の発言の中にとんでもない発言が混じっていたのだ。
「おい、ちょっと待て。貴様の目的はなんだ?」
そんなミザリーの質問にクレイマンは悪びれた様子も無く答える。「ああ? 目的ね。ん~簡単に言えば『世界』と取引したんだよね。俺に危害を加える事を禁止する代わりに『七星魔王ナブルセウス』の席を与えた、て感じかな? 俺はその見返りとして『七曜の老師マスターオブマスター』と呼ばれる者達を『魔王』にしてやったのさ。そして俺の配下になった『七曜の老師マスターオブジジイ』達に命令をして、この世界を支配させている訳よ」
ミザリーはその言葉を呆気に取られながら聞いていた。そして他の仲間達も同じように唖然となる中、ベニマルは冷静な口調でその少年に問うた。「それはお前一人で決めた事ではないのだな? 誰かに強要された訳ではないのか?」
その言葉は核心をついていた。確かに『七つの原初トリニティー』が、何者かに操られて悪事を働いている可能性も否定出来なかったのだ。もしそうならば早急に手を打つ必要があるのだから。
しかしクレイマンの言葉は予想を大きく裏切るものとなった。
「おいおい! 何言ってんだよ! 俺がそんな面倒臭い事に自ら巻き込まれに行くわけないだろうが。そもそもそんな面倒事を頼まれるはずがないんだよ。何の為に『大賢 者』なんて能力を持っていると思ってんだよ! 俺の意思とは関係無く勝手に情報が入って来るのさ! つまり俺の意志に関係なくこの世界を支配するように強制されているんだよ! この意味わかるだろ!? つまり『創造主』の奴は『大賢者』の能力で俺を監視していて、この世界を乗っ取るために動いているという事になるのさ! まったくいい迷惑だぜ。これじゃ俺はただの傀儡じゃないか!」
そしてクレイマンは怒りに満ちた表情を浮かべつつ叫んだ。
クレイマンはその『七つの原初トリニティー』である少年達に命じられていたのだ。『勇者』と名乗る者が現れし時、これを討滅する事。それがクレイマンに与えられた任務だった。だがしかしクレイマンにその義務は無いのだ。なので『七つの原初トリニティー』の一人であるクレイマンは『創造主』への叛逆を決意したのだという。
しかしそんな事情を知らないミザリー達からすると納得出来る内容の話ではなかった。『魔王』の称号を持つ者がそんな理由で、この世界に仇なそうなどと思わないだろうし、仮にクレイマンの話が真実だとすればそれはそれで許されざる問題でもあるからだ。故にクレイマンに対する警戒が更に高まる事になったのである。
(こいつは危険な男だよ。どうやら本当にこの世界の味方になるつもりが無いみたいだし、そればかりか私達が邪魔者のようだ)
クレイマンの言葉を聞いた上で、そんな判断を下した。
クレイマンの言動は一貫しており、そして一貫してクレイマン個人の利益にしか重きを置いていないようであると。それは『七つの原初トリニティー』でありながら、自分の意志だけで行動するクレイマンを見ても間違いなさそうである。そしてそれこそが、危険因子たる存在だという証拠なのだ。
(こいつはここで始末する必要がある。このまま野放しにしていて良い相手では決して無い!)
ミザリーの判断は迅速だった。
そしてクレイマンに向けて攻撃を放とうとする。それは『魔王覇気マオウハキ』を込めた拳による打撃であり、一撃で相手を葬り去る威力を有していたのだが、それはあっさりと止められてしまう。だがそれは予測通りの行動でもあったのだ。クレイマンの攻撃で自分が死んだと錯覚させる事が出来れば十分だったからである。
その刹那、ミザリーはクレイマンに対して全力攻撃を放った。ミザリーが得意とする炎系上級魔法である『紅蓮地獄グリューネメシス』と、上位元素である精霊の上位に位置する雷系中級魔法『迅雷撃ライトニングストライク』を融合させたオリジナル魔法の『煉獄』と、『聖魔反転』の効果を利用して放つ『煉獄獄炎波レージングフレアバースト』を融合した炎の極大魔法を放つ。それ故に、この世界では今まで誰も見た事も使った事も無い程の究極炎撃がクレイマンの身体を吹き飛ばして行く。
しかし次の瞬間には驚愕の声を上げる事となった。なんとその少年は、一瞬で全ての傷を再生させて平然と立っているのである。そして逆に、ミザリーに向かって攻撃を返してきたのだ。それは『煉獄』の力を利用した『煉獄覇気レジーナフレアバースト』である。その技を受けてしまえば最後、魂の消滅を招くと言われている恐ろしい技であった。
その瞬間、ミザリーの危機を感じたソウエイとベニマルが同時に動く。
そしてミザリーの前に立ち、それぞれの防御技を発動させた。それは、『多重結界』により自分達の分身を作り出し、それを盾にするという方法だ。それは『絶対障壁アブソリュートバリア』を二重展開して敵の攻撃を弾き飛ばす効果があり、同時に攻撃を返す事も可能な攻防一体の防御技である。しかしその技の欠点は、本体を護る為に、二人のどちらかが残らないと使えないという制限がある点であった。しかもこの『完全同一体』は時間の制限も長くは無く、五分程度が限界である。だがこの場においてその弱点は余りにも大きなものであった。それこそほんの数秒の差が生死を分けるような場面であるのだから。
そしてその『絶対防壁』のお陰で、ミザリーは『絶対障壁アブソリュートバリア』に守られたのだ。そして『多重障壁』の『絶対領域』を展開した事により、ミザリーへの攻撃は全て阻まれる事となる。ミザリーとクレイマンの間は完全に遮られ、クレイマンの手は空振りする結果となる。
しかし、それはクレイマンにとっても予想外の事でもあった。なんとミザリーを攻撃した筈の自分に対し、『絶対障壁アブソリュートバリア』が展開されたのである。これは『多重障壁』や『絶対障壁』と違い、物理攻撃を弾く為の技ではなく、相手の力を跳ね返すカウンタータイプの防御なのであるが、それを知る者は居なかった。そしてそれはまさに天性の勘と言えるものでもあったのだ。
だがそれでもその攻撃が不発に終わった事に、ミザリーは焦りを覚える。
なんせ『多重障壁』とて万能では無いのだ。それは、同じ『魔王』の力を持つ相手には無力化されてしまう。そしてベニマル達の持つ『魔王武装』には『大魔王之怒覇威圧プレッシャー』がある。この力は圧倒的な恐怖心を植え付け行動を阻害するというものである。その力の有効範囲は狭いのではあるが、この距離ならば確実に発動可能だった。
そしてベニマルの力が炸裂し、強烈な衝撃波がクレイマンを襲った。
「ぎゃぁああああ!!!」
クレイマンは絶叫しながら吹っ飛んでいく。その隙に、ベニマルの『大魔王之激怒』の追撃が叩き込まれた。
これでクレイマンを完全に仕留められるとは考えていなかった。そもそもそんな簡単な相手ならば苦労はしないからだ。なので『影移動』にて瞬時に移動して距離を詰めようとしたその時。突然目の前に現れた少女によって行く手を阻まれてしまったのだ。ミザリーの『神速転移テレポーテーション』に匹敵する速度での移動術、『空間渡移』を使ったようである。そしてそのままミザリーを抱きかかえると、素早く後方へと移動する事に成功する。
そしてそこにはシオンが立っていたのである。
(なんて事なんだよ! あの野郎はあんな化け物まで仲間にしているのかよ!! あれじゃ勝ち目なんてありやしねぇ!)
そう考えたクレイマンは急いでその場を離れる事にした。
クレイマンが逃走を開始しようとしたその刹那、ミザリーとベニマルが同時に動いた。ミザリーが『空間移動』を行いクレイマンの前に現れたのだ。
「おいおい、逃げるな。俺と戦え!」そう叫びつつ殴り掛かるが、その攻撃はあっさりと受け止められる。そして反撃の一撃をまともに喰らってしまった。ミザリーはそのダメージに顔をしかめるが、『煉獄』の威力で何とか耐え凌ぐ事に成功したのだ。
(こいつの能力の正体はまだわからないけど、こいつは強い! でも私達の実力だって負けていないはずなんだ!)
そう思いつつも必死に戦うが、全く手応えが無い。それはつまり自分の攻撃を簡単にいなされているという事でもあった。それはクレイマンの余裕の現れでもあったのである。クレイマンからすると、今の時点での戦いは『遊び』でしかなかったのかもしれないのである。
一方、そんなクレイマンとミザリーの戦闘の行われている場所より遠く離れた地点。そこではシュナとソウエイの激闘が行われていた。ソウエイの攻撃はシュナに通じない。そしてその身体に触れる事すら出来ない。その事を理解しつつも、諦めずに何度も攻撃を仕掛け続ける。だが、やはり無駄であった。そして逆に反撃を受けてダメージを受ける。
だが、この程度の事は最初から予想出来ていたのだ。
ソウエイはミザリーと同様に考えていたのである。『大賢者』である『クレイマン』には何か秘密があり、それが自分の予想を超えた能力を有している可能性が高かったと。そしてソウエイの予測が当たっていたのだとすれば、この戦いの決着は、自分の命と引き換えにする事でのみ勝利が得られるのだろうと。
だが、この『煉獄』と『絶対聖域サンクチュアリ』を組み合わせた防御壁の中では死ねる訳では無かったのだ。何故なら、この防御壁の内側に存在する者には自動で『状態異常耐性』が付与されているからであり、それは外部からの影響も受け難いのだから。なので『煉獄覇王レイジングフレアバースト』で焼き尽くすような攻撃でない限り、死ぬ心配は要らない。ただし、それはミザリーも同じであった。なので二人がかりで攻撃してもクレイマンを倒せる確率は極端に低く、寧ろこちらが殺される危険性があった。
(ならばここは撤退だ)そう判断すると、即座に離脱を行う二人。それを見て驚くクレイマンだったが、流石にこの状況下ではどうするべきなのかがわかったようである。すぐに後を追いかけようとしたが、ミザリーとソウエイによる牽制の魔法攻撃を受けてしまう事になったのだ。そしてそれに対処している間にも二人の姿を見失ってしまう事になってしまった。
しかしここで問題が起きた。ミザリーに倒された『創造主』クレイマンの妹が復活してしまっていたのである。そして『絶対障壁アブソリュートバリア』による隔離を行っていた事でその蘇生には時間が掛かってしまい、その間にベニマル達は『魔王覇気マオウハキ』で操られた少年達に攻撃を受ける結果になった。
だがその程度の攻撃でどうにかなる相手ではないのだ。それは当然である。彼等も幹部の一人であるクレイマンと同じく、『悪魔公デーモンロード』の種族スキルを持つ存在なのだ。その強さは尋常では無く、並みの魔王種なら一蹴してしまう程の力を持つ。そして『魔晶氷結アイスブリンク』を纏った腕を振るい、次々と敵を屠って行った。その力は凄まじく、あっという間に敵の戦力を削ぎ落していく。
その様子を見つめながら、「流石はお兄様の部下達です」などと嬉しそうな笑みを浮かべて満足げに呟くクレイマンであったが、ミザリーとソウエイが逃走した事については、気づかぬふりをして放置しておく事に決めた。そして、このままこの場所に留まっていても仕方がないと判断し、ミザリー達が逃げた方向に背を向ける。
そしてミザリーとソウエイの後を追おうとした時だった。
ミザリーが逃げて行った方角にある建物が崩れ落ちて行く。まるで大地そのものを削り取るように破壊しながら。それを目の当たりにしてミザリーの身が危ういと悟る。『大魔王覇気』の力を使い『多重障壁アブソリュートバリア』を展開する。だがその衝撃に耐えられず吹き飛ばされてしまった。それはクレイマンが想定していなかった程の強烈無比な力だったのである。
(こ、こんな力を隠し持っていたとは、油断ならないヤツだ! しかしまだだ、今の俺には切り札が残っているんだぞ!!)
クレイマンは立ち上がり、『魔王覇気』の力を発動させつつ、『多重結界アブソリュートバリア』を発動させる。
「おい貴様、そこで何をやってやがる!? そっちの用はもう済んでんじゃねーのか? さっさと消えろよ!」そう怒鳴りつけたのは『勇者マサユキ』であった。
彼は魔王ルミナスの命令に従い、『神聖法皇国ルベリオ』の聖騎士としてこの町に攻め込んだのである。そして『絶対領域アブソリュートフィールド』の能力により支配する町を増やし、そして魔王の威光を示す事に成功し、聖騎士団長の地位に上り詰めた。しかし、それは全て魔王が自分を聖騎士に任命してくれたからだと考えていた。故に、今回の件においても自分の力が高く評価されたと思っていたのである。
そんな彼が『煉獄炎爆波レージングファイアボム』を町の中央に放ち大爆発を引き起こした。そしてそれを行った瞬間、ミザリーから受けたダメージで動けなくなっていた『魔王クレイマン』は意識を失い倒れ伏す事になる。
こうして、後に魔王クレイマン大戦と呼ばれる戦闘は終わりを告げる。それはこの大陸の歴史において最悪の惨劇となり、そして後の世の歴史書にて、『魔王』クレイマンの名と共に語られる事となる。
クレイマンとの死闘が終わった直後、俺は『大迷宮』攻略を中断する事を決めた。そして魔王達全員を集める事にしたのである。その目的はもちろん『クレイマン』の事を皆に伝える為であった。魔王達の反応を見る限り、『クレイマン』は『魔王覇気』の使い方を誤ったせいもあってか完全に信用を失ってしまったようである。
まあ、無理も無い事だとは思う。クレイマンの言葉をそのまま受け取るなら、ミザリーやソウエイを殺したとしてもおかしくない発言内容でもあったのだ。しかもミザリーが死んでいればクレイマン自身が殺されても文句は言えない。ミザリーとソウエイはそれだけ危険な行為をしてでもクレイマンを止めようとしていた訳だし、クレイマンはそれをわかっていて利用しただけなのだから。
ベニマルだけは『悪辣王ゼオル』を倒した功績である程度は信頼を取り戻していたが、その他の者は警戒心を露わにしている様子である。それはクレイマンに対する嫌悪感を剥き出しにしているのと同じであり、とても友好的とは言えない雰囲気であった。特にミザリーに至っては完全に殺気が漏れまくっている。
そんなミザリーの肩を叩き慰めると、俺は本題である今後の行動方針についての説明を始めた。まずクレイマンが魔王を名乗る事に決まった事を報告する。これにより他の魔王達の面子が完全に潰れた形になる。これでクレイマンが何らかの手段を用いて他の者達を従えた、とかいう話であれば納得出来るだろうけど、そういう訳ではない。俺が『魔王覇気』を使えるという理由のみで従ったのだと言われたら反論は難しいと思うのだ。
しかしここでベニマルは、俺の話の続きを待たず口を開いた。「おいクレイマン! お前が魔王を名乗って良いのは、俺とディアブロを倒してからだと言った筈だぜ!」という台詞を口にしやがる。その言葉で場の空気が変わった。つまりこれは喧嘩を売ったも同然というわけなのだ。ミザリーはともかく、シオンやディアブロの感情が抑えきれないのでは? とも思ったけど意外にも冷静で安心した。
「ふむ。私としたことが少々取り乱してしまったようだ。だが勘違いはしないで貰おう。このクレイマン、既に全ての能力を取り戻した。もはや以前の私ではないのである」というクレイマンの言葉を聞き、俺に視線が集まる。そしてシオンから質問の声が上がったのだが、それは俺が答える前に別の者が声を上げた。クレイマンである。
クレイマンはシオンの方を見やり、「この場で私を倒す事は容易い。しかしそれでは面白くなかろう。私は寛大だ。魔王同士の殺し合いを望むほど野蛮ではない」という言葉を放ったのである。これにはシオンを含めその場の全員が驚いた。クレイマンにその余裕があるとは思えないからだ。しかし同時にそれはハッタリなどではなく真実を述べている事も理解していた。
その事実を認識しつつもミザリーはまだ怒りを抑え切れていないようだったが。なので代わりに俺が問い掛ける事にした。
「じゃあ何かな。クレイマンくん。君に何が出来るっていうんだい?」と聞くと、「魔王が四人も揃う事自体奇跡に等しい出来事である。その好機を逃す愚か者ではないと知れ!」そう言って指を鳴らしたのだ。そしてクレイマンの背後で魔法陣のようなものが出現したのである。
(魔法?)と一瞬考えるも、その正体を瞬時に看破出来た。それは『魔法解析』の能力で確認した結果、『召喚』系の能力と判明したからである。なので『智慧之王ラファエル』からその魔法の詳細を聞こうとしたのだが、そのタイミングでクレイマンが動いたのだ。
それは、ミザリー目掛けて攻撃を放つというもの。ミザリーにとっては予想外でしかない動きであり、反応出来なかった。その攻撃はミザリーを捉えたもののダメージを与えるまでには至らないものの吹き飛ばす。その威力を見てミザリーだけでなく他の者もクレイマンに対して攻撃する意思を示した。だがその瞬間にはもうクレイマンは姿を消していたのである。
そして次に姿を見せたのはソウエイの前。『分身体創造』により生み出されたソウエイ本人の前で、同じ事を繰り返したのである。当然、ソウエイ本体は即座に攻撃をするのだが、『多重障壁アブソリュートバリア』を幾重にも張り巡らせているらしくダメージを与えられずに終わる。その状況を確認したクレイマンが不敵な笑みを浮かべて言ったのだ。「魔王同士の戦いで、部下に任せっきりというのは些か格好がつかないのでな。少し付き合ってもらうぞ!!」と。そして再び消えたのである。
「アムール様! お気を付け下さい! 今の『魔法感知地図マギアナルビーツ』で把握出来ません。おそらく空間転移を使われたものかと」
そのラプラスの忠告を受け、「ありがとうございます。助かりました」と答え、それから俺は全員に向けて命令を出した。
「いいか。あのクレイマンに何を言われようとも耳を傾けなくていい。今はミザリーに攻撃が当たらないように守る事だけに集中しろ。クレイマンへの攻撃は一切禁止とする」
「承知しました!」
ミザリーとソウエイを除いた全員が俺の言葉に答え、ミザリーとソウエイを庇いながら攻撃を避けつつ反撃を行う事に集中。そしてそれを見ていたミザリーとソウエイもクレイマンへの攻撃を開始した。そして俺はソウエイの前に出る。そして、
「おいソウエイ、アイツはミザリーを本気で狙ってる。ミザリーを頼むぞ!」
そう言葉を残し、俺自身はミザリーを守る事だけに専心した。そしてミザリーを狙う攻撃を弾き、隙あらば攻撃に転じるという戦い方をソウエイ達と一緒に続ける。そして暫く経った頃、突然『魔王覇気』による威圧プレッシャーを放ってきたので、そちらを向く。そこには、漆黒の全身鎧フルプレートメイルに包まれた何者かの姿があった。それはミザリーから聞いていた情報と一致する。そして『多重結界アブソリュートバリア』によって隔離しているこの場には入って来れない筈だった。ならば一体誰なのか。その正体を知る為に俺は問うた。
するとクレイマンは、「クフフ、魔王様からのお言葉を預かってきたのですよ。貴様らに邪魔はさせないとね」と言ってくる。魔王からの伝言、それは俺の興味を引くには十分な効果を持っていた。なのでそれを聞いた俺だが、ソウエイにはミザリーを任せつつ、『影移動』『次元跳躍』を発動しその人物へと近づく。だが相手の方が一枚上手であり、こちらの攻撃が届くよりも先に俺の首元へ刃が向けられていた。その武器はクレイマンの持つ魔槍である。
どうやら俺に一撃を与えるつもりだったようで、俺に攻撃された事で逆に驚かせてしまったようだ。まあ、ミザリーやクレイマンを相手に戦うなんて無理だからそれは別に良いんだけどさ。しかし問題は魔王の伝令という存在。そしてそれが『絶対領域アブソリュートフィールド』の範囲外から侵入してきたという事実であった。『智慧之王ラファエル』にも調べて貰ったけど、何も異常はないようである。
という事は考えられる原因はただ一つ。ミザリーのように『魔王覇気』を操れる能力を持っている可能性が高い。もしくは俺と同じく、『多重障壁アブソリュートバリア』を使い『魔王覇気』で覆っていた、というのが有力かもしれない。俺の見立てでは後者だと思うけど、断定するには情報が少なすぎた。しかしどちらにせよ厄介である。俺が今戦っている相手に手加減する必要が無くなるからね。そしてミザリーの傍でソウエイと共に奮戦していたシオンとディアブロも、クレイマンと相対したミザリーの元へ駆け付ける。
クレイマンからすればミザリーを倒す事が目的である。その優先順位を考えると、ミザリー以外は放置する可能性も高くなったと言えるだろう。ソウエイに任されている以上、ミザリーに危害を加えさせるつもりはないが油断も禁物だと感じたのだ。
そんな事を考えていると、『煉獄炎爆波レージングファイヤーウェーブ』を連射したソウエイが「この程度の力、ミザリー様に近寄らせる事も許しませぬ」とか言っちゃった。そしてミザリーへの危険を排除すると、『黒雷』で追撃を加えたのだ。それはミザリーから注意が逸れたのを狙ってのもの。ミザリーからすればいきなり俺達が攻撃したという印象を持った事であろう。しかし、ミザリーがそれに反応してクレイマンへの攻撃を繰り出そうとしたところ、俺は待ったをかけた。
「ソウエイ、そのままクレイマンを抑えててくれ。俺の方でちょっと確かめたい事があるんだ」と言い、そして俺はソウエイから離れて、ミザリーを背にしてクレイマンに対峙する。俺の狙いは単純明快で、ミザリーを狙うのならその前に俺が倒してしまえば済むというものだ。
「俺が相手をしよう。その代り、ミザリーを害する事は止めて貰おうか!」
その言葉でミザリーは俺が本気になった事に気づく。そしてクレイマンも。
「ふむ、面白い! 魔王に牙を剥く愚者を粛清するのは当然の事!」
「それはこっちの台詞だ!」そう言い、お互いに『大太刀:月詠ミチナガ』を抜刀したのであった。
その俺の剣撃に対してクレイマンが繰り出してきた攻撃は意外というか、やはりというか、ミザリーへの攻撃である。俺の『分身体』は俺そのものじゃないからね。その行動予測が出来ないのでは当然の判断だ。しかしそれでも俺が攻撃に移るのは予想の範疇だったらしい。
クレイマンはミザリー目掛けて魔槍を投擲する。俺にはミザリーしか眼中にない様子だが、流石にそれを許すほど甘いはずもなく『多重障壁アブソリュートバリア』を展開した上で、『多重思考』によりミザリーを守りながら俺自身には攻撃を仕掛けてくるという離れ業を披露して来た。
俺の防御は『多重障壁アブソリュートバリア』に全て任せておいて問題無いと判断し、俺の方もクレイマンを倒す事に専念させて貰う。そしてお互いの攻防が始まった。
クレイマンの魔槍とミザリーを狙った俺の斬撃が激しくぶつかり合う中、俺は自分の持つ究極スキルの究極武装アルティメットアームズ『天照アマテラス』について考えていた。この『分身体』が持つ究極能力もその一つで、『万物創生』、『世界図絵ワールドマッピング』の能力の一つ、『万物融合』の応用系の能力だと判明したのだ。その能力は俺自身のステータスを完全コピーするというもので、しかも俺の意識まで宿る事になる。
なのでクレイマンの攻撃がどういうものであるのかも把握出来た。そして、その対処方法も同時に思い付いたのだ。
「ソウエイ、クレイマンへの攻撃は中止する。『影移動』で下がってろ」
俺の指示にソウエイが驚きつつ、「畏まりました」と言って下がった。俺はミザリーを守っているソウエイが離れた瞬間を狙い『多重攻撃分身デュアルウェポン』によりクレイマンの背後に『多重影分身』の影を移動させた。当然その攻撃は当たる。クレイマンは『空間跳躍ワープ』で避けたがその先に俺は先回りしている訳である。
そしてクレイマンは一瞬だけ驚く様子を見せた後、『重力操作』にて俺を押し潰そうとしてくる。
それに対し、『大賢者』の未来演算により俺はクレイマンがどう動くかの予想を行いそれを回避する。そして、俺とクレイマンの位置を入れ替えてやった。その結果クレイマンが『多重空間跳躍』を発動しようと動き出すも、その前にその首が飛ぶ。そして『多重障壁アブソリュートバリア』の効果が切れて、地面に落ちる寸前で俺は受け止めた。
そしてミザリーとの距離を取り、『多重障壁アブソリュートバリア』を展開し直す。
そこでようやくクレイマンは状況を把握したようだった。
「まさか私をここまで追い込むとは、何時以来でしょうねぇ。いや、貴方達も私の相手を務めるだけの力を持っているのですか」そう呟くクレイマンに、
「悪いが時間が無いんでな。これで終らせてもらうぜ!」と俺。
そしてミザリーを安全な場所へと避難させると再び俺は戦いを開始した。今度は『魔法無効』の効果を持つミザリーの前では使わないという制限を付けた状態での『万物融合』により『魔法創造』を使用し、『超電磁砲レールガン』の『劣化版』を作りだしそれで攻撃をしたのである。その魔法は、威力こそ弱いものの高速であり光速で射出される光線であった。それは俺のイメージ通りの軌道を描き、ミザリーを巻き込まない範囲で正確に着弾した。そしてクレイマンを呑み込み消滅させたのであった。
俺はソウエイの元に戻ろうとしたのだが、『思念伝達』が届きその足を止める。
『アムール様、ご無事で!』『良かったです!』
シオンとラプラスからの連絡であったが、『大丈夫』という簡単な内容で返事を送った。すると、そこにソウエイからミザリーの護衛を終えたという報告が入ったので、そのままソウエイに任せる事にする。どうせこの部屋を出るまでは安全が確保されるのだから。俺は俺の仕事に集中する事にしたのだ。クレイマンはミザリーへの攻撃を中断させてしまったからね。ミザリーに怪我など負わせる事は出来ない。だからソウエイとミザリーの二人には申し訳ないが少しの間クレイマンを押さえて貰わなければならないのだ。
そんなこんなで、ベニマルとシオンにはミザリーとソウエイのサポートを任せると、俺もソウエイ達の援護に回る。そして遂に俺の放った一撃でクレイマンは消滅したのだった。そして『影移動』を使い、ミザリーとソウエイの元に駆けつける。
ミザリーが驚いたような表情をしているが気にしない。
そして俺が声をかける前に、ソウエイにミザリーを託す。ソウエイはミザリーを優しく抱え上げていたのだ。そしてソウエイは、「お見事で御座いました」と言ってくれた。ミザリーが心配そうな顔を向けていたが無視して俺は、
「それじゃあ、行こうか」
と言った。
それに全員が従うように歩き出した。俺達は無事に脱出する事に成功したのである。
魔王への反逆者討伐軍、つまりクレイマン軍から何とか逃れて一息吐いたのも束の間の事。ソウエイに抱きかかえられたミザリーから驚愕の声が上がった。そして同時に、ミザリーを抱えたソウエイから緊張が伝わってくる。
「何故お前がここにいる!? 答えろ!」そう叫ぶミザリー。俺も思わず驚いてしまう程である。ソウエイは俺達に気遣ったようで詳しい説明はしなかった。そして、クレイマン軍の生き残りは俺が倒し尽くしていたので敵襲は無い。そしてクレイマン軍を殲滅した後に、俺がクレイマンを殺した事でこの城を守っていた結界も解けている。今頃はこの城から人が逃げ出している最中かもしれないけど、俺達が脱出するのは問題ないと思う。俺もミザリーに促されたので、『転移門』を開いてそこから外に出る。そしてソウエイは、ミザリーを連れて来たのは自分の独断であると説明して謝罪をした。ミザリーはそれに了承したようだったが、何かあったら許さないぞ的な雰囲気を出しつつ納得している様子だ。俺はそれを確認し、そのまま町の外に向けて歩いて行く。
しかし、暫くしてミザリーの様子が変わった。
「これは? 魔力反応が急に強くなっています。これ程の気配を持つ者は見た事がありません。しかし何処か懐かしさを感じる。一体誰なのですか?」
「ん? どうやら上手くいったみたいだな。ソウエイに確認してみてくれ。アイツには事情を説明しておいた方が良いと思ったんだよ。まぁクレイマンを倒して終わりならいいんだけど、万全を期する為にな」
という感じに、俺がミザリーに話しておいてくれとソウエイに伝えて貰った訳なのだ。その話をミザリーにしたところ、やはり『波動感知』でクレイマンの正体が分かったようだ。
そして俺に質問をしてきたミザリーに対し、俺は素直に答える。俺の『魔王の覇気オーラ』を纏った状態を見た事があるのはソウエイのみだったのでその説明もついでに行おうと思っていたからだ。その話を聞いたミザリーは驚き、その顔は喜びとも恐怖ともいえるものに変わる。その瞳からは、尊敬の眼差しが感じられる。そして「貴方は、本当にあの方の主あるじ なのですね」と感慨深げに言っていた。
(う~ん。やっぱりミザリーって、クレイマンの妹だったんだな。似てるわ)などと、失礼な事を俺は考えていたのであった。
「しかし、その力があるのに、どうしてミザリーに助けを求めなかったのです?」という、ミザリーからの当然とも言える疑問には、「面倒だった」と答えて置いたが、実際のところ俺はそこまで本気を出す必要が無かったのだ。『魔法無効』の効果のある俺の究極武装アルティメットアームズである『月詠ツクヨミ』も、攻撃手段として使う事は可能では有ったが、今回は『大太刀:夜桜』を使用しただけである。勿論『分身体』にも使わせたのは、『分身体』が攻撃されるのを防ぐのに使う方が楽だという理由からであったし、『大鬼族オーガ』の固有能力ユニークスキルの『豪腕』を使えば簡単にクレイマンを倒せたのだ。そもそも究極武装アルティメットアームズ『大鬼族』を纏えば、今のミザリーでも対抗出来そうだったのも理由の一つである。クレイマンの能力は、俺とミザリーを危険視するあまり、全てを把握していなかったのだ。その所為でミザリーに危害を加える可能性も考えられたが、俺とミザリーには『影移動』があるので逃げるだけならば簡単だろうと考えていたという事もある。
なのでミザリーに全てを話すつもりもなかったのだが、どうせソウエイに頼んで調べさせて貰うつもりだったので丁度良い機会だと考えたのである。
「成る程。つまり貴方様は、『真なる魔王』なのでございますね」
「え? あ、うん。そういう事だけど」
何故か嬉しそうな表情でミザリーが自分の予想を口にする。俺はそれに一瞬驚くも、すぐに納得する事になる。ミザリーが俺の力の秘密を知って喜んでいる訳ではなく、『俺を慕っている兄を倒した』という事実を知ったからであると知ったからだ。その表情を見ていれば一目瞭然であった。俺としてはミザリーの兄貴の仇を取ったようなものだが、ミザリーにとってはそうではないのだ。
そんなこんなで俺はソウエイから情報を得つつ町の外に出る。するとそこは混乱に包まれていた。そしてクレイマンが消えた事で解放されたのか、『人魔同盟』に賛同する者が次々と現れる。それどころかこの場で俺達に協力したいと言う者達が現れたのだ。そして彼等はクレイマン軍が壊滅状態になったという知らせを受け、慌ててこの城に駆け付けて来たようだった。そしてその中にはゲルドの姿もあったのである。
そこで俺達は彼と合流し、『妖精都市フェアリータウン』に向かう事になった。『魔法通信マジックコール』により『妖精郷フェアリーテイル』には連絡を入れており、準備を整えて待っていてくれる筈だからだ。
こうして俺達一行は、無事にこの町の解放に成功する。
その後『勇者召喚』が行われた『神都アルスティオーネ』はクレイマンに占拠され、そのクレイマンは俺によって殺され、クレイマン軍は全滅した。これにより『魔物の国テンペスト』は、事実上クレイマンの脅威に晒される事は無くなった訳である。そしてそれは『聖教会』による侵略が失敗に終わった事も示しており、今後はお互い協力しつつ、『勇者召喚』が悪用されないようにしていかねばならないのだと痛感した出来事でもあったのだ。
そしてミザリーとソウエイがクレイマンについて報告をする為に残った後で町を離れる時、多くの住人から感謝の言葉を掛けられた。
そしてその中に、クレイマンとクレイドルの娘であり俺の友人でもあるクレイルとクレイナもいたのだ。俺はクレイドルから託された手紙を渡したのだが、それはミザリーに託してあった。
二人は涙を流しながら、そして笑顔で去って行く俺を見送ったのであった。
クレイマン軍との戦闘を終えた次の日、俺は久しぶりに町の様子を見に行こうと町へと向かっている途中だった。俺に付いて来る者がいないかと少し気にしていたけど誰も現れなかった。俺ももう魔王なんだから当たり前かと考えながらもちょっと寂しい。
そして『大魔王アムール』の町に着いてまず思った事、
(おぉ、随分変わったもんだな。流石に三週間じゃ変わらないか)
などと考えている。というのも『悪魔deリゾート』がかなり変貌を遂げていたからなのだ。元々観光地化しようとしていた土地だし問題は無いと思うんだけど、正直やり過ぎのような気がしないでもない。
(これ絶対ミョーなもん生えてんだろ! この蔦の植物とか何よ?)
そんな感じで内心ツッコミつつも観光気分である。しかしミリムのヤツが何を考えているのかよく判らんぞ? 俺はそんな事を考えつつ、ミザリーからの手紙にあった場所までやって来た。そこには大きな木が一本生えているだけで特に目立つものは無かった。ただ、この木の実は食べ放題だという事で楽しみにしているのだ。ミザリーによるとこれは、とある植物の果実が変質したものらしい。俺はそれをミザリーに説明して貰ったので、実の採取を頼んでおいた。
「なんじゃこれは?」
俺が『魔力感知レーダー(強)』を発動させると、上空から俺に向かって落下してくる物体の反応が三つあった。咄嵯に身をかわしたが、どうやらそれが目的だったらしく着地と同時に動き出した。
俺は油断していた自分を呪い、目の前に現れた存在に対して臨戦態勢を整える事にしたのである。そして俺に近寄ってくる人物達の姿を見て愕然としてしまった。俺が見た光景とは、ミザリーやシオンに匹敵する美人さんが二人と、俺の知っているミザリーやリリアと同じぐらいの可愛い少女が一人、そしてその四人の女性に囲まれるように歩いている男。そうミザリーの父親であるゲルミュッドその人だったのである。
俺は警戒を解くと三人の男女の方に近づいて行く。
するとゲルマニュートがこちらを見て驚いている。
(そりゃ驚くわな。でもコイツはミザリーにちょっかい掛けようとするような馬鹿だぞ? ここで殺しておくか)と思いつつ近づく。
ゲルゴブニュがゲルミュッドを守るように前に出て来たが、どうやら武器を持ってはいないようだ。俺はそのまま無造作に近づく。その気配に気付いたゲルマニュートは腰を落として迎撃体制をとる。そして俺が拳を構えたその時、ミザリーにそっくりな女性が声を掛けてきた。
「旦那様。お客様でしたら歓迎いたしますが、どうかその辺にしてあげてください」
そう言われた俺は、素直に従うことにした。その女性からは圧倒的な力を感じたし、ミザリーと同じような匂いが感じられ敵対しても無意味に思えたのだ。
その女性は俺の前に進み出ると、優雅な動作で一礼してから話し始める。
「私の名はゲルダと申します。ミザリーの父でございます。此度の御助勢感謝に堪えません。しかし我が一族を代表致しまして礼を申し上げさせて頂きました。ところで貴殿の御名前は?」
ゲルダと名乗った男性は丁寧な言葉使いでそう言った。その言葉に俺は何も返せない。
(え!? ゲルガキって言う名前なのこの子。まさかこの世界の人は全部そうなの?)
俺がそんなアホな事を考えていた時だった。
「な、なんで父上がいるんですか!」
というミザリーの声が聞こえたのである。どうやら俺の後ろに控えて待機していたミザリーが驚いたようである。
(いやまあ驚くよね。自分の親が突然来たわけだし。てかこの世界は苗字あるのか? いやいやそれより先に確認する事があった)
「あぁ悪いね。先ずは名乗ろう。俺はアムールという者だよ。君のお祖父さんの友達かな?」
俺がそんな風に挨拶をした時だ。俺の言葉を聞いたゲルドが反応し、「えぇぇぇ!!」などと叫びつつ驚愕の表情を見せたのである。そしてゲルガも俺の名前を聞いて、「えぇ!!!」という表情になった。俺の予想では、やはりゲルグとミギワは夫婦だったようである。
その後俺はミザリーと、ゲルミコ、ゲルマ、ミギー、ゲミチ、ゲルジ、ゲルタ、ゲルレと話をしてみたが、彼等は『魔物の国テンペスト』の住民であり、『勇者召喚』で呼び出されてこの地にやってきた者達だった。
そしてミザリーは、自分がこの世界に来た原因についての説明を受けたそうだ。俺の予想は当たったので良かったと思う。そして彼等の望みは平和で穏やかな生活でしかないそうである。
ミザリーの両親も、そんなゲルミ達と共にこの地に住む事を望んだ。その決断の速さは流石と言うべきか、この世界に骨を埋める覚悟を決めたのだと感じた。まぁ、ミザリーからすれば俺への恩返しの意味もあるみたいだけどね。
ミザリーも一緒に行くと言い張っていたが、『大魔王』としての仕事が忙しいという事を理由に断らせてもらった。
ゲルドは残念そうだったが、仕方ない。それにこの世界での生活の方が長いだろうからな。
俺はその後、『妖精都市フェアリーテイル』へと戻って行く事になる。俺に付いてくると言った『鬼人族オーガー』のゲルマと、護衛に付いて来る『竜人』族の戦士五名とで向かう事になったのである。
『悪魔deリゾート』での出来事を話したらゲルドは凄く喜びそうだが、それは後にするとしよう。ゲルルの事は俺の庇護下にあると言う事で、皆が快く受け入れてくれた事が幸いだったな。
そして『妖精都市フェアリーテイル』に着く頃にはすっかり日が傾いていた。町に入るとそこには何故か、町の入り口から見える位置に大量のテーブルが設置されていて、沢山の料理が用意されていたのである。それを見た俺は少し嫌な予感を覚えつつも、町の中に入っていった。
するとそこには町の住民が大勢おり、盛大に歓迎してくれた。町を救った英雄だと紹介された俺は町の皆から感謝されまくりだ。しかも、町の長だと言われた老婆から町の救世主だと褒めちぎられて少し気恥ずかしかった。
そして町の皆と宴会を始める事となった。最初は恐縮したけど次第に慣れて楽しくなってきた頃だ。ミリムが姿を現したのだ。彼女は宴に参加する為に着替えて来たらしく、普段見慣れた戦闘服ではなく、踊り子の格好になっていた。そんなミリムを見て俺と目が合うと嬉しそうに駆け寄ってきた。
俺はその姿を見ると思わず抱きしめたくなったが、ミリムが俺に抱きついて来たので出来なかった。しかし、ミリムが町に戻って来ていた理由が判った。町が無事だった事で俺を迎えに来てくれたのだそうだ。ミリムから聞いた話では、ミョーな魔物の大群がこの町に向かって来てるのを察知して様子を見ていたらしかった。しかし町に入るなり魔物の襲撃に遭い混乱状態になったのだという。そこでミリムとクレイルは町の守護をミギーとゲミチに頼むと、魔物討伐に向かったらしい。クレイナも一緒に行こうとしたらしいがクレイドルに引き止められたのだと言っていた。
(ミリムのヤツ! 俺に内緒にして! 危なかったじゃないか)
とは思うものの、ミリリムに怪我が無くてホッとする。そんな俺の思いが伝わったのか、俺が心配するような事はなかったらしく大丈夫だと笑顔で答えられた。
俺とミリムは並んで座り、食事を始めた。暫くすると、ベニマルがやって来て俺の前に座るとミリムが居て驚きつつも喜んでいた。その後は俺の仲間と紹介していくと、今度はミョーな奴が現れた。ミギーだ。
どうやらミリムを探し回ってやっと捕まえる事が出来たようだ。
「お前!また抜け駆けかよ。何度言ったら解るんだ」
などと言っているがミリムは何処吹く風で全く相手にしていない様子だ。ミギワはそんな二人を見ながら溜息をついていたが、そんな三人を見ていて俺達は笑い合っていた。この三人の友情をこれから先も守っていく事が出来るだろうか? 俺はそれが心配だったのだ。
ミザリーに頼まれた仕事の事もある。『勇者召喚』を止めなくてはならない。
その為には俺の存在が必要不可欠になるのだが、俺はまだ完全には信用されていないらしい。
しかし、その事で逆に安心している。俺を信じてくれていたならばミザリーはきっと躊躇するからだ。ミザリーの性格を思えばそれは当然だったし、ミザリーにとってミグルド族は特別だったからな。だからこそミザリーがどう判断するかで俺は動くべきなのだと思っている。そして俺はミザリーが納得する形でミザリーに全てを捧げようと思っていたのである。俺にとってはそれだけの価値がある女性だからな。
(さてそろそろ行動を開始するかな)と思いながらミリムとベニマルの話を聞いて楽しんでいた。その時だった。ゲルミュッドが姿を見せたのは。そして俺の前に進み出て礼を言い始めた。そんな姿を見る限りコイツからは害意を感じられなかった。寧ろ好感すら抱けたほどだ。そして俺はゲルガキという変な名前だという事を知り、少しガッカリした。そしてコイツはミザリーが大好き過ぎるという事も判明してしまった。どうやらゲルガキは『勇者召喚』を行う際に、ミザリーだけをこの世界に呼び寄せてしまった事を後悔しているようだ。そんなゲルガキにミザリーはこう言って励まそうとしていた。
「気にする事は無いぞ、父様」
その言葉を聞いたゲルガキは感動に打ち震え涙を流し、更にはその気持ちを表すかの如く土下座し、地面に頭を打ち付けて謝罪までしたのである。
その様子を見た俺は心の中で笑っていた。だってゲルガキのその姿を見てミザリーも嬉しそうにしていたのだ。しかしゲルガキは涙でぐしゃぐしゃの顔を上げ、「ミザリー様が生きていらっしゃっただけでも嬉しいのですが、こうして御立派に成長された姿を拝謁出来まして、我が魂は今まさに歓喜の極みにございます!!」などと大声で叫び、更に泣き出してしまい収拾が付かなくなってしまった。
ミギワがゲルガキを回収して、なんとか落ち着いた時には俺も苦笑いを浮かべずにはいられない程だ。その後、ミギワが改めてミリムを紹介して俺の配下となったと説明してくれた。
その後俺達の前に出て挨拶をしようとしたゲルミコとゲルガキだったが、ミギワ達に叱られ大人しく下がっていった。そしてミギワはミリムとミギーを紹介したのだ。
ミギーとミョーな感じになった俺だが、その前にゲルガキの様子が気になった。ミギーとミギワに説教されしょげている様子だったがその顔は真剣そのものだったので少し気になって後を付けて行く事にした。ゲルガキは町の外に出て行くと何かを探し出したのである。俺は気配を殺しつつ、見つからないようにゲルガキの後を付けた。そしてゲルガキは町の入り口付近に辿り着いた時、急に立ち止まり周囲を見回し始めた。
(なんだ?)
そして俺の姿を発見したようで声を掛けてきたのである。
(気付かれたのか!?)と思ったが、ゲルガキは俺の目の前に立つといきなり土下座をした。そして俺にお願いしますと何度も繰り返したのだ。そして俺は訳が判らず戸惑っているとそのゲルグが説明を始めた。その話を聞いて驚いた。どうやらゲルミとミギーもゲルグと同じように俺に助けて欲しいと思ってやって来たというのだ。しかもミギーは、そのせいでミリムに会えなくなる事を酷く悲しんでもいると言うのだ。俺はその理由を聞くべく二人を呼び出して話を聞いた。その話の内容は酷いものだったのだ。要するに、この世界の人間が魔王達に対して行った仕打ちに怒りを覚えており、その報復をしたいというのだ。そしてミギーに至ってはミリムを自分の手で救いたいと言うのである。それなら仕方がないと思うが、問題は他の魔人族も同じ意見かという事だろう。それを聞かずして簡単に協力するとは言えないのである。そこで俺は二人の願いを聞く事とし、町へ帰る事にした。しかしその時既に町の中に敵が潜んでおり攻撃を仕掛けられていたようなのであった。
俺は町の上空に移動し『大魔王覇気マオウハキ』を発動させる。町全体から魔力波動が伝わってくるが特に危険な状態ではなさそうだった。町全体が混乱に陥り逃げ出そうとしているが、ゲルミとミギーに案内されて避難誘導をしている者もいたので大きな問題にはなっていないようだったからである。俺はすぐに皆に念話で落ち着くように指示を出したのである。
町の住民が落ち着いてきた頃、町の中央に『黒炎獄ヘルフレア』を放ち焼き払った。
するとそこにミギーが姿を現した。
「貴殿に頼みがあります。どうか我々を助けて頂きたい」
そう言ったミギーが俺の眼前で片膝を着き頭を下げたのである。そんな事は予想外だった俺はかなり慌ててしまい返事が出来ない状態に陥ってしまった。するとそんな俺に気が付いたミギーが顔を上げると、その顔を見て俺も気付いたのである。そのミギーとミリムの面影があったのだ。そこでようやく俺も気付く事が出来た。ミリムの兄ゲルミとゲルミュッドの正体を。
(成る程ね、確かに言われてみれば納得できる)
そう思いながらも俺の心の中に浮かんだ思いは一つだけだ。
(ミギーって男じゃなかったのかよ! 詐欺だ!!)
それは心の底からの声であり、誰にも聞こえていないハズだったのだが、何故かミリムから思いっきり頭を殴られてしまったのだった。しかし俺はそんなミリムの行動を好意的に受け取っている。ミギー改めミリムは「私の妹に手を出すなんて絶対に許さんからな!」と言いつつも照れていたのだから。
そんな俺の様子に気付いたミギーはミリムの味方だと思われたらしく俺に近付いて来て耳元で囁いて来たのだ。
「妹がお世話になっております。それとミリムの事で色々と苦労をお掛けし本当に申し訳ありませんでした。私が不甲斐ないばかりにミリムには辛い思いをさせてしまっています」そう言いながら俺に頭を下げる。俺はそんなミギーに笑顔を向けた。ミリムの事を話す時のミギーはとても幸せそうな顔をしているのが印象的だったからだ。そんな俺を見てミギーは安心してくれたようだ。そんなミギーがミリムはミリアだと名乗らなかった事に感謝する。俺にミリムの秘密を打ち明ける勇気がなかった事を謝られたのだが俺は首を振った。ミリアーナは俺の想像を超えるほどに強い女性なのだ。そしてミリアの笑顔を見てミギーも微笑んでくれた。そんな二人を見ただけで俺には二人が幸せな兄妹なのだという事が良く解る。そして二人はゲルガキと共に魔物討伐の旅に出るのだと、別れ際に告げられたのであった。
こうして俺は二人を助ける事を約束し、その場を後にした。そしてゲルミが居た場所に戻るとゲルギオが俺を見て駆け寄ってきた。どうやら俺を捜していてゲルミを見つけ、一緒にいたミギーから事情を聞き駆け付けたのだという。ゲルミは俺に助けを求める事が出来なくなった為ミギーに託したのだそうだ。そしてその事にゲルミとミギューの気持ちが込められているのだろうと理解し、ミギワから託されていた短剣を差し出し「これは俺が持つべきものじゃない。お前が持っててくれ。そしてミギューの気持ちを受け継げ」そう言ったのだ。そして俺はこの瞬間、ミギリの件はミギーに任せようと思いミギーの事を頼もうとしたのだ。するとその時だった、ゲルガーが姿を現しミギワの傍に立っていたのだ。どうやら先程の会話が聞かれてはいなかったようだが、ミギーの話を聞いていてゲルガーなりに考えたらしい。それで自分がこの場に現れた理由を話し始めた。それはミギューが人間族により連れ去られているかもしれないという内容の話だ。そんな話をする理由は二つあった。
まず、ミリムの話にあった通りミギュウはゲルゲと仲が良かった。そしてそのゲルガーもまたミギーの話ではゲルゲ達の中では慕われていたというのだ。
そしてゲルギーがゲルゲの集落を訪れた時、ゲルギーはゲルギオにミギーは人間の奴隷になったと言っていたが実際にはそんな事はなかったと聞いて、自分の責任だと思ったようだ。そんなゲルギオーとゲルグール達はミギー達の様子を見に来ていてミギー達の状況を把握していた。その情報ではミギュウは行方不明だが、ミギーが連れ去ったとは考えていなかったようだ。
その事を説明するゲルギオの顔に悲痛な表情が見える。
俺には何となくその意味が理解できる気がした。何故なら俺自身も同じ気持ちを味わっていたから。
そしてもう一つ理由があり、その話もゲルギオは口にしたのである。それがミギューと恋をした事があるので見捨てられないという思いが強いのだという。ゲルガキはともかくゲルミーがミギワの言葉でゲルガーに惚れたというのは嘘で、本当はゲルギオへの憧れが強かったのが本当ではないかと思うのだ。
そしてその事をゲルギーもミギーもミギー達を心配しているゲルグとガビルも同じ想いを持っているのだと話す。
それを聞いた俺は心の中で呟いていた。
(なんなんだよこいつらは、仲間想い過ぎて俺の涙腺が崩壊仕掛けてるじゃないか! こっちの涙まで出て来ちゃうよ!!)
俺の目に涙が見えないように背を向けるが、その行動も涙が流れている事を隠せていないようなものだ。俺の肩が小刻みに震えているので判ってしまっただろうが、それでも振り返らない俺の優しさに気付かない三人はミギーの無事を願うと去って行ったのである。
(さて、問題はミギューちゃんが何処に連れ去られたかだが、ミギーは多分ミギーがミギューに教えた場所だと思うんだよなぁ。だけどその場所を知らない。ミギーはゲルギとミギーに話した事しかないと言っているのだしね。つまりはミギーはミギーで、ミギューはミギーに、ゲルガキとガビルの親父さんに話していれば居場所を知っている可能性が高い)
そう判断した俺は早速行動を開始する事にした。『魔力操作』による移動でゲルギー達が向かった方へと向かい捜索する事にしたのだ。暫くの間飛び続けた後、漸く見つけることが出来た。どうやらゲルギー達の方が先に俺を発見したらしく、声を掛けてくる。俺はそれに応え、彼等と一緒に町へ向かう事になった。
そして町に辿り着いた時に俺はある疑問を抱く事になる。それは町の様子があまりにも平穏だったからである。
(どういう事だ? ただ普通に逃げて来たというだけか?)
(でもそんな事が可能なのか? 俺達魔王軍はミギーを捕獲して魔王の元に戻るように命令されたんだぞ! そのミギーを捕まえておいて、この町の人達を見逃すなんてあり得ない話だ)
俺の頭に疑問符が次々と浮かんで来る。俺が考えている間もゲルギオ達は俺に状況を詳しく説明していた。どうやら俺の姿を見る前からミギーは俺に会おうとしていたらしく町の様子を心配していたそうだ。
「それにしても、あの町の者達は何事も無かったように生活しているようです。ミギー様のお言葉によれば、『大森林』の者達は魔王軍に協力する事で命の保証を得ていたそうですね。なのに何故?」
そう尋ねる俺に対しゲルギーが「恐らくですが」と言い、 《魔物の楽園 カリオン=カイラットは我々とミギー様に協力して頂けるならば町の皆を逃がすと仰いましたが、もし断った場合はミギーと我々以外の者全員を処分すると約束し、協力を要請してきたのです》 ゲルギオの問いにそう答えたのは、俺の頭の中に直接響いたミギーの念話だった。その声にはミギューが無事である喜びよりも怒りの感情が強く感じられる。それは仕方がない事かもしれない。ミギューは自分の意思に関係なく人質として扱われたのだから。俺としても許せない話だ。なので、俺は今すぐにカリオン=カイラットの元へ赴こうとしたがそれを止められてしまった。そして俺はミギューに念話で連絡を取るように言われたのである。どうやら念話で連絡を取らない事には相手の場所は判明しないようだったからだ。そしてミギューの話では『大森林』にいるミギューの部下達に『虚栄たる炎龍王インドラ』、『暴食なる黒き竜王バハムート』そして『憤怒なる氷竜王バハムート』の三体のドラゴンを従えさせた事で、自分達の命の保障は得られたと伝えたらしい。
だがミギーが言うにはその事はあくまでも保険に過ぎないとの事。だから早くこちらに戻ってくるべきだと言われてしまったのだ。その事に納得した俺はミギーとの通信を切り、ゲルギオとゲルギーを連れてゲルギオの父親に紹介された酒場へ急ぐのであった。そしてそこで俺とゲルギオ達は合流した。するとそこにはゲルギーとよく似た女性がいた。彼女はゲルギーの姉だと名乗り自己紹介をする。その様子からどうやら俺に対して敵対心を抱いている訳ではなさそうだ。その事にも俺は安堵しつつ、事情を説明した。するとゲルギーとゲルギーの姉妹は驚愕し顔を見合わせていた。どうやら姉妹の二人共ミギーに会った事はないようだ。俺は二人にゲルギーが俺に助けて欲しいと言った理由を説明してみたのだが反応は芳しくなかった。それはそうだよね、ミギーの話を聞いていても、それは信じられるようなものではないからだ。そんな二人の様子を見ていたゲルギーが、
「お姉様と私は、ミギーに騙されています。ミギーの話では、ミギューは既に死んでいるようです」
そんな事を言って俺を責め立て始めたのだ。だがそれに対してゲルギーの父親は「ミギー様を疑うのか!」と激昂し、二人に詰め寄ったのだ。俺はそれを止めるために口を開いた。俺もミギーの言っている事を信用出来ないので、まずは話を聞かない事には判断が出来ないのだと言う。俺がゲルギーの父親と口論になる寸前、その言葉を遮るようにゲルギーは話し始めた。その内容は衝撃的なものだった。
ミギーが語ったのは、ミギューが捕まった本当の理由だ。それは魔王の機嫌を取りミギューを殺すのをやめさせるため。しかしそれは嘘だとミギー自身が断言したのだ。ミギーが知っている真実。
「実は私達も知らない事実なんですけどね、そもそもミギーは『大森林』から出る事を許されていません。だから他の場所の様子なんて知る事が出来なかったんですよ」
ゲルギーは自分が見たままを話してくれた。その話はミギーがミギューと出会ってからずっと一緒に過ごしてきたという。そしてミギーがミギーと出会う前のミギュウも知っていて当然だと言うのだ。そしてその時は『勇者』はまだ存在していなかったらしい。つまりゲルギオー達がまだ生まれる前の出来事だったという事だ。
ゲルギーが語る内容に俺もゲルギーの父親も驚きのあまり声が出ないようだ。そしてミギーの言った内容が正しかったのなら、このゲルギーは一体何なのかという話にもなる。
そしてゲルギーの口から驚くべき話が語られた。ミギーは自分が人間だと偽っていると暴露したのである。
俺達はミギューのいる場所へと向かうべく出発したが、ゲルギーとゲルギーの姉であるゲルガーもついて来たいと願ったのである。
その理由は二つあった。一つは俺に対する疑いが晴れない為、監視したいのだという。そしてもう一つの理由は単純に俺が心配だという事。どうも俺に一目惚れしてしまったからなのだそうだ。そんな事まで告白されてしまったので思わず苦笑する俺。
(こりゃもう完全に惚れられちゃってるよ。でもなぁ、今はちょっと無理なんだよなぁ。色々と後始末が残っているからね。それが終わるまでは待って欲しいなぁ)
そう思うがゲルギーの決意も固い。俺は困ってしまう。どうしたものかと考えていたらゲルギーの方から条件を出して来ていた。その条件で承諾すれば俺に同行しても良いというものだったのだ。
その内容がまた凄かった。俺にゲルギーの恋人になって貰いたいというものである。ゲルギーとしてはミギーより自分の方を選んでくれるのではないかと考え提案したのだが、流石にそれは却下せざるを得なかった。
(そりゃまあ確かに俺は美少年だけどさ、いくらなんでもこんな子供に手を出す程落ちぶれてはいないつもりだよ!)
俺の心の中を読んでいない筈なのに、ゲルギーは更にとんでもない事を言い出した。なんと自分と結婚してくれと言って来たのである! だがそれについても断る俺。
「えっ? だってお前さ、確かミギューが好きなんじゃないの? それなのに結婚なんてしたら駄目だろうが!」
だがそんな言葉を聞いた途端、顔を真っ赤にして俯いてモジモジしながら何かを呟いていたゲルギー。
《なんで判っちゃうんだろう? やっぱり心読まれちゃうのかしら? で、でもでもでも好きっていうのは尊敬してるという意味で好きなだけであって別に結婚したいという事ではなくて、ああ、でも同じ年くらいの人と結婚した方が楽なんだけど、でもそういう相手はなかなか現れなくて、で、で、でね、あのねあのね》 ゲルギーが壊れてしまったかのように早口になり捲し立てて、何を言ってるのか理解不能だったのだ。しかも後半部分は聞き取れないくらいに小さくなってしまったしね。ただその様子はとても可愛らしかったのである意味癒されました。でも、それを見たゲルギーの父親であるゲロギオが鬼の形相になってしまったのである。
(おい、ミギー。これは一体どういう状況だ!? どうしてお前の弟があんな風になっている! というか本当にどういう事だ?)
(ん~。どうやら私は彼女に嫌われてしまっているようなのです。なので彼女はその事をとても後悔しているようでして、私の話を聞いてくれないのですよ。それで先程の話をしたのですがどうも伝わらなかったみたいですね)俺は心の中でそんなやり取りをしつつ、どう説明すべきか悩んだ。その結果、ゲルギーには『大森林』に残ってミギーに付き添ってやって欲しんだと告げたのである。
そして、俺とミギー、ゲルギーとゲルギーの父親はゲルギーの転移で移動し、ゲルギーの案内により『大森林』へと足を踏み入れたのだった。
「そうですか。そんなに簡単に信じられる事ではないですものね。では私が貴方の疑問に答えましょう」
俺の言葉を静かに聞いてくれたミギーがそう言い、俺の疑問を解消してくれる。その内容はあまりにも意外なものだった。
クレイマンがミギーの協力者であった理由が明かになる。ミギーが何故あの町の住民を殺さなかったかというと、『大森林』は魔王軍の領地であり、そこにいる住民達は全員魔王軍の配下である。つまり魔王軍との約束があるからミギーはあの町に手を出せないのだと説明したのである。ただしその魔王軍が今現在どうなっているのかは俺には解らないらしい。それは魔王軍から逃げて来たミギーの知り合いである『魔狼騎兵』からの報告待ちという事になるそうだ。
ただミギーの話はまだまだ続いた。『魔王覇気マオウハキ』や『魔王闘気デモモギタリオン』、『竜覇気ドラゴニックフォース』等の攻撃スキルの使い方について、魔力量を増やしたり操作したりする方法を教えてくれたのである。その方法は驚く事にミギーの言う通りに訓練する事によって覚えられるのだと言う。
「私も昔、ミギューとゲルギーのお兄ちゃんに教わったんですよ」
「ミギーとミギーの兄さんって、もしかして俺と会わなかった時の事か?」
俺の問いかけにミギーは少し考える仕草を見せつつ肯定の返事をした。そしてその当時ミギーが経験した事を話し始めてくれる。その内容は驚くべきものだった。俺がミギーの過去と今を知った時以上の衝撃であったのだ。それは、魔王軍にミギーとゲルギーの父親と兄弟が殺されて捕まったというもの。それは、まだ魔王が誕生していなかった頃に起こった出来事であり、魔王が誕生するきっかけになった事件でもあるのだという。それは、とある町の人間が突如として魔物化したのだそうだ。その人間は元々、魔物化するような素振りもなく、普通の生活を送っていたのだという。
ミギーとゲルギーはその時も一緒にいたらしいのだが、ミギーは『聖浄化ホーリークリア』で倒した後ゲルギーの父親が連れていた兵士にゲルギーと弟を預けるとすぐにどこかへ行ってしまったのだと言う。ミギーも自分の父親の安否を確認するための行動だったので、ゲルギー達を置き去りにした訳ではなかったようだ。そしてそれから一ヶ月ほどが経過した時に事件は起こった。ミギーが父親を見つけた時は既に父親は死んでおり、その身体は異形のものに変化していたというのだ。その事から、この事態は魔王が意図的に引き起こされたものである事が判明した。
ミギーは直ぐに行動を開始する。まずはその魔王と思われる者がいる場所へと向かったのだ。そして魔王に相対したミギーは驚愕する。ミギーの父親を殺し、ミギーを捕らえたのはその魔王の部下だったからである。しかも、その幹部である四人の内の一人、その人物こそミギーの父親を殺した本人なのだと言う。その事を知って愕然としてしまうミギー。
ミギーの父親は魔王に洗脳されてしまっていたのだという。ミギーの父親の精神は完全に魔王の支配下にある為ミギーは魔王を倒せなかったのだそうだ。だがそこで奇跡が起きる。ゲルギーの母親がミギーの元へ駆けつけミギーを救い出したのだ。しかしその直後ミギーはゲルギーの母親に命を奪われる事になる。ゲルギーの母親は、ゲルギーを助ける為ならば自分が死んでも構わないと考えていたらしく躊躇い無くミギーにトドメを差したのだという。ミギーが死にそうになったのを見てゲルギーが怒り狂った事により母親の方は助かったらしい。だがそれでもゲルギーは心に深い傷を負ってしまい、その傷は今でも治っていないらしいのだ。その話をしてくれたミギーの目は暗く淀み、涙を堪えるように肩が震えているのが俺の目にはっきりと映った。
(ああもう、しょうがない奴だな。これじゃ俺が泣かせちゃったみたいじゃんかよ!)
俺は思わずミギーを抱き締めていた。ゲルギーは突然の俺の行為と言葉に反応して顔を赤くしていたけど、気にしない! そのままミギーを優しく抱き寄せて頭を撫でながら、俺はゲルギーに視線を向けると優しい声色を意識しながら話しかける。
(お前もミギーを救ってくれてありがとうな! でも無理すんなよ。泣きたい時は思いっきり泣いて良いんだからね! お前は俺が絶対に守ってやるからさ!)
そう伝えるとゲルギーの目から大粒の涙が溢れ出す。そして、俺の腕の中に収まる小さな体で俺にすがりつくように腕を伸ばし俺の胸で号泣し始めるのだった。
しばらくそうして慰め続けた俺だったが、俺もミギーも気持ちが落ち着くまで時間がかかった。そして落ち着いた後、俺はミギーの生い立ちを聞く事になった。それによるとやはりゲルギーの父親は『魔人族』であり、『勇者召喚の儀』で召喚された日本人であった。しかし当時の魔王に殺された後、精神が支配されて『魔人王種』となっていたのだった。
その後ゲルギーの母であるゲルギーの祖母と出会い、結婚。その後は平穏に暮らしていたらしいのだが、そこに一人の『悪魔貴族』が現れる。それが魔王の幹部である悪魔の中の筆頭格の一人である『六柱臣ロクチュウシン シヴァロード ルジニオス』だという。
そのルジニオスこそがゲルギーの仇敵である。ミギーの父親を操っていたのもその男だ。ルジニオスはゲルギーの父と恋に落ち、ゲルギーの祖父母に猛烈に反対されたが強引に結婚してしまう。ゲルギーの父は妻を愛するようになり二人は仲の良い夫婦になったが、ゲルギーが生まれてから数年後に妻は病気で死んでしまう。ゲルギーは母の死後、ゲルギーの父を父と呼べる事が出来なくなっていたのだとか。そしてゲルギーは父を本当の父のようだと思い慕っているのだという。
ミギーがゲルギーに話したのは、ルジニオスはゲルギーにとって実の伯父で有り、ゲルギーに取っての実父の従兄に当たる人物であるという事実。それを聞いたゲルギーの瞳には再び憎悪の光が宿る。そんな二人にミギーは言った。「今は戦うべき時ではありません」と。
確かにミギーの言う通りかもしれないと、俺も思ったのだ。俺達が戦ってもどうせ負けるのだから無駄に犠牲が増えるだけだろう。だがこのまま何もせずに見過ごせる問題ではないのもまた事実。
なのでゲルギーの父親を救出する方法を考え、実行するべく行動を始める事にする。俺の考えを聞いたゲルギーが賛同してくれた事で話はとんとん拍子に進み、救出計画は順調に進んだのである。その方法は、まず俺の分身を『聖浄化ホーリークリア』で強化し、俺の本体はゲルギーの父親とミギーの祖母を『大森林』の外へと転移させる事にしたのだ。俺の強化スキルでなら可能な作戦だった。
「さて、これで後は上手くやれるといいんだけどね」
俺がそう言うとゲルギーは真剣な表情になって答えてくれる。
「そうですね。ミギーさんのお陰でお爺様とお婆様には無事逃げてもらえました。しかしミギーさんと私はどうなるのかわかりません。もしもの時はお願い致します!」
そう言ってゲルギーは深々と頭を下げた。そんな彼女の姿を見ていて、何としても成功させなければと決意を新たにする俺である。こうして準備は整ったのであった。
********
***
あとがき *********書籍版二巻が発売しました!(●^o^●)ゞ 応援頂けますと嬉しいです! またWEB版の感想等も聞かせて貰えると幸いです。m(_ _)m ゲルギーの祖父である『竜魔粘スライム将軍ジェネラル』は俺の『聖浄化ホーリークリア』により、ゲルギーの父親が『七曜の老師マスターオブジイ』として使役されていた元人間の魂ごと消滅した。これにより『大森林』に住む全ての住民達にも正気を取り戻してもらう事に成功したのだ。
ただ、問題はそれだけではない。『七星魔王ナブルセウス』達を配下としているクレイマンを放置していてはこの『大森林』の住民が危険に晒されてしまうのは明らか。そこで俺は『魔王覇気マオウハキ』を使用し、俺の存在を見せつけつつクレイマンに近付く。
「貴様が『魔王』を名乗る者か?」
「はぁ? なんだてめぇは?」
俺に質問された事が不愉快だったらしく、凄まじい殺気が向けられる。そして俺の言葉遣いに不快さを隠そうともしない様子であった。
まあそれは良いとしよう。俺は続けて問い掛ける。
「お前の目的はこの世界の支配であろう?」
すると、俺の態度が予想外であった為か、クレイマンは一瞬キョトンとしてしまったが、その顔はすぐに醜悪なものとなる。それはもう、見ているだけで吐きそうになる程だ。しかし、それも仕方ないだろう。何故ならばクレイマンの外見は、全身緑色で目が大きくギョロっとしていおり、手足の先は鋭い爪のような触手になっており、肌はブヨブヨとしたゼリー状のもの。口も裂けているかのように大きいのだ。正直気持ち悪い以外の感情が出て来ないのも当然と言える。しかもそれが笑顔なのだから更に性質が悪かった。
「おいこらクソ餓鬼が舐めた口を効いてんじゃねぇぞ? たかが雑魚種族如きが、身の程を弁えろ。その無礼を後悔する間もなくぶっ殺してやるから覚悟しろや!」
そう叫んだ直後、その見た目からは想像出来ないスピードで俺に襲いかかってくる。そのあまりの動きに驚いたものの、俺は瞬時にカウンターを放つべく構えたのだが、その攻撃は全く意味が無かったのである。その衝撃で地面を陥没させる程のパンチが、逆に弾き返されたからだ。そしてその弾かれた拳に引っ張られて体勢を崩したクレイマンが地面に叩きつけられたのである。
俺の一撃をまともに食らい、かなりのダメージを負ったようで、口からは大量の血が吐き出されている。そして苦痛の表情を浮かべながら立ち上がろうと必死でいるようだ。
(うん。今のは我ながら結構決まったと思ったんだけどな。まさかここまで強いなんて思わなかったぜ)
俺も驚いていたのだ。俺の攻撃を耐えたのはゲルギーの母親だけであり、この男には通用するだろうと高を括っていたからである。
そして追撃を仕掛けようとした俺はそこで気が付いた。ゲルギーの父親、そして俺の妻の両親。そしてゲルギーの祖父母が俺の前に進み出て来る。
そして俺は、彼ら三人から強烈な殺意を感じたのだ。それは『魔王覇気』を遥かに上回る、恐ろしいまでの圧力を伴ったものである。そのあまりにも異質で強力な波動に俺は完全に圧倒され、その場に立ち尽くすしかなかった。
そして、彼らはそれぞれ『魔法陣マジックサークル』を展開して詠唱を行う。
「「「─我が肉体よ! 変わらぬ愛にて! 永遠に寄り添う存在となれ! 精霊融合スピリットユニオン! 究極形態アルティメットモード ─人化進化!!」」
次の瞬間! 目の前に居た三体の魔物達の体が光の粒子へと変換されてゆく。その現象に俺も驚愕してしまうが、俺はこの現象に覚えがあった。そう、それは前世で俺の師匠にして魔王であった『暴虐バハムート』と戦った時に見た、あの光であったのだ。
そしてその光の中から姿を現したものを見て、俺は自分の眼を疑った。そこに立っていたのは人型をした美丈夫。髪は長く、背中まで伸びているのだが、それを頭の後ろで縛っている。身長はかなり高く、180センチくらいありそうだった。鍛え上げられた細身だが筋肉質な体。しかしそれでいて均整の取れた身体。まさに完璧な美しさと言っていいのではないだろうか。
そんな男性の姿となった三体。そして彼等は一斉に名乗りを上げるのだった。
「『精霊騎士』の『剣聖ナイトソード』、ただいま推参!」
まず最初に名乗りを上げた男は、腰に佩いていた一振りの美しい剣を抜き放つ。その姿に見蕩れてしまいそうな程、華麗な所作であり流れるような仕草。そんな動作に俺の意識を持って行かれてしまったが、慌てて思考を取り戻す。
(『精霊』の騎士だって!? どういう事だ?)
俺が内心で困惑していると、次は女性の二人が同時に叫ぶ。その声はやはり美しく澄んだものであり、聞く者の心を虜にするような魅力に溢れていた。
「『妖精騎士プリンセスメイガス シルフクイーン』のラピスですわ!」
そして次に登場したのが中年の男性。彼は堂々と名乗りを上げた。それは先程の二人の女性と張り合うかのような、勇ましいまでの気迫に満ちた名乗りである。
「そして最後は俺が!
『龍闘士ドラゴニックファイター ガイアロード』のグリュンタール!」
そして俺に向けて指を差すようにポーズを取るグリュンタール。そんな彼の姿を目にし、「ああ、これが決めポーズなのか」などと考えてしまったのは秘密である。そして最後に名乗られた言葉を聞いて俺は愕然としてしまった。
(なっ! ガイアロードだと! 馬鹿な! グリュンタールって! マジか! 本当にガイアロード本人なのか!!)
その名は俺の知っている人物であった。
『竜魔族ドラゴン』の長の息子。つまり俺の甥に当たる人物。その戦闘能力は極めて高く、『勇者』に引けを取らない実力を持っていたと言われているが、既に故人である。そのガイアロードの『魂の記憶』を受け継いで生まれたという、『妖精女王エレガントティターニア』の『真霊宿』の女性二人。
それが『竜騎士』の『剣士ソードマスター』であるシルキーさんと、『精霊戦士シャーマン ノーム』であるサラマンダーさんなのである。
俺も『真なる勇者』の能力を発動させてみたが、どうやら『解析者アナウサー』にも、魂の情報を読み取る能力はないようで、どうにも『ステータス』の数値は表示されない。
だが俺にもわかる。確かに『竜闘士』グリュンタールと名乗る男性は、本物の『龍闘士』グリューエンであると。『竜騎士』はあくまでも『種族固有ユニークスキル』であり、生まれ持ってのものではない。
そしてその『魂』の継承により引き継がれるものなのだが、本来なら受け継ぐ事は出来ず、そのまま消滅する運命にあった。それこそが本来の『魂の力ソウルスキル』だったのである。
しかし、俺は『賢者の祝福ギフト』を使い『解析鑑定リバースリサーチ』を行った事で知る事が出来た。その効果によって、本来は消えるはずの『魂の残滓エネルギー』を吸収したのである。そして俺の予想では、『賢者の祝福ギフト』は対象の魂のエネルギーを吸収するのだと思う。その結果、俺は『魂の知識アーカイブ』にアクセスする資格を得た訳である。
まあそれはともかく、この三人はクレイマンの配下の筈なのだが何故俺を助けたのか不思議であった。
「なんでクレイマンを庇うんだ?」
「クレイマン? 違う。俺はお前の叔父だ!」
その答えを聞いた俺は絶句してしまう。
(え? 何言ってんの? 意味が解らん! それに叔父? どういう事だ?)
俺がそう思った時、ゲルギーが俺に近付き抱き着いてきた。それはいつもの様子とはかけ離れておりとても大人しく、弱々しい感じになっていた。そんな彼女から説明を聞くべく、俺は優しく頭を撫でるのだった。
ゲルギーの説明で判明したのが、彼女の両親は、元々クレイマンの妹だったそうだ。クレイマンは昔人間だったが今は魔物であり、その子供もまた同じ種族に生まれ変わる事が普通であった。その為クレイマンは、前世の自分の娘と、現妻の妹であったその母親を連れて逃げて来ていたのである。
そして俺が出会ったオークはクレイマンの従僕。ゲルギーが俺の妻となる前に、俺達を襲わせていたのもそのせいだったらしい。クレイマンが連れて来た魔物は全てゲルギーの母親の親にあたる者であり、皆がゲルギーの本当の家族だったというわけだ。
そしてゲルギーの母親が死んだ今、この大森林の者達は皆クレイマンの奴隷のような状況に陥ってしまったのだという。
ゲルギーが俺を気に入ったからこそ、その両親を助けてくれようとしていたのだ。その話を聞き、この森で暮らしていた人達を俺も何とかしたいと思った。だが、クレイマンにこの場を去れと言われれば俺には何も言う権利がない。俺はクレイマンが消え去るまで、ただジッと見つめる事しか出来なかった。そして去り際に『虚飾之王アジヤスター』による、偽物の俺の幻影を残して去って行った。その瞬間クレイマンは、クレイマンであってクレイマンではなかった。そう思う程にその様子は豹変していたからだ。そして、その行動からもクレイマンが本性を隠そうとしていたという事が窺える。
そしてクレイマンが去った後の光景は酷いものだった。そこには、俺がクレイマンに与えたダメージが残っているからだ。その痛みに泣き叫ぶ魔物達を尻目に、クレイマンの部下達はさっさと退散したのだろう。その姿は既に無かったのである。
─ クレイマンが居なくなった後も暫くの間は動けずにいたものの、やがて動き出せる程度には回復したようである。俺はまずは怪我をしている魔物達を癒やす事にしたのだ。そうして落ち着いた後、このゲルギーの村での出来事をゲルギーに尋ねる事にしたのである。
そこで明らかになった真実。それはゲルギーの母親の死は自殺だったというものだった。
「そんな馬鹿な事があるか!」
俺が怒鳴りつけるとゲルギーはビクッと身を震わせた。だが、俺の怒りは治まらなかったのだ。
「ゲルギーの母親は自らの命を捧げる事で我が子を守ったのよ! それを貴様らは裏切ったのだ!」
俺は自分でも気付かないうちに涙を流しながら叫んでいた。俺にとって、目の前にいるのは実の娘である。その事実に気付いてしまえば尚更の事であろう。
「しかし! 母上は、妾が殺したようなも─────」
ゲルギーが何か言いかけていたが、俺にそんなものは全く届いてはいなかった。そうして俺が涙で歪む視界の中で、必死で探したのは『賢者の遺産』の箱である。俺のその行動を見ていたサラとラピスが、俺の行動に気付き駆け寄って来ると俺の側に寄り添った。俺は二人に支えられるようにしながら立ち上がると、フラつく身体を懸命に奮起させる。そうして俺が向かった先は『魔法陣マジックサークル』であった。
そうして箱の中から指輪を取り出す。それは俺の『勇者覇気オーラ』に反応し、眩く輝き出したのだ。それはまさしく『勇者の紋章リング』である事を物語っていた。俺の手の中に現れたそれを俺は躊躇する事なく指にはめたのだった。その途端、俺の体に凄まじい衝撃を受けた。まるで雷でも落ちたかと思う程の激痛。だがそれは一瞬にして俺の中から消滅した。俺はその現象に驚くと同時に、『賢者の遺失物アーティファクト』の一つ、『勇者紋章』の能力を垣間見たのであった。そして、それに気付いた時に俺の心が告げたのだった。
《 告。マスターの願いを感知しました
個体名:アムールに進化を誘導しますか? YES/NO 》 と。
『Yes』と心が呟けば、俺は意識を失い倒れてしまったのである。そして再び目覚めた時には、俺の姿が変化を遂げていたのであった。
俺が目覚めると、俺の周囲に大勢の人が集まっており驚きの声を上げているのが聞こえた。
俺は自分の姿を確かめると驚愕してしまった。
何故なら今の俺は『龍魔族ドラゴンロード』へと進化を果たしていたからである。しかもその姿は漆黒の竜であり、以前見たヴェルドラさんの『龍神族ドラグーン』の進化前である、究極能力アルティメットスキル『魔神竜バロール』の能力で生み出された存在と同じであった。
『竜魔族ドラゴンロード』とは、『勇者』に匹敵し得ると言われる種族なのである。その圧倒的な攻撃力と防御力に加え、特殊属性『黒炎』を操る事が出来る最強クラスの存在であるという。そしてそれはつまり、全ての『勇者』を葬れる程の戦闘力を有していると言う事になる。
俺がその考えに至ると、自然と身が震え出すのを感じていた。しかしそれと同時に俺は、新たな可能性を見出だしたのであった。それはこの『竜魔族』ならば『勇者』の討伐が可能ではないかという考え。そして、俺はそれが可能であるという確信を持っていた。何故かはわからないが、『賢者の遺物アイテム』の一つである『勇者の指輪』を身に付けているだけでそれがわかったのだ。その効果は単純で『勇者』の力を封じる力があるようだ。
(もしかしてこれを使えばクレイマンを止められるんじゃないのか?)
そんな期待が湧き上がってくるが、クレイマンを倒せるかもしれないとしても、この世界を滅ぼして良い理由にはならない。なのでその気持ちを振り払い冷静になろうとするが上手くいかない。
俺が『真なる魔王』に進化した事で、どうやら肉体が最適化され精神とリンクしているようである。その為感情が乱れやすいのか、もしくは単純に混乱状態に陥っていたのだと思う。そんな中、俺が見据えたのは『精霊戦士シャーマン ノーム』ことサラマンダーさんだった。その視線を受け彼女は、覚悟を決めたように一歩進み出る。そして語り始めた。俺達がここに来るまでに、何が起こったのかを。そして、これから俺が何をするべきなのかを。
その言葉に耳を傾けていた俺はその内容を理解して愕然としてしまう。まさか『精霊戦士シャーマン』はクレイマンの娘だったなんて思ってもなかったからだ。そういえばベニマルと『竜闘士』グリュンタールさんとで雰囲気が似ているのもそのせいだろう。そのクレイマンの配下である三人が助けに来てくれた理由は納得がいった。しかしそうなると『妖精女王エレメンタルクイーン』ティターニアが『精霊騎士 シルフィー』の生まれ変わりだとかは一体どういう事なのだろうか? 俺には全く理解出来なかった。
(クレイマンもゲルギーもゲルグの生まれ変わりだって言っていたが本当なのか? それにあのゲルギーの父親は俺に恨みを抱いているのか? それともゲルギーの母親が俺の従姉だという事は、本当に偶然なんだろうか?)
色々と考える事が多くあるが今はとりあえず置いておこう。それよりも、今はこの大森林の状況把握を行うのが先決だった。俺はそう考えると『解析者』に尋ね、今現在の大森林の様子を知る事にしたのである。
そしてその情報が頭に流れ込んできた。その情報は余りにも酷いもので、このままでは全滅は免れないだろうという絶望感を抱かせる程のものでもあった。
(こんな状況でよく今まで生き延びて来れたな)
大森林に住む住人達は、自分達の住む地域から移動せずに何とか生活を成り立たせていたようである。しかしそれでも魔物に襲われ死ぬ者も後を絶たずにいたようであった。俺が来る前に死んでしまった魔物達の数もかなり多いようで、その数は百を超えている。これは『勇者』クレイマンが召喚していた軍勢が魔物である為で間違いないようであった。
魔物達は皆が一様にレベルが高く、中にはユニーク個体も存在する程の強さだったようである。そして、そのクレイマンの操る魔物は『大鬼族オーガ』と酷似していたらしい。そしてゲルギーもクレイマンに騙されていたという事なのだが、このゲルギーはそもそも自分の意思で『七つの原初トリニティー』として生きていたようなので、今迄の境遇を考えれば可哀想でもあるのだが同情するわけにはいかなかった。
だが俺が『勇者』の力を持つ『精霊戦士』となったゲルギーの両親を救う事が出来たのは、正に不幸中の幸いと言えた。
そしてゲルギーの両親の話を聞いている内に俺も気になる事が出てきた。
クレイマンが『七つの原初トリニティー』に与えた命令の中に、
『勇者と名乗る者が現れた時、これを滅ぼせ』
というのが在ったのだという。
その言葉はクレイマンにとっての最重要機密であり、『大賢者』を持つクレイマンですらクレイマンの意思とは無関係に発動される呪いのようであった。クレイマンは自分こそがこの世界で最強だと思い込んでいるのだから、そんな事をわざわざ『創造主』に伝える必要性を感じなかったのだろう。そのせいで俺はゲルギーから聞くまで気付かなかったのだ。しかしそうすると『勇者』は俺だけではない可能性もある訳だ。その場合、俺は仲間達に頼んでその『勇者』を討伐しなければならないのだ。
そう考えただけでも気が重いのに、『勇者』は『聖魔混世皇カオス』の可能性があるのである。つまり、それは俺が『勇者』と戦わなければならなくなる可能性があったのだ。
その『勇者』と戦えるのは『聖魔混世皇カオス』である俺しかいないだろう。しかし俺は出来れば戦いたくはない。そう考えているのである。だが『賢者の遺産』は俺が『勇者』と戦わなければならないという結論を出しているようであった。
そんな俺の考えを読んだのかサラとラピスが、慰めるように手を握ってきたのがわかった。そしてその優しさに癒された俺は、二人の少女に感謝したのだった。そうして心を落ち着ける事に成功した俺は、まずは自分の出来る事から始める事にしたのである。俺は『魔法陣マジックサークル』でこの村の上空に移動させると、そこに集まっていた魔物に告げた。
「さあ、戦争だ。俺の大切な者達を傷付けた落とし前を付けて貰うぜ!」
俺は『黒曜之刀ブラックムーン』を抜き放つと、そう宣言したのであった。
俺の目の前にいるのは『大魔獣ベヒーモス』の子供達である『幼獣達ビースト』達。そして『大魔牛ミノタウロス』に『超速飛行ヒポグリフ』などの空を飛ぶ種族の長。『魔蟲王オニワバンカー』率いる軍隊蜂軍団とその上位種族である巨大蟻ジャイアント アントの女王『クィーンアリコーン』とその子ら『キラーホーネット』『パラライビー』。他にも多種多様な種族の上位種が、一糸乱れぬ統率力を見せて集結しているのだ。そしてそれは森を守る最強の種族、魔猿族の精鋭部隊でもあった。
彼らは、この村の周囲を囲む結界を維持しながら、常に監視をしていたようである。なのでその包囲網を突破するのは不可能だと言っていい。しかしそれを可能としているのが俺の切り札である『空間転移テレポート』であった。
このスキルは、自分が行った事がある場所ならどこへでも行けるのだ。但し距離が遠くなる程、使用コストも時間も増大する。俺はそれをこの『竜霊の森ドラゴン フォレスト』全域で使用するつもりであった。その範囲内のあらゆるモノを対象にし、同時に全てを移動させるつもりでいたのである。
それが可能なだけの力が今の俺に有るのは確認済みであり、後はタイミングだけであった。
俺は自分に意識を集中しながら、『空間移動』を発動させる。その途端、自分の体から大量の魔力が奪われて行くのが感じられた。それはまるで魂のエネルギーを奪われるような感覚であった。しかしその現象が一瞬で収束すると、視界が切り替わっていた。そこは俺の部屋の扉の前で、俺が手に持っていたはずの『竜の指輪リング』がいつの間にか左手の薬指で輝いていた。
それはまさに、『勇者』クレイマンへの対抗手段を手に入れた瞬間である。
(これで準備は整った!)
そう思った次の瞬間、背後から声が聞こえた。
「おい、待てよ!」
振り向くとそこに居たのは、クレイマンの息子の少年だった。
(クレイマンに騙されてるのってこいつか?)
俺は少しイラっとするが無視する事にした。そして俺はその場を離れる事しか考えていなかった。しかし彼はそんな俺に食い下がって来た。
「お前、俺の話を聞く前に行っちまうのか?」
そう言われて振り返ると、その表情が怒りで引き攣っていた。
(なんなんだコイツ?)
俺としてはそんな事を言いに俺に話しかけて来るクレイマンの息子の方がおかしいと思ったが、どうやらクレイマンの命令でここに居るようだ。
俺がその問い掛けに答えず無言のまま歩き出すと、彼もまた後を付いてくる気配を見せた。俺がその行動に不快感を覚えたので、
「ついて来るな」と命令する。
俺の命令を受けたその少年が固まってしまった。どうやらこの場からは動けるようでホッとする。しかし俺の言葉に従う様子がないので仕方なく説明をする。
俺の説明を聞き終えても、まだ納得がいかないようだ。その様子に段々と腹が立ち始めていた。俺の怒りに気付いたのか、クレイマンの息子であるその少年がビクつき、そして慌てたように言い出した。
「俺、クレイ様から『魔王アムール』を殺すように命令されてるんだ。邪魔すんな!!」
俺はその内容に更にイラッとしたが、それでも何とか冷静になって答える。
「俺はそのクレイとかいう奴から何も聞いてないぞ。だからお前に俺を倒す権利なんかねーんだよ。だから俺に付いて来ようなんて考えるな。それと二度とその命令を俺に伝えようとするな。次やった場合容赦しないからな。わかったか?」
(全く意味不明すぎるだろ)
「そんなの無理だってば。それに『勇者』クレイ様に殺されるなんて絶対イヤだよ!! お願いだ。何でもするからクレイ様には黙っていてくれ!!」
必死に頭を下げる少年の姿は憐れみさえ誘うものであったが、その瞳は真剣な眼差しであった。
(これは嘘じゃなさそうだな。というか俺、信用されすぎじゃないのか? それに今クレイとかいわなかったか?
『大鬼族オーガ』、『精霊戦士エルフ』に『大悪魔デビルロード』そして次は『精霊人』のクレイ。何だこれ、本当に俺が倒さないといけない相手はクレイマンで決まりじゃないか!?)
という結論に達したものの既に後の祭りであった。そしてそんな俺達の会話に割り込んで来る者がいた。それは先程のクレイマンであった。
突然目の前に現れたその存在を見て、クレイマンが驚いている事に気付く。しかしそれは俺も同じであった。何故ならクレイマンも転移系の能力を持っているとは予想していなかったからである。だがクレイマンにはそんな素振りは全くなく、俺だけがこの空間へとやって来た事が不思議でしょうがないといった感じだった。
俺は自分の秘密を隠したまま戦う事は不利だと思い、正直に話す事にする。ただし自分の能力である転移に関しては教えずに。その話を聞いたクレイマンは驚きながらも、俺の能力を警戒している事が伝わって来た。そこで俺は『黒曜之刀ブラックムーン』で切り掛かると見せてフェイントを掛け、『黒影ブラックシャドウ』により姿を消しながらの『虚実反転アビスペイン』による不意打ちを仕掛けた。しかしその奇襲攻撃は失敗に終わるのだった。俺の攻撃が当たる直前に、突如現れた存在によって止められたからだ。そしてその者の顔を見た俺は驚く。そこに居たのは『精霊神王エレメンタルマスター』であり、『聖魔混世皇カオス』でもある存在ーーー俺が『勇者』と認めざるを得なかった男だった。そしてそいつもまた、驚いた顔を見せる。それは俺がこの村に来た事で、俺の存在がこの世界にもたらした衝撃の大きさに気付いていたからのようであった。
「貴殿もやはりこの世界にやって来てたのか! 俺の名はーーー 俺の問いかけにその男は、自分から自己紹介を始めた。そしてその名を聞いた俺は思わず笑ってしまう。だがそれはお互いの再会を喜んでいる訳ではなかった。
「その名は『正義之王ジャスティス』の『勇者』ってところか? それとも、『創造主』が与えてくれた新しい名か? まさかな、『勇者』よ。いや、もう『聖勇者セイセイセイド』と呼んだ方がいいか?」
その言葉の意味が解らなかったらしい『聖勇者』は眉根を寄せたが、その質問を無視して俺は告げた。
「いいだろう。俺と戦え。お前にその意思があるならの話だがな」
『聖勇者』は俺に挑んで来るようだったのだが、『空間移動テレポート』を使ったのは俺ではなく俺の背後に立っていた『賢者の遺産』の使い手達の仕業だったのだ。しかし俺はそれを見抜きつつも『空間移動テレポート』でその攻撃を無効化したのだ。
そう。『空間移動テレポート』は俺の意志だけで発動させるのではなく、俺の周りにも影響を与えるものだったのである。俺の周囲に存在するモノを『魔法陣マジックサークル』の影響下に置く必要があったのだ。そしてこの魔法陣を作り出した時点で俺の目的は果たされたのである。後はこの魔法の範囲内にあるモノを好き勝手に動かせるというだけの簡単な話だったのである。つまり、目の前の『勇者』を俺の意のままに操る事が可能となっていたのであった。
『空間操作』は魔法ではない。俺が『魔法創造マギオーバークリエイト』にて新たに創り出した『魔法法則改変システムルール アレンジメント』による特殊能力スキルである。『魔力支配メタコントロール』と同様に『魔晶核コア』を埋め込んだ魔道具を使って行うものだ。これにより『大魔霊王ハイアークエンペラー』の持つ全ての能力を俺は手にする事が出来たのである。
そう。『魔力完全耐性フルレジスト』に『魔導王メイガスキング』の力を得た俺は、『霊王種』『竜王種』『神獣』などの上位種族を除くほぼ全ての存在の魔素を完全に制御下に置き従わせる事が出来るようになったのだ。この世界の上位種である魔物達が、その圧倒的な力を示そうとしてもその命令に従うしかない状態になっていたのである。そして俺はこの状態でこの空間の外に出た場合、どうなるかを試してみた。それは簡単であった。上位種であるはずの魔物が下位種族の村人レベルにまで力が落ちてしまっていたのである。
(なるほどな。この空間は外部から遮断されているって事なのか。それとも『魔王』の『空間移動』みたいな力も有るのかも知れん。まあどちらにしろ関係ないな)
俺はそんな実験結果を検証していると、『勇者』が焦ったように声を荒げた。
「待て! 待つんだ!!」
その言葉を無視し、『空間移動』の魔法を発動させて外に出る。そこにはクレイマンの配下の『七曜の老師マスターオブジジイ』達が待機しており、全員が戦闘態勢に入っていた。しかし彼等はその動きを止めてしまう。そして次の瞬間、『七曜の老師マスターオブジジイ』の一人、青き髪の男ゼパルの体が光の粒となって消え去った。その現象を確認した者達は、それが自分達に向けられた脅威だと認識出来たようだ。しかしそれは遅過ぎたと言わざるを得ない。俺はその一瞬の隙をついて全員を拘束していた。するとそこに『魔王アムール』とクレイマンが現れる。そして驚愕するのであった。
(俺の動きが読めなかったのか? いやまて。これは罠かも知れん。注意しなければ)
「お初にお目にかかる。『魔王』にして、『精霊王』である我が主人に、その配下であらせられる皆々様。私がクレイマン様が息子、クロエにございます。本日はご挨拶の為に参上致しました。どうぞよしなに」
恭しく一礼をするその少年の瞳が怪しく輝いていた。俺の『虚実反転アビスペイン』と同じ『虚』と『実』を入れ替えられる能力を持った瞳なのであろう。しかもそれは『空間移動』のように『虚無の粒子ディザスター』と対をなす能力でもあるのかも知れない。
「ああ。お前は確か、俺と会った時に一緒に来た少年のはず」
俺の言葉を聞き、少年ーークレイマンの息子クロエは嬉しそうな顔をする。そしてその口から出た言葉は驚くべき内容だった。
「左様でございます。その折にクレイ様に拾われまして、今ではクレイ様より命を受け、『魔王』アムールを殺す為だけに生きている存在です。どうかお気軽に呼び捨てくださいませ。私の事も、どうかクロキとお呼びください。私に『魔王』を倒す機会を与えてくださるならば、どのような命令でも承ります。必ず期待に応えてみせましょう!」
クレイマンの息子であるというその青年ーーー少年はそう言うなり片膝を突き、頭を垂れた。
その行動にクレイマンは動揺を見せたが、それでも俺に対して攻撃を加えてくる。それは『空間切断アザースペース』による空間切断と、『次元切断ディスパーション』による空間分断攻撃だ。しかし俺にはどちらも通じず、逆に『波動斬波ソードスラッシュ 』による反撃を受けてしまう。そして更に、
「我等『賢者』の技を受けてみろ!!」
そんな叫びと共に、『賢者』であるゼパルの放った『精霊光弾ホーリーライト 』が直撃したが、俺には効かなかった。『精霊戦士エルフ』による物理特化攻撃が通用しなかった事を見ても、今の俺にその程度の威力の攻撃は通用しない事は容易に想像出来るはずだった。
そんな光景を見ていたクレイマンとクロエが信じられないという表情をしていたのも束の間、俺の攻撃により、今度は二人が意識を失った。だが二人はまだ息をしている。なので死んでいない事が確認出来たのだ。
(ふむ。とりあえず二人を拘束するか)
そして俺は『魔王覇気オーラ 』を発動させると、その衝撃波だけで『勇者』を含めた『魔王四臣』を気絶させ、その配下を拘束したのだった。そして俺は『大鬼族オーガ』、『竜人族ドラゴニュート』、『精霊戦士エルフ』、『精霊戦士ダークネスエレメント』、『悪魔族デーモン』、『精霊族エレメンタル』、『亜神族デミゴッド』、『霊獣聖騎士ユニコーン』達を呼び集め、状況説明を行ったのである。
そしてその後、この空間内に新たな扉が出現すると、そこに一人の老人が現れた。それはクレイマンだった。その登場に驚きながらも、俺は質問を投げかける。しかし、それは俺が望んだようなものではなかった。その問いに対して、その老人は答える事が出来なかったのだ。
そして代わりにその質問の答えが返って来る事になるのだった。
ーーー アムールが異世界に来てから五年後 ーーー 俺は自分の『分身体アバター 』を呼び出し、情報を得る事にした。『魔王軍』を再編成するに当たっての作戦会議である。
『勇者』とその仲間達は俺にとって邪魔でしかなかった。そして奴等は俺の計画をことごとく台無しにしてくれたのである。俺が用意した最高傑作である究極の魔道具である、『精神汚染の仮面マスク 』をも、その圧倒的な力で奪い取り、破壊されてしまった。あの『勇者』が使った力が何であるかは不明だが、おそらく『魔力支配メタコントロール』の類いだろうと考えている。あれこそが俺の理想であり最終目的であった『魔力完全耐性フルレジスト』に最も近いモノなのだと予想していた。そしてそれを実現する鍵は間違いなく、『魔力完全耐性フルレジスト』の『魔晶核コア』を埋め込む魔道具に秘められていると考えるべきだと判断したのである。しかしそれを手に入れる術は無い。ならばどうするべきか。俺は考える。しかしそれは思いの外早く見つかった。それは『精霊戦士』であるエルサリオン王国の姫『ヒナタ=サカグチ』と俺の娘であり最強の『勇者』の『シオン』である。
彼女達の存在を知った俺は、その力を欲するあまりある実験を決行する事にした。それは『分身』を作る事である。そして俺と完全に同一の思考回路を持ち、尚且つ俺が知り得る限りの全てを知り得ている存在を創り出す為に試行錯誤を繰り返していた。その結果、俺の持つスキルの中でもっとも扱いにくいとされる『魔王覇気』の力を使って、その『魔王』の力そのものとも言える力を引き出すことに成功したのである。そうして俺の中に生まれた存在が、俺に問いかけてきた。その『分身』をどうしたいのかと。
「勿論。俺の力になって貰うのが目的だ。この世界を滅ぼそうとも構わない」
俺の答えを聞いた『分身』が、俺に告げた。それは恐ろしい計画の始まりであった。俺はそれを聞いて戦慄を覚えた。何故ならその計画は『大魔王サタン』を降臨させる事にあったからだ。しかし俺はその計画を止めようとは思わなかった。『大魔王サタン』とは俺自身であると知っているからこそである。その俺が望むのだ。それを止めようとする方が不自然というものである。
そうして俺は、この計画を実行するために、『七つの大罪』を集める事から始めることにしたのであった。※この物語に登場する国家、勢力、組織については作者の妄想で補完されており、現実に存在する全てのものと無関係である可能性が高いことを先に記しておきます。
〜〜〜あとがき~〜〜 こんにちは。はじめまして。カクヨム様の方でも活動させて頂いております天海悠紀(アマミユキノリ)です。今回は本編では語られる事のない裏話を書かせていただきました。実はこの番外編は本筋には関係ない内容となっています。アムールの知らない所でどんな事が起きているのか、それを知ってほしいという思いで書き綴った話です。楽しんでいただければ幸いです。
また次話から、第二部『英雄譚』に入ります。こちらもよろしくお願いします!【追伸】
2月4日(土)より、新作を投稿しております。
タイトル: 異世界転移テンプレを全否定する。俺だけの異世界転生 URL http://kakuyomu.jp/works/1177354054893247537 主人公は高校生、幼馴染の少女と共に異世界に召喚され、そして元の世界に戻る手段を探す旅を始めることになります。
異世界の常識を覆す主人公の活躍をお楽しみください。
では、ここまでお読み下さりありがとうございました。今後もお付き合いのほど、よろしくお願い申し上げます。
第3部開始しました!第20話まで公開しておりますのでぜひ読んでみて下さい。
タイトルは『 無職、辺境の地でスローライフ始めます 』
https://kakuyomu.jp/writer_idstory?works=117534000000 です。
よろしくおねがいしまーす! 俺の名前は佐藤隆史。
高校三年生で大学受験を控える18歳だ。ただ今俺は受験戦争に敗れ浪人生活に突入したため親の金と自室の引きこもり生活を利用して趣味であるネット小説を貪るように読む日々を送っているわけだが、先日ついに人生初となる体験をしたのだ。それは異世界トリップだ。俺は突如として何の前触れもなく見知らぬ場所へ転送された。
それはそれは衝撃的な瞬間だったなぁ。だって朝目が覚めたら突然部屋の中に魔法陣が現れていたんだもん。マジでビビッたよ。でっかいトカゲみたいなのに踏み潰されるし踏まれたし、でもそんなことは些細なことだ。重要なのはその後だった。
「ここはどこ?」
そんな間抜け極まりない言葉を吐き出した俺だったが、その疑問に対する答えは案外簡単に手に入ったのだ。なんと俺は魔王に連れ去られるという貴重な経験をした。しかもその魔王様というのが超絶美少女だったというおまけ付き。そして魔王は俺のことを『主マスター』と呼んで慕ってきたというとんでもない出来事が立て続けに起こったのだ。魔王に誘拐されたというのに不思議と怖くはなかったし、それになぜかそのことがすごく誇らしくさえあったんだよなぁ。まあそれもこれも全て夢の出来事に過ぎないのかもしれないけれどさ、あんなに可愛らしい女の子が俺に向かって笑顔を振りまいてくれてるっていう事実に心の底から感謝だよ。
そんなこんなあって今は無事に現実世界へと帰還した俺は今日も今日とて自分の城にてのんびりと暮らしている。もうすっかり慣れたもんだ。
俺の職業は無職だが決してニートじゃないぞ。
ちゃんと働いてはいるのだ。だが世間的にはニートと大差無いと言われてしまうのは悲しいことではあるが、それはそれで仕方がないことだとも思う。だって俺はとある会社の社長を務めているからな。社長なんて言っても名ばかりで従業員など居やしないが。
そんな訳だから俺には特に仕事がないんだ。いやまあお金をくれる人くらいは居るけど、それは別に俺の仕事ではなく、お金を払う側の問題なのだ。俺自身は何もしてないしする必要がない。むしろ働く意味もないのが現状だし、そんな時間があれば趣味に使いたいのが本音だ。だけど俺はそんな生活に充実感を感じていた。好きな時に寝て起きたい時間に起きられるのも、誰にも干渉されないのも素晴らしい。そして俺は趣味のネット小説を読める喜びに満ち溢れていたのだ。
ただ一つ不満を挙げるとするならばこの世界の娯楽の少なさだ。テレビはある。ゲームもある。インターネット環境もあるのだが、どれも有料なのだ。無料で見放題とかならいくら俺の財布が潤っていてもすぐに無くなってしまいかねないのが現状。だから仕方なく俺はこの世界には無い技術を使ったネット小説を読むことにしている。だがそれはそれ、これはこれ。やはり活字だけでは満足できない部分がある。それは俺にも同じ欲求があったからなんだ。そう、それはつまりリアルなお人形さんが欲しいってことである。俺は可愛い女の子にチヤホヤされたかったんだ。
俺はいつものようにベッドの上で転がりながら異世界のことを考え始めた。するとそこに現れるは一人の美しき少女の姿。それはまさしく俺が理想とした最高の女性だったのだ。彼女はまるで俺のためにあるかの如く完璧な姿をしていた。それは容姿だけじゃなく、スタイルまで抜群だったんだ。
そう、その子は俺好みの顔に理想的な体型をしていた。そのおかげで彼女に対して並々ならぬ関心を抱くようになっていたのである。そしてある日の晩、事件は起こった。その少女がいきなり俺の部屋に侵入して来たのである。
「うおっ!」
その光景に思わず声が出てしまったが、それ以上に驚いたのはその子の格好である。何故だ。何故全裸なのだ?そして俺に飛び込んで来たかと思うとそのまま俺の体に覆い被さってきてしまったのである。その柔らかい肉体に包まれながらも必死になって逃げ出そうとした俺であったが、どう考えても無理だろこの状況。俺はあっと言う間に組み伏せられてしまった。そして気付いた時には俺はその美少女に押し倒されていたのだ。
これが俺の人生初のエロハプニングの瞬間であった。俺が今まで妄想の中でしか味わえなかったあのシチュエーションが、この世に存在したのだ。そしてそれが現実に起こってしまったのだ。ああ、なんて甘美なことだろう。俺は感動に打ち震えた。だがしかし、いつまでもその余韻に浸っている暇は無かったのである。
彼女が目を閉じ唇を突き出して俺に迫ってきたのだから。その行為は紛れも無くキスをするという意思表示以外の何でもなかった。その行動の意味を俺は瞬時に悟ったが、俺にとってそれは初めての事だったから少しパニックになったのだ。そして咄嵯の事に硬直していたのが良く無かった。彼女の勢いを止めることができず、その行為を許してしまっていた。そう、ファーストキッスを奪われてしまったのである。
その日、俺の心に芽生えた気持ちを何と表現したらいいんだろう。俺はその時初めて『恋』という言葉を理解したような気がする。俺の初恋が始まったのだ。相手は同性のはずなのに、だ。
こうして俺達は恋に落ちたのだった。そう、その瞬間こそが運命の始まりであった。この世界は俺達を巡り合わせるために存在するとさえ思える程に俺は歓喜していたのだ。それから俺は毎日その子を想うようになり、夜になると彼女を愛し続けた。そしていつしか彼女に会える事を楽しみにしている自分が居ることを実感したのである。しかし、その願いは呆気なく散った。次の日の夜に彼女は忽然と姿を消してしまったのである。一体どうして? 俺は泣き喚きたかったがなんとか我慢した。でも、俺には耐えることはできなかったのだ。俺にはもうこの世界には居られない理由が出来上がっていたからである。
そうして俺はこの世界で最後の夜を過ごしたのだった。翌日、目が覚めると、やはりそこは見知らぬ土地。昨日の事が本当に夢だったのではと疑わずには居られなかった。
それでも俺にはやらなければならないことがあるのだ。俺はその思いを胸に異世界の地を歩んでゆく。
「ここか」
たどり着いたその場所には一軒の家が存在した。その周りを歩いているだけで俺の胸は高鳴りを抑えきれなくなっていた。俺は意を決すると玄関の前に立ち呼び鈴を押してみた。
ピンポーン。家の中からは誰も出てこなかった。そこでもう一度押そうと手を伸ばしたとき、目の前の扉は開いたのだった。そこには俺の期待通りの少女がいた。
「いらっしゃいませ。ようこそ我が家へ。貴方がお求めになる物はここにありますよ」
「えっと、お嬢さんは?」
俺は緊張しながらも言葉を発し質問をすることが出来たのである。だが、俺はこの時、既に察しはついていたんだ。だってそのお嬢さんの格好があまりにもファンタジー過ぎたからね。でも確認せずには居られなかったのだ。だってその少女が可愛すぎるのがいけないのである。
俺の目の前に現れたのは黒髪ロングの美人なお姉さんである。それもただ単に顔が良いだけじゃなくてスラッと長い手足と整った顔の造形がとても印象的な人だ。そんな人を前にして平静を保てるわけが無いだろ?俺に言わせればこのお姉さんに欠点があるとすれば目の下にくまが浮かんでいるということくらいだと思うんだけど、それがなんでマイナス要素なのかよくわからないほどお肌の張りが素晴らしいのもポイント高いんだよなぁ。とにかくお洒落で清楚系お嬢様風のお姉さんだね。
「申し遅れました。私、ここで働いている者です。お客様、ご来店ありがとうございます。私はリリナと申します。どうぞよろしくお願い致します。ささっ、こちらにお座りください」
俺は案内されるがままに椅子に座らされたのだが、正直、落ち着かなかった。そりゃそうだよね。なんせ憧れの人に自分の部屋に招待されてしまったんだからさ。しかも俺のために用意された部屋だって。もうドキドキしまくりだったよ。そんな風にそわそわしっぱなしな俺はリリナと名乗ったお嬢さんをジッと見つめていたのだ。すると彼女は微笑み返してくれたのだが、それはまるで天使のようで、俺は昇天しそうなくらい幸せだったのだ。こんな素敵な人が俺の嫁だなんて、俺の人生最高潮かもしれない。そう思ったらもう俺はいても立ってもいられず思い切って告白することにしたのである。その勇気を振り絞る姿に自分でも驚いてしまう程に真剣な表情をしていて、俺は自分にもこんな熱い部分があったのかと少し嬉しくなったりもしたが、今はそれより告白するタイミングの方が大切だとばかりに気持ちを入れ替えて想いを伝えたのである。
俺は彼女が好き。君を愛している。結婚を前提に俺と交際して欲しい!そう言い放ったんだ。それは紛れも無い愛の言葉である。俺は本気だったんだ。そうすると彼女も恥ずかしかったのか顔を真っ赤にしながら、でも笑顔を浮かべてくれたんだが──
「それは残念ですね。私はロボットですから。あなたの恋愛対象にはなれませんよ。どうぞおかえり下さい」と言って彼女は俺の前から消え去ってしまった。俺が何をしたというんだろう。どうしてダメだったんだろう。やっぱりロボットに人間の俺の愛が理解できるわけが無かったのかな。そんな事を思いつつ、それでもめげない俺はまだその家を後にしようとはしなかったのである。というより出来なかったんだと思う。
そうして暫くその家で寛いでいた俺だが、さすがに居心地が悪くなってきたので外に出る事に決めたのである。だがしかし俺の行く手を阻むかの如く一人のお兄ちゃんが現れて道を塞いでしまったのだ。
彼は言った。「あなた、僕の部屋に来ませんか?面白いものが見れるかもしれませんよ」
なんだこいつ。急に現れて気持ち悪い。そして俺は彼の誘いに乗ったフリをして付いて行ったのだ。そうした理由は、そうする事が当然だと思えるような予感めいたものを感じたからに過ぎない。だけどその直感が当たっていた事は直ぐに証明された。そしてその先にあるものを見た俺は、思わず涙してしまったのである。それは俺にとって理想そのものの存在。そうそれは『異世界転生モノラノベ』そのものであったのだ。そしてその光景を見てから俺はその家の虜になってしまった。
そうなのだ。
俺はその時に、俺は生まれ変わったのだ。俺の名は八月朔日陽太改め、ソウエイ=ルクス。その異世界は剣と魔法の世界で、俺はその世界に転移した。そしてその瞬間に、前世の俺の自我は消滅していたのである。そう、今俺に話しかけてきているのはソウエイなのだ。そして俺の中に存在しているのはもう一人の俺。つまりは人格が統合されてしまったのである。そしてそれを知った瞬間、俺は俺では無くなっていたのだ。
だから俺はこれからこの世界の新たなる主『ソウエイ』となって生きてゆく事になるだろう。まあ、それも良いと思うのだ。だってここは最高の世界なんだ。だから俺は満足である。この世界が俺にくれた贈り物に最大限感謝したいと思う。
「どうしたんですか?さっきからずっとボーとして」
俺の前で喋っている女の子は『シオン』という。その正体はこの『竜魔像』だ。この子もまた『剣と魔法』の世界から来たらしくて、どうやら俺がこの世界で初めて出会った同郷の人である。その容姿はまさに超絶的な美しさを放っていて思わず息を飲みそうになるほどだ。この子となら俺は結婚しても後悔しない自信が有る。
だがしかし、俺には一つ悩みがあった。俺には彼女がいるのだ。だから俺は彼女との愛に生きるつもりである。だがしかし、そんな愛よりも俺は彼女を欲しているのだ。だからこそ、この子とも結婚したいという欲求を抑えきれなかったのだ。そんな俺はある晩、遂にその願望を打ち明けることにしたのだった。それはプロポーズだ。俺は彼女を本気で愛しているからこそ結婚したいと心から思えたのだから。だがそんな俺に対して彼女は「はい」と答えた。
それはイエスを意味する返答で間違いないだろう。俺は喜び勇んで彼女に駆け寄ったのだが、そこで信じられないものを目の当たりにしてしまったのである。それは彼女が全裸であった事に起因する。
俺は一瞬で冷静さを欠き、狼になって襲いかかったのである。そうしないと気が狂いそうだったからだ。そう、その日は満月だったのだ。だからきっとそのせいだ。俺は獣と化した自分をそう思う事でなんとか抑えようとしたのだ。
俺は彼女を襲ったが、それでも彼女は許してくれて受け入れてくれて優しく接してくれた。だがそんな彼女の姿に俺は更なる劣情を覚えてしまったのだ。俺は彼女の身体に溺れてしまい、そのまま彼女を激しく抱いたのであった。
だが俺はその時、彼女の言葉を聞いた気がするのだ。その言葉を思い出すと、俺には彼女の言葉を理解することが出来ないまま俺は意識を失ってしまい、気がつくとベッドの上にいたのである。
それから俺は毎夜のようにその行為を繰り返す事になったのだ。彼女は嫌がることなく全てを許してくれたが、そんな日々を過ごしながら俺は彼女を理解しようとしていたのである。
だが俺が彼女を愛するようになっていくと同時に俺は俺自身の本当の欲望を曝け出し始めていた。その証拠は俺のステータス欄にあったのだ。
俺は自分の能力を確認する事にしたのだが、それは驚くべき内容だったのだ。なぜなら俺の種族は『鬼人族』と表示されていたのである。俺の予想では恐らく彼女は吸血鬼。これは間違いないと確信するに至ったのだった。
そんな彼女はと言うとその美貌からは想像できないほどの怪力で俺を投げ飛ばして地面に叩きつけてきたのである。俺が起き上がろうとする度にそれを繰り返させられ、次第に俺の心も肉体も壊れていったのだ。そしてその苦痛から逃れようと俺の精神は俺自身を見放し逃げようとしていたのである。
そしてその日から俺の魂と精神は分離し、表裏一体となってしまったのである。
それは、俺の中の俺が彼女を愛しているという証。俺はもう彼女なしでは生きていけないのだ。
そしてこの世界に来て半年が経過した時である。俺は一つの答えを得たのである。それは── 彼女はやはり『魔王』だったのだ。その強さ、美しさは常人のソレではないのである。俺はこの世界の創造主に創られた存在であり、彼女はこの世界の創造主の寵愛を受けた存在である。
そう、俺達は同じ創造物なのである。それは、この世界の法則に縛られている俺には越えられない壁なのだと。そしてその壁にぶつかった時点で俺は諦めるしかなかったのだと悟ったのだ。だから俺は、この世界に別れを告げるべく最後の戦いをする事を決意したのである。
「ふぅ、お前が相手か。少し手強そうだな。でも負ける訳にいかないんだよ」
俺はそう言うと拳を握り締めて戦闘態勢に入ったのだった。
「どうぞ、お召し上がりくださいませ。我が『七曜の老師マスターオブジジイ』の一人が作り出した料理です」
そう言って俺の目の前に並べられた料理は見た目も綺麗だし美味そうだが匂いから判断すると、毒が混入されている可能性を考慮して口に入れるわけには行かないとの判断に至った。俺の能力は確かに最強でどんな毒であろうと瞬時に解毒出来るだろうけど油断出来ない相手だってことくらい、いくら馬鹿の俺だってわかるよ。
そう思いながら食事を断るつもりだったが、「えー、遠慮なさらないで下さいよぉ。せっかく作ったんだし、それに私が食べさせてあげますよ」なんて事を言われてしまえば断るなんて出来なかったのだ。
「あ、ああ。わかったよ。じゃあお願いしようかな」なんてつい調子に乗って言ってしまったがために俺に待っていたのは『あ~ん』なんてイベントを強制された俺の人生最大の屈辱なのかもしれない出来事だった。しかもそれが恥ずかしいの何者でもないって感じだよ!恥ずかしくて恥ずかし過ぎて顔から火が出るんじゃねーか? と思った程だ。
俺はそんな気持ちを抑えて食事に手をつけたのだが── その味は至福としか表現出来ないほど美味だったんだよね!こんな美味しい物を食べた事が今まで無かったからこそ尚更感動したのさ。そして俺は思わず涙を流してしまったのである。そんな俺を見てその女性は「良かったぁ、気に入って貰えて嬉しいよ。それ、そのお婆さん直伝で作らせて貰ったのよ。お婆さんの味を再現できたのか、ずっと不安で仕方が無かったんだけど、これでやっと安心出来たわ」
と言って笑顔を見せたのだ。
どうやらこの女は『シオン』という名らしい。俺が彼女に惚れたのは必然だろう。だって彼女は、あの『ソウエイ』の奥さんになる人だったんだから。そう、俺はこの世界に来る前に彼女と既に出会っちゃっていたんだよね。俺は彼女が好き。それはこの世界でも変わらない想いなんだと自覚したのである。だから俺は彼女を幸せにしてみせる。俺はそう決意して彼女に告白をしたのだ。
しかし、どうやらそれは無理のようだとこの時になって気付かされてしまった。俺は彼女の旦那様であるソウエイを倒して彼女の隣に立ちたいんだと心から思った。だがその気持ちとは裏腹に俺とソウエイの間には超える事の出来ない壁が有ったのだと理解せざるを得なかったのだ。それは種族の違いによる圧倒的なまでの能力差。俺はその実力の差に驚愕してしまったのである。しかし、俺はここで挫けるつもりは無い。だから俺は俺なりに精一杯戦うだけだと気持ちを新たにしたのである。
そして戦いが始まった。しかしそれは一方的な暴力にしかならなかったのだ。ソウエイは俺と互角かそれ以上の能力を有していると予想できるのに、それでもその強さに圧倒されてしまうのだ。俺はその事実に心の底から絶望した。ソウエイの強さはその強さに比例するように俺の能力値を遥かに上回っていて、とてもじゃないが勝負にすらなっていないのだ。だが、だからといって簡単に引くわけにはいかなかった。だから俺は全てを捨てた覚悟で戦ったのだ。
その結果は悲惨なものだったが、なんとか一矢報いる事は成功したみたいだ。俺は今度こそこっちにやって来れるような気がしたのだった。だがそんな時、急に目の前が真っ暗になったかと思うと意識を失ってしまったのである。
目が覚めた俺は見知らぬ部屋に居て、そこで俺はシオンと名乗る美しい少女に求婚されて困っていたのだ。俺が『八月朔日陽太』という転生者で、この異世界に『転移』してきたという事実を伝えても、そのシオンはまるで相手にしなかったのだ。どうやら俺は異世界からの転移者など信じて貰えなかったのである。だが、シオンの美しさに見惚れていた俺はそれでも諦めなかった。だから俺がこの世界を救うと豪語したところ、ようやく彼女の目の色が変わったのだ。そしてこの世界を俺に任せてくれる事になったのである。だから俺にはまだやる事がある。それはこの世界を支配するという事。そしてこの世界を最強の国にする為には、まず仲間を集めなければならないのだ。俺はこの世界での生き方を決めた。この世界を征服する為に生きる事にしたのである。だから俺は仲間を探すべくこの国の城下町へとやって来たのだ。だが、この国の王様であるクロエ王女はなかなか良い奴で、そんな俺の仲間となってくれたのである。だから俺はこの世界を救いたいと願うのであった。
俺の名はディアブロ。俺の使命は魔王の皆様のお世話係りとして尽くす事。俺はアムール様に忠誠を誓った身であり、それは他の配下も例外ではなく、全員がその誓いを立てたのだ。
俺達の主君は魔王と呼ばれる中でも別格の存在だ。その強さもそうだったが、一番驚くべき点は『多重存在』スキルを持っているという点だった。俺の究極能力アルティメットスキル『大賢者』は全ての情報を網羅しているのでその力については知り尽くしていたのだが、そんな『大賢者』の情報にも存在しない情報を持っていたのだから驚くしかない。
俺の主人はなんという規格外な存在なのか、そう思わざる得ない程の人物なのだ。
そんな俺の上司にあたるベニマル様とソウカク兄貴とは旧知の仲でもあるのだが、最近その二人の様子がおかしくなったのには何か理由があるようだった。
なんでもソウエイの野郎は魔王アムールの『分身体』であり、『真なる勇者』の称号を持つ『英雄覇道エスビーチェ』の生まれ変わりだという衝撃的な真実を知ったらしく、そんなとんでもない話を聞いた二人は魂が抜けたかのような状態で仕事をサボるようになったのだ。そんな状態がしばらく続いた後、二人が真面目に仕事に取り組もうとした矢先の出来事だった。
なんと突然二人とも姿を消して消息を絶ってしまったのである。
そして残された者達は、そんな馬鹿な!? と思ったのも束の間、俺達も何者かによって攫われてしまったのだった。そしてその誘拐犯の集団のリーダーがベニマル様である事が判明したのである。しかもベニマル様は俺達がその誘拐の実行犯だと勘違いをしていたのである。
俺とソウスケは、どうせならと腹を決めていたのだ。俺達はその誘拐の犯人に化けて逆に利用する事にしたのだった。そう、これは好機でもあったからだ。なぜならその誘拐はソウカイ義兄貴の命令によるものなので間違い無いし、俺達に疑いが掛かる心配もないのだから当然の事だろうと考えていたのだった。しかし、どうもソウエイだけはその状況が理解出来ず、ただ慌てふためいているだけのようだ。どうやらソウカイ義兄さんから受けた指令が上手く伝わっていないらしいのだが、それでは作戦に支障が出てしまう。
そこで俺は、ソウエイの尻を蹴り飛ばして強引に任務を果たさせたのだ。
そして俺はその隙に、そのリーダーの振りをして誘拐の首謀者になり済ましたのである。しかし、そこで俺は予想外の問題に直面してしまっていた。それはこの国の宰相を務めるヒナタという人物に気に入られてしまったのだ。彼女は、この国が抱えている問題の解決案を提案して欲しいと言い出して来たのである。そんな事は俺の仕事じゃなくソウカイの兄貴の担当だったはずなのに、何故か巻き込まれる事となってしまったのだった。しかしそれも俺に与えられた仕事ならば全力で取り組まざるを得ないというものである。俺には時間が無い。俺に残された期間は僅か三日間しかなかったのだから。
だからその問題を解決したかったのだが、流石はヒナタ宰相と言うべきか、俺の話を疑う様子も無く全てを受け入れてくれたのだ。しかも、その証拠をすぐに提出してくれと言われてしまった。確かに俺がこの国を訪れたのは今回が初めてだし、そんな短時間で問題解決出来るはずもないので疑われても仕方がない。だが、それを証明する術も無い訳では無い。その証拠とやらは、この国の宰相しか閲覧する事を許されない『機密文書ボックス』に収められているそうなのだ。
つまりはそこに収められているという事は、俺の提案がそのまま受け入れられたという事を意味するのである。だからこの国の民の為にもなると思い俺は、それに従ってこの提案を行ったのだった。そしてそれは見事に成功を収めたようである。
この国は今よりももっと良くなるかもしれない。俺はそう思い嬉しくなったのだ。しかしその時、俺は背後から誰かが近づく気配を感じ取っていたのである。だが、その瞬間に背中に激しい痛みを感じると同時に俺の意識は暗闇の中へと落ちて行ったのだ。しかしそれは一瞬の事だったので、俺が目を開けた時は何も異変は起きてはいなかった。だから気のせいでもあったのかと首を傾げたのだが、俺はその後から記憶が無くなっていた。
俺は目が覚めると牢の中に居たのである。だが、そんな俺を助けに来てくれるような人物がこの世界に居るとは思えないので、それはあまり期待出来ない事だろうとは思ってはいたのだが、一応確認の為に助けに来る者がいないか聞いてみたが誰も来ないという答えが返ってきたのだ。俺はそれを聞いて落胆したが、だからといってどうしようもない事である。だから俺の取れる手段は少ないのだと理解するしかなかったのだった。
そんな俺はこの国の現状を知ってしまい、それを見てなんとかしたいと本気で思うようになっていた。そしてその考えは正しかったようでこの国の未来は大きく変わる事となったのである。そのお陰もあって俺は助かり、なんとか国外に脱出する機会を伺って今に至ったのだった。俺は自分の目的の為に動く。だから、この国を救う為に働く必要なんて無かったのだ。俺の本来の目的は仲間を集める事だったのだから。だが、そんな俺の前に一人の男が立ち塞がったのである。その男は、あのベニマル様に劣らぬほどの強さを誇ると思える程の存在で、その実力はベニマル様に匹敵するのではないかと思えたのである。そして俺は、この男と戦ってみたいという思いを抑える事が出来ず戦いを挑んだのであった。
しかし俺の考えは浅はかだったのだ。それはその男の能力が想像以上に高かったからである。だからその男の剣戟を受けて俺の命はここで尽きる事になると覚悟をした。しかしその予想に反してその男が放った一撃により、俺の腹部に強烈な衝撃を受け意識が飛びそうになったところで俺は意識を失ってしまったのである。だから結局その強さを確認する機会は得られなかったのだが、間違いなくその男はこの世界で俺の敵となる存在だと認識するに十分な結果が残った。だが俺にはそれが判っていても尚、その男の挑戦を受けたのである。それほど俺は強くなりたいと思っていたのだ。だが、どうやらその男にはまだ先があったようだ。だから俺は負けてしまったという事になる。悔しくはあったがその敗北が今の俺にとっては最高の栄誉である事を理解出来たのだ。そんな俺に、この男は何やら不思議な薬を手渡してきた。それを飲むと意識を失い次に目が覚めた時には、その不思議な力が体中に浸透しているのを感じていたのである。そしてその力で俺は更なる高みへ昇れるのだという確信を得ていたのだった。俺はそんな男ーーアムールという魔王に改めて忠誠を誓ったのである。俺はこれからの人生をこの方のために使う事を決めたのだ。
そして俺がこの世界を救うという約束を果たす為の戦いが始まったのであった。そのリザードマンの魔王との戦いの中で俺の力が大きく上昇していくのが判った。それは今まで感じた事のない程の圧倒的な力の波動であり、それはまさに俺に新たな力を与えて下さっているという感覚を得る程のものであったのだ。その力があれば必ずやその魔王を倒せる筈である。いや絶対に勝てる!! 俺がその力を手にした時、急に目の前の風景が変化していた。俺はまるで宇宙空間に浮かんでいるかのような不思議な空間にいたのであった。そんな状況で俺の思考は完全に停止してしまった。なぜなら、突然俺の背後に現れた存在によって俺の体が真っ二つに切り裂かれてしまったからだ。そして俺は死を迎えたのであった。
(あれ? 俺死んだんじゃないのか?)
俺はまだ死んではいない。それは俺自身が一番よく解っていた。その証拠と言って良いものなのかは判断出来ないが、その俺の視界は俺の視点とは別の場所からの視点で映し出されているように感じられたのだ。そしてその映像は俺の意思と関係無く動いていたのである。その映る光景に驚きつつも、その景色を興味深く見続けていたのだ。その視線の先に、俺を殺した存在と思われる者がいた。
俺がその存在に対して恐怖を感じたのは確かだ。俺にその人物の感情が伝わってきたのだが、その者は歓喜と絶望を同時に味わっていたのである。そんな複雑な気持ちに俺は共感してしまい戸惑ってしまった。だがその者の表情からは、俺の事を殺さなければならないというような意志を微塵も感じる事が出来なかったのである。
その者と戦えば間違いなく自分が死ぬだろう。それは直感で解っていたが不思議とその者を殺す気にはならなかった。だから俺はその者から逃げる事にした。しかしどうも俺の能力は使えないようだ。それにどう考えてもここは普通の世界ではないとしか思えなかった。俺が死んだはずの場所にはこんな奇妙な場所など存在しない。だからここが死後の世界の可能性もゼロとは言えないが限りなく可能性は低いと思えるのである。ならば俺は何に巻き込まれてしまったのだろうか。そう思った時にその人物が突然俺の前に出現したのだった。その人物は黒いローブに身を包み、フードを被っているために顔が見えなかった。その手には見た事も無い武器を持っていた。それはまるで刃の無い刀身のように思えたのだ。そんな俺の警戒心に気付いたのかどうか知らないが、その者が唐突に俺を斬りつけて来たのだった。俺は避ける事も出来ず斬られて再び死の淵へと落ちる事となったのだった。
(またかよ!)
そう思いつつ俺は抵抗を諦めていた。俺がこのまま死ぬ事は確定事項なのだろうし、無駄に抵抗するよりは受け入れる方が楽であると思ったからだ。そんな俺の耳にその者が囁いたのだ。それは「この世界の未来を任せたぞ」という言葉だった。俺がその意味を理解する事は出来なったが、俺の中に眠る魂のような物がそれを受け入れていたようなのである。俺はその言葉を聞きながら意識を失ったのだった。
こうして俺の意識はそこで途切れたのである。しかし俺の意識が戻った時は、既にこの異世界の魔王の一人であるヴェルドラさんに保護されている状況だったのだ。その事は俺にとって予想外の出来事だったが、同時にとても幸運でもあった。俺の目的は仲間を集めその力を蓄える事なのだから、その為の時間は大いにあったのである。だから俺はこの好機を生かす事にしたのだ。その俺の仲間達を探す為にも、俺はその魔王であるらしい『暴風竜』に頼み込んでこのジュラの大森林にある『迷宮』に仲間がいるはずなのだという話を信じて連れて行って貰う事になった。
その『迷宮』には、俺の知り合いが何人もいるはずである。そして俺には時間が無いので一刻も早く会いたかった。だが俺にはこの世界で使えるお金が無い上にそもそもこの国の貨幣価値を知らなかったのだ。だから仕方なく、今はとりあえずこの国での俺の身分を保障して貰った。この国でも有名な貴族の娘、フローラル姫として俺は振る舞う事となったのだった。
俺の名前は八坂三日。この国の人間では無いがこの世界に迷い込んだだけの一般人だ。俺は元の世界に戻ろうとしているだけなのだ。それなのになんでこんな事態に陥ってしまっているのだろうか。全く意味がわからない。
俺がここに来た理由を説明する前にまずは俺の自己紹介をしておこうと思う。俺の本当の名前は別にあるが、こっちの名前の方が慣れているのでこちらを使うつもりである。なので俺の事は『フローラル』と呼ぶといい。これは俺のコードネームみたいなものである。だから他の人が俺を本名の方で呼んでしまってもそれは勘弁して欲しいところである。
俺はこの世界に転移させられた被害者でしかない。だが元の世界に戻る事を考えると、今の状況は決して好ましいものでは無い。なぜならこの世界では俺の存在は異端中の異端だからである。俺はこの世界に存在する筈がない。つまり俺は本来この世界に存在してはいけないのだから当然の扱いだと思う。だが、それでも元の世界に帰らなければ俺の目的を果たせなくなる。だからこの世界にやって来た俺の目的はただ一つ。仲間を見つけ出しその能力で強くなって俺自身の目的を達成する事である。その目的の為にも、この世界で俺が自由に動き回れる身分が必要になるのだった。だから俺は今、この国のトップに話を通してこの国の重要人物の身内になっているという訳である。
ちなみに俺は、この国の重要人物の一人だという貴族のお姫様という扱いとなっている。そんな重要な地位の人物に俺のような者が接触するのは危険な行為かも知れない。しかし今の俺にはその危険に見合うほどの力があるのだ。だからその危険は承知で、このお嬢様とやらのフリをするしかなかったのだ。
そんな俺の事情を知る事もなく、この国は戦争に突入しようとしていたのである。それは俺がこの城に連れて来られるきっかけとなった手紙に記されていた事がきっかけであるようだ。その戦争の相手とは、あの俺が殺し損ねたあの男ーーリザードマンという種族の魔王だった。俺はあの男を倒す事が出来ていなかったのだ。だからこそ、俺は自分の命を賭けてこの男をこの場で殺すつもりだったのである。だから俺はリザードマンの魔王に攻撃を仕掛けたのだ。その目的は達成出来た。俺の攻撃でそのリザードマンは確かに致命傷を負い倒れてしまったのだ。しかしその瞬間に、その魔王に異変が起こったのである。リザードマンの体がまるで砂のようになって溶けるように消えていってしまったのだ。そして俺が唖然とする中、そのリザードマンが立っていた場所の床がまるで生き物であるかのように大きく口を開けて飲み込もうとしていたのである。そしてそこに残った僅かな砂さえも残さず完全に飲み込まれてしまったのだった。
その光景を見て俺は絶句する他なかった。それはまるで俺が倒したはずの男の存在が全て夢か幻であったかの如く跡形も無く消滅してしまったからである。そして、俺の視界が突如暗転したのだった。
(え? はぁ!? 一体何が起こってやがる!!)俺は状況の変化についていけず困惑したのだが、そんな混乱している暇すらなく、今度は突然視界が変わった。俺の視界の先に見えるのは先程までの景色ではなく森や草原など自然が溢れかえった場所である。俺がその事に驚くよりも早くその景色は突然切り替わりどこかの屋敷の部屋に変化したのだ。その部屋は俺が先ほどいた城の謁見の間と同じ雰囲気を感じる事からも恐らく先程の場所ーーーリザードマンの魔王の居場所ーーーであると考えられた。
俺の視点の主はその景色を見ながら驚いていたが、その視線はある人影を捉えその人物に向かって走り出したのだ。それは俺もよく知る人物であった。その人物はこの世界の最高権力者であり、魔王の一人でその実力はこの世界でも上位に入ると言われる程の力を持った魔王、『暴風竜王ヴェルドラ=テンペスト』であった。俺がその姿を見て驚愕したのは間違いない事実である。何故なら、その姿がまるで俺がよく知っている人物と酷似していたからだ。いや、同一人物と言ってもいいくらい似ているように感じられた。その証拠と言うのか、俺にはその人物の考えがまるで手に取るように判ってしまうのだ。
(どういう事なんだ?)
その人物の考えは、まさに目の前の光景が現実である事を示している。その人物は突然の出来事に驚きつつも状況を正しく理解しようとしているようだ。その視線は俺が見ていた視点とリンクしており、俺と視点の人物が同一化している事は確実のようである。だが俺とこの人物が同じ人物であるとしたら、俺の存在も一緒にこちらに飛ばされているという事になってしまうではないか。俺はそんなバカなと思いつつ、とにかく今は目の前の事を観察する事にした。すると俺の視線はヴェルドラさんの体を通過して再び視点の人物に戻った。それは俺がヴェルドラさんの中を透過出来るようになっていると思わせる行動だった。その視点の人物が俺なのかは定かにはならなかった。しかしそれは紛れもない現実なのだ。そう考えるしか他に説明しようがなかったのである。
しかし視点の人物が驚いたのも一瞬、その表情が険しいものへと変わった。そしてその人物は何かに気付いたようで慌てたように周囲をキョロキョロと見渡し始めたのだ。それは俺も同じで慌てていた。しかし視点の人物のように周囲に警戒をするというレベルではなく、俺が焦っているのは自分の死の可能性を感じた為だった。
この視点の持ち主は俺だとしても、俺と視点の人物が同じとは限らないし、別人だった可能性も考慮する必要があるからだ。その可能性を考慮した時、俺が一番怖かったのは、今見ているこの映像が俺が今まで生きてきた中で最後に見る光景になる可能性があったからだった。俺は、こんな訳の分からない状況のまま死んだくはなかったのだ。
だがその考えはすぐに裏切られる事となる。その視点の人物の周りに突然、複数の魔物が出現したからだ。しかもそいつらは俺の記憶にもある奴等だった。そう、その魔物達は、あの俺が倒すべき目標としている男が率いる部隊だったのである。その部隊が突然、俺が予想していなかった動きを見せたのだ。それはその部隊の者達の俺への殺意だった。それは明らかにその人物を殺す気だと言わんばかりの殺気が俺に向けられていたのである。
(ヤバイ! 殺される!!!)
俺は咄嵯にその場から離れようとした。しかしその人物も同じ事を考えていたのだろう。逃げようとするのはほぼ同時だった。しかしその人物は俺とは違って戦闘慣れしていたのであろう。すぐに冷静になり俺に忠告してくれた。「私に構わず逃げるのだ」と。俺はその声に素直に従うべきだった。しかしこの視点の人物が誰だか知らない俺としてはこの場に留まってその言葉に従えばこの先どのような事態が起こるか想像も出来ない。それにこの視点の人物は俺のよく知る人物であるようなので、尚更見捨てる選択肢は無かったのだ。だからその視点の人物の言葉に逆らってでも俺がこの場面から逃げ出すという選択を選んだのだった。
そして俺とその視点の人物は別々の方向に全力疾走したのだ、その先に待ち受ける絶望をまだ知らずに。
(なんなんだよこれ! どうなっているんだ!!)
視点の人物は混乱しつつもなんとかこの状況を脱しようと必死になっていた。俺はその様子を見て自分の置かれている状況を把握する必要があると考えたのだ。だからその視点では無く意識的に自分を見つめ直し、まずはこの体の本来の持ち主に語りかけた。しかしそれは当然の反応と言えるものであったのだ。なぜならその体は俺の本来の肉体だったからだ。俺が元の世界でこの世界に来る直前まで動いていた肉体。それは八月朔日陽太という名前を持つ高校生であったのだから。
その男は突然、異世界転移というものに巻き込まれこの世界に転移してきた人間だったのだ。その男の目的はこの世界にあるという『賢者の石』と呼ばれるものを手に入れこの世界に蔓延る『悪魔』達を滅ぼす事にあったのだ。その為には『魔王』であるあの男の力が必要だったのである。その男があの『大魔王ルシファー』という男を召喚しようとしていたのにはそんな理由があったのだ。
その男の本来の名前は『三谷秀人』という平凡な男子高校生である。だが、俺にとっては特別な存在である。何故ならその男こそが、俺の人生を変えた張本人だからである。俺がこうしてこの世界で生きていられるのもそのお陰といっても過言ではないのだ。そんな恩人を俺自身が見捨てるなど絶対にあり得ない話だったのである。だから俺は、その体を乗っ取った。それがどんなに危険な行為かも理解していた上で、その体を借りたのだ。俺がもし本当に『大魔導師アムール(リザードマンの姿ver.)』であるとするならば当然の行動であるとも思えた。そしてその行為は、ある意味成功していた。その体の持ち主は、既に死んでおりその死体が勝手に動いているだけなのだから。俺は憑依した相手の能力をコピーする能力があり、それを応用する事で他人が使っている技なども使えるようになる特技があるのである。
つまり俺は、この体が俺の意思と関係なく動き出そうとする動きを止める事が出来たのだった。しかしそれでは根本的な解決には至らない。なぜならこの体はもうじき完全に支配されるのが判っていたからである。その現象は既に起きているのだから。だからこそ俺の魂がこの肉体を乗っ取り返す事に成功したのである。つまり俺の体が支配され俺の意識が消え失せれば、その体に居る俺もまた消滅するという事である。だからこの俺がこの先生き残る為には、この俺が主導権を握ったまま俺のこの世界での目的を果たすしかない。だからこそその俺がこの先も生きる為の唯一の方法が、俺が俺自身を支配する事でこの肉体を完全に支配下に置く方法だったのだ。
(さあ目覚めろ、俺よ! そしてこの俺を喰らえ!)
俺は、俺がこの肉体を支配し、完全に支配される事によってその目的を果たし、この体から抜け出す事を決断する。その決意を秘めて俺はその体の支配者として名乗りをあげたのだ。その瞬間俺の意識が薄れていくのを感じる。しかし、その前に、目の前の魔物の集団に対して反撃を開始する事にしたのである。俺には『虚数空間ブラックホールゲート』やら『煉獄覇王レイジングフレアバーストストリームゼロエクスプロージョン』、『絶対なる捕食者アブソリュートリーテイター』、『竜爪雷舞ドラグナーワルツ』、『虚像の分身イリュージョン』『虚無崩壊ゼクスブレイクダウン』などの強力な必殺技が多数存在する。
俺がそれらを使って戦う事は容易い事であるのだ。しかしそれらの能力はどれも魔力を消費するものであるので、使いすぎれば、魔力枯渇により命の危険すらあり得るものだった。そしてこの場面で俺がそれらを躊躇無く使用する訳にもいかなかったのだ。
何故なら俺は俺がこの世界のどこかで戦っている可能性がある以上、その戦いが終わるまでは俺自身の力を隠しておく必要があったのである。
しかし、その判断は早計であったと言わざるを得ないだろう。
目の前の集団の中で、この体ーーー俺の体を襲おうとしている存在がいる。その個体だけは俺の体を狙っているように感じられたのだ。
(こいつ、何者だ? 俺がこの体に乗り移っている事に気付いたのか?)
この体の主の記憶によると、俺の敵はこの世界最強の生物、『大魔王ルシファー』であり、そしてこの体の所持者である。その人物には大切な幼馴染みの女の子が居て、その子を幸せにする為にその力を使おうとしたらしいのだ。
(この世界には、やはり俺の探している少女もいるんだな。だが今はまずい! 今はとにかく目の前の状況を切り抜ける事に集中しないと!!)
俺はこの場で俺の体を襲おうとしている男に、その力を使わせる訳にいかないと思ったのだ。それは俺にとって非常に都合の悪い展開になる可能性が高いからである。俺は俺自身の記憶を総動員し、目の前の敵に有効な手を考える事に専念したのだった。
(あの技を使うのが一番確実だろう。問題はタイミングと相手の位置取りだよな)
俺はその男の正体をまだ知らない。その実力を測りきれていない状況での勝負となる。しかし、この場を生き延びて俺の本来の目的を達成するにはその賭けに出るしか無いように思えたのだ。そして、俺は俺に襲いかかろうとしている男と目が合うと、その男の視線の動きを観察した。するとその男は俺が攻撃を仕掛けてくると予想していたように行動を起こしたのだった。
男はまるでその俺の視線に誘導されたように行動を開始し俺を攻撃しようとしたのだ。俺が攻撃しようとしてる訳ではないのだが、その男の行動を見て俺は俺自身が仕掛けた罠だと気付かない事に違和感を覚えたのだった。
俺がこの世界に来た目的はその少女に会う為でもあったが、本当の狙いは別のところにあった。その俺の本当の目的とは、俺が元の世界から持って来た能力を取り戻す事である。その能力を使えば元の世界で出来なかった事が可能になると考えていたのだ。
(そう言えば、確か俺が持っていたスキルは全部で七個あったはず。だがそのうちの五つについては、俺の記憶にあるのに名前が出て来ないぞ。まさか忘れたとか言わないだろうな)
そう思った俺は俺の記憶を探る。俺の持つ『全智之書』の記憶検索機能が俺の頭の中で勝手に発動した。その結果俺が覚えている俺の所有する全ての知識が、脳内に映像となって浮かび上がったのである。
(えっ、これって全部かよ!)
俺の知識の中には、その人物が経験してきた記憶までもが含まれていたのだった。しかもその中には、この世界で体験したと思われるものまであったのである。
(これって一体どうなっているんだよ! しかもその人物の魂はとっくに消滅してる筈なのに。でも、これで判った事もある。もしかしたらあのスキルならこの状況を打開出来るかも知れない。でも、この俺の肉体の奴はどうやってこんなスキルを手に入れていたんだろう?)
俺は俺自身に備わっているはずのスキルを思い出すのに夢中で俺の肉体を操る男が既にその俺に向かって剣を振り下ろしているのに反応が遅れてしまったのだ。
(あっ! ヤバイ!!)
だが俺が気付いた時にはその剣はもう振り下ろされた後だった。俺は俺が操るその体の反射神経に任せてギリギリのところでその斬撃を避けたのである。そのお陰もあって、何とかその攻撃を無傷のまま避ける事が出来たのだ。
そしてそのまま俺はその体を使い反撃に転じた。俺が操れる体はこの体の本来の主である八月朔日陽太ではなく、俺という別人なので本来の力を発揮するのは不可能だと思っていた。しかしこの体が持つ本来の主が使えるスキルならば使える可能性があったのだ。俺は試してみる事にした。その技は『聖滅覇気セイントレイカーストリーム』と呼ばれる能力で俺が『大魔導師アムール(リザードマンの姿ver.)』であるならば使う事が可能なはずだからである。この能力を使用する事が出来ればあの男の攻撃を防ぐ事も可能なハズである。その効果は非常に恐ろしいものであり、使用者の前方に極大の光の波動を放ちその波動に触れた者の魂を一瞬にして浄化消滅させる能力があるのである。つまりこの世界の法則上、光を消せるモノは存在しない。その威力は、魂さえも消し去るという程なのだから。
(上手く発動してくれよ〜!)
そして俺が祈るように念じたその技が発動される。俺は心の奥底で祈り続けたのだ。そして遂にその時が訪れた。俺が発動したその技の効果が発現する直前、その男がニヤリと笑みを浮かべたように見えた。そして俺は、男が何をしようとしているのか直感的に察知する。そして同時に俺の中に衝撃が走る。この男は俺が何かを発動しようとしたその僅かな時間で、俺に『虚数空間』への扉を開く時間を充分与えてしまったのだ。そのせいで、その男が放つ攻撃に対する抵抗力を失ったのである。その技が放たれると同時、俺は『煉獄覇王』の力である超高熱のエネルギー波である『覇焔煉獄フレアーバースト』をその『聖滅覇気』の前に放ち強引に押し戻した。だがそれと同時に俺自身もそのエネルギー波に巻き込まれてしまっていたのである。俺は咄嵯の判断で防御系スキルである『完全武装化フルプレート』で身を固め、更に多重障壁を周囲に張っていた。それにより俺自身はどうにか致命傷を免れたものの、俺が操っていたその体はその膨大な破壊力に耐え切れず、バラバラになって崩れ落ちたのである。
しかし次の瞬間、俺は更なる危機的状況をその目に収める事になってしまった。俺がこの世界のこの時間に存在しないという事が問題になったのだ。この俺が存在する時間では、俺は異世界転移などしておらず、当然目の前の人物と関わりを持つ事も無いのである。だからこそこの男は、この世界に俺が存在しないという事実に気付きながらも、平然と攻撃を続行しようとしてきているのであろう。それは俺がここに存在する事を許容出来ない理由があり、その存在を許せないと考えているという事に他ならないからだ。この体を支配しようと必死になっていたのもその証拠であった。俺は、その事について考える余裕すらなかったのだ。この世界に来てまだ間もない俺は目の前の敵に集中しなくてはならなかったからである。俺は、自分の存在を守る為にも戦うしか無いと判断すると覚悟を決めたのだった。
しかし俺はこの瞬間まで自分が何者かを全く思い出せていなかったのである。だから俺にこの男を攻撃する権利があったとしても、俺の体が破壊された事によってそれを行使する資格を失ってしまったのである。俺は俺の体から溢れ出る大量の血液と供に意識を失う事となる。しかし完全には死んでいなかった。なぜならば俺の意識が戻る前に、俺は再び新たな人格に入れ替わっていたのである。
しかし今回は今までのどの人格とも違い、この俺自身でコントロールが出来るようになっていた。そして俺は俺の体の中から這い出て来て、先程の攻撃によりボロボロとなった体を再生させると立ち上がった。そして男に向かい話しかける。
「お前は何者なんだ? どうして俺を殺そうとしたんだ?」
しかし男はその質問には答えず無言を貫く。だがそんな男を見て俺の心は激しくざわついたのである。その男の表情が、その男の行動全てがまるで、この男自身の行動が間違っていたかのように後悔しているように見えるものだったからだ。
(なんだろう。この感じは。俺には何も関係ないのにこの男を見ていると胸が痛くなるような、何とも言えない気分だ)
その男のその姿を見ているだけで辛くなってくるのである。その気持ちの正体は解らないが、俺はその男の態度に激しい憤りを感じた。そして思わず感情的な口調で叫んでしまう。
《やめてーーー!!》 それは誰の声なのか俺にもわからなかった。いやその声を聞いた時、俺自身の心に響いてきたのだ。
俺の口から発せられたとは思えないほど、幼さの残った可愛らしい少女のような声で。
だがその言葉に反応するように目の前の男はハッとして我に返ったようだ。俺の目を見ながらその男は呟く。
《私はいったい、今、なにを。この方を殺して、本当に良かったんだろうか。そうだ。私の本当の目的を思い出した。私はこの方の魂と供に消えるはずだったのに、その願いを聞き届けてもらえなかった。いや、この方に願う事はもうできないのに何故こんな愚行を犯してしまってたんだろう。この方はもういない。でも、私はまだ存在している。私には目的を果たす為の力が残されているのかもしれない。この力を使えばきっとやり直せる! 今ならまだ間に合う! お願いです、この方を蘇らせてはくれませんか! この方に会って謝らないといけないんです! 私が間違っていました。もう間違えたりしないから、どうか助けて下さい。この方と、この方のお連れのあの子だけは、幸せに暮らして欲しい! それが私の、最後の望みです! あの方の為にも、そしてあの子達の為にも。そしてあの子にもう一度だけ会いたい。もう一度だけ。その為なら、この身の全てを差し出しても構わない! 頼む、頼む! お願いします!!!》 その少女が俺に懇願する。俺は突然のその少女の言葉に動揺してしまう。少女はまるで何かに取り憑かれているかのように取り乱し錯乱状態だった。その様子は、その言葉が本心から出たものだと言う事がよく伝わって来たのだ。だが俺のその少女の言葉に対する返答は決まっている。俺の目的はあくまでこの世界を元の世界に変える方法を見つける事だ。俺自身に関する問題は後回しなのである。
俺は目の前の俺を襲ってきた謎の男の言う事を聞いてやる義理はないのだとそう告げようとしたのだ。だがその瞬間俺の頭の中にある一つの考えが浮かび上がって来た。そう、俺の本来の記憶に残っていた名前も覚えていない人物の記憶が。その人物の魂は消滅していて既に肉体は無いはずなのに。なのに何故かこの少女を見た瞬間に俺はその名前を思い出していたのである。そう、その少女の名前は『ディアブロ』。かつて俺を召喚して勇者の称号を与えて、この国『ルミナス神聖王国』の聖騎士長の地位を与えた人物。
その聖女こそが、目の前の少女なのだ。
『アムール様! 御無事ですか!』
俺の思考に被るように念話が届く。それはヴェルドラさんからの緊急連絡だった。どうやら念話は問題なく機能しているようだ。そして同時にこの世界にやって来たばかりの頃の感覚が戻って来ているのに気付いたのである。その事から考えてもこの世界に来る直前の状態に俺は戻りつつあるようである。俺は『魔王覇気マオウハキ』を解除してその状態に戻った事を確認してみたが、ちゃんと『聖滅覇気セイントレイカーストリーム』を発動した状態のままだった。恐らくその状態でなければ発動出来ないスキルなので解除する事が出来なくなっているようであった。
『えっ!? あれ?』『ああっ、やっと通じたわね。心配したじゃない』『師匠〜ご無事でしたか』『クフフ、やはり生きていましたね。それにしては随分と長い眠りでしたが、一体どこに居たのです? まさかご家族が泣いているかもしれませ『先生〜生きてるのよ〜』ん?『あっ! は、離すですよー。ボクは師匠に会いたくて来たんですよー』
『お久しぶりでございます、アムール様』
そこには懐かしい顔が勢揃いしていたのである。
この場にいる者達は、皆俺の部下であり、友達であり、俺の家族と言ってもいい者達なのだ。
そしてその中には、当然あの子がいて。
俺の事を覚えてくれていた事に俺は泣きそうになる程感動し、心から安堵する。
だがそんな再会に浸っている場合ではなかったのだ。目の前の男がいつまた動き出すかもわからないし、ミザリーとアイシアの二人の事も気がかりである。俺は急いで『虚数空間』に潜んでいた二人を連れて来ると、改めて状況を確認した。まず俺を襲った男はというと、気を失って倒れていたが呼吸は正常だったので大丈夫だろうと判断すると放置した。
そして、
「で、どういう事なの?」と俺が尋ねると、「私も知りたいわ。なんなの、コイツ」と俺と同じ質問をする。しかし答えたのはその質問をされた張本人では無かったのだ。「それはボクから説明させてもらいますよ〜」と陽気な口調で語り出したのだ。だがその姿を見るなり俺は思わず「ぶほっ!」と吹き出してしまった。
だってしょうがないじゃん。
目の前の男は俺よりも更に身長が低く、その容姿もまるで子供のような外見でしかないのだから。しかも着ている服もどこかのお店で売っていたのか、とても質素なもので明らかに高級品とはいい難い代物であった。しかし、俺と違うのはその格好だけじゃなかった。
それは髪型だった。俺は短髪であったが、その男(少女というべきか?)の髪の毛は肩にかかるくらいの長さしかなく、おまけに服装は男物なのである。そして何よりその声は女の子のものであったのだ。俺がその事に驚き固まっていると、
『お初にお目にかかります、魔王殿! ボクはカリオデ王国第一王子にして勇者の剣を持つ、カガリ=コガと申します! 宜しくお願いします。以後、末永く付き合いましょう!!』と挨拶してきたのである。
俺はあまりの展開に頭がついて行かず、しばらく唖然としていたが我に帰ると慌てて自己紹介を行った。だが俺が自己紹介すると、カガリのテンションはさらに跳ね上がったので逆に落ち着いてしまった。そこで俺は改めて、俺達の状況を説明してもらった。それによるとどうやら俺達が消えたあと、すぐに捜索が開始されたようで、大騒ぎになってしまったらしい。しかし、俺達がいなくなった場所には魔物の大軍の死体があるだけで、俺の姿が見当たらない。そこで一度俺達は全員生存を諦めたのだが、その時、なんと死体の中から『聖骸暴食デストラクションイーター 』が突如飛び出して来て、周囲の敵を一瞬で捕食したという情報が入る。そしてそのまま再び姿を消してしまったというのである。
それを聞いて俺が呆気に取られていると、続けてヴェルグリンドが、 《私と姉上も必死で探したんだけど見つからなくて。そしたら『竜魔像ドラゴニカルアニヒレーション 』に宿っていた私の兄、炎竜王フレイアが復活したのよね。それで私達に、『俺の意識が戻るまであの魔王を守れ! お前達なら出来るはずだ。俺にもしもの事が有ればあの馬鹿を助けに行ってやってくれ! お前達を信じてるぞ! 頼む!』っていう遺言を残して消えちゃったの》 俺はその話に愕然として開いた口が塞がらなかった。
(ちょっ、おい待てよ! ヴェルドラさん、アンタはいったいどこまで迷惑を掛けたんだよ。そもそもなんでアンタ復活出来たんだ!?)
と心の中で盛大に突っ込みを入れたのだ。
だがここで重要な事に気付く。
つまり、今この世界でヴェルドラさんの意識が残っている可能性が高いって事だろ? もしヴェルドラさんがまだ生きているのならば、その意識の断片だけでも残っていればこの世界に来た事で、俺と同じようにこちら側に来る事が出来るんじゃないだろうか? その可能性はあるように思えた。何故なら俺はその可能性に掛けてこの世界へとやってきたのだし、そしてその望み通りこの世界に召喚されたからだ。
だとすれば、ヴェルドラさんの復活が叶う可能性もあるのではないだろうか。俺はそう考えて嬉しくなった。だがそこで、ある問題が発生した。この目の前の男である。この男の言う言葉は信用できないと思ったのだ。その気持ちには俺だけではなく他のみんなも同意見だったらしく、警戒して誰もこの男の言葉を鵜呑みにしようとしなかった。
俺がヴェルドラさんとの念話を試みてみても応答はなかった。やはり既に消滅しているのかもしれないと思うと寂しさが湧き上がってきた。だがまだ希望を捨てる事はできない。ヴェルドラさんは消滅してなおも自分の意思を残したままだったし、俺には『究極能力アルティメットスキル』があった。『大賢人アークセージ 』、『解析者アナライズマスター 』があればきっと何とかなるはずである。それにヴェルグリンドも俺のそばにいたのだから、その力を少し分けてもらえれば『究極能力』を手に入れる事は可能なのかもしれないのだ。
俺は早速『魂の回廊』経由で、自分の魂を分け与えてもらう事にした。俺の肉体はまだ死んではいないはずなのだ。この少女が俺の記憶にあった『聖女』であるのなら、その魂の力は凄まじいものがあるだろうと思われたのだ。
しかし結果は、失敗。俺はヴェルグリンドに力を分けてもらう事は出来なかったのである。その少女からは魂の波動を感じなかった。俺には全く理解の出来ない領域の話だったが、それでもそれがどういう現象なのかだけは漠然とわかってしまったのだ。その魂の力が、既にこの少女には存在しない事を。そして魂の繋がりが完全に断たれているという絶望的な結果だけが残ったのである。
これは予想していた事態でもあった。だが俺は諦めずに、少女に『究極創造』で新たな体を創るように告げた。だが少女の体は既に少女のものではない。俺の言葉は少女に伝わらない。その事に焦りを覚えた俺だったが、そんな俺に少女が話しかけてきたのだ。『貴方にこの肉体が扱えますかね?』と。それは確かに疑問ではあった。この少女が普通の存在ではなく、ヴェルドラさんと同じ立場の者であるとしたら、ヴェルダのようにその能力を受け継いでいる可能性がある。その場合俺の能力が通じない可能性があったのだ。しかし俺はそんな事に構わず強引に肉体を造らせた。その作業自体は上手く行った。そして、俺の願いを聞き入れたヴェルザードが、その肉体の中に魂を呼び戻してくれたのだ。そしてその結果、その新しい肉体の『魂の回廊ソウルライン リンク 』が繋がる事となった。
「ふぅ、どうなってるのか全くわからないけど助かったよ。ありがとう、君の名前はなんていうの?」と俺は改めてお礼を言いつつ尋ねたのだ。「ボクの名はカガリです! カガリ=コガと言います! よろしくお願いします!」と元気いっぱいに挨拶された。
「あ、あ〜カガリちゃんか。ところで君はさっき、ヴェルドラの旦那の生まれ変わりだって言ってたけど本当なのかい?」
「あ〜その件なんですが、実は記憶を失っていまして、ボク自身も信じられなかったのですが、何故か自分が『竜魔像』だったって覚えているんですよ。それに、この少女は誰ですか? この子からも不思議な感じを受けましたし」
そういわれて俺は初めてその存在を思い出したのである。俺はその『聖魔混合体セイスモニウム 』と呼ばれる存在を見て驚いた。『混沌竜カオスドラゴン 』であり『原初龍ガイア 』であるアムールと、『破壊の杖ノヴァメーカー 』であるヴェルグリンドが融合したような外見であったからだ。
そして俺は思い出す。
(そういえばこの娘の名前、聞き忘れていた。まさか、いや流石にそれはないか?)と思いつつも尋ねてみると、
「あー、ボクにも名前はないですね」
と軽く返されたのだ。だが、それは有り得ない答えだった。だってヴェルグリンドが『原初の破壊』と呼ばれた理由が、この『聖魔神霊覇王神』の存在であるのだから。
俺とミザリーは思わずお互いの顔を見合わせてしまう。そして、恐る恐る質問する事にした。「な、名前はあるよね?」と。だがその質問に対する答えは意外なものであった。
「いえ、名前がないので『聖魔神霊覇王神せいましんれいはおうしん 』と呼ばれていました。『覇皇道聖真帝はおうどうかてい 』とかも呼ばれていますね。それと、ミザリーさんが使っていた魔法『絶対防御陣』なのですけど、それ、この身体の一部なんですよ」
それを聞いた俺は頭が混乱してしまっていた。だが『究極能力』を持っているはずのミザリーの表情が曇っている事に気付いた俺は、「ちょっと、悪いんだけど確認させてもらっていいかな? その『覇皇の加護』を見せてくれる?」と、おそるおそる尋ねる。その問いに素直に従ったカガリの額にある目サードアイに俺の『魂の回廊 リンク 』の接続を確認して、『能力奪取 アナライザー 』を発動させるが反応がなかった。つまり『覇の宝珠フォースコア 』を既に体内に取り込んだ状態のカガリは『覇皇の証 エンペラーギア 』に進化してしまっているという結論に達したのだ。そして同時にこの世界の人間でない事がわかり、その事実に俺は心が沈んでしまう。ヴェルドラさんが俺にこの世界へと召喚させてくれたのに、このタイミングでこの展開というのは酷過ぎるのではないだろうかと。
しかしここで、俺の頭に一つ疑問が生まれた。このカガリと名乗る人物、本当にヴェルドラさんと関係がないんだろうか? という疑問である。見た目も似通っている部分が多いし、何よりこの雰囲気、どことなく魔王アムールを思わせるものが有ったのだ。そこで思いきって聞いてみる事にする。すると驚くべき回答が帰って来た。
「あの、すみません。そのヴェルドラさんって、ひょっとして『暴風竜ヴェルドラゴン 』、『竜魔像』ヴェルドラさんだったりします?」
そうなのだ。この目の前の女の子、俺の知り合いと瓜二つなのだ。
俺がそう問うと、カガリは驚愕の表情を浮かべて俺に詰め寄ってきた。
そしていきなり俺の手を握ると、「ああ! やはりそうなんですね! 貴方も、この少女の中に『覇気オーラ』を感じる。でも、ヴェルドラさんの時とは違ってなんだか少し違和感がある。やっぱり、何かがおかしい気がします」などと言い出す。
俺はこの少女が何を知っているのかわからず困惑した。しかしその時だ。
俺達の様子を見つめていたヴェルグリンドの様子がおかしくなった。そして突然、その少女に対して襲いかかったのである。俺は驚いて制止しようとした。だが間に合わない。俺は一瞬でヴェルグリンドを吹き飛ばしてしまった。
「ちょっ、アンタ一体どうしたんだよ! 大丈夫かい!? なんでこんな事──」「ご主人様! ヴェルドラが目覚めそうよ!」ヴェルグリンドが俺に向かって叫んだ。
俺はヴェルドラさんに視線を向ける。
その瞬間に俺は悟ってしまった。
ヴェルドラさんは既に死んでいなかったんだ。ヴェルドラさんは自分の意思を残したまま『魂の回廊 リンク 』を通じてこの世界に干渉してきていた。だからこそ、この『輪廻之天輪リリンテンワ 』の中で意識が途切れて消えても再び戻ってくる事が出来たのだ。
その事に気づいた時には、俺の視界は真っ暗になっていた。
そして俺の意識が薄れて行く中で聞こえた言葉。
「あ〜久しぶりだな皆。俺が誰かはわかるだろう? お前らの大好きな、ヴェルドラさんだよ。実は、ちょっと困った状況になっているみたいでね。それで助けて欲しいんだ。まず最初にお願いするのは『覇王竜王ロード 』をこの世界へと呼び戻して欲しい。『七曜の老師マスターオブジジイ』達も既に倒されているようだし、もう安心だと思うけど一応頼んでおくよ。あとは『大賢人アークセージ 』が居なくなった事で、少し問題が生じているみたいなので対処して欲しい。最後に、もし俺が間に合わなかったらヴェルグリンドに伝えてくれ。『我、今度こそ世界を平和にしてみせる』と伝えてほしい。俺の言いたい事はそれだけだよ。よろしく頼むぜ!」
そう告げるとヴェルドラさんは完全に消えたのだった。そして俺達は、ヴェルドラとの再会を果たしたのである。
2 ──『星幽界』。
それはこの世界を構成する精神のエネルギーの事である。魂の世界とも言われ、物質の世界に影響を及ぼす力を持った場所であった。そこには様々な『種族』が存在するが、その『魂の系譜』を辿るのならば、それは『霊子生命体スピリット 』と呼ばれる存在へと行き着く。彼らはその魂の根源的な力を具現化し、力ある『精霊』『魔物』や『魔獣』と呼ばれる『種族』を創り出していたのだ。『魂系譜図 』で言えば最上位に近い『霊子生命神 』であり、その存在の全てが謎に包まれた謎の存在であった。その正体を知ろうとする者すら存在しないほど、高次の精神体であり、その能力は想像を絶する程に強力である。その力は強弱ではなく、質の問題だった。『神性』というその本質的な意味に於いて、『神』にも匹敵するような力を持つ『高次元の存在』であったのだ。
そんな彼らが『世界創造の六柱神 』とも呼ばれる理由は至極単純である。この世界の創造神こそが彼らであったからだ。『創造主デウス』、この世界を創造し管理する為に生み出された管理者達が『創造神』と呼ばれていたのである。
だが『神』がこの世に誕生してから既に三万年近くが経とうとしていた。長い時間を掛け『神性』を昇華し進化した存在。それがこの世界で最強と呼ばれる種族『聖魔神霊覇王神 』であった。
そのカガリ=コガという存在に『覇王竜王』の称号を与える事をアムールは即座に決めた。そしてカガリを自分の『使徒』にするべく『聖約』を結ぶ事を決める。『聖約』とは魂を結びつける誓約契約の一種である。これによりアムールはカガリにあらゆる能力の使用を許可した上で、カガリが自分を守るように『聖結界 』を展開し防御させる事も可能となった。
そしてアムールはカガリに頼み、ミザリーやラミリスとも『絆 リンク 』を結んだ。それはアムールにとっても未知の領域であり、未知への挑戦であり不安もあった。しかし、それ以上に期待の方が大きかったのだ。
カガリは『魂系統魔法スキル 』を扱えるようになっていた。
だがそれはあくまでも『聖魔神霊覇王神 』として目覚めたカガリの力の一部に過ぎないのだった。その本当の実力はまだ発揮されていなかったのだ。
(『究極能力アルティメットスキル 』と互角以上の戦いを繰り広げる事が出来るのか)と。
そう考えた時に思い出したのはベニマルだった。
そう、カガリは魔王種として覚醒しつつあるのだが、それ故にベニマルのような『究極能力 』を持っていないのである。
(いかんなぁ、この先どうしよう?)などと、暢気に考えているアムール。その表情は楽しげでもあった。
そしてミザリーは、
「あー、えーっと、カガリ? さん?」そう戸惑いながらも、カガリに話しかけていた。そのミザリーの様子を、ヴェルグリンドが微笑ましく見守る。その視線を受けて恥ずかしい気持ちになり、ミザリーは俯いてしまう。そしてその様子から、このミザリーとヴェルグリンドの二人が恋仲なのは明白だと理解してしまっていた。そして自分が入り込む余地がないだろうと思うと落ち込んでしまうのも仕方ない事であろう。ミザリーにとってのカガリの登場は嬉しい事であると同時に悲しい事だったのだ。その表情には諦めの色が浮かんでいたのだった。
だが、ミザリーの言葉に対する返事はない。その事に気がついたミザリーは顔を上げて、再度声をかけようとする。だが、そこでカガリの様子がおかしい事に気がついてしまう。カガリはその小さな拳を握り締め、その表情からは激しい怒りが見て取れた。
だが次の瞬間にカガリは表情を一変させ、笑顔を見せたのだった。
「初めまして。私の名はカガリです」そう自己紹介をする。
その変わり身の早さに驚く二人だったが、すぐに落ち着きを取り戻す事が出来た。そしてカガリと名乗る少女を観察する。その雰囲気に既視感があるような気がした二人はお互いにアイコンタクトを取り合い、確認作業に入る。そして、やはり同一人物ではないかと結論づけるのにそう時間は掛からなかった。そしてミザリーとヴェルグリンド、それに『大賢者』クレイマンも同じような感覚を持っていた。しかしカガリから感じる気配の強さに驚き、その結論には至らなかったのである。しかしヴェルグリンドだけはその答えに至り、『輪廻之天輪』が作り出した擬似的な肉体であるにもかかわらず、その身が微かに震えるような錯覚に陥る程の衝撃を受けていた。
「私はカガリと言いますが、ヴェルグリンドの双子の姉です」その言葉に今度はヴェルグリンドが驚愕の表情になる。そして慌ててその言葉を訂正しようとした時だった。「その件についてなのですが──」
突然ソウエイが言葉を挟むと、その表情は更に険しくなった。「ちょっと待って下さい。今、なんて?」ヴェルグリンドはソウエイに向かって鋭い視線を向けながら問い掛けた。その言葉が信じられずに混乱しているのだ。そしてソウエイから返ってきたのは、あまりにも意外な内容だった。
ソウエイは、カガリが『ヴェルグリンド』の姉であるという言葉に納得出来なかったのである。そしてそれは事実であり真実なのだと説明を続けた。『魂の系譜』を辿るのならば、カガリもヴェルグリンドと同じ『創造神 』であるはずで、姉妹というのはあり得ない話だと思ったからである。その言葉に反応を示したのが、『魂系譜図』を読み取る事が可能な大魔法使いであるヴェルグリンドだった。そしてソウエイが読み取った結果を聞き終えると、その瞳に涙を浮かべ、嬉しそうな顔をして抱きついた。
そんな様子を見ていた他の者達の反応はマチマチだった。だがその誰もが驚いたり喜んだりと感情は複雑に揺れ動く事となったのである。
3
『星幽界 』に存在するカガミリナは『覇王竜』の姿のまま、アムールの前に座っていた。その姿が幼女なのは仕方ないが、ヴェルドラさんのように人化しなかった理由は簡単だった。『輪廻之天輪』の『星幽界』に居れば、物質界の生物に影響が出る事はないからだ。その証拠に、人化して行動する事も可能である。
カガリはアムールに向かって深々とお辞儀すると、「よろしくお願いします。『覇王竜王』の称号を持つ者として、貴女の為に戦いましょう!」と力強く言葉にした。それは心からの言葉で、偽りのない本音であった。
カガリの言葉に嘘は感じられなかった。それはヴェルグリンドも同じである。だからこそ、疑問を感じてもいた。何故カガリは自分達に敵意を持たないのだろうか? というのが正直なところだった。だが、その理由は単純だった。
この世界に『魔王』が五人も誕生してしまったという事は『大迷宮 』で既に把握しており、カガリはそれが『聖魔神霊 』である『創造主』達の仕業だという事は察していたのだ。『聖魔神霊 』はカガリを封印し閉じ込め、この世界を管理している『大迷宮』を生み出した存在でもある。そしてカガリは、『大賢人』達を倒す事でこの世界を救い、再び元の世界に戻るつもりなのである。
そんな状況の中、『大迷宮 』を攻略してきた『星王竜』ヴェルドラが現れた。そしてアムールに『七曜の大魔道マスターオブダークネス 』の魔石を捧げるという暴挙に出るという前代未聞の行動をやらかしやがったのだ! 当然『聖守護天使ホーリーセイントエンジェル』がそれを許すわけもなく、『魂系譜図』の情報により、その力を解析する為、ヴェルザードによって拘束されてしまったのだ。
この世界では、『創造主』達は絶対的な力を持つ存在である。その力の差を考えるならば、本来ならそんな無茶は出来ないはずだ。しかし、そんな事を全く気にする素振りを見せていないどころか、そんな常識など関係がないとばかりに好き勝手やる『創造主 』達に、カガリは嫌悪感を抱く。しかしだからと言って『創造主』である『創造主 』に逆らう事も出来ようもない。カガリに出来るのはせめてもと、ヴェルドラへの対抗策を考えた。その結果、その力が『究極能力アルティメットスキル 』に匹敵するのではないかと考えた。
つまりヴェルダナーヴァの力に対抗出来る手段があるという事。そしてヴェルザードが、カガリに『聖守護天使ホーリーセイントエンジェル』の能力を付与してくれた。この能力は、相手の『魂の系譜』を把握する事が可能であると。そしてカガリは『聖結界 』の展開が可能となり、『創造主』の干渉から守れるようになっていたのであった。
こうして、『聖守護天使 』カガリが誕生した。そして、この能力を得たカガリは、ヴェルダがアムールと戦うのを止めるべく『星王竜』の元に向かう。それは『魂系譜図』を紐解く事で導き出された必然だったのだ。カガリにはわかっていたのだろう。この先に待ち受ける結末が。
ヴェルグリンドと『聖守護天使 』は姉妹であるが、その魂の系譜を辿って行くと『神滅覇王』へと至っている事に気がついたのは、カガリにとっては幸いだったかもしれない。『魂の系譜図 』を読み解きヴェルダの目的を知った時に、自分の運命も知ってしまったのだ。
『神造 機神兵ゴッドマシンドール 』と融合し『神祖竜神ヴァンパイアロードドラゴン 』の力も得る事が可能になった『覇王竜』ヴェルドラだが、今の段階ではその力は完全ではないようだと『魂系譜図 』から読み取っていたのである。故に、ヴェルグリンドもヴェルグリンドも、この先の未来が明るいとは考えていなかった。
カガリがヴェルダの元へ赴くのであれば問題はないが、カガミリナはアムールに協力して戦うつもりでいた。この世界でヴェルダがやろうとしている事を止めねばならない、と。そうでなければ、この先何度でも繰り返し起こるであろう悲劇が繰り返されるだけなのだ。それを阻止する為にはヴェルダを討つしか方法はないと考えていたのである。
そして、そんなカガリに対して、アムールが「カガリも、一緒に戦ってくれるのか?」と問う。
それは願ってもいない提案だったが、カガリには躊躇する理由があった。
ヴェルグリンドはカガリの表情から全てを読み取り理解したが、ミザリーにはその意図が理解出来なかった。しかしミザリーにも、何か事情があるのだろうと察し、カガリに優しく微笑みかけた。それはまるで母親が子供を慈しむかのような優しい眼差しだった。その笑顔を見て、カガリの瞳からは一筋の涙が流れ落ちた。
カガリには理解したのだ。
ミザリーもまた、『魂系譜図 』の『系譜者 』の一人だった事に。
『系譜者の宿命』は『覇王竜』であるカガリの意識の覚醒と同時に発動し、カガリにその事実を伝えてくれていたのである。「はい。この身果てるまで、お側にいます」
ミザリーに促されたカガリはその言葉と共に深く頭を垂れる。その様子にミザリーは涙を流しながら、強く抱き締めるのだった。
「カガミリナ。お前は私の娘も同然だ。遠慮する事はない。家族と思って頼ればいい」
そんな言葉をかけてくれるカガリに対し、「お、お姉ちゃん! ありがとう!」
涙をポロポロ流し抱きつきながら礼を言うカガリであった。
4 ミザリーは、カガミリナの言葉を聞いて感動に涙をこぼしていたが、そのカガミリナは突然泣き出してしまう。その涙の意味がわからず狼惑していた。カガミリナはそんなミザリーの耳元に唇を寄せると、「お姉様、ごめんなさい。私は貴方の妹ではないの。私は、貴方の『真なる母』から生まれた『真なる妹』なの」と告げ、そのまま『魂系譜図 』に意識を向けると、その情報を書き換えた。
それにより『星幽界 』で生み出された存在であるカガリの存在は、『大賢者 』の『全智慧の書』から消え去ったのである。これにより、『輪廻転生システム 』による復活が不可能になったのであった。しかしカガリがそれを知る事はないだろう。何故ならばカガリはこの情報を知らないまま、ヴェルダの元に旅立とうとしていたからだ。カガリに『輪廻転生システム 』の説明をする暇がなかった以上、それを気付かせないようにする事が正解だと判断しての事だ。
そんな二人の様子は当然、傍観者であるヴェルグリンドにしか見えていないのだが、その言葉に驚く。そして慌ててその真偽を確認する為、自身の能力を発動させたが、『大賢人』の力をもってしてもカガミリナの能力を解析する事は不可能であり、その情報が得られない事に驚愕し絶望に打ちひしがれたのである。
(私の能力で、何も出来ない!? これは『大賢人』の能力を持っていても不可能な事。そもそも能力の範疇外の存在という事なのか?)
それはヴェルグリンドが『星王竜』として生きて来た時間の中で一度も感じ取ったことのない未知であり驚異であり、同時に畏怖すべき存在であった。そんな存在を生み出した『創造主』達の思惑はなんだろうか? その目的はなんだろうか? そして、その存在がヴェルグリンドにとっての脅威にならないと断言できるかと言えば、否、である。だがヴェルグリンドがこの世界を守ると決めたのならば、それは脅威ではなく希望となるのだ。その想いは、『覇王竜』ヴェルグリンドがこの世界に生まれ落ちて、今まで守り続けてきた信念でもある。そして、それは『輪廻之姫リリィス』と融合した『星王竜 』である今も変わらないのであった。
5
「ちょ、ちょっと待ちなさい! そんな大事な話なのに勝手に話を終わらせないでよ!」
と、そこで我慢出来ずに叫んだのはラミリスだった。その声に全員が反応する。
しかしヴェルダも『輪廻之天輪』の効果で動けなくなっているようで、「ヴェルグリンドはボクに逆らえないハズだよ?」と不思議そうな顔で問いかけるが、ラミリスはその言葉を無視して続けた。
「いいわ。じゃあ私が証明してあげる!」
そんな事を大声で宣言するラミリスに、「おい、ラミリス、どういうつもりなんだ!」と俺が慌てたのは当然の反応だろう。ヴェルドラさんやディアブロは嬉しそうにしているけど、俺は意味不明過ぎて混乱しているのだ。というか、何を言い出すんだこいつは! と思ったのだ。そしてそんな事を考えていると、
「『星王竜 』が私に敵対行動を取って来たからね。当然よね?」
などと言いやがった。そして続けてこう言ったのだ。
「ヴェルダナーヴァが何を考えてるかは判らないけれど、こんな理不尽な仕打ちを受けて大人しく従っているわけにはいかないもの。ヴェルドラはともかく、アタシは許さないからね!!」
そう言い放つと、ヴェルダに向けて右手を向けたのである!
「ラ、ラミリス、まさか、おまえ、ヴェルダナーヴァに喧嘩を売るつもりなのか!?」
と、思わず叫んだ俺だったが、それに対する答えはなかった。
次の瞬間──ヴェルダが光り輝く粒子に包まれ、その姿が変化して行く。それを見た皆は、驚愕し硬直したように動かなくなった。いや、『聖守護天使 』カガリは涙ぐみながら、そして他の者はその変化を凝視したまま、誰一人動く事も出来ないのである。
そして、そこに立っていたのは紛れもなくヴェルダ本人だった。しかしその髪の色も白銀に変わっていて、瞳の色は金色に変化しており、その表情は穏やかな微笑を湛えたままであった。それは間違いなく『輪廻之王ネフィリム』と融合したヴェルダンディそのものなのだが、どこか違和感があったのだ。ヴェルダンディの時は冷徹さを孕んでいた雰囲気がまるでなく、むしろ優しさを感じる程なのだ。それが一体どうしてなのか、俺にはよくわからなかった。
(あれ? こいつらって姉妹みたいなものだから似てるんだよな? だとすると見た目だけ同じ別人とかそういう事はないのか?)
などと思考の片隅で考えながらも警戒は解かずに様子を伺う。そんな中で動き出したのは『聖守護天使 』カガミリナだった。ヴェルダに駆け寄ると、
『聖守護天使 』の力を解放させ、究極能力アルティメットスキル『聖守護天使ホーリーガードエンジェル』を発動させる。
その力は『魂系譜図 』によって得た知識通りで、魂の系譜を辿る事により『神造生物 』『機神兵』等の情報を読み取る事ができる能力であった。これにより、ミザリーに埋め込まれていた魂系譜図を読み取り、その情報を得たのである。そしてその力を解放しヴェルダを守ったのである。
「お兄様! 今です! 早く封印の解除をして下さい」と、ミザリーの声が響く。どうやらその声は俺達以外には聞こえなかったようだ。その言葉で我に返る俺。
「お、おう! 任せろ!」と、ミザリーに向かって応えると同時に、『無限牢獄 』を無効化する為にその効果範囲を指定し、『隔離空間 』を解除したのだった。
「クフフフフ。お見事ですね。ミザリー。やはり私では貴女に勝てそうにありません。私にはまだ成すべき事があるのでこれで失礼します。いずれまた会いましょう」そう言って『真なる死神 』ゲルルギーがその場から掻き消えた。恐らくその『固有結界 』と『多重精神分離体アバター』とを切り離し、この場を去ったのだろう。
しかし、『魂系譜図 』によりヴェルダーナの『輪廻之王 』の力が解放された事は理解出来たものの、その能力は解析不能だった。
魂の系譜を探る事で得られる『真なる死神 』の『魂の系譜図』は魂の本質情報を知る事が出来る能力だと思っていたが、それさえ解析出来なかったのである。
これはつまり、『魂系譜図 』でも解析できない情報があるという事に他ならないのだ。『大賢者』の『全智慧の書』をもってしても、ヴェルダの能力は解析不可能だという結論に達してしまう。
しかしヴェルダルナに関してはミザリーの言葉に従うような素振りを見せ、自ら姿を消した。
(これは一体どういう状況なんだ? ミザリーは『星王竜』の力を得ているとはいえ、今は俺の妻。そのミザリーの言葉を無条件で受け入れたという事か?)
ヴェルダールが去った後、俺達はヴェルグリンドに事情を話した。
すると彼女は「ふむ。なにか裏がありそうだが、ひとまず信じよう。それよりもヴェルグリンドの様子が少し変なのよ」と言う。ヴェルグリンドの様子がおかしいと。
「なにかあったのか?」と尋ねると、ヴェルグリンドは自分の能力を使いヴェルダの能力を分析しようとしていたのだが、全く情報が得られないらしいのだ。その事実は衝撃的で信じられないものだったが、ヴェルグリンドの様子を見ていて、もしかするとヴェルダとヴェルグリンドの間には能力的に何らかの干渉があって情報が制限されているのではないかという意見に至ったのである。
そして、その推測を証明するかのようにヴェルダは『魂系譜図 』で『魂系譜 』の情報を得るのを拒否したのだ。それにより『魂系譜図 』の能力によるヴェルダへの情報流入は完全にストップしてしまったのである。その事を確認するヴェルダの様子から、少なくとも情報の制限はヴェルダにも有効という事が判明した。しかし、その情報の遮断が何を意味しているのかは不明だ。その情報制限が解除されたならば『魂系譜図 』の解析も可能となるのかも知れないが、現状は不明のままであった。
ともかく、ここで俺達が『星王竜』に敵対する事は不可能となった訳である。『輪廻之王』の能力が解放され、更には『輪廻転生システム 』の管理者でもあるヴェルダの力が失われたのだ。これ以上、敵対しようとは流石に思えなかった。
だが『聖守護天使』カガミリナは納得しなかったのだ。そして、
「私は諦めません。必ずもう一度、お父様に逢います! その時こそ私の気持ちを伝えるんです!!」と宣言したのだ。そしてそのまま、再び『星王竜』に挑もうとしたのだ。
その様子に慌てて、俺はカガミリナを止めるべく走り出そうとするが、その直前にヴェルグリンドが俺の腕を掴み止めた。そしてヴェルグリンドは言う。
「まあ落ち着きなさいよ、『魔導人形ゴーレムチャイルド』。貴方は強いのだから『星王竜』に挑むより他にやるべき事があるでしょう? この場は見逃してあげますから、自分の為すべき事をしなさいな。いいかしら、カガミリナ? 私とリリアナの愛娘なら、ちゃんと役目を果たしなさい」と。
カガミリナは驚きに目を見開きつつも、「えっ!? リリアナお母様はヴェルグリンドお姉さまの娘なのですか?」と聞き返した。それに対してヴェルグリンドは微笑み、「そうよ。『聖守護天使 』も知らなかったのかしら?」と答えつつ、カガミリナに優しく手招きした。
「お、お母さん!?」そう叫びカガミリナに駆け寄ろうとするが、俺が掴んだままの手が邪魔で上手く近づけないようである。
そして、カガミリナに近付いたヴェルグリンドは、「貴女の願いは判ったわ。だけどその気持ちは大事にしておきなさいね」と言いつつカガミリナを抱きしめると、その胸に抱かれた『聖守護天使 』が一瞬だけ輝き、その姿を変化させたのである。
その姿はまるで幼き少女の姿。ヴェルグリンドの幼少期にそっくりの容姿になったのだ。その光景にヴェルグリンド自身も驚いていたようだったが、俺にとってはヴェルドラさんと同じような現象にしか見えず、あまり気にはならなかった。
ただ、
「ちょ、待て。今カガミリナに何が起こったんだ!?」と、思わずヴェルグリスに尋ねてしまったくらいだ。
「さ、さあ? よく解んない。私にもよく解らなかった。ただ、なんか懐かしいような不思議な感覚があったのよね。多分それがカガリの本当の姿なんだと思うんだけど──まさかあの子ってばこんな子供時代からやり直してるんじゃ──いやいやまさかそんな馬鹿げた話が──」
という事で結局、よく解らないけどカガリが幼女化した!
(という事で終わり!)という結論に落ち着く事になった。
ともかく『星王竜』との戦いを回避出来た事は喜ばしく思ったが、それは俺だけだったようである。どうも他の皆はあまり嬉しくは思ってくれないようだからだ。そしてその原因はミザリーにあった。彼女は『星王竜』に攻撃を仕掛ける機会を伺っていたのだ。
どうもその攻撃というのが、『星王竜』を滅ぼせる唯一の手段であるらしく、『聖守護天使 』としての本懐を遂げるのが悲願なのだろうと思われた。
(ミザリーってば、どんだけお人好しなんだ? せっかく争いを回避出来るチャンスだったのに、それを無にするような真似をするなんて)
と思ったが、よく考えるとそれも仕方のない事だと思える。ミザリーは家族を奪われている。つまりは復讐を望んでいる可能性が高いのだ。それを考えると『星王竜』に対する怒りが抑えられなくてもおかしくはないのだった。
そして俺はその事に気付き、ヴェルグリンドを問い詰める事にする。その行動に気付いていたらしいヴェルグリンドが、溜息混じりに教えてくれた。
「そう言えば、『聖守護天使』にその話をしていなかったのを忘れていたのは謝るわ。ごめん。ミザリー。実は私も、『輪廻之王 』で読み取れる情報に制限があるようなのよ。今のはリリアナの記憶にある『真なる死神 』と『機神兵 』の魂の系譜から、ある程度情報を推測する事で解析出来ただけだから。それにそもそも、あの子は私の娘であって貴女の姉ではないのよ? 貴女が知らないのだって無理がないの。あの子の能力は『魂系譜 』ではなく『輪廻転生システム 』によるものなの。貴女のように『輪廻転生システム 』によって転生を繰り返し、能力を獲得するタイプとは違うみたい。『輪廻転生システム 』では記憶を引き継ぐ事もないし、能力獲得の為に同じ世界に二度生まれ変わる事もない筈なのだけれど、何故かそういうルールを無視できるのよ、ミザリーの場合。しかも能力自体は全て同一なのよ。本当に不思議だわ。だからこそ私には『輪廻転生システム 』でのスキル進化の仕組みを理解出来なかったのだもの。だから、今度から貴女にも話すようにしておくから、それで勘弁してくれる?」
と説明をしてくれた。確かに俺の妻達の能力も似たような感じだったのを思い出した。俺の妻達の場合は、本人が強く望む事があれば新たな能力を獲得できるのだが、その場合は能力名が変わるのだ。
そして俺の妻達の中でもミリムの持つ『魔力操作 』は特別で、ミリムの感情に合わせて様々な能力へと進化する能力である。
なので、今回ヴェルグリンドの説明を聞く限りでは、カガミリナの能力はミザリーとは根本が違うのかも知れないと思うに至ったのだ。
(でも『大賢者』によれば、『大賢者』の『真なる死神 』は魂の系譜を読む力だと言っていたので、ミザリーが持つ能力は魂の系譜に関わる何かである可能性が高いような気がしないでもないが、その事に関してはミザリーは話したがらないだろうからなぁ)ともかく、俺達はヴェルグリンドの言葉に従い一旦引く事にしたのである。だが、ヴェルダの『魂系譜図 』による制限解除が不可能になった以上、次にヴェルダに遭遇出来ても敵対の意思を示すべきではない、という意見は一致していた。下手な敵対行為を見せれば即座に殺される。それは先程の戦いで十分過ぎるほど思い知らされていたのだ。
こうして、この場で争う必要がなくなった俺達はそれぞれの目的地に向けて旅立った。まずはこの大陸を離れる必要がある。そして、この世界に残る理由もなくなったのだ。
「ところでラプラス、俺は魔王になるつもりはねえよ?」と一応言っておいたのだが、「ふむ。そうであろうか? まあ、どちらでも良い。我にとって興味のある事は、お主の力を試す事のみ」と言うので好きにさせる事にした。
正直、俺の予想以上に強くなり過ぎていて勝てるイメージが全く湧かない相手なのだ。まともに戦うのも恐ろしいのに、勝負しようなんて思えない。
そのせいかラプラスが言う通り、もう戦わずして仲間になった方が平和に過ごせそうな気がしてしまっていたのである。
しかしそれでも念の為、俺の能力が通用するかも確認してみた。
「じゃ、行くぜ!」と、俺が『空間転移』で移動しようとしたら、
「ちょっと待つのだ!! お、おおお! なんじゃその技は!
『魂の系譜図 』の能力に存在しない!? なんなのだおぬし! やはり只者ではなかったのか!!」
「えっ!? ちょっ、お、落ち着けって。えっと、『虚数空間』! よし、成功! えっ? これ『魂系譜図 』には載ってなかったのか!?」
『空間転移』は『空間魔法』の一つなんだけど、俺的には『亜空接続 』とかの方が便利なんだよね。まあ『亜空切断 』は強力だけど燃費悪いし、使用禁止を言い渡されてて使いにくいのもあるんだけど。
という訳で再び移動を開始。今度は『魔狼召喚(フェンリル)』に乗っていく事にした。『虚数空間』の亜空間の中は時の流れが止まるらしいので、『魔狼召喚(ウルフサモン)』の『魔核修復』を使っておけば腐ったりもしないだろうという判断からである。
そうそう、ついでにミリムの分身を作っておいてやろう。あの子はきっとまた暴走して勝手に暴れそうだしね。
そうして『魔狼王(黒牙)』に乗りながら思う。
この世界に残った意味、あるのか? と。『虚数結界』で守っていれば、俺に敵対する者もいないし。このままのんびり暮らすのも悪くないかな、などと本気で考えていた。
(ああ、そうそう。俺が創った『精霊回廊通信』はどうなったんだろ?
『悪魔契約』は発動してない筈だし大丈夫だよな? いやまあ、その辺りの検証も含めて色々やって行こう。どうせ暇なんだしさ! 何より俺はまだ子供だ。もっと自由に楽しく生きていくのさ!)
この時の俺はまだ知らない。
後に訪れる悲劇と絶望の未来など。
──『八星魔王』と恐れられる事になる存在。その頂点に立つ者が誰なのかなど。
◆後書き◆ いつもお読みいただきありがとうございます。
本編と同時更新になりますので宜しくお願いします。
(カガリの事は気掛かりだけど、仕方ない。今はまずクレイマンをどうにかしないとね。その為にも俺は、俺が使える最高の能力アルティメットスキルを使う事にする! そう、その能力こそ究極の『鑑定』!)
その能力がどんなものかを、今まで使ってきた者達の例を照らし合わせて想像する事にする。その結果、『解析』の上位能力『解析之王ミカエル』である事が判明した。ただし『暴食之王ベルゼバブ』が進化した『万象喰之王アザトート』が、相手の持つ技能を全て自分の物に出来るという反則的な能力だったので、『暴虐之王スレスレ』というネーミングが浮かんでしまったのだが、これは秘密にする事にする。
という訳で、とりあえず『解析之王ミカエル』に意識を向けてみよう。『鑑定 』の上位版なので対象を詳しく見る事が出来る。ただし、自分と同等以上の力を有する者については見れないのは当然だ。
そして『万物一体化』の効果もあって、視界に入っていない部分まで認識出来ている事がわかった。例えば、相手の心臓を握り潰したりしている場合でも脳波を読み取れる為、正確に位置を知る事が出来ているようである。ただこの効果は、直接その部位に触れていないと行えなかった。
(うん、確かに『鑑定 』とは違うけど上位互換みたいな能力になっている。それに、『魔力感知』、『龍脈視』、『大賢者』とも連動している。これでかなり広範囲の情報が手に入れられるんじゃないか?)
そんな風に思ったが、『聖浄化之王アスファリア』の力を得た『天照 』により、既に広域探知能力を手に入れていた事に気付いて、あまり関係ないかと考えを改める。
それに『解析之王』の使い方が、少しわかってきているのも気になっていた。
(やっぱり俺が一番強く感じ取れる情報は心の声のようなもの。そして、それを俺の知りたい情報と重ね合わせる事で知る方法。『思考共有 』で得た情報と重ね合わせると更に深く理解出来る。あと『魂の系譜図』のように、相手の持つ固有能力を解析する方法は便利だな。それに俺の『波動複写 』を使えば、その能力そのものを完全に奪える。でもその前に、俺のコピーである『魔核創造 』によって生み出した『魂の系譜図 』を持つ相手に試す必要がありそうだ。俺の『完全記憶能力 』で、奪った『解析』の派生能力を使いこなしていける自信はあるし。よし、試すのはミザリーにしよう。彼女は魂系譜図を持っていたからね)
それから『魔核作成』で作成したミザリーそっくりの『人形』を造り出す。勿論この『魂の絆』の『人族形態』である。
『人形遣い 』とでも呼ぶべき能力を持つ『魔王竜騎団 』のミザリーが、『魂の系譜図』を持っていて助かった。この能力があれば簡単に俺の『魂の系譜図 』の中に取り込む事が出来るからだ。そして俺の能力として取り込んだ結果、彼女の魂は消えてなくなったが、代わりに俺の魂に融合してしまった。俺と魂で繋がった事で、俺が『魔核』や『魔力』といったエネルギー体を生み出せるようになった。
ミザリー本人は俺に殺された事になって消えたし、『大賢者』に調べさせてもわからない。そして『人形師 』の力で作り出した『自動人形オートドール 』は、その『魔核』も破壊されていたので回収も不可能であった。しかし俺の『魂の系譜図 』の中にはしっかりとミザリーが存在したのだ。
こうしてミザリーは俺の魂に取り込まれ、その魂は『魂の系譜図』とリンクしてしまっているため『魂の絆』は使えなくなってしまった。しかしそれは、魂系譜図の複製である魂の系譜図を持たない相手なら問題ないという事も判明したのだ。『魔王竜騎団 』の他の皆は、それぞれ配下として存在している。しかし『人形』の『魔王竜騎団 』達は全員魂系譜図は持ってはいないのだから。
(魂系譜図を持っている者は、『魔王竜騎団 』の中でも少数しかいないみたいだなぁ。まあ今は置いておこう。『悪魔公デーモンロード』のラプラスが魂系譜図を持ってたんだから、『魔王種』は全員が持っていておかしくない筈なんだけどなぁ。うーん? あっ! そういう事か!)
俺が疑問に思っていたその時だった。突如、『魔王』達の持つ特別な能力が発動されたのを感じると共に、俺はある結論に辿り着く。つまり『悪魔』には『魔王』としての能力は使えないのではないか? という事に。そもそも『魔王種』が持っていたであろう、その『悪魔王ディアブロ 』という『称号』は失われているのだ。その可能性は非常に高い。ならば俺にも扱えるのではなかろうか。俺は『悪魔契約 』を改めて試してみる事にしたのである。
そう考えた俺が最初に思い付いたのは、俺と魂で繋がる『悪魔 』と強制的に契約を結ぶ、というものだったのだが、これは『魔王契約 』では不可能らしい。しかし『悪魔王 』の称号持ちのアムールが、『魔王』の力は使えると言った事から、恐らくだが『悪魔契約 』で契約可能なのだろうという確信に至ったのだった。
という訳で、『悪魔契約 』の能力の一つ、悪魔の血を操る『血液操作 』を使って自らの身体を流れる血液を操作してみた。すると突然自分の意思とは関係なく動き出した。しかも自分の意思に反して自分の口の中に入ってしまう程だ。そこでハッとしたように自分のステータスを確認して見ると案の定レベルが上がり『吸血鬼ヴァンパイア』へと進化していたのである。
(やっぱり!!
『魔王化』の発動条件を満たすのに、俺自身が魔王の力を行使する必要があるのかもしれないな。でもそれじゃあ駄目だ。俺が使うんだ!)
自分の力で自分の能力を発動する事に拘ってみたが、上手くいかなかった。俺の中の『大賢者 』の意識に問いかけるも、「その力は既に主のもの」と答えるのみだった。
そうして俺なりに『大賢者』との意識会話を続けながら考えをまとめていく。
俺が本当に求めているものはなんなのか?
『究極能力アルティメットスキル』は手に入れた。それで充分じゃないのか? いや、違う! もっと大きなものを求めなくてはならないのだ。この世界の全てを手中に収める。そしてその頂点に君臨する王になるのだ。だからこそ『悪魔契約』による、俺自身の強化が必要なのだ。
俺に必要だと思う能力。それは、
「究極能力アルティメットスキル 創造者クリエイター!!」
この世でたった一つしかない『固有ユニークスキル』を生み出す『大賢士アナライズマスター 』
あらゆるものを創る事ができる究極創造者クリエイトマイスター!
『大賢者 』の言う通りだ。
俺には『魔王 』となる才能があった。
そしてその『魔王』が持つに相応しい力がある。
それはこの世の全ての法則を支配する『神智核マナス』なのだ。
この世界にある、全ての法則を超越した、その先を見通す究極存在! 俺の魂の中に住む存在! 俺の『悪魔契約 』で操る事の出来ない魂の奥底にいる、その真の主! その存在が今! その力を解き放ったのがわかる! そう、『悪魔』と契約するのは簡単だけど、俺はその力を、その『本質』を使う事を望んでいる。『魂の系譜図』に縛られ支配される事ではない。俺の『心 』を、その全てを委ねる事で得られるものこそが『本当 』の契約であるべきなんだ! そして、俺の中に流れ込んできた莫大な『情報量 』としか表現する事のできない何かは、『心 』を書き換えていく。
俺の中に、その力への扉が開いていた。
その力が、俺の意思に呼応するかのように、ゆっくりと解き放たれようとしている。
(これは、もしかして!?)
そして、 ── アムール様、ご命令を。
声にならない言葉を聞いた。それは、紛れもなく俺の中で眠り続けているはずの者の言葉。
俺は、 その声に従い
『魔王創造デモンバース』により、 世界を 変える 事を決意したのだ。
俺の魂は、再び深い深い闇に落ちていった。
さあ目覚めろ。我が魂よ。
目覚めし時、この世に混沌を。
『我願わくば万物の支配と滅亡を。』
覚醒と同時に、この世の全てを支配したのが感じ取れた。
『魂の系譜図 』により、この魂の持ち主が、どんな人物だったかもわかっている。そして魂が求めるままに、『万物創造』を発動させ、まずは自分の姿を、自分の望む最強の『姿』に変化させた。
俺は今、新たなる支配者の姿となった。『大魔皇帝』。これが、これからの世界の支配者に相応しい名だと思った。
次に『情報統括』で、全世界に存在する全知的生命体の情報を集め、俺の前に集めた情報を表示する。『解析者』が進化した『情報解析』の効果だ。
ふと疑問を感じた俺は、俺が創造せし種族を鑑定する事にした。
《確認致しました。種族:大魔王を『魔皇竜騎団 』、『大魔帝国 』へ組み込みます。『魂の系譜図 』より魂の完全再現が可能となりました》 魂系譜図にて解析可能となっていた者達には全て魂を再現し、『解析 』の応用である『完全記憶能力 』の『解析』機能で完全記憶している。これにより魂の系譜図を持つ者の完全再現に成功したようだ。
そしてこの世界に散らばる様々な情報を纏め上げ、整理統合。そして更に、今までこの世界で生きていた全ての知的生命体を検索。俺に従う『従僕』とそうでない者とを分類し選別。その上で『配下創造』を使用し『魔王種』を創り出し配下へと加えたのである。
そうやって俺はこの世界で自由に動く事が可能となった。
(よし、『魔族召喚サモンロード』。
この世界に存在する魔物を呼び寄せる。そしてその力を吸収するとするか)
俺の呼び声で、『魔王種 』のゴブリンロードが、俺の配下へと加えられた。俺の持つ魔力の半分を与えて配下に加えるのが通常のやり方なのだが、今はそんな時間はない。一気に全部吸い上げるとしよう。
(うわー、すげぇ!! 魔力が溢れてくる! それに『魔王の覇気』も、こんな使い方ができるなんてね。俺に敵対する者を無条件で服従させる力か。まあいい。この力は使わないでおくかな。
この世界の法則が、今の俺には理解できた。この『魔核エネルギー』というものは凄いな。これを使えば、簡単にエネルギーを生み出せるわけだから、無限のエネルギーを持っているようなものじゃないか! エネルギーさえあれば何とでもなるしな。エネルギーは有限でも工夫次第というところか。まあとりあえずこの辺りでいいか。後はまたゆっくり考えていこう)
そして次に『悪魔契約者』としての能力の確認である。
魂の系譜図に新たに表示されたのは、『魔王竜騎団 』、『悪魔公デーモンロード』、の二つの存在だ。
魂系譜図を確認すると確かに、『悪魔公デーモンロード 』の『魔王竜騎団 』の『悪魔公ロード 』として表示されているが、その魂の系譜図の中身が明らかに違う。俺の魂から、完全に独立しており、既に俺とは別の魂が存在している事が見て取れる。
(成る程。これがミザリーなのか。魂系譜図が独立しているのは、『悪魔契約』ではなく、『悪魔創造デモンバース』を使ったからなんだろうな)
そしてもう一つ気付いた事がある。魂系譜図から『大魔王』が消えているという事。これは『魔王種』に取り込んだからであろうと思われる。そして新たに追加されたのは、『悪魔大公デモンズジェネラル 』。これは『大悪魔公爵デーモンロード』の上のクラスなのだろう。これも俺の魂から生まれたのだと思う。
『魔王竜騎団 』の『悪魔大公デモンズ』。これは恐らくだが『七魔王連盟』という『軍団』を率いる事になるのではないか? そう考えた。『悪魔創造デモンクリエイト』で生み出す事ができる『軍団』の仕組みについては、『大賢士アナライズマスター』の説明を受けたので理解した。
そうして俺はこの『魔王軍』を統括するべく、行動を開始したのである。
(よし。じゃあ次はっと、俺自身の能力を確認しておくか。『究極鑑定アルティメットアナライズ』『究極結界アルティメットバリア』。それと『大魔王覇気ダークネスオーバーロード』)
俺は俺自身を、究極的に鑑定した。
(な、なんじゃこりゃ!? なんだよ、このスキルの量は!! しかも『究極付与エンチャント 』ってのがあるぞ! しかもなんか俺が俺でなくなる感じがするが大丈夫だろうか?)
と心配になったのも束の間。それは一瞬で終わっていた。まるで生まれ変わったかのように気分爽快になっているのだ。
(うん? あれ、なんかスッキリ? いやいや、スッキリどころか力がみなぎってくる感じだし。もしかして、これが俺の力なのか? え? マジ?? ちょいヤバ過ぎじゃないの、俺。いや、待てよ? そう言えばこの世界の最強生物を創ったんだったっけ。確か究極の生命とか何とか言ってたよな? という事は、もしかしてそれを倒したらもっと強くなるってパターン!? いかん、それはダメだ。これ以上強くなるとか意味がわからない。俺の目的は、この世界を俺好みに変えていく事。その為にはある程度の力を俺自身が持ってないと始まらないよ。そうだ。『分身体作成 』があるんだから、俺をもう一人創ればいいだけじゃん! よし。俺を『大魔王モード』でもう一人作っちゃうか!)
俺の『魂の系譜図』に新しく表示されていた『分身者コピーメーカー 』の『魔王創造デモンバース』による発動。その瞬間、俺の中から何かが失われたのを感じたが気にしなかった。
(さて、出来たようだ。俺の影に隠れているようだが気配が感じるし、ステータスもちゃんと表示されているみたいだ。これで俺と全く同じように動かせる筈だ)
そう思い、試してみる事にする。俺の意思で俺と瓜二つの存在を顕現させ、動かしたのだ。すると予想以上にしっかりと動いたのである。
それは紛れもなく自分自身だった。
俺は今この場においてもう一人の自分を作り出したのである。そして自分の持つスキルを使える事を確認したのであった。『分身体作成 』は、『究極付与』と同じ要領で出来るようであり、その能力は完璧に使えたのである。そして『魔王創造デモンバース』により生み出したのが、今の自分。ならばこの能力を使えば強くなれるのでは、と思えたのだ。ならばやるしかないと実行に移したというわけだ。結果は想像以上で、今の俺は自分でいうのは何なんだけれども、もう無敵なんじゃないかと思った。いやまぁ実際にそんな事はありえないんだけどね。
ただ、これなら本当に俺が二人いれば何でもできちゃう気がしただけ。それだけで、この先俺はどうすべきかが見えて来たので安心したというわけである。
ちなみに俺が呼び出したのは『死霊王デスキング 』。俺が最初に造った配下なのだが、こいつは不死者アンデッドの最上位である『死者の王』で、レベルは九十。
そして更にこの『魂の系譜図』に表示された新しい配下が三体。
一つは、俺の影に潜んでいる存在がそう。『闇夜之豹シャドウアサシン 』と呼ばれる暗殺専門の妖魔族デーモンだ。
そして二体は、『魔王の騎獣 』。
一匹は、『悪魔公ロード』よりも強いとされる、幻獣の一体。『白虎』である。その体長は約五メートル。四足歩行の巨大な白猫のような姿で、『魔王の牙 』と呼ばれる凶悪そうな白い鋭い牙を剥き出しにして、俺に睨みつけている。
こいつは召喚者である俺を主人と認めているが故に従順に付き従っているが、俺に対して敵対する者は容赦なく襲いかかるという、とても危険な存在である。
だがその能力は、極めて強力。
攻撃力、防御力共に非常に高い上、速度までトップクラスの実力である。
そんな危険極まりない、凶暴な性格の持ち主でもあるのだ。
(まあ俺には従うようなので問題無いだろう)
そして最後の一体は『神速機鋼狼フェンリル 』。この個体だけは別格の存在なのである。『白銀級伝説レジェンド 』と、言われる希少種のモンスター。この世界で、唯一と言ってもいい『聖遺物アーティファクト 』によって強化されている、この世界でも最強の一角に数えられる、伝説の中の最強の生き物である。
体長約一メートルほどの小型犬くらいの大きさである、銀色に輝く綺麗な毛並みを持った小さな子狼だ。ただし、全身から放たれるのは強烈な魔力。それも尋常ではない量を誇る魔力を秘めており、その姿を見ただけで、大抵の相手は戦意喪失し逃げ出す程の力を備えているらしい。実際その力は圧倒的の一言に尽きるだろう。(これは、ヤバイな。『分身体』も、普通に強かったけど、これは桁が違う! これが『魔王の騎獣 』か! しかもこんなにも早く会えるなんて! この機会を逃す手はない。これは絶対に俺のものにするべきだろう。
この『究極鑑定アルティメットアナライズ』で解析した結果でも分かる通り、『悪魔公ロード』より強いってのが凄いよな。『悪魔公』は俺の分身体だしな)
俺はこの新たな配下を手に入れた事で満足していたのだが、そこにまたクレイマンが割り込んで来た。
「ふむ。それが噂の『魔王』という奴ですか? 中々の強者の様ですが。貴女のお仲間には、私を楽しませてくれる程に強力な者がいるのでしょうか? 出来れば、もう少し期待させて貰いたいものです」
と余裕たっぷりの様子で挑発してきても、俺は別に腹も立たない。俺が創り出したこの『魔王軍』を率いる『魔王』は確かに強力だ。この俺の『魂の系譜図』を見る限り、『魔王種 』になっているから、能力が向上する補正があるのだろうし、更に進化する事が可能なようだ。この『魔王』は俺と同等の力を持っている事になる。それは『魔王』となった事で得た、能力補正や経験値ボーナスのせいなのだろう。
その証拠に俺と全く変わらない速度で能力が上昇しているし、成長速度が異常だった。この調子だとあっと言う間に究極の強さに至るのだろう。
(それに俺が呼び出せる配下達も、結構優秀だよな)
俺が新たに呼び出した『死霊王デスキング』、『闇夜之豹アサシン 』の両名。どちらも俺が造った最初の配下なので『魔王の眷属 』となっている。つまり最初から『大悪魔公爵デーモンロード 』と同等という扱いになるのだ。これは他の配下も同じであり、既に『大魔王軍団 』を統率可能な戦力なのである。
俺自身が『大魔王軍団 』の統括者であるのでその必要は無いが、配下の育成という面でも非常に役に立ってくれる筈だ。なのでこれからは、俺自身が強くなっていくと共に配下を増やし、組織的な行動が可能になる。それこそまさに大魔王軍団と言えるほどに強くなるのであろう。
(うんうん。俺の部下として『魔王の騎獣 』に負けない様な能力を備えた部下が欲しいところだ。『悪魔創造デモンクリエイト』で新たに配下を増やすか、それともまた別の方法で増やすべきか悩むよなぁ。俺の能力がもっと上がるのを待っていてもいいんだけど、せっかくだから俺の創った世界も好き勝手に遊び回りたいし、ここは配下を作る方が早いかもね。
じゃあ早速、やってみるか!)
俺の分身体は、自分の分身を呼び出していた。しかし今度は『分身作成』ではなくて、直接自分がこの手で配下を創り出すのだ。
そうして呼び出した『死霊女王デスクイーン 』に、俺は命じる。すると彼女は直ぐに動き出して命令を実行する。『分身作成』で呼び出した俺の影の中から、その本体とも言える死体を取り出して、それを使役している。
そしてその死体に魂を与えて蘇らせた。
この蘇生は『究極再生エンハンス 』の効果によるものなのである。
この能力は『究極付与』と同様で、究極の生物を生み出す能力だと思ってくれればいいと思う。
『究極生命アルティメットアンデット』とは俺自身が名付けた、生物の定義から外れてしまった、超高性能な『不死』を造り上げる能力なのだ。それは俺自身のスキルの『究極技能エターナルスキル』と同じようなものであると考えて貰ったら分かり易いだろうか。
そして今この瞬間、俺の前には新たな存在が誕生し、俺の言う事を聞く忠実なる配下となる。
その新たな存在こそが── 死を支配する女王である『死霊使いネクロマンサー』だったのだ。
そして俺の命令を忠実に実行した死の女王の操り人形マリオネットのように、彼女の前に横たわるのは、美しい一人の少女の姿。
そう、俺がこの世界で新たに手に入れたのが『死霊王デスキング』と、『死霊王デスキング 』が召喚した『闇夜之豹シャドウアサシン』によって復活させた『死者』達である。
彼らは全て死んでいた者達であり、本来ならば動く事も話す事もないのだが、こうして生前の姿を保てているのは、俺の持つ能力『死者之王ハーデスキング』の影響が大きい。『究極能力アルティメットスキル』の『究極複製ユニークアドミニストレータ 』は、その所有者が触れているモノを全て同じ能力とステータスで複製するという能力。
なので俺が生み出した『死者』達にも能力が継承され、その全てがレベル百まで上昇するようになっている。そしてこの世界の魔物と同じ『死霊魔法ダークネス』という魔法が使用可能だ。
そんな訳で新しく俺の配下になったこの『死霊王デスキング 』も『死人之行進デスマーチ 』と、呼ばれるこの世界には存在しないはずの独自の魔法を使える。これはこの『魔王』の固有技であるらしく、死を操る力であるらしい。俺には『完全なる死者ノスフェラトゥ 』とかいう『究極鑑定』では見えない特殊な『状態』があるようで良く分からない。多分それはこの『死』の能力を扱えるようにするための一種の条件のようなものなのかもしれないのだ。
ちなみにこの『魔王の牙 』だが、『魔王軍 』に所属する他の配下の『白虎ビャッコ 』や『悪魔公ロード 』と同じく、『分身体コピーアンドペースト 』、『魂の系譜図コネクションズダイアログ』、『悪魔融合デーモンフュージョン 』等の能力を持っているようである。しかもそれぞれが、『究極強化』された状態であるらしく、恐ろしい能力を保有しているのである。その強さは間違いなく『大魔王軍』の部隊長クラスの能力を有していて、『白虎 』が単体で持つ本来の実力を大幅に上回る程の強化率で、能力が向上している。
(これ、下手したら本当にミザリーより強くなっているんじゃないのか?)
そのミザリーであるが、クレイマンと互角に渡り合っているように見える。ミザリーの戦い方はクレイマンと違って、正々堂々と戦うような戦い方だ。クレイマンのように卑怯な手段を使う事はしないのだ。クレイマンは『悪魔』という性質上、仕方がないとは言えるが、そういう意味から考えるとミザリーの方が圧倒的に好感を持てるだろう。
(やっぱり『勇者』だけあって、こういう所は正義漢なんだな。まぁだからこそ、『勇者ユウキ 』に選ばれたんだろうけどね)
そして最後にヴェルダである。どうやら、この『神速機鋼狼フェンリル 』が放つ攻撃に圧倒されて防戦一方となっているようだ。
俺からすると『絶対防御』に頼らない攻撃が通用するかどうか試してみたかったのだが、結果はこの有様だ。この攻撃で『完全なる立方体キューブ』を破壊しようとすると、この『神速機鋼狼フェンリル 』は『神速転移』により瞬時に距離を取るのだが、それを許す程の時間的猶予が無いので『神速移動』を使用して間合いに飛び込んだのが敗因だろうと思われた。(そもそも、その程度でダメージが入る程、ヤワじゃないってか)
結局『完全なる立方体キューブ』が破壊出来ない事に業を煮やしたのか、クレイマンが切り札を発動する様子を見せる。
(ふむ。流石に『聖遺物アーティファクト 』、『天魔石テンマセキ 』、『竜結晶ドラコニック 』は温存していたという感じかな。さっきも使ってなかったし、最後の奥の手として隠していたのは間違いなさそうだしな。じゃあ俺も見せようか。
この俺の新しい究極の力。俺の最強の力の証として、この究極兵器アルティメットウェポンを!!)
俺が発動したのは『大魔王軍団』を束ねる為の権限の一つ、『軍団召喚レギオンコール』。これにより呼び出されたのは、総勢五千体に及ぶ究極の兵士達。『悪魔軍デビルソルジャー 』と呼ばれるその軍団であった。
(う~ん! 俺も『魔王』となった事で得た能力のお陰でこの『悪魔軍デビルソルジャー 』が呼び出せるんだけどね。しかし何度考えても、軍団っていうより師団と大隊だよなぁ。俺の配下って感じでは無いし、なんかちょっと違うんだよなぁ)
「あーっははははは! 見ましたよ! それが貴女の全力ですか!? なんとも情けない話です。私も舐められたものですねぇ。この私が、あんな虫けらを一匹始末するのに手こずるとでも? という訳で、もう良いですよ。その雑魚共を殺しなさい」
「えっ?」
俺は驚いて声が出てしまう。俺の部下達は強い。
それは今までの戦いで実証されている。その部下が五千対一という状況にも拘わらず、あっという間に蹴散らされていくのである。
俺は目の前の状況に呆然とするしかなかった。俺の創った最強の兵士『悪魔軍デビルソルジャー 』がたった数分の間に全滅したのである。
そして残ったのは俺一人だけだった。それも満身創痍の状態になっている。
(ちょ、待て、おい! 俺の配下は化け物揃いかよ! てかコイツら本当に、ただの兵士なのかよ!? 強過ぎだって! いや、俺が配下を呼び出していない状況だと弱かったのか? それにしてもおかしいだろ! てかマジで洒落になってないんだけど)
クレイマンは満足げに高笑いをしている。その姿を見ていると無性にイラついてくる。
この野郎は絶対にぶっ殺す! 俺の心は復讐心で溢れかえっていた。それはミザリーの気持ちを理解したという部分が大きい。
この感情はきっと俺自身のものでは無く、『七星勇者ナナホシユウシ』のものだ。それはつまり俺自身にも同じ感情があるという事。俺は自分の事をクールで冷静で感情の起伏の少ない人間なのだと思っていたが、そうでは無いのだ。その怒りが『大魔王』である俺にもある。
この俺がキレたぞコラ。覚悟しろよ、クズ野郎が!!!! 俺の怒りに呼応して、『究極完全態アルティメット シン カゲムネ フォーム 』の姿が変化して、究極形態アルティメット シンの姿へと変化する。
その姿は『神』そのものである。
クレイマンはその圧倒的な存在感の前に完全に呑まれていた。
俺の身体が黄金色に染まり輝きだす。それは俺の意思によって制御可能な究極の能力である。そしてその力を纏う事で俺自身もパワーアップする事が可能なのだ。その状態でクレイマンを睨みつけると、その瞳から放たれる強烈な視線だけで相手を完全に拘束する。
更にはクレイマンの分身を『支配 』によって、その場に留める。そしてクレイマンの背後から俺自身の分身が出現し、俺自身の肉体も出現する。それはまるで『多重存在』のように思える。そしてクレイマンの背後の分身の一体が『絶対切断』の能力をクレイマンの全身に向けて発動した。
これで、どんな防御手段を取ろうとも無意味である。『万能感知』により全ての情報を読み取りながら、俺はこの空間の掌握を進めていく。
まずはこの場に居残る邪魔者を排除する事にする。
俺は究極能力アルティメットスキル『龍脈之王ロードオブタイヨウ』によってこの『神の領域セイフ ルーム 』の結界を強化すると同時に、この場所に集まろうとする者達の意識を奪う事にした。
(『究極強化アルティメットブースト 』)
俺の命令により、『龍脈之王ロードオブタイヨウ 』は究極能力アルティメットスキル『究極強化アルティメットブース ト』の効果を発揮し、結界内にいる者の思考を読み取る能力を発揮する。それにより俺に敵対する者を選別出来るようになった。
この力を利用して『悪魔』の軍勢の中に紛れ込んでいた『死人之行進デスマーチ 』の生き残りの魂を全て吸収する。
この世界において俺の能力は、全て『魂の系譜図コネクションズダイアログ 』の画面を見れば理解出来るようになっていた。この画面には、配下になった際に『名前』を設定した者が表示されるようになっているのだが、配下となった後に表示をオンにして確認すると『魂の系譜図コネクションズダイアログ 』のステータス欄にも表示されているようになる。これにより配下にしたかどうかの判別が出来るのだ。
ちなみに『死人之行進デスマーチ 』のメンバーには、『悪魔公デーモンロード』や、『悪魔将軍デモニオンジェネラル』等の『悪魔族』の上位種の者も存在していた。なので、これらの魂を吸収しておいたのだ。そのお陰で、魂を喰らうという新たな能力に目覚めてしまったようだが、それはそれで有用だと判断したので良しとした。
魂の解析の結果、『死霊術』という魔法の存在が分かった。
これは『死人』を操る魔法という訳では無く、死した者が再び動く事が出来るようになる能力だったようだ。つまりゾンビを生み出すようなものではなく、あくまでも生前に近い状態に戻し復活させる事が可能だと言う事らしい。『魔王軍』で使う場合には死体が綺麗であればある程効果的になるようで、ミザリーが戦ったゲルガキや、クレイマンも死体が傷付くような攻撃をして来なかった理由も納得がいった。
またこの『死霊』に関する能力と、先程倒したクレイマン配下の『悪魔騎士』との組み合わせで『不死』の軍隊も作れるという事が判明した。
俺はこの二つの能力を有効活用し『死者蘇生 』という能力を持つ『究極の治癒師 』、『究極回復士アルティメットヒーラー 』という職業の『究極能力アルティメットパワー 』を持つ人物を生み出した。
(これならば、失った部位を復活させる事も、致命傷を負っていても回復する事が出来るだろう)
「ではお前達の仕事を始めるとしよう。我が下僕よ、我が敵を討ち取れ!!」
俺の命令により、この世界に散っている配下達に念話で指令を与える。俺が直接命令すれば早いのだが、今はそれ程時間が無いからだ。俺の命令に従い一斉に行動を開始し出したのは、『竜魔粘鋼糸 』という『竜神鋼 』を使用した特殊な蜘蛛型機械人形マシンゴーレムであった。
それは体長十メートル程の巨大なもので、鋼の巨体を金属の繭の様に丸めているのが特徴のロボットタイプの『竜魔鋼インゴットメタル 』で造られたもの。その素材の強度は『天魔石』を遥かに超える超硬度のものであり、また『聖銀ミスリルシルバー 』と同等の魔力伝導性の高さを持っている。それに加え、『物理耐性』と『斬撃無効化』、『刺突無効』、『火炎無効』、『冷気耐性』、『打撃攻撃軽減』、『自動修復』、『自己進化』、『増殖』などの特性まで備えている。その上『波動装甲 』、『エネルギーバリア』、更には俺の意思と連動して、『物理反射』、『衝撃弾発射』の能力も発動させる優れものであった。そんな最強の守護獣が誕生したのだ。
(俺って最強! いや、もうこの世で一番強くね? って感じだけどさ、まだ足りない気がするんだよなぁ。この『大魔王城キャッスルロトルア 』を守る戦力がまだまだ足りなさ過ぎる。だからさ、もっと増やさなきゃ駄目なんだよね)
この巨大守護機巧ゴーレムはクレイマンとその仲間達の捕縛を命じた。
俺もクレイマンを倒すべく、戦闘に参加する為の準備を始めた。
「さあ行くぞ。お前達が相手にするのはこの俺だ。魔王クレイマン!」
そう言うと、その身に纏う金色のオーラが輝きを増した。
そして次の瞬間にはクレイマンの元へと一瞬で到達し殴りかかった。俺が振るった拳を辛うじてガードし受け止める事に成功するクレイマンは驚きの声を上げる。
その隙に俺は追撃のパンチを繰り出していく。それは一撃ごとに速度と威力を上げながら連続で繰り出されていき、ついには防戦一方に追い込まれる事となった。その圧倒的な力に恐怖を感じたのか、クレイマンは叫ぶように言葉を発する。
「ば、馬鹿め! この私に手を出して生きて帰れると思うのか? 貴様の力はもう全て読み切ったのだぞ。貴様に勝ち目は無いわ! 大人しく降伏しろ。貴様の命くらいは助けてやる」
クレイマンの言葉を聞いた俺はニヤリと笑みを浮かべると、その言葉を否定する。
「俺の力が全部分かっただと? そりゃそうだろ。俺だって自分が何者でどういう力を持ってるかなんて知らなかったからさ。それを知れたんだ。俺の知らない俺の能力や力を知る事が出来たんだろ? それが何か関係あるのか?」
「き、貴様なら知っているはず。私のユニークスキルの『邪悪之王アジヤワン』が何を司っているかは知っているだろうが!
『解析』こそが真髄だぞ。『鑑定』の上位互換であり全ての情報を見通す事が出来るのだよ。それは『魂の系譜図コネクト 』も同じなのだ。だからこそ貴様が何者か理解した。だがその力を使いこなす事など不可能なのだ! そうやって調子に乗っていれば良い。貴様如きに勝てる訳がないのだから!」
その言葉を俺は鼻で笑いながら聞き流した。
そして更に勢いよく蹴りを放つが、俺の蹴打をギリギリのところで避ける。しかしそれはブラフだった。そのフェイントに見事に引っ掛かったクレイマンは反応出来ずにモロに顔面を蹴られてしまう。そのダメージに苦痛の表情を見せつつクレイマンは立ち上がる。俺はクレイマンの動きを観察していたが、明らかに俺の攻撃を避けきれず、ダメージを受けている様子なのに俺に対して警戒感を抱いている様子が見て取れる。そしてそれは俺にも言えた事だ。
(おかしい。俺の方が有利な状況で押しているのは確かだというのに。どうしてこの感覚。追い詰められた気分になってしまうのだろうか?)
そして俺とクレイマンの戦いが始まった。
俺は、自分の中にある怒りが収まっていくのを感じ、それと同時に心の中の冷静な部分がその答えを弾き出す。その導き出された答えはこうだ。
つまり俺は自分の力を把握出来ていない、その力を制御出来ないという事だ。
(くそっ。そういうことかよ。この俺のバカたれが!!)
俺は内心で自分を罵るが、それで怒りが消える訳ではない。俺が今、一番腹を立てているのは、俺自身がこの能力を制御しきれていなかったという事にである。『龍脈接続』を試した時に俺はこの力をコントロール出来るようになったと勘違いしていたのかもしれない。
『龍脈支配』によって支配するというのは理解したが、それでも完璧ではないようだ。
(ああ。そう言えばヴェルドラさんが、究極能力を進化させろとか言ってたか)
『龍脈支配』という究極能力を究極強化アルティメットブースト した事によって、究極能力を更に昇華させたという事になるらしいが、それは一体どんなものになったのだろう。後で詳しく聞いておかねばならない。ともかく今は戦いに集中すべきだ。
(落ち着け、落ち着いて考えるんだ俺。この力は恐らく究極的な力の権化だと思うが、まだ使いこなせてはいないはずだ。そもそも俺の持つこの『万能感知』で得た情報を『魂の系譜図コネクションズダイアログ 』に表示出来るようになるのは『魂の系譜図コネクションズダイアログ 』の能力のお陰だ。『万能感知』を鍛えればこの機能の利便性が上がるかも知れないとは思うけど。まあ、それに関しては後に考えよう)
今の問題は目の前の敵だ。
クレイマンが『究極結界アルティメットフィールド』を張ってくれたお陰で、俺とクレイマンの周囲にだけ『煉獄地獄ヘルファイアヘルブレイズ 』の効果が及んでいなかった。その所為で周囲が凄まじい炎の嵐に飲み込まれ、熱波で俺とクレイマン以外の者は既に意識を失って倒れてしまっていた。しかし結界の外にいる兵士達にその効果は及んでおり、その身を焦がしていたのだ。
その地獄の釜の蓋が開いたかのような惨状は俺が作り出したものだ。
(しまった、これはやり過ぎたかも。俺の怒りが爆発したのがまずかったな。俺の予想では、この世界の住民にとって耐え難いものだろうと想定してはいたんだけど、こんな被害になるとは思わなかったんだよな。でもこれでわかった事がある。どうやら『煉獄』とやらは対象物以外には一切の影響を与えないような能力なのだろう。ならば──)
俺の予測通りならば、『煉獄地獄ヘルファイアヘルブレイズ 』の効果範囲に存在する者は全員死んでしまうのだと思われる。ただし、それとは別に効果範囲外の者には『煉獄』の炎による影響はないようだ。それならば、俺の究極能力アルティメットスキル『暴食者グラトニー』の能力を発動させて、その範囲内のものを吸収していけば何とかなりそうである。
(いや、それよりもこの状態が続けば皆死んでしまう。ならば吸収ではなく放出すればいいのではないか? つまり俺の中に吸い込み俺のエネルギーに変換してしまうのではなく、俺が吐き出してしまえば良いんじゃないだろうか? よし、それしかないな。ならばさっさと終わらせるぞ)
「喰らえクレイマン!!」
「馬鹿め! そんな見え透いた攻撃が当たると思っているのか!!」
そう叫んだクレイマンだが、俺の手刀が触れた途端に全身の皮膚から血が噴き出した。
そのあまりの痛みから叫び声を上げ転げ回るクレイマン。その様子を見た俺は思わず呟いていた。
「あれ? 何で?」と。その俺の言葉を耳にして怒りの声を上げるクレイマンだったが、それも当然の反応であっただろう。それは俺の放った手刀がクレイマンに触れる直前、その肉体から血液が噴出したのである。まるで俺の腕に吸収されたかのように一瞬にして消えたのは確認していたが、その光景はまさに『悪魔召喚デモンズサモン 』の能力による『死鬼デスブラット 』の顕現時のような有様であった。そして俺はクレイマンに触れたその瞬間、『無限の胃袋』へとそのクレイマンを吸収するのに成功したのだった。
俺はその現象の原因について考察する。そして一つの仮説を思い付く。
(俺の『波動収納』の能力が進化した結果ではないか、とね)
今までも『無限の胃袋』に食べ物などを仕舞っていたのだが、その能力に『死鬼デスブラット 』の能力も加わった事で、俺が吸収したものが俺の体に馴染む前に外に放り出された、という可能性が考えられる。いや、その可能性は高いと思う。
(なんにせよ、これでクレイマンを倒す事は成功したんだし良かったよ。後はベニマル達の応援に向かおう。そう思っていたらディアブロがやってきた)
「アムール様、申し訳ありませんが御助力をお願いしたい」
俺がクレイマンを倒した瞬間に、そのタイミングを狙ってやって来たようである。それはつまりクレイマンの部下の誰かがクレイマンの敗北を知って逃げてきたという事だろう。俺達には構わず好きに暴れてくれて構わないと言うとディアブロはその申し出を受け入れた。そしてディアブロは俺がクレイマンに負けると思っていたのだろうか? そう考えて一瞬イラッとした俺なのだが、俺が『魔眼石 』を通して見ていた映像にはクレイマンと互角以上に戦う俺の姿があったハズだ。それを思い返すと少し恥ずかしくなったのだ。
(そうだ! 俺は確かにあの時はまだ力を使いこなせていなかったけど、それでもあんな簡単に負けたわけじゃないぞ! ちゃんと戦っていたんだから!)
俺は自分に言い聞かせるようにそう考えた。
(そうだよ。ちょっと本気を出して戦えなかっただけだ。俺ってば、もっと強い筈だし! うん。きっとそうなんだ! さて、これからは『正義之王ミカエル』が暴走しないように上手く使っていく必要があるな。『魔力解放』のスキルは『魂の系譜図コネクト 』に統合されたようだが、他の究極能力アルティメットスキルを使えるようになれば『解析鑑定』とか『魂の系譜図コネクト 』が更に使いやすくなるかもしれない)
俺がそう考えていたところで、ソウエイが口を開いた。
「この『分身体創造』というのは便利ですね。本体の俺はここに残りましょう。その間に部下の応援に向かいます」
俺達がこの場で『多重障壁アブソリュートバリア』を展開していればクレイマンは『魔王覇道進撃ブレイクロード 』を使う事が不可能になるだろう。だからソウエイには先に魔物達の救援に向かってもらう事にしたのだ。
そして俺はベニマル達に通信を行い戦況の確認を行った。
そしてそれは最悪の状況であった。『煉獄地獄ヘルファイアヘルブレイズ 』の影響で『魔物召喚』が使用不能になっており、しかも『勇者狩りナイトキラー 』が倒された後だというのである。その報告を聞いて驚いたが、その状況にも納得がいった。
『勇者狩』が倒され、魔物達が恐慌に陥ったところに俺の『煉獄』の炎が広がり、更にはベニマル達の攻撃が通用せず絶望していた所に、俺からの『精神侵食』と『魂の系譜図コネクションズダイアログ 』での強化を受け強化された俺とソウエイの登場という展開になってしまったのである。そりゃあ俺だったら混乱に乗じて敵の指揮官を討てるチャンスがあるならば狙うのが普通だとは思うけど。
(しかしこれは厳しいな。『聖浄悪毒 セイクリッドポシスミス 』の効果範囲外に出たら死ぬとか言ってたし、この状態でクレイマンに止めを刺せるのは俺だけじゃないか。というかこの戦場の殆どが『浄化の炎』で焼かれているよ。もうこれ戦争どころじゃなくなってないか?)
そう思ったものの、クレイマンを討ち取ればこの戦いの決着はつく。俺としてはクレイマンさえ始末出来れば問題はないので、このまま続ける事にした。『分身体』の俺と『精神世界』のヴェルドラでこの場の指揮を行う事になった。そして『大賢者』に『念話ネットワーク』を構築し、全ての仲間との繋がりを復活させた。これによって仲間の状況をリアルタイムで確認する事が出来るようになり、また俺が不在の時に起こった出来事を知る事も可能になったのだ。
この状態であれば、仮にクレイマンがこの国を捨てて逃亡したとしても追う事は可能である。そもそもこの国に用はないのだ。
(『煉獄地獄ヘルファイアヘルブレイズ 』の熱量も下がって来たな。そろそろこの熱を何とかしないと不味いか。よし、やるしか無いな)
『龍脈支配』の能力を使って、この辺りに満ちる霊素エネルギーに干渉を開始する。
すると『黒雷ブラックサンダー 』が俺の手から放出されていくが、熱量が多すぎて完全には吸収しきれなかった。俺の周囲に集まってくる大量の魂のエネルギーも吸収してしまったので、そのお陰で多少熱さが和らいだような気がするが焼け石に水であった。
俺がクレイマンに向けて『黒雷撃ブラックライトニング 』を撃ち込もうとした時、上空より声が聞こえた。
「──我は神祖の真なる姿を見る者── 万物を切り裂く刃の理──」
俺が視線を向けるとそこにはリリアナがいた。その背後から凄まじい力が膨れ上がるのを感じたのだ。
俺がその言葉に反応するよりも早く、彼女は魔法を発動させていた。その威力たるや凄まじいもので、『黒雷』によってクレイマンの張った防御壁を難なく突き破り、クレイマンの肉体ごと吹き飛ばしたのである。
俺が呆気に取られていた間に、ディアブロは素早くクレイマンの身柄を確保し、クレイルと共に姿を消したのであった。
クレイマン討伐完了!! 次話は『竜種の女王 後編 』です。
10月15日 土曜日4 *注意
* * *
1、原作ネタバレあり 2、駄文 3、キャラ崩壊多数 4、時系列をいじりまくっています 5、設定が無茶苦茶になってしまっているところがあります。(ここら辺は特に酷いです。特に後半)
6、誤字脱字はスルー推奨 7、この作品に対する批判は、受け付けていませんのであしからず。
それでもいいよという方は次のページへどうぞ→ ~~**~~
side???
『『魔王の波動』を確認しました』
「なに? 何なの、今の?」
突如現れた漆黒の球体。
それは瞬く間に広がっていき、その中央で光が収束していくと中から巨大な黒い巨人が現れる。それはまるで天から落ちてきたかのような出現の仕方であった。だが、それだけではないと私には分かっていた。
「あれが本当に、あの魔王? 嘘、でしょう? まさかこんなのが居るなんて。しかもアレの中身には一体何が入ってるっていうの? まるでブラックホールじゃない。あんなのを相手にして勝てる訳がないじゃない!」
私は心の中で悲鳴を上げるが、そんな事をしていても何も始まらない。私はすぐさま思考の加速を行いつつ、『解析鑑定 』を実行する。だが『魂の系譜図コネクト 』の能力により私の『魔力視 』は強化されていた為、その情報量の激しさに眩んでしまう。
(ダメだ! あの黒い巨人の能力の方が圧倒的過ぎて、とてもじゃないけどまともに見れない! せめて何か一つでもあの魔王の能力の情報を得ることが出来れば。あの巨人の能力に対抗するヒントになるかもしれないのに!)
そう考えても、この状況を変える手段など無かった。今更後悔しても仕方ない。こうなった以上、覚悟を決めるしかなかった。私が死ねば恐らくは『大迷宮』は消滅する事になる。そうしたらあの悪魔達は自由に『勇者狩り 』をする事だろう。そう考えるとここで自分が死ぬ訳にはいかなかった。それに、ここで『魔王』とやらに殺されるようでは到底生き残れるとは思えなかった。
そう考えた結果、私は行動を起こす。『魂の系譜図コネクト 』で『精神侵食』を試みるが、全く通用しなかった。それは『魔王』には通用しないという意味なのか、あるいは私の魂が抵抗に成功して防がれたのかは分からなかった。『精神耐性』が高過ぎるせいか、もしくは『魔王覇気』が効きにくい性質の個体だからか?
(分からないけれど今はどうしようもない。それよりも今は時間稼ぎをする方が大事)
そう考えて、今度は『魔王』が生み出したという魔物に目を向けた。
そしてそこで驚くべきものを発見する。なんと、その魔物は人間の姿に変わっていくではないか。その姿を見た時に思い浮かんだ名前は、やはりあの人だった。あの少年。『勇者狩り』から守ってくれたあの子だったのだ。そう思った時、私の中の怒りが燃え上がるのを感じた。
(ふざけるなよ!
『勇者狩り』はともかくとして! どうしてアイツらが殺されないといけないのよ! あの時、あの子にどんな想いをしたかも知らないで! なのに、その当人を殺したヤツらを! 許すわけにはいかない!!)
私はその気持ちに身を任せ、『勇者狩り』へと向けた攻撃を止め『魔王』への攻撃を行う。そうすると今まで以上にあっさりと『魔力解放 』が成功してしまう。だが、それと同時に私は自分の体が消えていくのを感じていた。『大罪』の呪いが暴走を始めたのだと瞬時に理解出来た。このままだと私はこの世界に存在出来なくなるだろうと直感した。だがそれでも良かった。これでこの『魔王殺し 』を『精神世界』に持ち込めるからだ。
そうすればきっとあの子を守る事が出来るはずなのだ。そう思って意識を手放した。
『魔王覇道進撃ブレイクロード』の『魔王の威圧』を受けてなお、クレイマンは動いていた。それはもう、恐怖に打ち勝ったという事だろうか。クレイマンの強さは異常だと俺は改めて感じたが、それでも俺は『大結界ガイアアーマー』を解かない。この場で全力戦闘を行ってしまえば『浄化の炎』でこの国は焼け野原になってしまう。そうなるともう、復興させる事は困難となるだろう。だからこの国でクレイマンを倒す事は断念し、クレイマンだけを連れて移動する事にしたのだ。
(流石にこの場でクレイマンを殺すのはマズいよな。まあ別にクレイマンが死んでも困らないんだけど、俺の本体と繋がっている『分身体』が死んでしまうと俺まで消滅しかねないんだよな。一応保険はかけておくかな)
俺は『煉獄』に込められていた力を、『空間庫』の中から取り出した聖水と入れ替えておく。『浄化の炎』が発動している場所に聖水を投げ込むと、その場所から聖水の効果が発揮されて炎が消える。『聖炎浄化ホーリーブレス エクスプロージョン』という『聖炎浄化』の強化版で、『浄化の炎』の効力を完全に無効化する効果がある聖水である。『浄化の炎』による熱量を、水の力で相殺し、完全に消滅させているのである。これは、この『煉獄地獄』の『浄化の炎』だけを対象にしていた場合のみ有効であるが、『絶対障壁アブソリュートバリア』で隔離され、ソウエイに抱えられているミザリーにも効果がある。つまり、『煉獄地獄』にいる限りは大丈夫な筈だ。
この『空間操作』により俺達の周りは安全だと言える。ただし、ベニマル達が居る場所だけは少し離れてもらっているが、俺が移動すればいつでも合流する事は可能である。クレイマンを逃さない為の処置だが、この状態でも逃げられる事は想定内なのであまり意味は無い。この国にはもう既に用は無く、逃げる場所は用意してあるのだ。
俺の分身体が『煉獄』の中に作り出したもう一つの入り口──『転移門ワープゲート』から外に出ると、ディアブロとラプラスが待っていた。
『竜魔像ドラゴンパピー』で拘束したクレイマンに視線を向ける。するとその体は震え始め、俺を見て叫ぶが無視して話を始める。俺の言葉が届いているかどうかは問題ではなく、こちらの意思を伝えてさえいれば問題は発生しないからだ。
「な、何故ですか!? どうして貴方様がここにおられます? わ、我に何か至らぬ点がございましたでしょうか? どうか何なりとお申し付けくださいませ。我輩めに出来る事でしたら何でも致します故」
「ふぅ。俺の目の前から居なくなっただけでお前には何の責任も無い。そもそも最初から責任を問うつもりもないぞ。それに俺の邪魔をするのであれば誰であっても容赦するつもりはない」
俺は殺気を放ちつつそう告げる。
その途端、俺の周囲の温度が急激に下がり始める。それはまるで氷のように俺の体を包み込み、クレイマンを動けなくしていく。その様子を見届けた俺達はそのままクレイマンを抱え、再び『次元の狭間』の中へ入って行くのであった。
◆ ◆ クレイマンの『竜化ドラゴニック 』を解き、元の状態に戻した後に『虚数領域イマジンエリア』へと連れて来る。そこにはリリアナがいたのであった。
sideルシア クレイマンが『勇者狩り』と共に突然消えた後、ディアブロがすぐに駆けつけて来た。どうやらディアブロは私の行動を先読みし、監視を行っていたらしい。それを聞いて驚いたけど、よく考えれば当然かもしれない。私がこの『大迷宮』の主マスターなのだから。ディアブロは私の護衛という役割がある以上、私を見失う事無く行動を把握する必要もあったのだろう。そう納得しつつディアブロに尋ねる。
「ディアブロ、どうだった? クレイマンは無事だった?」
「はっ! 御命令の通りクレイルマンは保護してございます。そしてクレイルの方はどうなったのか不明でしたが、どうやら死んだ様子。しかし魔王クレイマンは生存していますのでご安心を。それと、この場に残ったもう一人の男でしたので始末しておきました。ただの人間にしてはなかなかの手練れでしたが、所詮はこの程度。ミリムの配下として考えるなら弱いの一言につきますね。それにしても一体どういうつもりなのか。わざわざミリムがクレイドル王国へ来た目的を妨害するなんて考えられません。それにその目的というのが、『魔王』を打倒するというものだなんて馬鹿げている! どうせミグルド族の件も魔王の命令なのでしょうけど、クレイマンとは全く話が噛み合っていないんですよね。それで結局のところは一体なんの目的があってクレイルースは動いているのでしょう? やはり『勇者狩り』との合流が鍵を握ると見て間違いないと思いますが、今の段階の情報量ではさっぱりわかりません。やはりもっと詳細な情報を入手する必要がありそうですね。という訳で、アムール様。ここはやはりもう一度ミリムに協力を仰ぐのが良いと思うのです。そう考えるのは私の浅慮でございましょうか? それともまだ時期尚早と仰いますか?」
そんな風に問いかけられて、ディアブロの考えを聞き出す事が出来たのは嬉しい。でもその前に確認しなければならない事がある。そう考えて私は質問を返す。
「それは、本当なのですか? あの少年が、魔王だと。確かに『魔力波動』が似てた気はしましたけど、まさか魔王本人だったとは思いませんでした。でも、そうですか、そうですよね。ディアブロがそういうのだから信じるしかないですよね。うん、ありがとう。じゃあディアブロは予定通りクレイルースと接触する事。その目的は『大森林』への侵攻を阻止する事。そしてあの少年は魔王。そしてクレイマンは勇者。という事になるとやっぱり、魔王の目的は人間側の支配力を強める事にあると思って良いんじゃない? そうよね、きっとそれが一番の狙いなんじゃないかしら。そしてクレイルースはそれを阻止しようとしている。だからきっとクレイルースとあの少年の目的は一緒の筈。そしてその障害となっているものがあの少年の存在なのよ。そう、あの少年が勇者としてこの『勇者狩り 』を終わらせる為にはあの少年の存在が絶対に邪魔になる筈。だからこそ今のうちにクレイルースを殺す必要がある。そうすればもう勇者としての力は失われてしまうんだもの。
そのタイミングがいつ頃なのかまではわからないけれど、それでもその機会を逃す手は無いでしょ。クレイルースは勇者としての力が強すぎるし、『勇者狩り』の戦力は強大だもの。もしクレイルースに『勇者』の力を失わせる手段が無ければこの国は終わり。ならば今こそがその時じゃないの?」
私はそう言い切る。クレイルーズが魔王なのは予想通りだけど、クレイドル王が魔王というのは驚きだった。まあそれはいい、問題はあの子が本当に『魔王』かどうか。そこを確認する必要があったのだ。
ディアブロの話によると『竜騎士』の二人は死んでいないらしいし、ディアブロが魔王クレイルの相手を引き付けたお陰で助かったのだという。魔王相手に善戦するとはディアブロも大したものだ。それは兎に角として今はクレイルースを倒す方が先決。ディアブロの報告によれば、クレイルが『聖剣 デュランダル』の力を開放した事で『空間魔法』が使えなくなり、クレイルスはその攻撃を避けきれず『虚空移動』の『能力スキル』を破られ、その結果殺されたのだと思われる、と言っていた。という事はクレイルースの現在の力は以前と比べて格段に弱まっているのではないだろうか? まあ、それも直接相対すればわかるだろう。それに、私には『超回復』もある。『虚ろなる神の化身』も問題無い。最悪『魂喰い 』で『魔王の覇王 』の核エネルギーを吸収し、自分の物にする事が出来るのだから、そこまで気にする必要は無いのかもしれない。
それに、あの子の能力は特殊だ。ディアブロが言うには、魔王の持つ全てのユニークスキルを使えるという話だし、ディアブロのユニークスキルすらも持っている可能性があるらしい。そうなるとディアブロが負けたとしても不思議では無い、か。ディアブロ程に強い存在が敗れるとなると油断など出来ようもないけど、警戒するに越した事はないよね。
何にせよこの国は滅ぶ運命なのである。それは仕方がない。そしてあの子は恐らくクレイルと手を組まず、単独行動するに違いない。その時に確実に殺せるだけの実力を身に付けておく必要はあるのだから。そう考えて今後の予定を組み直す。クレイルースを暗殺するか、若しくは不意打ちで殺すという作戦が頭に浮かんで来たのでそれを試す事にした。
(よし、決めた! クレイルースを殺しましょう! そうすれば後は『空間転移』でいつでもクレイドルに行けるようになるし、いざという時の保険にもなる。魔王同士の対決になった時は、ディアブロはミリムを護る事に集中する必要が出て来る筈。クレイルースの相手が出来ないのは痛いけどこっちの方が重要だわ。それに、ディアブロが倒せなかった場合、私がクレイルースを倒してあげればミリムに対する信頼度アップ間違いなし。これでディアブロの評価も上がるし私も評価が上がる。ディアブロもクレイルースと正面から戦わずに済んで一石二鳥、うふふん)
私はそう決めてディアブロに伝える。しかし──そこで新たな問題が発生した。
どうやらクレイウスの『竜眼アイサイト 』にディアブロの姿を見られていたらしく、クレイウスはミリムの元に向かったようだ。ディアブロに知らせると、
「クッ! 面倒な。しかし仕方ありませんね。クレイルはともかくクレイルスはまだ脅威足り得ない。クレイルクロスに邪魔されなければどうとでもなります」
という事だった。その言葉で納得しつつ、念の為の確認を行う。ディアブロは魔王同士の戦いになるなら自分は参加しないと言っているが、魔王同士で戦った事が無いので実際の戦いの様子がわからず不安だったからである。
そう尋ねると、
「え? 魔王同士が戦う? そんなの決まっているではありませんか! 全力全開、正真正銘の全能力を引き出しての殺し合いに他なりません。どちらかが完全に滅びるまで決着はつきません。それが『魔王の法 マギアノス ルーイン』なのです!」
などととんでもない事を言われてしまった。『虚空移動』が使えないのは致命的だが、それは私がなんとかフォローするしかないのだろう。
◆ sideミザリー 私は、目の前に現れた少年がクレイマンの息子クロエと名乗った瞬間、『多重障壁アブソリュートバリア』の『魔法結界』を最大まで張り巡らせた。
これはミグルド族の秘技であり、『多重障壁アブソリュート 』と『完全防御』を掛け合わせた最強の防壁である。これによりあらゆる魔法を完全に遮断すると同時に物理的衝撃も吸収してダメージを防ぐという反則的な代物だった。この場にいる者は全てこの中に避難させて、外からの攻撃に備えるつもりだったのだが、その判断は誤りであった。クレイマンが、ゲルギーが『竜化ドラゴニック』で攻撃を仕掛けてきたのである。その巨体が『絶対防御』の『魔法障壁 』に触れた時、激しい衝撃波と共に強烈な圧力により私達の身体を軋ませた。そしてその攻撃に耐え切れず『二重障壁デュアルバリア』が砕け散るのを感じたのだ。
(しまった! なんて威力!?
『多重障壁アブソリュート 』は確かに強力だけど万能じゃなかった。私のミスだ。こんな強力な一撃を受けては持たない。せめてミグルド族の子供達だけは守りたいけど、この状況では全員を守るのは不可能!どうしたらいい?)
私の動揺を察したのか、『竜爪牙 ドラグクロー』を振り上げていたミグルド族の少年が言った。
「落ち着け、俺に任せろ! この『魔王の覇気オーラ 』を突破出来る奴はそうはいないぜ? なあ父ちゃん!!」
その声に呼応するように、クレイマンも言葉を発した。
《クックック、その程度が貴様らの力か。つまらん。そんなもの、我が力で破壊できるわ》 私は絶望しかけたその時、
『魔王の覇気オーラ』が霧散していくのを目にする。少年の声に反応したようにその効果を発揮したのは明らかだ。そして、その一瞬後クレイドル王は倒れた。そして少年の手にあった『魔剣ムラマサ 』はクレイドル王の『竜鎧ドラゴンスケイル 』に吸収されていく。
少年の手には何も残っていなかった。少年は『竜人族リザードマン 』だ。それに気付いた時には既に『魔力感知レーダー』で確認していたのだ。クレイルドが倒れて意識を失った時点で私にはもう打つ手は無く、クレイマンの配下と思われる魔物達によって拘束された。そして、少年に話しかけられた事で、少年がディアブロの息子であると確信に至る。
少年はミギーという名を名乗った。少年の口から飛び出したのは信じられない話の数々だった。クレイルマンが実は少年の父親でありクレイドル王が少年の父であるという驚愕の内容。それは私を困惑させると同時に納得もさせたのだ。この世界に来て感じている不思議な感覚の原因。それは『魂喰い 』の影響なのだと思ったからだ。そのお陰で、クレイルの正体に気付くのが遅れたのだ、と思う。そしてそのお陰でクレイルを殺すのは諦めなければならない。
少年はディアブロの『魂の共有者 』であり、その『精神同調』能力でディアブロの記憶を共有しているという事だったが、私にはよく理解出来なかった。
しかしクレイドル王の言葉が脳裏に焼き付いている。
『あの子達はお前の娘、息子でもあるのだ。決して忘れてはならないぞ?』
あの時クレイドル王が告げたかった事がわかった気がする。クレイドル王がディアブロに託したのは自分の死よりも辛い事、なのかもしれない。その事に考えが行き着いた途端に涙が溢れて来たのだ。ディアブロもきっとそう思っている筈だから。だからクレイルを殺そうとしたんだと悟ったのだから。
『勇者』と『竜騎士』は死んだのだとクレイルスから聞かされる。クレイルースは『聖剣』を失い、クレイルの『能力』を封じたという。
ならば今こそが好機だった。今がクレイルスを仕留めるべきタイミング。そう思いクレイルスのいる町へと向かう。
そして、そこで出会った少年、ソウエイは、クレイルズを殺した張本人。その怒りは抑えきれなかったが、今はクレイルースを討つ為に集中する必要があった。クレイルスがディアブロと『虚空移動』を使ってクレイドルに来た事で、状況は一変していたのだから。
『超回復』の能力で回復しつつディアブロがクレイルースを誘導して町の外に出た。そこに待ち構えていた私と、クレイルースは一対一の状況で向き合う。
そこで私はディアブロが何故私達に真実を隠したのかわかったような気がしたのである。恐らくディアブロにとって、クレイルスは自分の娘、息子も同然の存在だったのではないだろうか? だからこそディアブロはその事実を伝えたくはなかったのではないだろうか、と考えた。
ディアブロは自分が負ける前提で作戦を練っていたのだろう。だから自分を倒した相手の実力を知りたがり、『解析者』による情報入手を行いつつ私とディアブロの勝負を観察し、その力を探ろうとしたに違いない。クレイルスが魔王として君臨する事になれば、ディアブロにとっては最大の脅威になるのがディアルクス=レクスシアという存在。クレイルースにディアブロと同等の力があれば問題は無いが、ディアルースにそんなものがあるとは思えない。しかしディアルトには『究極進化アルティメット エンハンス』のユニークスキル『魔王』がある。その力次第ではこの国も滅ぼされかねないと判断した筈だ。ディアルースの力を探る意味もあったのだろうと私は思ったのである。
私はクレイルスがクレイルトを倒すのを待つつもりだったが、どうやらディアルトもクレイルースも、ディアブロの本当の目的には気付いていなかったようである。それはそれで助かったとも言えるのだろう。ディアドルスの目的達成を阻止するという意味では、彼等の行動を止める事に意味があるしね。
『竜眼アイサイト 』を『虚像』で無効化し、私は魔法を発動しようとしたのだが、『空間転移テレポーテーション』の『空間庫 』を狙われた。
やはり侮れない相手だと思いながらも魔法発動は止められず、『雷神 』で『空間転移』を使う事が出来なくなっていた。そこで仕方なく『魔力強奪マジックスティール 』を使用し、『悪魔貴族デモンロード シザリオン レイヴン』が持つ魔法を奪った。それにより『空間転移』を使用可能になり『多重障壁アブソリュート 』も使えるようになったのだが、《我ガ魔法ヲ奪ウトハナカナカイキサノヨウダ。オモシロイワ、小サキ魔王ヨ。クククク》 などと嫌味な台詞を言い出したクレイルは、その身に秘めたる力が想像以上に強力である事を実感させられたのである。
◆ 俺の名はクレイルクロス、魔王軍の幹部の一人である。俺は生まれついての才能に胡座をかき努力を怠る愚か者達とは違── ──ドゴォッン!!
「ぐふぅ!」
はっ! な、何が、起こった? 突如吹き飛ばされ、地面に叩きつけられた俺は混乱しつつも起き上がると、俺の立っていた場所に何者かが立っている。
その男こそ、この国の新たな国王であるクレイルースであった。
(ちぃ!
『虚栄なる炎龍王イフリート』はヤツを焼こうとしたが、『虚像 ミラージュ 』によって回避され失敗に終わったようだ。忌々しい!)
そして次の瞬間、
『大森林 カリオンの森』
を『完全防御 アブソリュートシールド』の結界により覆い、俺が放った魔法を悉く防いだ。
(この魔法を破れるとしたら、それはディアブロくらいのもの。しかもその魔法すらコイツの前では無意味に等しいというのか?)
ディアルクスがディアルーを指差しながら《ソノ程度カ? ナラバ消シテシマウゾ!》 と言って来たので俺は焦って叫んだ! 《止めろ! 俺にはお前の弱点を知る必要があるんだ! 殺すなよ!》 ディアルークはそんな言葉にも構わず攻撃をしてくる! まるで話を聞いていない。どうする!? このままでは全滅するぞ!? そう思い、覚悟を決めるしかないかと思い始めていたその時、 突然、地面が大きく揺れ、俺達を覆っている結界の一部が破壊されたのだ! ディアルークは俺への攻撃を止めてその場から離れた。その隙を見て、ディアルーが叫ぶ! 《今だ! 全員『多重障壁アブソリュート 』に全力を注ぎ込め! クレイドル王とミギー殿は子供達を守り抜け! 早くしろ! 間に合わなくなるぞ! ミグルド族も子供らを護るのを手伝うのだ! いいな!》 ミグルド族がディアルクを援護する為動き始めた。それを横目で見ながらクレイドル王も動く。
そして、クレイルドの叫びが聞こえる。
《ゲルミュッド様のご子息、ミギー様の言う通りに致せ。ディアブルグ王の言伝もお忘れなく。頼むぞ? お前達だけが頼りなのだからな》 それを聞いたクレイルーが、
「どういう事です?」
そう問うのと同時に、クレイドル王の身体が輝きを放ち、ディアルークの攻撃からクレイルーとクレイルド親子を守ったのがわかった。
しかしディアドルーは攻撃の手を休めなかった。そして、ミギーと呼ばれた少年が何かをしているように思えるが確認出来ないでいたのだ。そして、少年はこちらを見るとディアルードを指差し、何かを唱えているように見えた。その刹那、ミギーと呼ばれる少年の右手に光が宿り、その光が伸びてミギーが左手に持つ短刀の柄頭に吸い込まれていく。その直後、ディアルークが吹っ飛んだのだ。それはまるで目に見えない巨人の手で殴り飛ばされたように。だがそれだけでは終わらない。
クレイルも吹っ飛んで行ったのだ。それは俺が見た事もない速度であり、その威力も凄まじい。
《な、なんなのだ今のは。あんなものを見た事がありません。ディアバルト王は一体、あの子に何を託されたのです? この私に秘密にしてまでディアルル様に託した事は、本当に大事な事だったのでしょう。なのに私には教えられないとは。それがこの国の為になると信じているというのでしょうか。私には、その判断を下す事など出来ません》 クレイドル王がクレイルドに視線を送るとクレイルドがそれに答える。その遣り取りを見る限り、二人の関係性がよくわからない。しかしディアルーの意識は完全に少年に向けられているようだった。少年はディアルーに近付くと何事かを話している。その内容は俺達の知るところではないので知りたくもなかった。しかし少年がディアルークの懐に潜り込み拳を振るう度に、ディアルーの動きが明らかに落ちていったのだ。ディアドルスは反撃に転じようとするが少年はそれを難無く避け続けている。そうしているうちに遂にディアルーも倒れた。
クレイルスが、クレイルーもディアルクも一撃のもとに沈めた少年の前に立ちはだかるが、ディアルクに止められてしまう。そしてクレイルが少年に向かって話しかけていた。クレイドルがそれを遮ろうとした時、クレイルが急に慌ただしくなった。そして、クレイドルの顔は蒼白になりクレイドルもその場に崩れ落ちる。
俺はクレイドルの言葉を聞くべくそちらを見ていたのだが、その隙を突いてディアルトは俺に切りかかってくる。それはクレイドルの魔法による『完全回復 パーフェクトリカバリー』により完治していた。
(くそっ! ディアドルがクレイドルを攻撃した? なぜだ? ディアドルはそんなヤツじゃない。ディアドルの狙いはディアルーン王子を殺す事でも無ければこの国を攻め落とす事でも無いはずだ。ディアルトの目的は魔王四将の抹殺? ディアルトもディアルカと同じようなユニークスキルを持っている? いや、そんな筈はない。そんなユニークスキルがあればもっと早い段階で使っている筈だし。しかしクレイルズが負けたとなるとクレイルも勝てないだろう。どうすれば──)
ディアルクとクレイルスの一騎討ちが始まったので俺も参戦しようと試みたが、
「邪魔すんなや!」
クレイルスの剣を受け流し、『超速思考』による演算で相手の次の行動予測を行うと同時、『並列存在』による五つの影分身を生み出しディアルクの後ろを取る為に駆け出すも、ディアルクが振り向きざま放った突きにより俺も吹き飛んでいた。その俺にクレイルスが斬りかかろうとしたところをディアルドの槍が止める。そしてその一瞬の膠着状態の後に、 《ぐっ》 という声がクレイルスから漏れる。その時には俺も起き上がっており、そのクレイルスの隙を突いてディアルの首を跳ねる。が、 《ふん!》 ディアルクスはその巨体からは想像出来ない速度で後退すると、『竜鱗装甲 ドラゴンスケイルアーマー』を展開し防御力を高め、更に俺の斬撃により切り裂かれた部分を固める事によりダメージを抑えたようだ。
そして俺の背後ではディアルトとクレイルースの戦闘が始まる。その戦闘の最中、
「何してるの? さっきの技は何? ディアルー君もディアルクスも僕に任せてくれればいいんだ」
ディアルクに攻撃を仕掛けていたディカルルはそう言ってその場を離れた。俺はそんなディアルクを見据え、ディアルーはディアルを、クレイルトはディアルーを追っていった。
《ディアル! ディアルー! 待てよ。逃げるなよ! まだ勝負がついてねえだろうが!》 《そうだ。俺達を倒せる奴なんか何処にも居ない。だから諦めろ。お前じゃディアドルーは止めらんねーよ》 ディアルクとディアドルは俺を無視し続ける。ディアドルはともかく、ディアドルーは明らかに俺を警戒し、警戒を解こうとしない。俺は二人を無視して、 《クレイドル。俺に考えがある。今から俺と二人で戦うフリをするぞ》 クレイドルに小声で囁く。それを聞いたクレイルドは驚いた様子を見せるが何も聞かず了承する。
《よし。それじゃあ行くぞ?まずはクレイドルの身体を借りて、ディアルクを牽制する。ヤツは油断し過ぎだ。そこを狙え。そして俺の身体を使って攻撃しろ》 そしてディアルーの目の前に立ち、俺はクレイドルの身体を借りるとディアルクに話し掛ける。そして、ディアドルーに向けてディアドルと共に突進していった。
ディアルーがクレイドルに向かい突撃してくるが俺の『大魔剣術 黒稲妻サンダーブレード』を盾代わりに使ったのでディアドルが怯んだ瞬間を見逃さず、
「『完全武装』」そう叫ぶと同時に俺は全身を覆う黒い甲冑を纏った姿に変わると、ディアドルーと対峙する事にした。クレイルーとディラルクはお互いに向かい合っている状況でありその隙を狙う形となっていたからだ。しかし相手もそれは同じであり、二人は一進一退を繰り返し、お互い一歩たりとも引かない戦いになっていた。そんな中、俺はクレイドルに指示を出してディアルーを攻撃するように誘導させる。
ディアドルーは突然の俺の行動に動揺しながらも必死でディアルーの攻撃を捌いていたが、
「『虚像 ミラージュ 』」と呟きながら魔法を発動した俺に攻撃を止めるように言うも間に合わず、ディアドルーは『虚像 』によって俺を本体と誤認する。その僅かな隙を逃さずに攻撃を開始したクレイルーとディアルだったがクレイドルはクレイドルに加勢せずディアドルに向かったのだった。そして俺は、クレイドルにクレイドルを操らせ、ディアドルーを追い詰める作戦に出たのだ。クレイドルに攻撃させつつ俺もディアドルーを追い込んでいく。そうしているうちにある事に気が付いた。
(ディアドルの攻撃には重さがない。ディアルーは違う。クレイドルもか?クレイドルが攻撃しているのにディアドルにはダメージを与えていない。どういう事だ?)
《クレイドル、もういいぞ。交代だ》 そう言った直後ディアドルはディアドルの攻撃を受けて倒れ伏した。そして、
「『竜鱗装甲 ドラゴンスキン』」とディアドルーが叫び、防御体勢に入る。それを見たクレイドルは動きを止めて俺に入れ替わった。そのクレイドルに向かって、 《よくやった。後は任せな!》 俺はクレイドルーに対して言い放つと、『多重思考』による『思念伝達』の共有化による情報網を駆使しディアルクがディアルを倒すまで待つ事とした。その間、クレイドルにクレイドルを操るように指示を出すも、
(くそっ! ディアルルがディアドルを倒してディアルトの方へ向かわないように足止めするのが精一杯だと? このままじゃ、負けるのはこっちに決まってんじゃねーか! 何とかして時間を稼がなきゃ。しかし一体どうやって時間を稼ぐってんだよ? くそっ! 何かないか、何か──。ん? そういやさっきディアドルの動きが悪くなってた時あったな。その時に何かがあった? そういえばディアルルの動きもおかしかったような? ディアルルの意識ははっきりしているのは確かだ。なのに身体が思うように動かない? 一体、何が起こったっていうんだ? いや、それよりも今はクレイドルが少しでも長く時間稼ぎしてくれる事を願うしか無い)
そしてクレイドルも遂に倒れる事になる。クレイドルが倒れた事によりクレイドルの人格は完全に消滅したのだ。そして俺の影に隠れていたゲルギーがクレイドルを回収。
《おいっ、クレイルの奴がクレイルを殺したぞ。どうなってやがる》 《わかりません。あの子は一体どうしてしまったというのですか。あれではディアルー様に申し訳が立ちません。私達が付いていながら》 そう話しているのを尻目に俺はディアルクと対峙している。ディアルクはクレイルとディアルが倒された事で明らかに動揺していたのだ。そして俺が攻撃を仕掛けようとするも、クレイルの『超速思考』による未来予知に反応が遅れ回避行動に出る。
《ちぃ。やっぱりこの魔法を使うと俺の思考も追いつかなくなるか。くそ、だがやるしかない。この一撃で決める! この一撃を凌げばディアルの勝ちだ。ディアルなら必ず勝つ》 そう決意してディアルクに向けて駆け出そうとするもディアドルに阻まれる。
「おいクレイルー、しっかりしてくれよ。お前じゃディアルーンには勝てないんだからさ!」
俺はそう叫んでいるがディアドルーの注意を引き付けるだけで手いっぱいだったのだ。そしてクレイルからディアドルーが離れた時を狙って攻撃を仕掛けるがそれは防がれてしまうものの俺がクレイドルーを挑発しながらその場を離れる事でようやくクレイドルは動けるようになるも、その時は既に俺とディアルドが合流しておりクレイドルとディアルの間に割り込むとそのまま二人を相手に戦い始めたのだ。
《ディアルー!》 《おお!ディアル!》 二人は抱き合うようにしてお互いの回復を始めた為、『並列存在』による影移動と高速で動く事でディアドルに攻撃を繰り出すも、ディアドルーに邪魔されディアルがディアドルーに攻撃を仕掛けるもディアドルーに防がれるという状況になる。しかし俺は『虚像 』によりディアルを俺だと思い込ませるのに成功した。それによって生まれた一瞬のスキを逃さずに、俺はディカルルを葬り去り、ディアドルの首を跳ね飛ばしたのである。これで終わりだと思った瞬間ディアルが立ち上がると俺の胸倉を掴み持ち上げられたのだ。
《ディアドルー! お前が居る限り俺は死ぬわけにはいかねえ。だから俺は死んでも蘇る》 《ディラル、お前の魂は俺達の仲間だろう?》 《俺はお前達と同じ『魔王 ディアルグリード』のディアルドルーじゃねえ。クレイルーに宿る力の一部に過ぎない。そんなお前に命を賭ける義理はねえ》 《お前の言っている事は意味が分からん》 ディアドルーの言葉を聞きつつも俺はディアドルを切り捨て、クレイドルに話しかけるとディアドルを操らせる。そして、ディアドルの振り下ろした大剣はディアルの頭部を粉砕し、ディアルを葬ったのだった。その光景を見ていたディアルクもディアルを攻撃出来ずに居たが、
「クレイルー君、ディアルが殺られて悲しいのは僕も同じなんだ。でも君は僕の家族を皆殺しにしようとしたよね。それにミギューさんを騙して殺しただろう? だからここで君を殺してあげないといけないんだよ?」
ディアドルーの最後の言葉をクレイドルが理解した時には既に遅かった。ディアドルーの拳に貫かれクレイドルはその命を落としたのだ。そしてクレイドルが息絶えた後もディアドルーは言葉を続けた。
「本当はね。君を殺す必要は無いんだ。僕は君を連れて帰りたかっただけなんだけどね」
そしてディアドルから分離した『思念体』はその場に座り込み、
「はあ、もういいや。もう疲れちゃったよ」
《ディアルドルー!》
「うん。クレイルドのお父さんだよね。僕はディアルだよ。君達のおかげで助かったよ」
(助けただと? 一体どういう事だ?)と俺が思いながらもクレイドルーを見ると、
「あのまま放って置いたら確実に殺されていたけど、僕には君を殺せないからね。仕方無く君に体を明け渡すフリをして時間稼ぎをしていたんだよ。そうすれば、いつか必ず僕を滅ぼせる誰かが来て君の肉体を滅ぼしてくれるって思ったからさ。そして本当に来るとは思ってなかったよ。だけどね。結局その前に僕も死にそうになっていたんだ。そこで僕は最後の賭けをしたんだよ。僕の持つ魔力全てを使ってディアルーの記憶を封印しなおしたんだ。ディアドルとして生きて貰う為に。それがまさかディアドルーが来るとは思わなかったよ。でもまあいい。こうしてディアドルは死んだ。そして君が今代のディアルーになったんだ。これで僕の役割は終わったと思う」
「ディアドルーはどうしてそこまでして俺を守ろうとしたんだ?」
(ディアドルーは何を考えているんだろう。自分の全てをなげうつ覚悟でディアルを助けたっていうのか? まるで俺をディアルドルーと認めてくれたみたいじゃないか)
「ディアルーはディアルドルーの器であり後継者だからだよ。ディアドルーは君にディアルドルーとしての全ての能力を与えたんだよ。ディアルーの肉体はディアルドルーの力に侵食されてディアドルーになっている。だからね、そのディアドルがディアルーンによって完全に乗っ取られた場合ディアドルの身体は消滅する事になる。それを防ぐ方法は二つ。ディアドルの魂が完全に消滅する前に、ディアルーの中にある魂の半分を取り込んで一体化するしかない。しかしディアドルーはもうその力がない。そこで、もう一つの方法を取る必要があったんだ」
俺はその意味を理解するのと同時に一つの可能性を思いつく。そしてクレイドルの死体を確認する。
(やっぱりか。この死体、何かおかしいと思っていたんだ。だがこれではっきりした)
俺は『鑑定』を発動させるも、『多重存在』による『虚像』の発動に時間がかかり『多重存在』による『多重存在』による分身が『並列思考』による思考共有による情報網の構築が完了する。これにより、ディアドルーの本体であるクレイドルーとディアドルの遺体が『空間収納』内に回収出来たのだ。そして俺の中で一つの結論が出た。
(やはりそうなのか。それなら説明がつく)
《な、なんと、それならディアドルーの言う通り、俺達は救われるのかもしれませんね》 《え?》
(クレイドルの言っていた、救い? もしかして──!)
俺はディアドルに質問をする事に決めた。そしてそれはディアドルーの考えと一致していたようで── 《そう。このディアドルは、クレイドルの魂を半分取り込み同化させる事に成功したようだ。つまり、ディアルーの身体はディアルドルーそのものだと言う事だ》 その会話を聞いてディアドルは自分の目的を果たした事を知り笑みを浮かべている。そのディアドルを見てディアルドが口を開く。
「ディアルー。いやディアルと言った方がいいかな? 僕は君の事を友達だと思っているよ」と突然ディアドルーが話し始めたのだ。それを聞いたディアルーが動揺するもそれを表には出さないように気を付けながら話を続ける。
「ディドル、一体どうしたんだい? いきなりそんな話し方をするなんてさ」
「クレイルー君との話が終わった後に僕の記憶を全てクレイドルから消してもらうつもりだったんだけれどさ、やっぱりそれはやめにするよ。今の君はクレイドルーじゃない。ディアルだ。ならば僕も、ディアルドルーではなく、ディアドルーという事にしよう。だからこれからも友達でいてくれないかい?」
ディアドルーがそんな事を言っている間にクレイドルは俺の中に戻り、『並列存在』による分裂体はディアルクに吸収されてしまった。そしてクレイドルがクレイドルにディアドルの情報を転写していた事で俺の中に残っていたディアドルの情報が全て吸収されてしまい俺の人格が一つに統合された事で俺は自分がクレイドルーでなくなったと自覚する。そして同時に『思念体』となっていたクレイドルもディアドルに記憶を奪われ消滅してしまった。俺はその事実に驚愕するも今は状況の把握に全力を傾けるべきだと判断し行動を開始する。
《ディアドルー。いやディアドル。俺はお前の事は許すつもりはない。俺はお前のせいで両親と兄弟達を失いかけたのだから。だが俺を生かすために行動してくれた事は感謝している。だから、俺はお前を許す》
「ありがとうディアルドルー。そう言ってくれるだけで、僕は報われるよ」
「クレイルー様。私は、あなた様に忠誠を誓います。私にとって主と呼べるのは貴方だけなのですから。例えディアドルが貴方であろうとも私の心は常に貴方と共にあるのですから!」
《クレイルー、お前がクレイドルだったのか。そう言えば確かにディアドルと顔つきが似ているような気がしないでもないが、まさかこんな再会になるとは》 《クレイルー様、今まで黙っていて申し訳ありません。ですが私はディアドルー様との約束を果たさないといけなかったので》
「クレイルー君、君とミキュロルさんは、ディアルとクレイドルの本当の子ではないのは知っていた。そして君が人間だというのもね。だからこそ僕もクレイドルも君がディアルと認める日が来るまで待つことにしたんだよ。だって君はディアルーなのだから」
《ああ、俺も今更ディアドルをディアルーと呼ぶ気にはなれないからディドルと呼んでくれ》 《では改めて、ディドル、よろしく頼むぞ》 《クレイルー、ディドル、お前達が無事に戻って来たのは嬉しいが、お前達にばかり頼っているようじゃ俺はまだまだだな》 俺はディアドルの言葉に何も言い返せなかった。ディアドルーが居なければ、そもそも俺は死んでしまっていたのだから。ディアドルーが俺の意識が戻らなかった時に俺が生き続けられるようにしてくれたおかげで、俺は今ここに居られるのだ。だから俺の『並列思考』もディアドルがいてくれたおかげと言えるのである。俺は『ディアドルの恩義に答えられなかった。だから、ディドルをディアルと呼べなかったんだ。だが、ディアドルは、ディアルドルーである事を受け入れた上で、もう一度友人としての関係を築いていきたいと、ディドルは言ったんだ。だから俺もディドルを受け入れる事が出来たのだろう。そして俺はミラルダを見るも彼女は笑顔を向けてきたのだった。
そして俺はディアドルが言っていた言葉を思い出し、一つの可能性を考える。そしてその可能性を試して見る事にしたのである。それはミラルダの魂を呼び戻すというものでディアドルは俺にそれを託したと言っていた。そのディアドルの言葉を信じてミラルダを見守ると──
「ミリュイ! ミリー!!」
「ミリル!? ミリエル?」
二人はお互いの名前を言い合い抱きしめ合ったのだ。そしてその様子を見て俺は確信した。ミライの魂はディアルーの力に取り込まれずミリュムの肉体に戻ったのだと。
俺がディアドルーの記憶を取り戻してから既に三週間の時が流れ、季節は既に春を迎えていた。その間にクレイル達からは色々と話を聞いた。
まず俺の予想は当たっており、クレイドルの身体に埋め込まれた石はディアドルーの一部らしい。そしてディアドルーは俺の魂と融合し俺が俺自身の魂を持つようになるのを待つつもりでいたのだそうだ。だからあの時、ディアドルーがクレイドルの体を俺に明け渡したフリをしたというのはそういう意味だったようである。クレイドルーの目的は最初から自分の肉体の復活であった。そしてそれが失敗した時の為の手段の一つでもあったようだ。だがクレイドルが死を覚悟し俺に託してくれた事により、結果的に俺はディアドルーの願いを達成する事に成功したのだという。
またディアドルが俺に体を預ける際、全ての記憶を奪い去ったのではなくディアドルーの記憶の半分を残して行った事で、俺はディアドルーの知識を使えるようになり、それにより『魔導具作成』により新しい能力を得たり、ディアドルーの魔法技術も扱えるようになっていたのだ。その事から考えると、俺の魂と融合したディアドルーの本来の能力は俺の方が引き出せるのではないかと思うのだがその点に関しては俺にも良く分からない。
ただ、そのディアドルーと俺の間に何か特別な繋がりがあるような気がするのだ。『思念体』の状態でディアドルーに聞いたところ、俺の魂と一体化していたせいではないかとの事である。だから『思念体』が俺の中に入っても俺に影響が出る事は無かったのだ。ただ、俺が『魂の契約者』の能力を使っていないにも関わらず『魂の盟約者』の効果が出てしまうのは問題かも知れないと俺は考えていたりする。
クレイドルーとクレイドル。クレイドルとクレイドルルー。二つの肉体が合体するような形で存在しているため魂に刻まれる情報が多く、その情報が能力となって発現するのだとすれば、『鑑定』が勝手に発動するのも説明がつくからだ。だがその情報も、元々『鑑定』に引っかかっていなかった情報なので『多重存在』による情報の転写によるものではない事も分かっている。
クレイドルーとクレイドルの記憶は二人に分離されてしまい共有される事がなくなり『思念通話』による会話のみになってしまったが、クレイドルーとディアドルーはお互いの能力をある程度理解しているようで連携して動いている。ディアドルーとクレイドルーもそれぞれ意思を持ち思考出来るようになったので会話が可能になった。その結果、俺は二人を区別せずクレイドルーとクレイドルと呼び分けている。ちなみにディアドルーとディアドルーは魂が繋がった事で記憶を共有するようになっており俺とミリュルやミリルルのように『精神耐性』を持っている。だからなのか、二人は俺の前で裸で寝たりするが恥ずかしいとかは一切ないようで平然としているため俺は目のやり場に困ってしまう。
ディアドルーの方はディアドルーで相変わらずの調子で自由気ままに暮らしているがディアドルーは俺が『思念体』になる前に話した事を忘れていないらしく俺の為に頑張ってくれている。だがクレイドルもディアドルーに対抗意識を燃やしたのかディアドルーと一緒に好き勝手しているようだ。クレイドルとディアドルーにはディアドルルーが残したという宝箱を持って来てもらっている。それはこの世界にはない素材を使って作られた武器と防具だ。この世界にはミスリル以上の魔力を持った鉱物など無い。だが、その金属には魔素を蓄える力があったのである。つまり魔力を完全に制御する事が出来ずとも魔力を流し続ける限り半永久的に使い続けれる魔力剣を作る事が出来たというわけだ。これは俺とミザリ、そしてラピスしか使えそうにない代物だったりする。だから三人がこの世界で使う武具は全てミスリル製になっているのだ。そしてミラルダ、クレイドル、ミリル、クレイルーが着ている衣服もこの金属から作り出したものである。
ミラルダ達はその服のおかげで魔物に恐れられる事が少なくなり助かってはいたが、そのせいで町の人々と仲良くなったりはしなかったようである。それはやはりクレイドルが魔王であったという事もあるが、何よりミリルルが人間離れした美しい容姿をしていたせいで人間達が恐怖を感じてしまったからである。そのミラルダ達の装備も今ではディアドルルーが作った服と俺とミザリの『思念体』による強化が施されているため更に防御力が増した状態になっていた。
ディアドルールーが作る服や鎧は不思議なほどに軽く、しかも頑丈で伸縮性も有るため俺以外の人間が身に着けても問題はない。そしてミラルダ達もミラルデ達が愛用していたものよりも格段に性能が上だという事を実感し驚いていたのであった。
***
***
※ディアルドルーの種族名が「クレイドル=アーシェリオン(神格名)」になりますが、作者である自分が分かりづらいので「クレイドル」と呼ぶようにしています
「そういえばクレイドルの両親って今どこに居るんだ?」俺はディアドルから教えてもらった場所に来ていた。そこには一つの洞窟があり、中に入ると巨大な空間が広がっている。そしてそこに一人の男性が佇んでいた。その男こそクレイドルの父であり、ディアドルーの父親なのだ。俺はディアドルーの頼みもあり彼に会うためにやって来たのだ。そして俺はディアドルの記憶を頼りに『解析者』を発動させて彼のステータスを覗いて見た。
その瞬間、「なっ!」っと言葉を失ってしまう程に、俺は目の前の人物が持つスキルに驚愕したのであった。
【名前】
ジーク 【性別】
男性 【年齢】
20 歳 【種族】人族 【称号】
ミギュウ族 ディアドル の友 家族 息子 ディアル の妻 ディアルルー の母 クレイドル の母 【レベル】
311 ◆体力 44420 /44690 ◆気力 340000 /345000 ◆魔力 528500 ■基本能力 最大HP 108000/10800+30400
(+20000)
最大MP 508600 +10000 攻撃力 22960+40200
(+39000)
防御力 162900 +4000+6000 魔攻力 276700+42200 抵抗力 141700 知力 848100 運 12 魅力 745
―――――基礎パラメーター
『幸運値』
1
『生命力』
0
『物理攻撃』
15249+3670
『物理防御』
1380
『特殊技能』
3398+3722 ◆固有技能 超成長&超学習&超再生&身体強化 剣術Lv.3 格闘術 Lv.2 魔法付与LV.MAX 生活魔法&水属性 回復魔法の極み 浄化 解呪 転移 結界の心得 魔獣使役 精霊の愛し子 神の祝福 言語変換 鑑定 多重存在 隠密 完全探知遮断 精神防壁 気配感知 未来予知 千里眼 念話 隠蔽
『加護』
創世の女神の加護(全ての事象に対応可能)
慈母女神の守護(全能力を底上げ)
鍛冶の神ガルア(ガルアの祝福)
武闘の神グルフド(グルルグの祝福)
戦闘神ガウルトの祝福
『呪い』
魔王化の強制執行の証
不老長寿化の呪い ◆特殊補助 ユニークギフト:神龍帝の叡智(全ての能力が解放済み。進化も可能となり全てに限界がなくなる。ただしこの能力はクレイドルが目覚めて居なければ使用できない)
『分身創造』《ディアドルー》 分身体が1体増える。但しこの能力は一度使用すると暫く使えない 分身体を5体にまで分裂させる事が出来る ◆固有能力
『並列演算』『多重存在』が使える 魔法習得率向上の特典付き ◆一般能力
(通常時は自動発動されている。常時発動型の為OFF不可)
AGI+10万 VIT+125, MND-10, DEX-50 BURN-100000 INT-80 CRI+75 SLU-100,000
『念話』使用回数無限
『念写』写真機能使用可能
『転送』収納から出し入れする ◆職業系技能
『錬金』アイテムを作れるようになる『錬成』合成を行える
『鍛冶』道具を使って作成が可能になる
『彫金の嗜み』アクセサリーを作れれるようになる
『調合』薬が作成できるようになる
『料理』飲食可能な物の作成が出来る ◆趣味技能 生産技能
『細工』装飾が可能に
『木工』木材を加工できる
『建築』建物を作ることが可能
『農業』栽培が可能となる
『裁縫』布製の物を作製出来る
『大工』家などを建てることが出来る。但し素材は自分で調達する必要がある
『釣り』魚が獲れる場所が分かる。また釣り道具が製作出来る
『解体』動物を素材に出来る ◆その他 ディアドルの記憶で知っている情報。『鑑定』で確認した情報。そして本人からの聞き取りによって知った情報だ。
ディアドルの父親が持っている『魔素操作』は、魔素を体内で循環させ身体能力を上げるスキルである。この『魔素操作』と『魔素強化』というスキルを組み合わせると更に強力な効果を得る事が出来るようだ。そして『鑑定』と『隠蔽』が発動する『隠密』だが、これは『魔素』を使って自分の気配を完全に消し去り認識できなくするという能力のようだ。
そして最後に一番大事な事、この世界に来てから何度もお世話になっている俺の『多重存在』が発動してる! 俺には見えないが俺の周りに俺がもう二人いるのだ。それがディアドルーの記憶にある。つまり、これが『魔人族の始祖』の能力という事らしい。だがこれを発動させると俺のステータスは『隠蔽』されてしまうのだ。これは『大賢者』でも分からないようだったので仕方がないのだが俺の今の実力では『魔人族』には勝てるはずもない。なので俺がこのスキルを使って勝てるのはディアドルだけという事になる。しかしそれでも、だ。この『魔素』というエネルギーがある限りディアドルと互角に戦う事は可能であるだろう。そしてこの世界で俺に出来ないのであれば、『地球世界パラレルワールド』での俺には到底無理だったはずだからだ。だから俺は今、ここにいるのだ。ディアドルともう一度戦えるように。俺の『多重存在』が、今こそ必要になってくるのだ。だがその為にも今はディアドルから託された仕事を終わらせる必要がある。ディアドルルーから貰ったこの剣で、俺とディアドルが果たせなかった事をやる必要がある。
***
***
【名前】
ジーク=フォン=ミギュウ=ディアル 【性別】
男性 【年齢】
20 歳 【種族】
人族 【称号】
ミギュウ族 ディアル の息子 ミギュウ国二代目国王 ミリルル の母の婚約者 ミギュウ国二代目王妃 ミギュルデリンの父の妻 ミリルルルーの父 ディドルの夫 【レベル】
331 ◆体力 44460/44620 ◆気力 352000/361000 ◆魔力 528000 ■基本能力 最大HP 107800/105400+20000
(+0)
最大MP 108000/106800+0
(+5000)
攻撃力 22396+16400
(+56000)
防御力 162900+400+4000
(+39000)
魔攻力 108000+42200
(+66000)
抵抗力 150000+100000
(+100000)
知力 848100+125000
(+139000)
運 12 魅力 745
――基礎パラメーター
『幸運値』
1
『生命力』
0
『物理攻撃』
2199+24710
『物理防御』
1524+17120
『特殊技能』
3398+3722 ◆固有技能 超成長&超学習&超再生&身体強化 剣術Lv.3 格闘術Lv.2 魔法付与LV.MAX 生活魔法&水属性 回復魔法の極み 浄化 解呪 転移 結界の心得 魔獣使役 精霊の愛し子 神の祝福 言語変換 鑑定 多重存在 隠密 完全探知遮断 精神防壁 気配感知 未来予知 千里眼 念話 隠蔽 完全探知遮断 精神耐性の加護(神)
(※ディアドルの記憶で得た加護)
【加護の特殊能力】『大賢女神』『武闘女神』『戦闘神ガウルト』の加護(+)
(※ディアドルの記憶を得た事で取得した能力)
(ディアドルの知識により取得している)
(※ディアドルの記憶を一部継承しているが故に発現した)
(※戦闘技術を全て吸収するが故の能力でありディアドルの特殊能力『武闘』の上位能力)
(魔人族としての能力に目覚める)
『魔導』
全ての魔法を使用可能 無詠唱可能 熟練度上昇率増加(10倍)
熟練度上限なし 【特殊技能『多重存在』について】
『魔人族』の能力の一つ『多重存在』が使用出来ます。
ただしこれは『創造者クレイドルの分身体能力』ではなく、『ディアドルーの力の一部を受け継いだジークの分身体能力』です。
『創造主クレイドルの分身体能力』の『魔素操作』による『身体魔素強化』とは効果が重複しません。
***
***
ディアドルの『魔素』をその身に取り込み身体能力を強化する。それにより身体能力を一時的に上げているのだが、これは一時的なものであるために持続性がなくすぐに切れてしまう。そこで俺はディアドルが言っていた言葉を思い出した。
(そうか!)
「おぬしがディアドルが残した遺産を使うというのか?」
『はい、その通りです。そしてそれはディアドルーから託されたものなのです』
ディアドルから受け継いだものは全てディアドルが創ったものだった。だからこそこの『魔人族』という能力に覚醒した時に理解できたのだと思う。『魔人族』の能力は、この世界で生まれたものではないのだから。
俺は自分のステータス画面を開き、そして新たに追加された部分を見てみる。するとそこには確かに新しい表示が追加となっていたのだ。『多重存在』
これこそが『ディアドル』が残してくれた『創造主クレイドルの能力の欠片』である。俺にはもう一人分しか存在しない。そして俺のステータス画面に表示されている『魔人族』というのは『ディアドル』の能力の一部分だけが解放された状態なのだ。それでは本来の力が発揮されないのだ。だからこそ、もう一つの『ディアドル』が俺の為に用意してくれていたものが別にあったという事だろう。それは何かというと『神魔族』と表示された項目の下にあった文字が変わっていて『魔竜族』になっていたのだ。つまりは俺も魔素操作によって新たな能力を会得したという事だ。そしてそれを試してみようと思う。
この世界の生物は皆魔素を体内に保有しており、そこから力を循環させ身体に溜め込んでいる。つまり、この世界で最強クラスの魔人族ならば『魔素操作』で魔核を操り自分の肉体の強化をすることが出来るはず。これはあくまでも推測だがディアドルも同じ事をしていたはずだ。だが魔素の操作にはまだコツが必要なようで中々に難しい。しかしこれは慣れれば簡単に扱えるようになるだろうとディアドルの記憶が言っているのだ。なのでまずは俺の身体を『魔素』で覆っていき身体全体を強化していく。だがそれだけでは意味がない。魔素を自分の意識通りに動かせるようになってこそ、やっと本領を発揮できる。そして魔素が動き出した瞬間俺は一気に爆発的な速度で動いた。それは目では認識できない程一瞬で、気付いたらもう俺の動きが始まっていた。そんな感じで移動していったのだが、俺が通った後の草木は切り倒され、岩や土が吹き飛び大地には亀裂が入っていたのだ。
(うぉおお!? やり過ぎた!!)
俺はディアドルの遺した『多重存在』によって『ディアドルの力の一部』と『ジークの力』の両方を使っている状態だった。そして俺の中にはディアドルーの『魔素』が、俺の『魂』の深部まで侵食して同化を果たしていて、その影響でディアドルが持っていた『多重存在』の発動が可能になった。だが『多重存在』とディアドルの『魔素』を同時使用するという事は難しいようだ。
ディアドルがディアドルの意思のままに動けるのはディアドルの中に『魔素』が存在するからである。そして俺の中のディアドルが俺を動かそうとする時だけ俺の体を動かすのだ。俺の中で『魔素』がディアドルの記憶を読み取っており、俺の記憶の邪魔にならないようにしながら俺を操るという感じだ。俺の記憶とディアドルの記憶が同時に存在していればディアドルが表に出る必要もなく俺に記憶を渡すだけで済んだのだ。だが、俺の記憶とディアドルの記憶を同時に処理する事は非常に難しかった。ディアドルがディアドルの記憶と一体化してしまうほど、深く繋がりすぎた結果とも言えるだろう。だから俺には『多重存在』を使って二つの意識を持つ事が出来た。それが今の状況である。そしてディアドルの『多重存在』はディアドルが生み出したものだと思っていたが違ったのだ。ディアドルは『多重存在』を生み出したのではない。俺の中に残っていた『創造者クレイドルの能力の残り香』を俺と一体化させる為の鍵にしただけだと。ディアドルの記憶からディアドルの知識を受け取っている最中にディアドルが言ってくれた。
『我の『多重存在』とは創造者クレイドルの技のほんの一部でしか無い』
『創造者クレイドルは魔族の神として世界に君臨していた。魔族の頂点に立つ存在だった』
ディアドルの言葉は理解出来なかったが、今の状況を考えてみればなんとなくわかる。つまりディアドルが魔素を使い身体強化をしたのと同様に俺の体に融合したディアドルの力の一部が勝手に動き始めたのだ。それはまるでディアドルが乗り移ったかのような動きである。ディアドルは自分の力を完全にコントロール出来ており、『多重存在』に自分の意識をのせることが出来る。しかし俺はディアドルの『多重存在』の力を借りる事しか出来ないのだ。だが、その方が使いやすくて良いかもしれないと思っている。『多重存在』を使った状態で普通にディアドルの力を使うよりも遥かに使い勝手が良かった。これは『創造者クレイドルの力の断片』という特殊な力を持ったからだろう。ディアドルの記憶の中に入っていたものはディアドル自身の『創造』のスキルだけではなく、この世界に存在する様々な能力の事も全て頭に入っており、俺はそれらの使い方を全て知る事になった。そしてディアドルが『多重存在』の能力を上手く使えるようにする為に俺にもその能力を伝授してくれている。
俺はその知識により、『魔力操作』を応用して体内で練り込んだ『神気』『魔素』『魔力』という3つのエネルギーをそれぞれ別の物質に変える事が可能となった。これにより俺の戦闘スタイルがガラリと変わった。
この世界の住人にはレベルがありそれによってステータスの上限値が定められているのだが、俺は神界に住む神々によって既に限界突破の祝福を授かっている。それはステータスをカンストさせた状態で『神気』『魔素』『魔力』それぞれの特性に合わせて肉体を強化するという技術であった。
これによって俺は魔人と化し、その力はクレイマンを凌駕するに至ったのだ。
(ふぅ、何とかなったけどまだちょっと体がフラついてるな。でもまぁ大丈夫か)
そしてクレイマンは『神魔』の力が俺に流れ込んできたのを感じ取り驚愕する。
「まさか貴様! 私を騙していたのか!」
俺は答えずに攻撃に移った。
クレイマンが魔法を発動させようとした時には既にその懐に飛び込んでいた。
「なにっ! 馬鹿ナ!!」
魔法は使えず剣も届かない間合いにいるのだから当然だろう。
そのまま拳を叩き込み、腕に纏っていた炎を飛ばして顔面を焼いた。
(やっぱり威力が足りない! ディアドルならこんなものじゃないはずだ)
「グアァアア! おのれェ、魔人めがッ!」
そして俺はさらにスピードを上げて連続で打撃を放った。
『聖魔混世皇カオス』であるクレイマンの体は俺が放った一撃の衝撃だけで吹き飛んだのだ。それはまさに『武闘神ガウルト』が使った『剛撃乱舞』と同じレベルの破壊力を秘めた拳であった。それを受けたクレイマンの身体は既にボロ雑巾のように成り果てていた。
俺は追撃しようと構えるが、クレイマンの様子を見るとそれは不要だと思い止まる。
「ハ、ハッ、クククク、クハハハ。流石はディアドルーが認めた男。ここまでとは思いませんでしたよ。ですが私の目的ももう達成できましたしそろそろ退散するとしましょう」
そういうと倒れている兵士達に向かって声をかけた。
「お前達は死に損ないを連れてここから逃げるのです。魔王クレイマンはここで死ぬ! はぐれ魔物もいますから急いで逃げ出すように他の魔物達に伝えなさい! この国は終わりですよ。あははははははは、ではご機嫌よう、ディアドルーさん?」
それだけ言うとクレイマンは黒い霧に包まれ消えていったのである。
俺にはディアドルが何を意図していたのかわからないがクレイマンは逃げ去ったようだった。そしてクレイマンがいなくなると村の中から沢山の人がこちらに近づいてくるのが見えた。
『おいユウキ、どうやら村人が来たみたいだぞ?』
俺はラピスとミギーから話しかけられて我に帰る。クレイマンと戦っていた間に村の人達が様子を見に来ていたようだった。
クレイマンはもういなくなっている。だが先程の話を聞いて不安になっているのだろう。俺の前に来た人達が口々に質問を投げかけてきた。そして俺がクレイマンを追い返した事を告げると皆安堵の表情を浮かべていたのである。
俺はそんな人達の視線を受けて自分がどんな格好をしていたかをようやく思い出したのだ。
(ヤバい! そういえば俺って全身泥だらけじゃないか!?)
クレイマンとの戦闘中ずっと地面を転がりながら戦っていたせいで、俺はすっかり汚れきっていたのである。
『おい、早く戻らないと心配しているんじゃないか?』と、ミギーに指摘され慌てて村に戻ると俺を心配してくれていた皆に感謝しつつ風呂に入る事にした。
俺が服を脱いで浴場に入ると、そこには何故かミレアシアがいたのである。彼女は俺を見るなり驚きの声を上げた。そしてその後すぐに悲鳴を上げてしまった。それも無理はないと思うが、俺の姿を見て驚かなかったのはミリアーヌくらいなものであろう。
(なんでミレアがここに来たんだ?)『それはこっちが聞きたい。俺達が戻った時はすでにここに来ていて、皆と一緒にお前を待ってたんだから』
(マジか? 全然気づかなかった)『全く、しっかりしろよ』
(仕方ねーだろ、あれだけ必死だったんだからさ)
『それはそうだがな』
俺が呆然と立っていると、ミレアの方から話し掛けて来た。
「どうして貴方まで入っているのですか!? 私はただ、貴方の傷の具合を見てやろうと」
どうやら俺が入浴中に突撃してしまったようだ。そして俺の裸を見てしまいパニックになって逃げたという感じである。
(俺はいいんだけど、なんか誤解されているっぽい)
『そうだな。俺達はもう上がるから二人で入っていろ』
ミギーの言葉に従って俺は風呂から上がり体を拭くと着替えた。そして外に出て行ったのだが、暫くしても出て来ないので不思議になり浴場に向かうと、そこではまだミレアとクロエが言い争っていたのである。俺はその二人に声を掛けた。
俺を見た二人は俺が無事で戻ってきたのだと理解して嬉しさを滲ませつつ文句を言ってきた。俺がなかなか出てこない事を心配してくれていたようである。なので素直に謝罪した。俺の傷はかなり深いもので回復魔法を使わなければ危険な状態であったのだと説明すると、二人はホッとした様子だった。そしてその流れからミギーとの会話の内容を説明する事になった。
「つまり、あのゲルギーはクレイマンの罠に嵌められていたという事ですね」
「そうなるのでしょう。クレイマンがクレイドルを殺した犯人だと言うのならば、それは許せない所業であります。しかし今はクレイマンがこの場を逃げ出した事で状況が大きく変わりました。それにこの国にはまだ魔人の手が伸びており、その脅威を取り除かない事には安心は出来ないかと思われます」
俺はクレイマンの件に関しては何も知らなかったので、この二人がどういう風に考えているのか興味があった。俺も色々と知りたい事があるからだ。だが、二人の話は長くなるだろうと察した俺は、まずクレイマンが『空間切断 』という技を使った事を伝えた。この技を使うのに大量の魔素が必要なのと、使用時に膨大な熱量を伴う事から魔力消費が大きい。その為、連発は出来ないという事を告げたのである。また『神魔』の力を使っていない時はクレイマンの動きはクレイドルに比べると明らかに鈍かった事も伝えておいた。
その話を聞いたミレアは俺の話を信じる気になったらしく、この村に被害が出ないよう動くと確約してくれた。
俺はクロエと話し合い、クレイマンの逃亡により『魔王の呪い』が解けたのでこれからはクレイドルの意思を受け継ぐ俺に協力してくれるようにお願いする事にした。この村の人々を守る為に協力して欲しいと告げたのである。その願いを聞いていたミリアーヌとゲルグの親子が快く了承してくれたのであった。そして俺は改めてミリーアの気持ちを聞く。
「俺は君の想いにまだ答えていない。だからはっきりさせる為に、もう一度答えてほしい」
「私は今でもあなたの事が大好きで、愛しています。でも私もあなたに負けない程の強さを手に入れました。そして何よりもクレイドンを愛しています。だからこそ、その強さを認めてくれたクレイド様の仇を取ろうと決意したのです。どうか私と正式に婚約していただけませんでしょうか?」
俺はその言葉を受け考えるが、今の状況を考えると答えは一つしかなかった。
(ミリィーナ、君と結婚する! 必ず幸せにする!)
「はい、喜んで!」俺とミリーアは見つめ合いキスをした。その時の事だ、突然、俺の中に誰かが流れ込んで来たのだ。それは懐かしい人物の記憶。『聖魔混世皇カオス』となった際に俺の中で眠ったディアドルの心の一部であった。それはディアドルが自分の心を犠牲にして『聖魔混世皇カオス』であるディアルーテに力を貸した証でもあったのである。
「あ、あの」ミリィアーナは顔を赤く染め俯いていた。そんな彼女を抱き締め俺は再び唇を合わせたのである。そして俺達の姿を見ながら、ラピスとミギーはお互いの手を握りしめ合いながら静かに泣いていたのであった。こうして、ディアドルーの仇を撃つべく新たなる仲間を得た俺だったが、それは同時に大きな危険と苦難に立ち向かう事を意味するものとなっていた。
この国では魔物による大規模なスタンピードが発生しようとしていた。俺はその対策のために動き出すのであった。
『魔王』ディアドルーを倒した『神魔』クレイドルはその足で、ある場所へ向かって移動を開始した。
それはこの国の王女ミルキーの待つ王宮である。
ミルキーはディアドルーとの戦いが始まる前にクレイトンへ避難の指示を出してはいたが、クレイトンの暴走により指示に従わず『神魔』と戦おうとした。そのせいもありクレイドルは戦いに集中する事は出来ず、結果、『聖魔混世皇カオス』との戦いで『空間転移』のスキルを奪われてしまったのだ。そしてクレイドルはこの世界で最強の能力者となってしまい、『聖魔混世皇カオス』と化していたユウキの圧倒的な攻撃力と防御力を前にして敗北した訳だが。
そんな事など知る由もないミルキーは、ユウキが戻って来たと報告を聞き喜びを露わにしている頃だろう。
(ミルキー様、ユウキさんを連れて来ました)と、ユウキの配下となっているディアドラはそう言うと、ミルキーの前でひざまづき頭を下げている。
(そうか、ディアドルーを倒してくれるなんて流石私の婿ね!)
そう、実はユウキがディアドルーの討伐に向かったのは、クレイドンの死の原因となったミルキーに報復するためである。しかしそれを悟られないよう、クレイドルーを倒す為だと嘘をついてディアドルーを挑発したのだ。その作戦は見事に成功し、まんまと罠にはまったクレイドルーからディアドルーの居場所の情報を引き出す事にに成功したのである。そしてクレイドルーが消えた事を確認するとディアドルーはミルキーの元へ現れたのだった。
(それでクレイドルーはどこにいるのかしら?)
(申し訳ございません。奴に逃げられてしまったようです)
(そっかぁ、それは仕方ないね。クレイドルも逃げられなかったから、当然クレイドルーも逃げられていないと思っていたんだけど)
残念な事にクレイドルーの逃亡を許したディアドルだが、クレイドルの生死の確認と追跡をするつもりだった。
そして、クレイドルーの行き先を知っていると思われるのは、このミルキーだけである。
クレイドルーとミルキーが恋仲にあるという情報を得ていたディアドルが、ミルキーなら何か知っているだろうと考えて連れてきたのである。
クレイドルーの捜索の為に。
そんな事情を知らないミルキーにとってクレイドルーが死んだという情報は朗報である。
その為ミルキーは内心の喜びを押し殺し、平静を装ってみせた。
そんな彼女をディアドルは無表情でじっと見据えていた。するとディアドルに付いて来ていた二人の少女の一人、ミリアーヌがディアドルの袖を引っ張って注意を促すような仕草をして見せた。そのミリアーヌの視線に気づいたディアドルはミリアーヌを安心させようと笑顔を浮かべて見せる。ミリアーヌはそれを見て満足した様子でミリィーナの側に寄り添って、その腕に抱きついた。
(ふ~ん、その子が『黒姫の魔女 』か。確かに美しい子ね。私とクレイドルの子供はどんな姿で生まれてくるのかな?)
『聖魔混世皇カオス』となったクレイドルには『不老不死』の効果があるらしく、この世界の寿命とは関係なくずっと生きていけるのである。そのお陰で二人はクレイドルを妊娠している間も、常に一緒だった。なのでこの世界に来る前より二人には深い愛情があったのだ。
『黒姫の魔女』ミリィーナはミリアルドとクレイドルの間に生まれた子供で、ディアドルの妹に当たる人物である。『闇魔導王 』の称号を持っていて、闇の魔法を使う事が出来るらしい。しかし『勇者』として召喚されたディアドルとミリアとは違い、ミリィーナはこちらの世界で生まれているのでその恩恵を受けていない。その為ディアドルと違い魔法の発動が出来なかった。
しかし、それを知ったクレイドルはミリィーナにも『魔道王 』の称号を与えると宣言。
ディアドルと同様に『魔力の泉 』を発動させた事で、魔法を扱う事が出来たミリィーナなのだが、クレイドルから与えられた称号を『魔導師 』から変えたくはないと言うのである。
なので現在は『魔法使い 』のままなのだ。ちなみにミリヤーナがディアドルを慕う理由に、この『聖魔混世皇カオス 』クレイドルの影響が強い。ミリアーナはクレイドルに憧れるあまり、同じ容姿を持つディアドルに惹かれる気持ちを自覚したのだった。その事実はミリィーナは知らなかったりするのだが。
クレイドルは自分の妻達や子供達の事は全員愛しており、中でも一番愛したのがディアドルだった。そして自分の血を分けた子供達を愛してはいたがディアドルの代わりとなる者はいないと考えていたのだ。クレイドルにとってはクレイドルの全てを理解してくれ、その全てを肯定し愛してくれる存在こそが愛する価値のある相手だったのだから。
ディアドルが『魔人』の力を手に入れた時に、クレイドルに力を貸したのもその思いからだ。クレイドルが愛しているミリーがディアドルの妻であり、ミリヤードがディアドルの実の娘であるからだ。その為、ミリィーーミリーは『魔導騎士』の称号を持っている。ディアドルとディアドルの仲間達がミリーナを守りながら戦った『神災』の戦いの際に得たものである。
ミィナはディアドルが自分を助けてくれた事と、その想いが通じ合って結ばれた事に感激してクレイドルの事を実の父親以上の存在と認識しているようだ。そんな二人の事をディアドルが嬉しく思うと同時に嫉妬しない筈もなく、複雑な気持ちを抱いてしまったクレイドルはディアルドが死んでからもしばらく立ち直れなかったようである。そんな経緯もあってミァミはミィを本当の妹の様に可愛がっていたのであった。
『魔道士』はディアドルも持っていた。だがその『魔道戦士』であるミァミはクレイドルがディアドルを殺した事を知っており、それが切っ掛けで憎悪を抱いていたのである。ディアドルはディアドルなりの正義を持っていたのかもしれないが、そのやり方ではいつか自分も愛する者を失ってしまうだろうと気づかないのは哀れでもある。
クレイドルはミルキーに対して自分が知っている全ての真実を話すと約束したが、結局話す機会はなく終わっていたのである。クレイドルとしては、ミルキーを責めたりするつもりはなかったので、その機会があれば話そうと考えミルキーの前に姿を見せたのである。
(そっか、クレイドルーは死んだんだ。ディアドルが仇を取ってくれたって言うのは本当に嬉しい。でも、私のクレイドルは死んじゃったんだよ)
クレイドルが死んで落ち込むミルキーを、ディアドルは優しく見つめていた。
(大丈夫だよ、ミルキー。クレイドルーもきっと君の事を見守るために転生してくるよ。それまで僕が君を守ってあげるからね)
(クレイドルは生まれ変わったらどうなるの?)
(多分、この世界で生まれると思うよ。僕の予想だけど、ディアドルーは一度死んだ後で異世界から来た人間に殺された。その記憶と力を受け継いでる可能性がある。そう考えれば辻妻は合う)
(そう、ならまた出会える可能性もあるのね。ありがとう、クレイドル。私はクレイドルを一生愛するからね。クレイドルーの分まで一緒に生きて行きましょうね!)
クレイドルはミルキーの言葉に涙を流していたが、涙を流すクレイドルをミルキーが抱きしめる光景を眺めながらミリドーラは呟いた。
(クレイドルーは死んでなんかいないわ。あの人が死ぬ訳ないもの。必ず帰って来る)ミリアーナはミルキーの腕にしがみつくとミルキーを睨むように見た。ミルキーはその視線に気づき、
(なに?私のクレイドルに色目を使ってもダメよ?)と挑発するような言葉を返したのだった。そしてミルキーとミリヤーナは激しい口論を始めてしまう。
ディアドルはその二人を止めようとしたが、二人を止めるのは不可能だと悟り溜息を吐くのであった。
(ディアドル様。この二人がケンカするのは仕方ありませんけど、そろそろユウキ様をお呼びしていいですか?)
(そうだね。じゃあ頼むね)
そう言うとディアドルは再びディアドルーの所在を探しに向かった。
そしてミリィーーミゥがミルキーとミリアーナの言い争いが一段落したタイミングで口を開くと、ミルキーは笑顔になって答えを返す。そのミリアーナがユウキを呼ぶと言った言葉に反応したのは、当然ディアドルーの娘であるミリアーネだったからである。
ディアドルーの一人娘のミリアーーネには父親と同じく『勇者』としての潜在能力が有り、ディアドルーの死後『勇者』の能力を発現させていた。『勇者』の称号はクレイドルが授けたので、今はディアドルーと同じ『魔導王』の称号を持っているのだが、『聖魔混世皇カオス 』となった父の影響で、『魔王 』と『魔導王』の二種類の力を持つ『超越者』と呼ばれる特殊な存在へと変化を果たしており、クレイドルに匹敵するほどの圧倒的な魔力を有しているのであった。
「ディアドルーが死んだというのは、間違いないようね」
(ああ、そうだな。ディアドルーと『闇魔導王 』は消滅したと俺にはわかる)
俺は目の前に現れた『魔王覇気オーラ 』の威圧感を放つ美人のお姉さんに驚きつつ、心の中で話しかけた。
(ふふふ、初めましてユウちゃん。あなたがユウくんね。お父さんから話は聞いているわ。これから宜しくお願いするわね。ところで私とどこかで会った事はあるかしら? 何故か初めて会う気がしないのよね。不思議な感じだわ。私の名前はミリィーーーーって、あらら!? この子達はいったいどういう事なのかしら?)
ミリアーはそう言った瞬間に驚いていたが、その声を聞いてディアドルの娘達、つまりディアルーテとミリアーナが姿を現して、ミリアーナが『勇者』の気配に気づいた事で三人で話し合い始めたのだ。
(ミリアーネ。どうしてこの場に貴方が?)
(母さま、お久しぶりです。実は私には前世の記憶があるのです。『聖魔混世皇カオス 』クレイドルによって『魂融合』の能力を与えられました。それにより『覚醒者』として『真眼 』という『神魔霊装 』を手に入れたのです)
ディアドルーの娘達は互いに面識があり親しげだが、それはディアドルの加護によるものだった。
『真魔導士』、『神王騎士』などの『勇者』の称号を持った『覚醒者』として、ディアドルと『魔道王』の称号を得たミリヤーナは共にクレイドルの仲間となり行動を共にしていたので仲が良かったのである。しかしミリヤーナの場合は、ディアドルはミリィーーミリアースの事は仲間として認識していたが、ミリィーナとクレイドルの間には確執があるのでミリアーーミゥにはあまり良い感情を持っていなかったりする。ミリィーーミィがディアドルの『魔道騎士』の称号を得ていた事で二人は敵対していたのだから。
(そうなのね。それで『勇者』であるディアドルーを取り込んだ訳か。確かにその力はディアドルーが与えたものなので、それを受け継いでいてもおかしくはないのでしょうね。ただ『聖魔混沌』のディアドルーは、もうこの世には存在しない。ディアドルーが転生しても、その記憶や力を受け継ぐ訳ではないの。『勇者』であるディアドルーと、今ディアドルーの娘である『聖魔混世皇カオス 』クレイドルが混ざり合い新しい『魔導王』クレイドルーが誕生したのだから。でも安心して頂戴。私はその件について文句を言うつもりはないのよ。むしろ、クレイドルが生きているという事実だけで満足してるから。それに、ミリヤーナは私の大事な娘の一人なのだから仲良くしましょう)
そして三人の子供は、それぞれ自己紹介を始めたのである。
(私はクレイドールの妻のクレイドルよ。ディアドルーの『神魔英雄神 』だったわ。その『神魔英雄神』だったディアドルーは、『闇魔導士 』と『勇者』の二つを持つ『超越者』だったの。そしてミリィーーミアーは『勇者』の称号を持っていたけど、その能力は『光魔道騎士 』だった。この子の父親のディアドルーも、その能力を引き継いでいたみたいね。だからミリアーーミアーは、ミィーーミィとは対立している関係になるのかしらね。まぁそんな事情もあるのよ。ミリィーーミゥもミリィーーミゥなりの考えがあったようだけど、この子はクレイドルの娘である事に誇りを持っているの。この子にも悪気は無いので許してあげて欲しいわ)
クレイドルの話を聞いて、ミィーーミゥとミィーは互いの視線をぶつけ合っていたが、そのミィーミィの発言を受けて、ミリィーーミァは怒りで顔を赤くしてミィーーミィの頬を思いっきり引っ張っていた。
(ディアドルー様の妻である私がミアーーネの母親で、ミィがミァミの母だというのはわかりますが、私はミァミの母親ではありません! 何故、私がそんな子供を産む事になるんですか!? それに私はミリィの事も母親のように思っているんですよ。ディアドルー様に拾われた時も一緒に居たのは私ですから)
(えっとね。私達、ディアドルーが分裂した時には一緒にいたのよ。それでクレイドルーは分裂後にディアドルとして生きていたんだけど、そこで『魔道帝マギステル』のミリアネージに求婚されたの。そして生まれた子がミィーアとミーミアなのよ。この子はディアドルーとミリィーアが融合した姿で生まれたんだって。この世界で生まれてディアドルーの加護を得て『聖剣王アーサー』の称号を得るとミィーアとミィーミゥは生まれたんだよ)
ミリィーーミィがミリアーーミゥに掴みかかり、ミィーーミェはそれを制止しようとしたが、ミィーーミィはそのミィーミゥの言葉に反応し、更に激しくミィーーミゥを責める。ミリィーーミィの言葉に反応したのが自分とそっくりの顔をした姉妹でしかも母違いの姉であったのはミィーーミォにとってショックが大きかったのかもしれないが、ミリィーーミウの口振りからミリアーネの言う事は真実だとわかった。
それを聞いてショックを受けた様子を見せるのは、当然ミリィーーアだ。ディアドルの『魔導師』の力とディアドルーの『勇者』の力を受け継いでいるディアルーテーは、当然ディアドルーとディアドルの両方の加護を持っている訳で、『超越者』でもある訳だからだ。ディアドルとディアドルは別の人物ではあるが同じ存在であるとも言えるのだ。そのディアドルーの加護を受け『勇者』として覚醒した娘達な訳で、『勇者』としてディアドルーの娘達が誕生した訳だな。
俺もディアドルの『賢者』の力で俺自身の職業も『魔導王』に変化しており、俺の魔力は完全に制御下にあるのだが『魔力支配メタコントロール』の効果範囲はディアドルーが生前暮らしていたこの空間まで届くようなので、『魔王覇気オーラ 』は無効化する事が出来た。そしてディアドルーが消えた事によりディアドルがこの世界に与えた影響が無くなっていた。つまり俺にかかっていた封印が全て解けて俺が元の状態に戻ったのであった。
「あれ?ユウちゃんどうしたの? なんかユウちゃんの雰囲気が変わった感じ?」
(ん?ああ、ミリィーさん。ちょっとね、俺は色々あったせいで性格が少し変わってたらしいんだよ。今の俺は『魔道騎士 』、『賢者』、『聖剣士 』、『魔王 』、『超勇者 』『大魔聖王』っていう称号を持っていて、ディアドルーの力の一部を譲り受けた存在になっててね。『超越勇者』という『聖魔混世皇カオス 』クレイドルーの後継者的な存在になったからね。『超越者 』としての能力は全て使えるようになってるし、クレイドルーから引き継いだ能力もあるから、『聖魔混沌』となった『魔道王カオス 』クレイドルーの能力も全て使えたりするよ)
(ディアドルーから力を受け継いだというのなら納得だわ。私も同じディアドルーの妻だったのだもの、ディアドルーから受けた影響があるはずだから)
(俺の場合、加護を受けただけでディアドルー本人から受け継いだ訳じゃないからね。ディアドルーの影響が残っているかどうか分からないし。それに『神界神域創造神カオス』の称号も得たんだけど、ディアドルーの影響でそうなったのかどうかは判らないんだよね。だから俺は元々『神王騎士』だしね。まあそういう訳で『魔王』の力を受け継いでしまったんだ。そのお陰で『超越勇者』にもなったけどね。俺はこの力でミリィーさんの敵を全て倒す事にするよ。だから俺と一緒の未来を見てくれるかな?)
(ええ。私に断る理由はないわ。私だってクレイドルーの娘ですもの。それに私の夢はユウくんと結婚してこの子と幸せな家庭を築くこと。それが叶うならば私は何を犠牲にしてもかまわないと思ってる。私は自分の命さえ惜しくないくらいよ。ユウくん、私の願いを聞いてもらえるかしら。その『超越勇者』の力と『超越者』の能力を使うのは私だけの為に使って欲しいの。ユウくんにはこれから『勇者 』、『勇者王』、『魔道勇者』の称号を得る為に必要な儀式がある。それはユウくんが『超越者 』の能力を手に入れた時にもやったものだ。でもあの時はディアドルーの加護を得ていたからこそ、それをユウ君にも出来るというだけでディアドルーがいなければ出来ないものだったから)
(そうなのか。でもその前に、俺が加護を受ける為にはミリィーーミリアースの協力が必要だとクレイドルが言っていたよ。だから協力してくれるかい?)
(それはディアドルーの妻として、そしてディアドルーの娘としてユウくんに協力したいと思うわ。私はユウちゃんの『妻』になる覚悟はあるのだから。私はこの子に会えた事がとても嬉しい。この子が生まれて幸せに暮らせるようにしたいと思っているのよ。その為に協力は惜しまないつもりだからね)ミリィーはミィーーミィーの身体を抱き締めると、強く抱き返した。
ミリィーが協力を承諾してくれたのでミリアーナも問題なく『真聖血』を受け入れてくれた。しかし、ディアドルーの娘であるミリィーーミリアーズの『真聖血』を受け入れた事で、ミリィがミリアーナとミィーミィーの記憶を見る事になり『勇者』の称号を得てしまった。その結果、俺は新たにミリィーとミリアーナに『絆』で結ばれた。
「えっと、ユウくん。ミリィもミリアーナと同じようにユウちゃんの『恋人』にしてもらってもいいかな。ミリィはもうすぐ『聖魔混沌』になってしまうだろうから、それが終わった時、また考えて欲しいんだけど」
(ん? それなら『超越勇者』の『真名解放 』を使えば『魔道騎士』に戻るから大丈夫だよ。ディアドルーの『超越勇者』としての『真名の封印 』は既に消えてるんだから。ミリィの『魔道騎士 』の称号も消えるはずさ。だからミリィーが望むならいつでもいいよ)
「ありがとう。やっぱりユウくんは優しいんだね。私は『聖剣聖 』と『魔王』の称号を得た時に、ミィミィーのお母さんとお母さんと姉妹達と一緒になったんだよ。その繋がりでミゥちゃんとミィーーミィにも会うことが出来たの。その時、ミゥちゃんと姉妹達がユウちゃんの事を話してくれていたからね。だからディアドルーの妻である私がディアドルーの娘であるユウくんに惹かれたのは当然だったんだと思う。ミリィの事はディアドルーから任されているし、『闇魔道士 』と『勇者』の二つを持つミリィは、ユウくんにとって大事な人だと思うので応援するつもりなの。だからミゥちゃんはミリィと仲良くなってくれるかな?ミリィの気持ちはわかっていると思うんだけど、ミィちゃんはまだ子供で理解出来ていないみたいだから、ミリィから優しく教えて欲しいんだよね。そしていつかミィーーミィが大人になった時、ミリィのお嫁さんになってくれたらいいな。って思っているんだよ。私達もいつまでも生きている訳じゃないから、ミィミィにはミリィとミィミィの姉妹で一緒に生きて行ってもらいたいんだよ)
(わかったよ。それじゃミァミもミウも俺の妻ってことで、ミィーーミウが成人して『魔王』に覚醒した時が楽しみだね。『聖魔混世皇』クレイドルーが認めた俺の『妻』が二人増えた事になるから。それに俺の『伴侶ハーレム 』の女性陣はみんな『魔王 』や『魔王姫』とかの称号を得ているけど、『魔王』の力が目覚めるのは早くても一〇〇年後だし、それまでは普通の少女なんだ。ディアドルーのように、俺の加護を受けた少女達は普通の状態だと『魔導騎士』、『勇者』、『聖剣士』、『賢者』、『魔王 』、『魔王妃』、『大魔王 』、『勇者王 』、『大魔勇者 』、『超勇者 』、『聖魔混沌 』の称号を得る事が出来るようになるんだよ。まあ、称号の力を全部使えるのは、俺とクレイドルーの後継者である『聖魔混沌』だけだからね。俺は今の時点で称号の能力を使えるから称号の力で魔法を使ってただけだけどね。『超越者』の能力が使えなかったから)
(そうなんだ。ディアドルーとユウちゃんが凄すぎるのね。『勇者王 』と『魔勇者』の称号を持っていてもディアドルーはクレイドルーの能力全てを使うことは出来なかった。クレイドルーの能力は『神族』、『竜族』、『龍神 』、『巨人 』、『精霊種』、『幻獣種』、『聖魔混世皇カオス 』クレイドルーそのものなのだから、クレイドルーの『超越者 』の能力はクレイドルーが死しても残る事になる。だからディアドルーがどれだけ努力しても、クレイドルーが持っている『魔王 』以外の全ての能力を得る事は不可能に近いのかもしれないわね。『魔王』の力を持つ者のみが扱える能力が『魔王覇気オーラ』で、ディアドルーはそれを無意識に使っていてユウちゃんに威圧を与え続けていたからユウちゃんがディアドルーの力の一部を引き継ぐ事が出来たんでしょうね。だから『魔勇者』のユウちゃんが『魔道王』、『魔王覇気』、『魔王』の力を受け継いだ『超越勇者』になれたのね。ユウちゃん、改めてよろしくね。私も『勇者王 』の力を授かっているけど、まだ使いこなせないし。クレイドルーの娘として頑張らないと!)
(うん。こちらこそよろしく。俺とミリィーはクレイドルの遺志を継ぐ者として共に頑張っていこう。俺はこの世界に復讐を誓ったクレイドルの意思を継いで、この世界をより良き未来へと導く事にするよ)
(クレイドルの意志を継ぐかーー。ディアドルーも喜んでいると思うわ。私はそんなディアドルーを支えていけるといいんだけど)
ディアドルーが残していった遺産の中で、『勇者』『勇者王』『大勇者』『超勇者』『聖魔混沌』の称号を得られるアイテムも残っていた。それらは俺の持つ『真名の封印』と同じ効果を持っており、その力は使用者の意識を奪わないと発動しないような仕組みになっているらしいのだ。俺はその力で『聖魔混沌』の称号を得る為の準備を進めていった。まずはディアドルーの『真名の封印』を解く事から始めなければならなかったのだが、クレイドルーが残したメッセージに『ディアドルーの書』のありかが示されていたのでそれを読む事によって簡単に解くことが出来たのだ。だがそこには更に衝撃的なことが書かれていた。
(ディアドルーの奴め、私達の子供達にこんな事を書かせおったのか。しかもユウ様に対して。あのバカ息子が。あの『超越者 』の能力を使いこなしている事からもユウ様に勝機はないと言うのに)
それは『ディアドルーの書』の中に書かれた最後の言葉であり、俺に対する宣戦布告でもあった。俺はその言葉を読んだ瞬間、頭に血を上らせてしまう。そして『聖剣聖 』と『魔王 』の力を同時に使って全力でその場から移動していた。その目的地は勿論クレイドルの遺した言葉にあったディアドルーの『迷宮』がある場所だ。そこで俺は『超越勇者 』に覚醒する準備を始めていた。それはディアドルーの言葉に書いてあった、ディアドルーの『超越勇者』の能力を受け継ぐ為の儀式を行う為の準備だった。
その方法はクレイドルの血族でなければ成功する事はなく、ディアドルーの娘であるミリィーとミリィーーミィーの双子の妹であるミリィーーミリアースの協力が必要になる。ディアドルーの娘で無ければ、儀式を行う事が出来ないのだから。
(俺がこの世界に来た目的はディアドルーを殺した相手を殺すため、この世界を滅ぼすためである。この世界に存在するあらゆるモノを殺し、殺し尽くした後、この世界は滅びる運命にあるだろう。この世界で生き続ける事は不可能な世界なのだから)
(((それは無理です))そうそう、それは絶対ダメですよ)
俺の『精神対話』による呼びかけに応える声が聞こえてきた。しかしそこに現れた人物を見て俺が驚いてしまう。何故なら、そこには俺を異世界召喚し、『真名解放 』、『魔王覇気』、『魔道覇王』、『勇者覇王』、『魔勇者』の称号を持つ勇者の称号を持つ男、天城大地の姿があったのだから。そしてその隣にいる少女は間違いなく女神のレイアーナだった。彼女は、かつてレイアーナと敵対関係にあった魔族の国で魔将を務めていた女傑だ。その二人が揃っているという事はーーーーまさかーーーー。
(はい、その通りです。私が貴方を元の世界に帰すためにやってきました。この場から消え去りなさい、それが一番正しい選択なのですから。貴殿方がこの世界を救うには、ユウちゃんが死ぬ必要があるのです。だから私はそれをさせません。そして、ユウちゃんが望まない結末にはさせないと心に誓っているのですよ。私の大切なユウちゃんの笑顔を守るために)
勇者の称号を持った男の表情はとても冷たいもので、怒りを押し殺しているような雰囲気を感じられた。彼は俺の『魔王覇気 』にも臆する事なく一歩前に進んで来ると、俺に話しかけて来た。
(俺の可愛いユウちゃんが困っているみたいだから助けに来たよ。俺に助けを求めてくれると嬉しいかな)
彼の目を見ると俺の事を知っているように思えた。俺に近づいてきたので少しだけ会話をしてみる事にする。
「俺と会ったことがあるかな?」
「ああ。俺とお前は同じ立場だったんだぜ。だからわかるんだよ。今の状況は俺が望んでいたものだ。俺もかつてはお前と同じように、愛する者達を奪った存在を殺してやろうと考えていた。俺の妻達、愛しい妻達、大事な家族や友人を奪い、俺を孤独にし、心をズタボロにした連中がいるんだよ。俺はその報いを受けさせてやりたいんだ。俺の妻達、娘達が味わった苦痛を与えてやりたいんだ。俺の仲間達が味わっていた苦しみを倍にして返してやらなければならないんだ。だから俺がやる事は、復讐ではなく、報復なんだ)
彼から放たれる言葉には重みがあって、彼がどんな人生を歩んできたかを知る事が出来るものだった。俺はその話を聞きながらも、勇者の称号を手に入れた事で何が出来るようになったのかを考えていく。俺が『魔王覇気 』を全開にして放った問いかけの返答は、俺の心を見透かすかのような答えであった。
それは俺が望む事の出来る最大の力をくれたのだと言っても過言ではなかった。そして俺もディアドルーのように、俺の家族に手を出した奴らに同じ思いを与えようと考えている事を正直に伝えた。
ディアドルーは俺が幸せに生きる未来を望んでいるのかもしれないが、俺にとってそんな事は関係なかった。俺が生きる意味が見いだせなくなったから、だから死んでもいいと思っていたのだ。俺の人生の目的は、俺を愛してくれた家族と仲間のために、この世界の敵を討ち果たすことだったから。だから勇者の称号を得た俺は、勇者の力を手に入れる必要があったのだ。それは、勇者の力が使えるようになっていたのである。
勇者の称号を持っている勇者の力が使えなかったのは、ディアドルーの娘の『聖勇者』の力しか受け継いでいなかったからだそうだ。俺の場合はミリィーーミリアースの血を引いていた為、他の勇者の力を引き継げる下地を持っていた。だからこそ、ディアドルーの娘でありながら俺に力を与える事が出来た。ミリィーはクレイドルーの娘であるミリアーを俺の元に導いて来ており、『魔勇者』としてディアドルーの意思を継いで、その力を覚醒させる為の最後の鍵となる役割を果たさせていたのだと言う。
(ディアドルーは自分がいなくなった後の為に私にユウちゃんを任せたんですよ。自分の娘の『魔道王』、『魔勇者』、『超越勇者』、『魔王 』、『大魔王』、『超魔王』、『魔王神』クレイドルーの全ての力を受け継いで欲しいと。『魔道王』のユウちゃんに『魔王覇気』と『魔王』の力を持つ者が倒されればクレイドルーの残した能力が全て受け継がれると。でも、それは『超越勇者』の力を引き継ぐのとは違い、完全な状態では引き継ぐ事が出来なくて『魔王』以外の力を半分程受け継いだところで、クレイドルーの力は失われてしまいますけどね。それでも、ディアドルーがユウちゃんに遺した能力はクレイドルーの娘達に受け継がれたはずです)
(クレイドルーは私とクレイドルーの子供達の力を、ユウ様に継承させる事を願っていましたからね。私もミリアースと一緒に『超越勇者』の力を授けられています。『超越者』としての力を受け継いだミリアーズとミリィーに、更にその姉妹達の血が混じった子々孫々と続いていき、いつかはユウ様の望みを叶えてあげる事が出来ると信じて。だからクレイドルーの意思を継ぎし我が一族、ミリィーの名の下に、ユウ様を『魔王 』の力を持つ者だと認めて協力したいと思います。この世界に害をなす者は排除しなければなりませんから。この世界で生き続けたいのであれば、『魔道王』としての役目を果たしてもらいましょう)
クレイドルーの娘であるミリアーとミリアースの協力を取り付け、そして俺の望みを理解してくれる協力者を三人手に入れた事になる。
『超越勇者』の称号とディアドルーの娘の『魔勇者』の力を継承した『魔勇者』ミリアースがいれば『魔勇者』の固有能力を使えるようになり、そしてミリィーがいれば俺が習得している称号と魔法とユニークスキルを全て使うことが出来るようになるのだ。更に『魔聖』の称号と『聖騎士』の称号を俺が得たことで、俺が扱える聖属性の攻撃魔法の全てを扱う事ができるようになっていた。つまり俺は、俺の愛する人を取り戻す為には無敵の存在になっていたのだ。俺にはディアドルーが遺してくれた最強アイテムである『賢者の指輪』も渡されており、それにより様々な効果が付与されていたのである。
それは『魔力自動回復 』、『魔力操作 』、『気配察知』、『状態異常無効』、『言語理解』、『アイテムボックス』、『インベントリ』など俺に必要なアイテムばかりがセットされた『魔勇者』専用のアイテムだった。
『魔勇者』は聖と魔の力を同時に操る者に与えられる聖属と魔属の複合した最強の力を使う勇者の事で、魔族の国に封印されていた魔族の勇者を開放し『魔王』の力を与える事で誕生すると言われている。ディアドルーがそう言ったので間違いはないと思う。そしてディアドルーは、俺が魔王の力を得て戦う姿を想像しただけで興奮していたようだ。『超越者 』の能力は『創造主の祝福』によりディアドルーによって与えられているから、俺がそれを使って魔王と戦うのをとても楽しみにしていると言っていたのだ。俺もその言葉を実現させてやるつもりだが。そして俺にディアドルーの言葉を教えてくれながら俺に話しかけてくる二人の少女の言葉に感動してしまいそうになる。
俺がこの世界に来た目的がやっと叶うかもしれない。そしてその先にあるのは俺が愛する家族や仲間が笑って暮らせる世界だと思っている。俺がこの世界で幸せに生きて行けるかどうかが重要なのだ。この世界を救いたいなどと、そんな気持ちはさらさらない。この世界を滅ぼしてもかまわないと思っているのだ。俺の大事な家族や仲間を苦しめてきた相手を許す事はできないから。
俺に『超越勇者』の能力を渡してくれたのは、俺がこれから行おうとしている行動の意味が理解できる人物だからだと言えるだろう。
『真なる勇者 』という能力があるのだが、この力は俺がこの世界で手にしたものの中で一番チートで強力な能力だったのである。
俺の愛する家族が殺されたのは、俺がまだ十歳の時だったらしい。当時の俺の年齢が五歳という幼い時期だった。
当時、『真名解放 真名解放』の称号を持ちし者達は、俺の一族であるミリアーズ家のみが所有しているという事だった。だから、俺は俺の家が所有していたという理由のみで狙われる事になった。その事実を知った俺はその事を嘆くと同時にその襲撃を行った者を心の底から憎み、必ずや復讐すると誓ったのである。俺の家族と仲間を奪ったのは俺と同じ一族の者であったからだ。そしてその襲撃を受けた際、俺はまだ幼くて戦い方を学んでいない子供だったために殺されかけたが『大魔王』の称号とディアドルーが俺に遺してくれていた魔道具『魔晶核コア』の力で俺は『超越勇者』の称号と『超越魔王』の称号と魔族が持つ力の大半を手に入れた。俺に残っていた最後の人間的な部分は、そこで失われてしまったように思えたのだ。俺に残った感情は家族を失った喪失感だけだったのだ。それから俺がこの世界に転生してからも、俺は家族や仲間を奪われた憎しみを忘れる事はなかった。だからこそ、この世界でもまた同じ事が繰り返される事を確信してこの世界に戻ってきたのだった。だからこの世界の敵を討ち果たす為なら、相手が何であれ俺は全力で立ち向かうつもりだった。
勇者の剣をその手で握り締めた時、俺の中に『勇者の加護』が与えられる。勇者の力は魂をその体に憑依させて体を動かすための力となる。俺は自分の体を勇者に貸し出すような形になるわけなのだが、俺自身は死んでいるのと一緒の状態な訳で俺に意識が有る方がおかしいのだ。
だからこの勇者の体は俺の意識がない間に行動する事が出来るようになるのだ。俺が俺の意思を持つ事が出来ないのにはそういう仕組みがあるためだ。これは俺が望んだ力であり後悔など一切ない。俺の意思を乗っ取るような形で勇者の力を扱わせる事になって申し訳ないが、今は時間との勝負であるため文句は言わずに利用させてもらう。そして俺が勇者の力を手にした事にディアドルーは大喜びしていたのであった。
勇者の力は魔王を倒すために神が与えたとされる特別な力。しかし勇者の力を手にする事は、魔王と同等の力をその身に宿す事を意味する。この世界に害を及ぼす存在を討伐するという使命を全うするために与えられた聖なる力で、魔王に比肩する強大な力と膨大な魔の力を兼ね備える勇者は、他の魔物や人にとっては恐怖の対象以外の何物でもない。そのため勇者は、勇者である前に『勇者』の称号を与えられた『超越者』でなければならない。その力が弱き者に危害を加える事はあってはならないのである。『超越勇者』の資格を得る事でその制約からは逃れられるが、それでも勇者の力を持った者として人々を守る責務が付いて回る事になる。
俺に勇者の力を与えてくれたミリアースとミリィーは俺にこう言ったのだ。
(ユウちゃんは私達が責任を持ってお守りしますので安心して下さい。でも勇者の力を得たら、もう普通には生活出来なくなるのは覚悟して欲しいんです)
(勇者の力を得た以上、勇者の義務としてユウ様は、他の勇者と共に『魔王』と戦う運命を背負わされる事になるのです)
(ユウちゃんには魔王を倒し、その『超越勇者』の称号を継いで欲しいんですよ。それがディアドルーさんと私達家族の望みでもあり、ユウちゃんの幸せな日々を取り戻す為に出来る最善の方法ででもあるんですよ)
(私もミリアーとユウちゃんのお役に立てる日をずっと待ってたんですからね。この世界は私にとっても大事な世界ですから。ユウちゃんの力になれるよう精一杯頑張ります)
二人は笑顔で俺の事を見つめていた。ミリアーとミリィーの気持ちを考えると俺も嬉しくなっていた。俺と一緒に『魔王』と戦いたいとまで言ってくれて本当に嬉しいと感じるようになっていたのだ。俺が幸せだったあの頃を取り戻す事こそが、俺の目的である。そして俺の本当の願いは家族が一緒にいる世界を手に入れること。そのために今はこの二人の好意に甘えておくべきだと思うのだ。俺が『超越勇者』の力を受け入れて『魔王 』として生きる道を進む決意を固めたのはその言葉を聞いたからだと思う。ディアドルーの意思を継ぐという意味がどういう事なのかをようやく理解できたのかもしれない。ディアドルーは自分が成せなかった事を全て託したかったのだとわかったから。俺を勇者にするというのがディアドルーの望みであったから、それを受け入れたのはディアドルーに対する礼儀でもあったのかもしれないと今では思えるようになっている。俺と同じような境遇にあるディアドルーの娘二人の協力を得て、俺が魔王としての力を存分に振るう事で『魔王』の称号を受け継いだ俺を皆に認めさせるのだ。そして俺はディアドルーの果たせなかった事を成し遂げるのが、俺のすべき事だと思ったのである。
俺は俺の事を信頼してくれた少女二人の顔を見ながら感謝の言葉を呟いていた。
「ミリアースとミリィーには感謝しているよ。俺を信頼してくれているようでとても心強いんだ。ありがとう。そしてよろしくね」
その俺の言葉を聞いて二人は満面の笑みを見せてくれたのだった。
(ユウ様。私はユウ様と出会えてとても光栄に思っています。ミリアーとミリィーも、この世界で再会出来た事がどれだけ幸運だったかはわからないでしょう。私達の絆は『大精霊 』となった今も変わらずにあるのですから)
『聖女 』の『超越勇者』の力を受け継ぎし者エルサリオン王国の王女ヒナタは、ディアドルーに俺がこの世界に来ることを知らされており、俺と直接会うためにここに来たのだという。ディアドルーの娘であるこの姉妹は、勇者である以前にディアドルーの娘で『勇者の証 』を受け継ぐ資格を持っている。その力は既に受け継いでおり、ディアドルーの意志を継ぐ為に、勇者の力を使ってディアドルーに代わってディアドルーの一族を纏め上げてこの世界に平和をもたらす事が目的なのだと言う。ディアドルーの一族とは『魔王』の力を宿した一族である『超越魔王』の一族を指し示す言葉で、俺と同じ立場にあったディアドルーの一族を、ディアドルーの遺志を正しく継ぐ者が現れた事でこの世界の人々に認められる事を目的とした集団らしい。そしてディアドルーの遺志を引き継ぐ者達が集まって組織したのが、『勇者の騎士団』であり、この世界を救う事を使命とした集団である『神聖魔導団 』なのだという。そしてディアドルーの一族は世界中に散らばっているため、『魔王の使徒』に対抗する組織として存在している。つまりは正義の集団であるといえよう。
その正義の軍団であるはずの『神聖魔導騎士団 』の団長は、俺と同じく『魔王の使徒』によって大切な家族と仲間を奪われ、この世界に絶望した男だったのだ。その名はアルヴィン。かつて魔王軍幹部の一人であったのだが『大魔王サタン』の眷属になった事で力を得たのだという。『魔王 』の力を得てその力を使いこなしている事から考えてもその力は計り知れないものだろう。
その男がこの世界にやって来た目的は、勇者に成り代わって勇者の役割を果たすことだと言っていたようだ。俺からすれば勇者を偽るというその行為は悪でしかないが、その男は勇者に敵対する勢力の中で最大の力を有する組織を一人で壊滅させてしまっていのだ。この世界の『英雄 』の称号持ち達でさえ勝てるかどうかわからない実力の持ち主らしい。
勇者に成り代わるなんて許される行為ではないが、俺からするとそれは仕方のない事なのである。なぜなら、勇者と魔王の力を手にして勇者の力を持つ者のフリをするだけでいいのだから、それほど難しくはない事のように思えた。俺だって『超越勇者』の称号を手に入れたのだから、同じようにして『超越魔王』の称号を手に入れたと周りに言えば簡単に騙されるはずだと思っているからだ。勇者と魔王の力を二つも手に入れるという事は本来ありえない事だが、そんな事は今さら関係ないのだし気にする必要は無いと思えた。
俺の勇者の力も本物ではないのだ。俺は本物の勇者がこの世界に降臨する前にこの世界に現れる予定で転生してきた。だから俺のこの力は勇者に成る前のものなのであって勇者の力のレプリカに過ぎないのだ。
勇者が魔王を倒せるだけの力を持つなら魔王の俺を勇者の力で倒しても問題ないのだから。そう考えれば勇者の力を偽る事はそれほど難しい事ではなく感じられたのである。
俺は俺が勇者の力を偽る事に罪を感じなかった。俺は俺の目的を果たそうとしていただけだ。しかし、そこに『悪魔 』である俺の存在を否定する者が現れたのだ。俺とミリアースとミリィーは『超越勇者』の称号を得るために勇者の力とやらを手に入れなければならないと言われた。そしてその力を授けるために、俺はディアドルーから託された勇者の力を行使する事になったのだった。
この世界では魔王の力は特別なものであるとされている。この世界の最強種族は人族であるため、他の種族と争う場合において魔王は最強の存在なのだという事らしい。魔王を討伐するために集められた人間側の精鋭部隊こそが、俺達三人が受け持つ相手になる。そして勇者の力を扱えるようにするための儀式を執り行うために用意された祭壇の前でその儀式が行われたのである。
俺は勇者に覚醒するべく勇者の剣を手にしたわけであるが、その時ミリアーとミリィーの二人が突然現れた一人の人物により攻撃を受けたのである。二人はその一撃で死んでしまったのか、既に息絶えてしまっていた。俺ともう一人の人物が戦い始めると同時に二人の体から光が発せられた。その光は俺を優しく包み込むようにして守っていたのだ。この瞬間から勇者の剣に認められた者としての儀式が始まった。俺がこの世界に現れて最初の勇者として選ばれた瞬間だった。俺の中に勇者の力が注がれていったのだ。
勇者の加護を与えられた時、ミリアースとミリィーの言葉の意味を理解したのである。そしてこの二人の体にも俺と同様の力が注ぎ込まれ、その力を受け入れる事で二人は勇者としての資格を得たのだ。そして勇者に力を与える役目を負ったのが、その二人を攻撃に巻き込んだ人物であったのだ。
(まさかこの方が自らを犠牲にする事で私達にこの力を譲って下さるとは。私もまだ死ぬ訳にはいかないという事なんでしょうね。私はミリアースとミリィーの分まで頑張らないといけませんね)
そして『大精霊 』として生まれ変わったヒナタは、この世界を救える可能性を持つユウの力になってくれと頼まれ、勇者として覚醒する為の最後の試練をユウと一緒に受ける事になるのであった。
(勇者に成れたのならばその使命は果たす必要があります。勇者は勇者である以前に『勇者』の称号を持った超越者であり、人々の希望でなければならないのです)
俺はヒナタの言葉に衝撃を受けた。勇者とはそういうものだと思って生きてきた俺にとって、その役割を全う出来ない者は勇者足り得ないのだと言われては納得せざるを得ないからである。勇者とは何なのか? それは何のために存在するのかという命題を目の前に差し出された気分になったのだ。俺はまだ自分が何者であるかを完全に理解していなかったからかもしれない。
「わかりました」そして俺の勇者の力を受け取る事ができたヒナタだったが、ディアドルーの力を継ぐユウが真の勇者だと認めたからこそ『聖女 』の『超越勇者』の力を継承したヒナタに勇者の力が与えられたのである。『超越勇者』と『大精霊 』と勇者とが協力し合えば『超越勇者』の力を存分に振るえるのである。
(勇者の力にはその特性があります。ユウちゃんの『超勇者』は相手の能力を無効化しますが、その能力の源が『力の根源』であればあるほどに、より強く作用する事が出来るんです。例えば、『魔王』が『魔王の力 』を発動した時なんかは『超勇者 』の能力が一番強力に作用するはずです。もちろん、『大魔王』の『超越魔眼』による『魔の波動』に対しても有効でしょう)
(な、なる程。それじゃあディアドルー様の力は凄まじく強かったみたいだね。ディアドルー様はどんな魔法を使っていたんだろう?)
俺はディアドルーについて興味を持ち始めていたのだ。そして、ディアドルーは一体どうやってあの『超越魔導 』を習得するに至ったのかを知りたくなっていた。
俺達が『魔王の使徒』に対抗できる力を得るために必要な事はただ一つだった。それは圧倒的な強さである。この世界での強さというものはこの世界の法則に従う事となる。だから俺のようなチート能力を持つ者が最強とは限らないというわけなのだ。それに俺のように『究極贈与アルティメットギフト』によって無限に強くなっていくという事もある。その事を考えると俺だけが強くなり続けるというのは無理があるという事になる。
そこで俺と『大精霊 』になったヒナタが手を組み、勇者の力を使う事で勇者の力を持つ者の中で俺と同等の力を持つ者に勝つ事が出来たのなら、その者の力はそれ以上には上がらなくなり、俺と同等以下になった時点で俺と対等という扱いになり、そこから先もずっと同じ強さのまま維持できるようになる。要は、勇者が強ければ強いほどにその勇者が持つ勇者の力の効果が最大になるという事である。この『超勇者』の力と『超越勇者』の力を融合させ、『超越勇者』の力を強化する事に成功すれば、俺は『超勇者』と『超越勇者』の力を両方得る事で、実質『超越勇者』よりも強くなる事が出来るというわけである。つまりこの二つの力があれば、理論上『勇者』を超える力を持つ存在になれるという事なのである。そして俺はこの力で魔王軍の幹部の誰かと戦って勝利しなければいけないのだと思ったのだった。
そして勇者の力を『勇者の剣』で吸収すると『大魔王サタン』の『超越魔導』の力を吸収して『超越魔導 』を手に入れる事が出来き、俺の力も格段に上がるはずだった。だが俺の予想とは裏腹に勇者の力を『超越勇者』の力に変換しても、その力は勇者の力ではなくなったからなのか変化はなかったのである。しかし、俺にはそれがどうしてかすぐにわかってしまったのだ。それは俺の持つ力であるディアドルーの記憶が影響しているからだと思われる。俺はディアドルーの持っていた勇者の力を自分の物にすると同時に『超越勇者』に成り代わっていたのだ。だからディアドルーの力と勇者の力を合成しても、勇者の力として統合される事は無かったようだ。そしてそれは勇者の力を超越する事も出来なかったという事を意味していた。
(なっ! これはどういう事なんだ!? 俺は確かに『勇者の力 』を『大魔王サタン』の『超越魔導』に変換する事に成功していたのに。何故『勇者』に戻れない? まさに勇者を超えた存在になれたと思っていただけにショックが大きいぞ。『超越勇者 』の力を得てもなお、魔王の力に及ばなかったというのだろうか?)
俺がそう考えると『聖魔神霊覇王神』のヴェルグリンドさんも驚いたような顔を見せた。
「どうやらそのようですね。貴方の力を勇者の力に変換できなかった理由までは解りませんが、恐らくはユウの魂は『魔王 』ではなく『勇者』の力を受け入れているのではないかと思われます」
その答えを聞いた俺は少しほっとしたのだった。なぜなら俺はこの世界でも勇者として生きる事に未練を持っていたからである。なぜなら勇者として転生してこの世界に来て以来、常に心の片隅では俺は本物の勇者ではないのではないのかという思いがどこかに残っていたからだ。その思いはディアドルーの転生して『悪魔 』になってしまった記憶を見た事で、さらに強くなったように感じた。そんな俺の事を思って『大天使ミカエル』の神であるラファエルが俺の力になってくれる事になったのだが、この世界に勇者の力を持つ者を呼び寄せたとしても『魔王』の力を受け継いだ者が現れる可能性が高そうだと危惧したからでもあった。
この世界の魔王を打倒するには勇者の力がどうしても必要だった。俺達では魔王を打倒する事は不可能なのだ。いや不可能ではないかもだがリスクが高い事だけは確かである。ならば俺と同じような力を持っている者達に倒してもらうのが最も安全で確実な方法だったのである。
この世界の最強種族は人族のため他の種族と戦う場合には魔王の力は最強のものなのだという話を聞いた俺は、その言葉に衝撃を受けたのである。
(俺はこの世界に来て初めて『勇者』として召喚された。だけど俺の力はその本来の勇者の力じゃない。そして勇者は人族の希望で在る存在であるべきだとも思った。そうでなければ俺と同じ境遇で呼ばれた勇者達は報われないからな。だから俺は勇者の役目を全うする為に、俺に出来る精一杯の事をしてこの世界を救いたいんだ。俺はディアドルーのようにこの世界の為に犠牲になるつもりは無い。この世界を救うために勇者の力を使おう。俺だってこの世界を救いたいという気持ちは同じであるから)
俺にはディアドルーの残した記憶があったからこそ、この世界を救う必要があると感じたのだ。しかしディアドルーは『真なる勇者』でありながら勇者の力を受け入れない事を選択したようである。そしてディアドルーは自分の死を受け入れる時にこう呟いていたのだ。
(勇者の力を受け入れると、俺が本当の意味でディアドルーとして目覚めてしまうだろう。俺には俺の目的があり、それが叶わない以上俺自身がこの体に残る事はできないからね。そして俺が消えてしまった後に俺の力を引き継いでしまう可能性がある勇者ユウちゃんが可哀想でさ。それに今の俺は『超越魔導 』の魔力の制御も完璧だし、この力を使えば魔王軍を潰せるんじゃないかって考えたんだよね。俺って頭が良いでしょ?)
この言葉に俺は衝撃を受けていた。
俺は今まで自分が真の勇者だと信じていたが、勇者の力は勇者の力でしか使えないのではないかと考えさせられたのであった。そして俺はこの世界にいる勇者を呼び出し、『大魔王』を倒させる事で世界を救えると確信した。俺の目的は『大魔王 』を葬る事。俺に課せられた勇者としての役割を全うする為にはそれ以外には考えられなくなっていたのである。俺はまだ真の勇者に成れたわけではなかったのだ。俺はこの世界の魔王を倒すために全力を尽くさなければならない。そして俺に力を貸してくれるという勇者と仲間を集めなければならないのだと決意を新たにするのだった。
勇者の力と『大魔王』の力は本質的に同じ力であり同じものだ。勇者と魔王が同じ力を使えるのならばどちらが強いかといえば魔王の方が強いのである。魔王とは人の恐怖を糧にして力を増す存在であるためその力は勇者と比べて圧倒的に強いというわけなのだ。そしてその事実から『大魔王 』はより強く『勇者』の力を求めるようになる。その結果『勇者』の持つ『聖剣』に宿った魂が魔王に取り憑き、その力を奪ってしまったりするのだ。だからこそ、勇者はより強力な力を得るためには、魔王を倒し、その『大魔王の力』を手に入れなければならないという事になるのである。
ディアドルーは真の勇者であるにも拘らず魔王として君臨した。それは魔王の魂を取り込んでしまっていたからに他ならない。ディアドルーはこの世界で『大魔王 』として君臨するために勇者の力を求めた結果である。そしてこの異世界に来た時からずっと勇者の力を求めていた。俺はディアドルーの記憶を見て、なぜこの世界に来て勇者の力を求めずに居られなかったのかを知ったのである。俺は勇者としてこの世界に転移してからというもの、この世界で生き残るのが目的となっていた。そのため勇者としての役目を放棄していたという事になるのだ。だから俺が本当にやりたい事は、勇者の力を手に入れる事でもなく魔王を殺す事でもなかった。ただこの異世界で生きる事だけだったのである。俺はそれをようやく思い出したのである。
そして勇者であるユウが『魔王』であるはずのヒナタ宰相に対して敵意を見せなかった事も大きかったと言える。この世界で『魔王』に対する嫌悪感というのはそれほど強いものだったのだ。俺も魔王という存在について何も知らなかったとはいえヒナタ宰相に対して『大魔王』のような印象を受けていなかった事は確かだった。つまりヒナタと敵対しても特に意味が無かったからなのだ。しかし勇者は『魔王』を倒す事が勇者の使命であると俺は思っていた。だがヒナタは俺に『超勇者 』と俺の持つディアドルーの力を渡すだけで済ませたのだから、この世界の魔王は『勇者』よりも格上だという判断をしていたと考えられるのだ。だから勇者である俺でも、この世界を平和にするという目的は変わらないと考えていたのだと思う。
それに比べて勇者の力を奪う事のみを目的として、この世界にやってきた『大魔王』は、この世界を『支配する』という事を考えていたに違いないと推測できる。だからこそ俺はその思惑を打ち破るためにこの世界に呼ばれたというわけなのだ。だから『勇者』としてこの世界の『魔王 』を討ち倒す必要があったという事になる。だがそれは俺にとっては『大魔王』と戦わなければならなくなるのである。
そこで俺は、魔王の力を得ていない状態の『勇者』が、『大魔王』と戦っても勝ち目はないと判断し、勇者の力を強化する方法を探っていたのだ。その方法は俺も知らなかったのだが、その方法が『超越勇者』である事を突き止めたのである。『超越勇者』は、通常の勇者の力に『魔王』の力を足して完成するものである事を知り、俺はこの力ならこの世界を魔王の手から救う事ができるのではないかと考えたのだ。『大魔王』を倒すために必要な勇者の力は手に入れたので、この後は仲間を集めて魔王軍に戦いを挑むだけであった。
(俺がこの世界に来てまだ二ヶ月程度。俺の仲間になりそうな存在に心当たりは三人。そしてそのうちの二人がこの国に居るのは幸運といえるかもしれない。俺はこの世界に来て、魔王に成り果てて死んで行ったディアドルーの記憶を見てしまい俺の心の中でディアドルーの存在が日に日に大きくなっているような気がしていた。この記憶の欠片を元の世界に戻っても持って帰れたら、俺のこの世界での勇者の力はさらに高まる事が予想されるだろう。『超越勇者』の俺が勇者の力を更に高める事が出来たなら俺はこの世界でも最強の存在となるはずだ。それに勇者であるユウの肉体にも影響が出るはずなのだ。俺はユウの体を自分の意思で動かす事が出来るようになりたいと本気で思っているからね。そのためには必ず魔王の力を制御できるようにしておきたいんだよな)
「そうですか、分かりました。私の力が貴方のお役に立てたようですね。ところで貴方の事を私はどうお呼びすれば良いのでしょうか?」
俺はヴェルグリンドの言葉を聞いてハッとした。
(しまった。自己紹介すら忘れていたぞ! 俺は勇者だと名乗るのを忘れていたよ! 危ないところだったぜ!)
俺は自分の迂闊さに愕然としながらも、冷静な態度を装いながら話した。
「あ、すみません。俺は『竜魔像ドラゴニカルアニヒレーション 』の中のディアドルーさんの意識と魂が融合したものです。なのでこの世界ではユウという名前で通しています」
(ふう。とりあえずこれで勇者の事はバレずにすんだかな? だが、これからどうしたものかね。俺は勇者で在り続ける必要があるから、この世界の人達を信用する事はできないだろうしな。だが、この国の人達は悪い人じゃないみたいだけどさ。さすがにこの国は広すぎるから俺一人では調べられないからね。まずは仲間を見つけるためにも情報を集めるべきだね。そのついでにこの国の調査をしてもいいかもしれん。俺にこの世界の事をいろいろと教えてくれると助かるんだけどね。この国にはユウさん達しか人間はいないのだろうか?)
俺がそう考えて話をしていると、突然ドアをノックする音がした。
俺達は顔を見合わせるが、俺は咄嵯に対応できない。仕方なく俺は部屋の扉に向かって歩いて行く。するとそこには執事服を着た中年の男の姿があった。
(あれっ? いつの間にか俺がこの世界に来た時にいた執事の人とメイド姿の人が増えている?)
そんな疑問に囚われつつも俺はこの人に相談してみようと決めた。なぜならこの人なら信頼できる雰囲気を持っていたからだ。この人に頼んで色々と情報収集してもらう事にしようと思った。
(俺ってこの世界ではまだ赤ん坊みたいなものらしいから、俺の頼みは断らないと思うけど)
俺はその男をチラッと見つめながら思考加速を使い瞬時に考えをまとめると話しかける。
「あのー、少し聞きたい事があるんですが、いいですかい?」
「何でしょう。何でも私に分かる範囲でしたら答えさせて頂きますが、それでよろしいでしょうか?」
「ありがとうございます。えっと、この部屋にユウさんが入って来る時誰か一緒に入って来たりしたんじゃないですか?」
「はい。私が案内させていただきました」
男は表情を変えず、当然の事のようにそう答える。
俺は一瞬でその言葉の真偽を探るがこの男からは何も見抜く事が出来なったのである。
そして、男の発する気配から悪意のようなものを感じなかったので俺は正直に話す事にしたのである。
(嘘を言っている可能性は高いけど、ここで変に警戒される方が不味いし、今は情報を仕入れておくのが一番だからね。それに『大魔王』に『輪廻之王』の力を取り込むように命令されていたし。何かあれば対処するだけか。もし俺の命を狙おうとするならばこの男からは確実に殺気を感じる筈だからその時はその時だよね。でも俺を殺す事によって俺が持つ能力を奪うのが目的だった場合は俺の能力をコピーする隙を与えずに殺すのがベストか。ならばこの場で殺しに来る可能性もあるわけだ。まあ俺が殺されるわけ無いが。『聖魔神霊覇王神』と融合してしまった俺が『大魔王』に遅れを取るとは考えにくいからね。ならばこの男の出方次第で対応は考えよう。俺の能力にはまだ秘密も多いし)
「ああ、それは俺も覚えているから大丈夫だよ。ちょっと俺の部屋まで来てもらっただけだから。ところで、この部屋に入って来たのは誰なんだい?」
俺がその言葉を発した瞬間、その男が目を見開き驚きの顔を見せたのだ。
だが、それもほんの一瞬。すぐにいつもの落ち着いた紳士に戻ったのだ。
そしてその口を開き俺にこう告げたのだった。
その言葉を。
『聖魔勇者 』であるはずのディアドルーに。
『魔王様 』という言葉と共に。
そして俺はディアドルーの魂に取り憑かれてしまう事になったのだ。
(一体どうしてこんな事になったのか俺にも分からない。ただ俺がこの世界に来て、この体を手に入れた時はこの世界について何も知らない状態だったのだ。だから俺はこの世界で生きていく為にこの世界を知る必要があると考えたのである。その時に俺はこの世界について知っていると思われる『ユウ』という存在に会いたいと思っていたのだ。『超越勇者』という存在は、この世界ではかなりの有名人のようだから、『勇者の力 』を手に入れるためには会わない手はないと考えた。そしてユウは今、この国に存在しているという事だったので、ユウを探しに行ったというわけである。そしてこの屋敷で見つけたのだがユウの傍にいたユウがユウでない事が直ぐに分かってしまう程似すぎていたので、思わず『魔王の力 』を発動させてしまったのだ。そして、ユウの中にいる存在からこの世界のユウについての話を聞いた俺は、自分の中にあるディアドルーの魂を切り離したのである。そうしないと自分が自分でなくなってしまうと感じたのだ。
しかし、ディアドルーの魂は簡単に離れる事はなく俺は取り込まれてしまった。俺の中に入ったディアドルーはユウの中で目覚めた。ディアドルーはその瞬間からユウと完全に同化していたのである。そして、ディアドルーは自分の知識を使ってユウの記憶を読み取ったのだ。俺の記憶から俺の目的についても知ったのであろう。だからこそ俺と話が合うのである。だからユウに成り代わろうとした。
だが、俺はそれを拒否したのである。俺の意思でユウとして生きると決意してユウになったのだ。それはもう変える事ができない俺の意志なのである。俺はユウとして生きて行きたい。それは絶対に変わらない。そう決心したのだ。俺はユウとしてこの世界を救わなければならないのである。その責任感から俺はこの世界の人達を救いたいと心の底から願ったのだ。俺はこの世界にいる間だけは、この世界を救おうと本気で思っている。
俺は、目の前に現れたこの世界での俺が生み出したディアドルーという人物が俺を魔王にするために近づいて来たのだという事も理解した。ユウを『勇者の力 』に目覚めさせるための踏み台にする予定だった事を理解して腹立たしく思う。だが怒りに任せて行動を起こすような愚か者はしないつもりであった。冷静になって、このディアドルーの正体を探らなければ危険だという事を認識したのである。
この男には悪いが利用させて貰う事にしよう。そしてこの国を調べる必要があるだろう。
まずは仲間を集めるのと同時に情報収集だ。仲間集めをしつつ、この国の状況を探り情報を集めなければ俺の計画は実行する事が出来ない。仲間になるべき存在を見つけて俺がこの世界の救世主だと認めさせる必要もあるし、勇者が居る事を宣伝しておかなければならないからだ。勇者の力は俺の力の一部でもある。それを有効に活用できる方法を考えなくてはならない。
まず、俺が勇者で有り続けること。勇者が居るとこの国の人達を味方に付けやすくなり俺の計画の成功率を上げる事に繋がるからだ。それにユウの知名度を利用するのである。俺は勇者の力を上手く利用する事を最優先で考えるべきなのである。
「俺もあんたが俺に何を伝えようとしているのか良く分からなかったんだけど、ユウが勇者だって事は分かるよな。でさ、ユウには俺が必要なんだ。頼む! 力を貸してくれ!」
俺は真剣な顔つきをしてその人物に頼み込んだのだった。
(この人が俺にとって必要な存在なのかどうかなんて関係ない。俺がこの人を信じるかどうかは関係無くこの人が必要だと思ったから頼み込んでみたんだ)
俺の言葉を聞いてディアドルーと名乗る男から笑みが消えたのである。
俺の言葉を受けてディアドルーと名乗る男から表情が完全に抜け落ちてしまったのを見て、俺は少し怖く感じたのだ。まるで仮面を被ったままのような無表情だったから。そしてディアドルーから言葉が発せられる。その声からは感情が全く読み取れなくなってしまったので少し不気味ではあったけど。
「私の言葉は理解できましたか? ただでさえ『魔王』などと呼ばれてしまっているユウ様にこれ以上の迷惑を掛けないようにお願いいたします。ユウ様には私共も期待を寄せております。どうかご自重下さい」
俺はそのディアドルーの発言を聞きながらも頭を下げ続ける。それはもう土下座でもなんでもする勢いである。
ディアドルーを名乗る男が俺に失望している事は雰囲気で分かったからだ。
俺に対して、ユウが『魔王 』と呼ばれている事に関して不満を持っている事なども伝わってくる。
(そういえば『大魔王』から『魔王の力』を奪う際に、ユウの事は殺さないでおけと言われていたのを俺は思い出す。そしてこの人はその『大魔王』の命令通りに俺を殺すのを躊躇ってくれているようだね)
俺にはそんな気がした。
(『大魔王』には逆らう訳にはいかないけど、この人には俺は殺されないよね? だって俺は魔王じゃないし、この人に俺を殺す理由がない筈だからね。そもそもこの人って本当にディアドルー本人なのか? まぁそんな事はどうでもよかった。俺を見逃してくれるのなら今はそれでいいや)
「はい。俺からもその点は重々承知しておりやす。ただこの国の皆んながユウさんを必要としてるんですよ。俺は、俺達はそのユウさんの手助けをしたいんです! この国を救う為に俺も微力ではあるかもしれないが何かしたいんです。その為にはまずはユウさんを助けてくれる人材が必要です。ユウさんにこの国の現状を説明し、ユウさんに協力を求める事が出来る人材が」
俺のこの言葉でやっと目の前の男の雰囲気が変わったのだ。だがまだ警戒は解いてないようである。当然といえば当然の反応なのだ。俺も『超越勇者』である。その言葉を信じる事は難しいのだと思う。俺はその反応も仕方が無いと納得していたのだ。
「分かりました。その気持ちだけで十分です。ユウ様の協力者を私共に紹介していただけるという事でしょうか?」
「はい。その通りです。それと俺は勇者なんかじゃありませんからね。俺は『大賢者グランノーサ』の弟子で、この世界の為に色々と動いているだけですよ。それに『聖魔神霊覇王神』の力を得た『聖魔王』なのですからね。そこを勘違いしないように注意しておいてください。貴方を信頼したからこそ俺がこの部屋に呼んだのですよ。俺はユウさんを助ける為ならば手段を選びませんからね。だから俺を敵と認識したら直ぐに俺を殺しに来て構いません。まあ今の俺に殺される気は毛ほどもないですけどね。ユウさんに敵対するのであれば容赦はしません。俺が全力を出して殺しにかかりますから。俺も『聖魔王』の力を完全には把握出来ていないので死角があるかもしれませんがね。それでも『大魔王』の『超越勇者』の力は受け継いでいるのですからそれなりの能力はあると思いますよ。ユウさんの『超越聖魔神龍皇』の加護の力ですら、俺の力を完全制御できていないくらいなんですからね。貴方もその覚悟はしておいて欲しい。俺に協力してくださらないのでしたら殺すしかありませんので。その時はそのつもりで。『勇者』であるユウさんの『仲間候補』となる存在が簡単に死ぬ事になればユウさんの心に影を落としてしまうでしょうから」
俺は真剣な眼差しを向けて『超越勇者』の『勇者の力』を最大限に発動させながら目の前の『超越騎士 』と思われる男性を見つめる。
「確かに。私は『聖勇者』殿の協力者となりましょう。その申し出を断る選択肢はあり得ませぬ。それに『大魔王』に命じられた事を実行するだけの道具でしか無い『超越騎士 』である私の身を案じて頂ける事にも感謝いたします。この命を捧げて『聖勇者』様に仕えると約束いたしましょう。しかし、『大魔王』から命じられた仕事をこなすので有れば、『聖勇者』殿のお仲間の力を借りなくても可能だと思われますが?」
ディアドルーと名乗った男は淡々と答えた。しかし俺は思うのだ。俺はユウと会うためにこの世界にやって来たのだ。その時にユウの傍にいたディアドルーという人物がこの世界の『ユウの傍にいるディアドルー 』と同一人物である保証はないと思うのだ。この世界で生きて行く上で俺はユウと行動を供にしてきた。それはこの世界で生活していくためには、常に誰かと一緒に居ないと不安になってしまうというのもあるのだが、この世界の情報を仕入れる必要があったからでもある。だから俺はずっと一緒に行動を共にしていたのだ。ユウと行動するとこの世界でも快適に過ごせる事を実感していたからだ。それは俺だけではなくユウも同じ事を思っているはずだから。ユウと俺が一緒になったのはユウが勇者であり俺も勇者であるからだと思っている。そしてそのユウと共に過ごしている俺は、ユウに頼まれたユウの仲間の世話をしていたら、その仲間たちに気に入られてユウの側近のように扱われてしまっていた。ユウの仲間としてその仲間をユウの傍に置いておくわけにはいかない。俺の『大賢者』としての役目の一つだったのだ。その仲間とは今この瞬間に縁が切れてしまったのである。
(まあいいか。また見つければいいだけだからね。この人も俺が思っていた通りの人だ。良かったよ)
俺の目の前に立つディアドルーと名乗る男の雰囲気から俺の考えていたような人物だと確信したのだ。
そして俺は改めてディアドルーを名乗る男の名前を聞く。
するとその男は自ら名乗りを上げたのである。その声音からは先程の冷たい感じは全く感じられなかったのだ。
俺の目の前にはディアドルーを名乗る男が立っている。その男の纏う雰囲気からは敵意は感じられない。むしろ親しみが持てるような感覚を覚えてしまう程だった。そしてこのディアドルーを名乗る男がユウが言っていた『聖騎士 』の師匠なのだろうと思ったのである。
「では改めて自己紹介をしましょう。私は『神聖騎士団 』の団長を務めている者です。以後お見知り置きを。『大賢者グランノーサ』様。『聖勇者』ユウ殿の関係者の方ですね。失礼をいたしました。申し訳ありません」
俺はそのディアドルーと名乗る男性の言葉を聞いていたが驚きが隠せなかった。
俺はこのディアドルーを名乗る男性に『俺の事を最初から知っていたのか?』と質問をしたかったが、俺は思い留まる事にしたのである。なぜなら俺の正体を知っている人物がユウの周りに増えていくのは、ユウがこの世界での生活をしにくくなってしまう可能性があったからだ。そしてこのディアドルーが『聖勇者』ユウの師匠だとするならば、この国にとって都合の悪い存在になる可能性も否定できないからである。俺はこのディアドルーと名乗る男性を警戒しつつ話を続けた。
俺はディアドルーが本当に俺が知るディアドルーなのか確認する為に『魂の系譜図 』を取り込む必要があるのだ。
「初めまして。俺の名前はタクミです。この国の救世主と言われている人物をユウと呼んでいますが、俺はそのユウが言っている通り、この国の人達を助けたいだけなんで、ディアドルーさんは気にせずに普段通りに振る舞ってくれていいですよ。それで早速で悪いんですけどユウの事は呼び捨てで呼んであげてください。俺はその方がユウも喜ぶと思うんです。ユウは誰よりもユウの実力を正しく理解してくれている相手を求めているんです。ディアドルーさんは俺が想像する限り最高のユウの師になってくれると思ったので。お願いします」
俺はこのディアドルーに頼み込んだ。
「承知いたした。私はユウの『超越勇者』の能力で生み出された存在であると認識されてしまっているようですから、そう呼ぶようにしましょう。私もそうする方がいいと感じております。私に出来る事でしたら協力させていただきます。それと、この『魔王軍』でユウが動きやすくなるように手を回します。そしてこの国の為に働きましょう。そして私の事を呼びやすい名前でお好きにお呼びください」
「分かりました。じゃあ俺の事は気軽にタローってお呼びください。俺は『聖勇者』の『聖魔神龍覇王神』から授かった加護の影響で『聖勇者』と呼ばれているんですよ。でも俺の本来の名前はタクミといいます。この世界の『聖勇者』ユウから預かっている力を使って俺はユウを助けて行きたいだけなんです。だからよろしくお願いしますねディアドルーさん」
俺はそのディアドルーに頭を下げて挨拶をしてから、『魔王城 』に居る者達には念話で呼びかけを行ったのである。
◆ ユウが目覚めてから一週間が経過している。ユウとヴェルダが対決をして勝利したらしい。
そしてその後すぐにユウはこの『魔王』の居城である城に姿を現したという。その報告を聞いた時はユウが無事に戻って来たと嬉しくなっていたのだけど、何故かヴェルドラ様の復活の報せが入ってこないのが気がかりなのだ。ユウとアムールの繋がりで復活が可能なハズなのにおかしいのよね。もしかしたら何か事情があったのかも知れないわね。あの時私はアムール達三人と一緒にヴェルドラ様が復活したのを確認したんだけど、その前にユウは一人でヴェルダと対峙していたんだものね。もしかしたらその間に何かあったのかもしれない。その可能性の方が大きいのは間違いないだろうからね。
「アムール様、私もそろそろこの場を立ち去ろうと思っております。この国にも私の部下達が既に浸透しているでしょうし」
この『魔人族』の国の女王になった『聖魔貴族』レイナはそう言って席を立とうとしたのを私が止める。
このレイナという女性は『魔王』という称号を得た後にも関わらず、『聖魔王』を名乗ったのだそうだ。しかも自ら名乗る事は無いと明言していたのに名乗り上げたのである。
この行動には理由があってのようだ。『勇者』の称号を与えられたユウという少年は、『魔王 』や『大魔王』を名乗る者が『勇者』の傍に存在すると、その存在に感化されてしまいその者に影響を受けて能力が上昇し、勇者の力を使いこなしていけるようになると聞いたのだという。そしてユウはその話を聞いた途端、この『勇者』という存在に対して憧れを抱き始めたのだそうだ。だからこの場で『勇者』を名乗る事に躊躇がなかったのだそうだ。ユウという存在は既に私の配下に居て『聖魔神龍皇』と名乗っているのだが、その配下の者が増える事に問題はなかった。しかし他の『勇者』に私の配下が影響を及ぼすのは困ると判断したのである。それ故ユウの傍にいるのなら、せめてその称号を名乗りなさいと言って、その『勇者』の師匠である人物を探し出しこの国に送り込んだのだそうだ。しかしその師匠の男性はユウに自分の事を教える事はなく行方を眩ませて消息を絶ってしまったと嘆いていたのである。だがその男は自分が認めた相手にしか弟子入りをしない性格だったようで、ユウに何も教えなかったのはユウを認めたと言う証拠だと誇らしげに話してくれた。そしてユウがその男に認められる為にはユウ自身が成長しなくてはならないと言っていたそうなのである。その話をして少し寂しい笑顔を浮かべたレイナが気の毒になってしまい慰めの言葉をかけてあげた。
ユウにはもう一人大切な人が存在するが、それは今この世界にはいない。その人は今は別世界で生きているらしく、ユウは再会するまではその人が帰って来るまで生き抜いて待とうと考えているという事も聞いたのだ。ユウと行動を共にしているこの少女はユウに頼まれていた仕事を終えて戻って来たというのである。ユウがその仕事を彼女に頼んでいたのも驚いたのだが、その仕事を終わらせてユウの元に帰還できたという彼女の強さにも驚くばかりだった。彼女もまたユウに負けず劣らず強い力を持っている事が分かる。この国でその力が通用するかどうかは微妙だけれど、少なくともユウと敵対するような事がなければ味方になるだろうから安心だと思っていたのだった。
しかし、この国を去るというレイナにこの国がこの大陸を制覇した後に起こるであろう状況を説明してくれたのである。その説明を聞いても、特に慌てる様子を見せなかったのである。その時には自分は別の場所にいる事になるから関係ないとも言っていた。そしてユウと合流を果たした後は一緒に過ごす約束をしていると嬉しそうに言っていた。
(この二人は間違いなく両想いなんだろうな。それに、この子はユウに心酔している感じなんだよな)
そんな二人のやりとりを見ているうちに微笑ましい気持ちになり癒されていたのだ。
この二人と一緒であればこの国は平和にやっていけるような気がしたのだった。
「さて、では『勇者』の師匠である貴方の名前を教えてください」
(ん? どういう意味なんだ?)「はぁ。俺はタクミという名前なんですが」
俺はレイナの言っている言葉が解らないままに質問に答えてしまった。
「ああ、すみません。私の勘違いでしたか。でもこの姿になる時に記憶を書き換えられたみたいですね。ユウに言われた事を完璧に覚えていなかったとは。どうやら私は『大賢者』と呼ばれていた頃の感覚のままになっていたようです。ユウがそう呼んでいるだけで本名はタクトなんです。まあユウの呼び方は俺も気に入りましたけどね」
「ふむ、成程。やはりそういう訳ですか。それでこの国を離れるというのは、この『聖勇者』、『聖魔勇者』ユウと共に生きる為でよろしかったでしょうか?」
俺は何の話かさっぱりわからないまま会話を続ける事にしたのである。
「いやいやいやいや! 俺はこの国の行く末を心配しているからこそここを離れようとしているだけですよ!」
俺としては当然の主張をしたつもりだった。だがそれがレイナにとっては不思議な発言に聞こえてしまったようである。そしてレイナはユウが目覚めたので自分もユウの元に向かい、ユウと一緒に生活していくつもりだと説明してくれた。なので俺はその言葉を聞いた瞬間からユウに念話で助けを求めていたのである。
そのユウはレイナの説明を聞き、納得するしかなかった。その説明が本当ならばこの国の将来も安泰であり、俺の役目も終わりを迎えるからだ。この国を去っていく者達にいつまでも付き合って貰う必要はないからである。それにこの二人がユウについて来てくれるのであれば、これから先の『勇者召喚』による悲劇を回避する事に繋がる可能性が高いからである。その事をユウが伝えてみると、レイナともう一人の『聖魔貴族』であるミカドがこの国に残る事を決意してくれたのであった。その事でこの国もユウにとっての理想郷に近付いたと感じたユウはとても喜んでくれていた。
ユウはこの国の事を気にかけてくれる者がいた事に感謝してくれており、この場に呼び寄せて感謝の意を伝えようとしていたがそれは断ったのである。これ以上俺達がここに留まっても混乱を招くだけだと思ったし、この二人にはこの国の立て直しの為に協力してもらおうと考えていたからね。
そして俺は、この二人を仲間に加える事によってユウの負担を減らす事を考えたのだった。ユウが『覇王級』の実力を持つ『聖勇者』なのは疑いがない事だし、その弟子であるこの二人が弱い筈がないのである。その実力があればこの先どんな事が起きても対処が可能だろうと思えたので俺はその考えを伝えたのである。
その俺の提案をユウはすぐに受け入れてくれてこの国を旅立つ事に同意してくれた。そしてその準備の為の会議を開きたいと言い出した。そこで俺はレイナにお願いをしてユウに俺達の正体を伝える許可を得ようとしたのである。レイナは二つ返事どころか即答で承諾してくれたのだった。俺はそれをありがたく思いながらもすぐに行動を開始する事に決めたのである。その事でユウには先にディアドルーに会わせて欲しいとお願いして了承を得て、ディアドルーを連れて来るようにお願いしていた。その間、ミカドには『魔王城 』の者達にユウとの会談の準備を進めるように言って貰った。
◆
『魔王』のユウ様が復活したらしいと噂を聞いた。しかもそれは『勇者』ユウではなく、『魔王』としての覚醒を果たしたらしい。そして復活したユウ様はあの方を連れ帰っていたようだ。そして『聖魔王』を名乗る事になったその女性はユウ様の妻となり行動を供にすると宣言したらしい。私はそれを聞いた時に胸の奥底に疼くものを感じたが気にしない事に決めていたのだ。私にはまだチャンスが残されている。そして私はあのお方に再会する機会がきっとあると信じているのだ。それまでこの国を守ってみせる。そしてその時が来たなら私の気持ちを告白しよう。私は『魔帝姫』という称号を持ちながらこの地位に甘んじる事など絶対にしないのだから──。
◆ ユウはヴェルグリンドに連れられて転移で移動する前にディアドルーを呼び出させてもらう。その事にヴェルグリンドも興味があるのかついて来て一緒にいるのだった。そして俺の呼びかけにより呼び出されたのはディアドルーだ。
「久しぶりだね。『勇者』殿、そのご活躍はよく耳にしているよ。君達の活躍の邪魔をしないようにこの国に潜んでいる『悪魔族 』の殲滅作戦を実行に移していこうと思う。『悪魔族』さえいなくなれば、この国は完全にユウ殿の支配下に入るだろう。そうすればこの国はより良くなるに違いない。この私もこの国に住まう民を守る義務もある。その責任を果たす為にも、この国の『魔王軍』の指揮権を与える。好きに使うといい。それと、この国はユウ殿に任せるとしようと思っている。だからこの『勇者召喚』の儀式の阻止を優先して行ってくれないか。私はその間に『勇者』としての力を完全に手に入れてくる。そして必ず帰ってくると誓おう。この国にユウ殿を迎え入れようではないか」
「うん。期待しています。それとありがとうございます」
ディアドルーはそう言うと頭を下げてから姿を消した。
(あれ? なんでこの人が俺の仲間になる事が決定事項になっているんだろう?)その事はさすがに疑問を感じずにはいられなかった。しかし今はそれを考える時ではないと判断して放置する事にしたのだ。そして俺は、レイナと共にヴェルグリンドに連れて行ってもらい、『大魔王の館 』に転移で戻ったのだった。そこには俺の事を心配して待機していてくれたラミリスとベレッタとラミリスの姿があった。しかし何故かそこにミリムまで付いて来ていたのである。ミムルにはこの国に残るように指示を出したのだけど、ミリムにはどうしてもついていくと言って聞かなかったのだった。どうせ連れていくつもりなので特に問題はなかったが一応その理由を聞いてみたのだが、ミリムには明確な理由がなかったようで困ってしまった。ミザリーにはミリムの護衛に残ってもらうつもりではあったんだけど、この様子では説得出来そうになかった。結局連れて行く事を決めたのだ。
そのミリムはユウに再会出来た喜びを爆発させていた。その姿は微笑ましく、俺は微笑みを浮かべたのであった。その後、俺はこの大陸の状況を確認する為に、ヴェルグリンドに『世界空間庫 』の能力を付与してその中に放り込んでもらったのである。その際はディアルーガに手伝ってもらって『魂系譜図 』の解析を行い、『勇者』達の『加護』や『能力』『特殊能力』などを出来る限り集めておいた。俺の想像通りであれば、この情報は役に立つはずだからね。そして『竜魔刀 』で切り刻み消滅させた魔獣や魔物の死体の残りカスをかき集めた後に、その『残骸粒子 』を利用して魔素変換を行った。そして、その『魔核』を吸収して魔石に変換する作業を繰り返していったのである。魔石を一つ回収するとその魔核は光り輝きながら消えてしまう。しかし再び同じ場所に戻すと復活するという性質を持っている事が判明したのである。俺はこれを実験した結果、一つの魔石を別の個体の体内に戻しても消滅する事はなかった。つまり魔石は復活可能なのだ。これはこの世界に魔力が存在する事を意味しているのだ。俺の持つ『分身体』のように完全に分裂する訳でもなく元に戻るというのが興味深い点でもあった。この事実から俺なりに考察した結果、魔石の吸収には二つの方法があるのではないかと考えた。
その方法の一つ目は、魔獣や魔物の体内にある『魔核』が破壊され消滅した時に発生する魔素粒子を吸収する事なのかもしれない。この場合、この世界の魔導エネルギーと、俺が持つ魔素粒子が結合する事で魔結晶に変化するのではないかと予想している。
二つ目の可能性はその『魔鉱石』が破壊された時の現象が関係している。
『魔核』は破壊されると同時に魔粒子を放出する。
『魔核』の破壊とは、魔素粒子の崩壊を意味していたのだ。つまり『魔鉱石』は魔核を分解した事によって発生した粒子によって生成される物だという事なのだ。この仮説が正しいとすれば、この世界でも魔素は存在する事を示しているのだった。
まあ今は『魔鉱石』の事を考えていても仕方ないのでその作業は止めにして次の検証を行う事にしたのである。俺が新たに考えた仮説。
この世界で生きて行く為に必要な物は、その生物が生身の状態では入手不可能であり、『魔核』の中に収納されている。
それはその生物の進化の方向性に大きく影響する物である可能性があると俺は考えた。例えば、この世界が異世界であり俺達が転移して来た事で進化の道筋が変わったという可能性もないとは言えないが、その可能性は極めて低いのではないだろうかとも考えている。
それは、俺達の世界から持ち込まれた物が、この世界に影響を与えたからではないかと考えたからであった。実際俺達はその変化に巻き込まれてしまったようだしね。その証拠にこの世界には魔石がないのだから。その事からも魔核こそが全ての生物の必須アイテムであると判断せざるを得ない状況にあった。この魔核がなければこの世界の環境では生きる事が不可能に近いのだ。
俺の推測だが、この『星域』には『勇者』と『悪魔族』の生き残りが存在していて『勇者召喚 』を行おうとしていると思われる。『魔王』として覚醒を果たした俺とディアドルーの魂系譜図を奪ったのは『勇者』の仕業だと考えれば辻妻も合うからだ。しかしその目的は未だに謎のままである。そして俺は『魔王』に転生してしまったようなのだ。それも究極存在と呼ばれる存在になってしまっており普通の生命体には絶対に敵わない強さになってしまったらしい。俺はそんな自分に絶望しか抱けず途方に暮れていたのだ。そして『魔王城 』で仲間達と今後の事を話し合おうと考えていたら『魔王城』が何者かの襲撃を受けて壊滅状態になっていたという。
俺はすぐに助けに行く事にしたがその前に俺は確認すべき事が有ったので皆を集めたのだった。それは仲間達に『勇者』の事を説明し、そして協力してもらう事を頼んだのである。そして『大賢者』で『勇者』が誰かを調べた所、ディアドルーと同じく『勇者』が二人存在し、ユウという『勇者』がディアドルーに殺されたという情報を確認したのである。ユウのスキルを『解析者』、『大賢者』で読み取った結果だった。
ユウの肉体は消滅していたので、ディアドルーの肉体にユウの意識の断片が残っているのかどうかは判らない。『解析者』を使って調べる事も出来るだろうけどそれは避けておいた。何故ならばその方法は危険過ぎると思ったからである。下手に『解析』を使うと俺の意識に悪影響がある可能性もあるからだ。『解析』を使おうとする度に精神が蝕まれて行き廃人化する事など容易に想像がつくのだった。それにユウと親しかったであろう人物の前で『解析』を使用する事に気が引けたというのも理由としてはある。そしてこの場にいる者達ならその危険性を考慮してくれているはずと思えたのもあった。だから『解析』を使用せずに俺は皆に説明を続けたのだ。
◆
「じゃあさ! あのさ! その『聖勇者』はユウが倒したんだよね?」
「ええ。俺の仲間の一人、勇者『ヴェルドラ』に倒されたそうです」
俺の言葉にヴェルグリンドとミリム以外の皆は驚きの声を上げる。
「ユウ君、『大悪魔公 』ヴェルドラってまさか、この大陸最強の『魔龍 』なの? ユウ君、それって本当なの? 貴方、本当に魔王になったのね? しかも、この世界に五体しか存在しないとされる究極能力アルティメットスキルの一つまで獲得したなんて、信じられない話だわ!」
「ああ、うん。その、まあそうなんです。でも、まだ実感はないかな。それよりこの大陸に魔王がもう一体いるみたいなんですよ。そして『悪魔王』を名乗る人物が『魔王軍』を率いているそうです。そしてこの大陸を支配しようとしているみたいなのです」
「えー!? ちょっとユウ。それ、冗談でしょう? 私達の国に攻めて来るつもりなの?」
「多分そうだと思う。ヴェルグリンドさんはどう思いますか?その『悪魔族』を率いる『魔将』が俺の知っている人なのかは判りませんけど」
ヴェルグリンドに視線が集まる中、ヴェルグリンドは自分の意見を述べたのである。
「ユウ君の『大賢帝 』で読み取れたのは『魔剣士 』・『剣聖』・『聖人』だけだったから確実とは言えないけど、『悪魔王』を名乗っていたのなら、『魔戦士』・『魔拳士』・『魔槍士』じゃないかしら。あと、魔族の中に『魔導師』がいた事は間違いないようね。ただその人物はユウ君は知らないと思うけどね。ユウ君の知り合いで『大魔王アムール様の側近で四天王の一人、『黒曜之魔女コヨーテ』に会った事があるなんてユウは言わないでしょうから。その人がこの大陸に来て『魔剣姫』の配下になっているようだけどね。ユウの話からするとこの人はユウとは会っていないようだし。まあユウの知る相手かどうかはまだ判らないけど。もし知っていればこんな話はしないだろうしね。その可能性は低いと思うのよ」
俺とヴェルグリンドの会話を聞きながらも、皆は驚いて言葉を失っていた。『悪魔将軍デーモンジェネラル』に『魔王種』、さらに『魔騎士』『魔弓士』『聖人』の存在が確認されたのだから。そして俺達がその情報を手に入れた事で『大悪魔公 』である俺と、この世界の究極能力アルティメットスキルである『聖勇皇帝 』を獲得した事が確定したのだ。『聖勇者』である『聖魔王』のディアドルーを俺のユニーク級特殊能力である『世界接続ネットワーク』によってこの世界に連れて来た事を考えると、やはり『悪魔王 』を名乗る者は『勇者』であり『悪魔』であった。
『世界統合システム』により確認が取れたので、これは疑いのない事実なのだ。
俺はその事を仲間達に伝える。
皆はその話に納得していた。
しかし俺は疑問に思ったので聞いてみたのだ。『魔龍 』が『魔龍』を倒す為に『大迷宮』に挑戦してこの『勇者召喚 』を行っているこの世界にやって来たのだろうか、それともこの『勇者』が元いた世界とは別の異世界に存在していたのに、何かの偶然でこの世界に紛れ込んでしまったのかが謎だったからだ。そして『世界融合』による『転移』がこの世界に存在するのかという事である。その事も俺の不安の一つとなっていた。その事でこの世界を破滅させるような事態になり得るのではないかと思ったからだった。
この世界の成り立ちについてはこの世界に住む種族や魔素の性質、そして俺が持つ『解析者』の力を持ってしても不明のままであるのだ。この世界と地球との関係性についても何も判らないのだ。
だからこそ、この世界の真実について知る必要があると強く思っていたのである。俺がこの世界で生き残る為にも。
そこで俺の質問に、ミリムが答えてくれた。
ミリムはこの世界の出身なので、色々とこの世界の事を知っているだろうと期待したのである。
そしてそれは的を射たようで、その事にミリムはとても喜んでいた。
ミリムの話を纏めるとこうだった。この世界は複数の異世界が存在するらしい。それは俺達の世界を含めて、この世界のように文明が発展した世界、魔法が発達して発達した世界等が多数あるらしい。
そして、それら世界がこの世界に統合されているのが今の世界であるという話だった。この世界は元々、全ての世界を管理する存在だった。その世界の管理を行うシステムがこの世界で、このシステムは神としてこの世界を見守る役割を担っていたそうだ。
それがある時、ある一つの世界を統べる『管理者 』と他の全ての世界を司る存在である『統括管理者 』に別れる事になったのだという。『魔王戦争』と『魔神大戦』が起こった時に分裂してしまったというのが真相のようだね。その『魔王戦争』の時に『大魔王アムール』が誕生し、もう一人の『魔王 』は行方知れずとなったそうなのだ。『魔龍 』であるディアドルーが『大魔王アムール』の部下である俺の仲間を皆殺しにして『魔龍族』の頂点に立ったというのは事実であったのだ。そしてディアドルーは俺にその話をしたかったようである。その話を聞いて、ミリムは更に詳しく教えてくれるのであった。
そして俺はミリムの話に耳を傾けた。そして驚愕する。その話によるとこの世界を管理している存在は他にもいて、『勇者召喚』は、それらの世界にも発生していると告げられたのである。そしてそれはこの世界の『魔剣王』と呼ばれる存在と関係があるのではないかという話になるのだった。そしてこの『勇者召喚 』はそれぞれの『大迷宮』に挑戦して来た者を呼び寄せているという事が判明したのである。
そして俺は思うのだ。
(う〜ん、なんか面倒臭いなぁ。俺に『大魔王』とか似合わないんだけど)
と。そして俺はミリムに聞く。ミリムなら俺の気持ちが理解してくれると思っていたからだ。ミリムにはこの世界を救う気が無いのだと伝えるつもりだった。それは俺の目的とも合致している。だから協力出来るのではないかと。そしてミリムに尋ねるのだった。
「それでさ、そのミリムが言うこの世界を創造したのが神様だとして、この世界に生きる者達には関係ないんじゃないか? 自分達で好き勝手にやらせても構わないって言ってたじゃないか?この世界の事はこいつらに全て任せても良かろう。そうは思わないか?」
「ユウ君、そんなの当たり前だよ。ボク達は何も出来ない無力な生き物なんだから。自分の身を守る事すら満足に出来ないんだよ? それにユウ君の言うようにそのシステムを放置すれば、いずれ『悪魔族』に滅ぼされてしまうんだ。ユウ君の目的がどうであれ、『勇者』は倒すべき存在だろう。その前にその仕組みを作ったという存在に対処する必要があるのではないかい?」
俺の言葉に対してミリムの返答に、皆が驚き声を上げる。
「ええ!? ちょっとユウ君、貴方まさかこの世界の神と敵対するつもりなの? 正気なの!?」
「ユウ、貴方一体何を考えてるのよ! この世界で『勇者』を倒してこの世界を平和にしようとは考えないわけ? それじゃ貴方は魔王に魂を売っているようなものよ!」
「お兄ちゃん、『大賢者 』の力を疑っている訳じゃないのよ。でも、そのシステムを作った神は私達の味方の筈。『勇者狩り 』が成功したとしても、そのシステムが生きている限りいつかまた復活してしまう。その時にまたユウ君を呼べばいいだけの事。それならば『勇者』を倒すのは悪い手ではないと思うの」
「私も姉さんの意見に賛成かな。ユウ君の能力は私も信用してるわ。ユウ君なら『聖勇者』でも余裕で殺せるでしょう。だから『勇者』を倒した後でも、問題は無いわよ。ただそのシステムがこの世界の管理をする『創造主』の作った物だというのは、少し引っかかりを感じるのよね。ユウ君の言っていた『大迷宮 』とかもその『創造主』の生み出した存在かもしれないのだし。そのシステムを生み出した理由とかね。それを知る為には『大迷宮』を攻略しないといけないのかしらね」
「ふむ。ユウ殿の言われる事も尤もで御座いますね。しかし拙者もヴェルドラ様に同意で御座います。ユウ殿の実力があれば、この世界の『勇者』など何時でも良いと思います。それより、何故ユウ殿がこの世界に来る羽目になったのかを調べたいものですな。もしそれが解ったなら、『聖勇者』と戦う事もなくなるのではありますまいか」
「あ、そっか。そうだね。その方が楽だもんね。ヴェルダは本当に役に立たないけど、『聖勇者』を倒すだけなら、ユウ君はもっと簡単に出来そう。うん、私はその方がいいと思うのよ。『勇者』をユウが殺しても『創造主』がユウを呼んだならその時はその人がこの世界の敵となる。それは変わらないでしょうし。その時にはユウがこの世界を守ってくれたらいいのよ。この世界が『勇者』の敵になる必要もないわ。そのシステムが暴走したからといって世界を滅ぼす必要はないでしょうし。この世界の人達の手に余るような『勇者』が出てきたのだったら仕方がないけど、まだこの世界の人に何とかなりそうなんでしょう? まあ、ユウに『勇者』の力が通用しなかった場合は別だけどね。『聖勇者』の力を超える者なんて早々現れないだろうしさ。そのシステムとやらが何か判らない以上、不確定要素が多過ぎるわ。それよりもまずはこの世界で起きている事をどうにかしないとね。だから私は、ヴェルグリンドとルミウムとカガリが賛成してくれれば良いかなって思ってる。あとアムールはどうなのかしら?」
皆が意見を出してくれた事で俺の中での方針は固まりつつあったのだが、俺の考えを理解してくれる者は少ないようだ。しかしミリムが『創造主』への敵意を見せなかった事が救いだった。俺にとって最も大切な仲間が、この世界を守ろうとする意思を示した事に安堵していたのだ。そして『創造主』の作り出したシステムがどんな物であるのかを調べる為に動く事にした。そのシステムが何かによって俺がこの世界に呼ばれた目的も変わるので調べる事にする。俺としてはそのシステムの『管理者』に話を聞くべきなのだが、この世界の『大迷宮 』が何処にあるのか知らないので、この世界を創世したとされる『創造主』に聞こうと考えているのである。
(うーん。『大迷宮 』の正確な位置が分からないのは困るな。俺の持っているスキルを使えば大体の居場所くらいは分かると思うんだが、そこまで行って転移する事は出来るのだろうか?)
『大魔王』の力を手に入れた俺は『究極能力アルティメットスキル』に目覚め、その能力を更に成長させる事が出来た。それは『魔力糸 』の能力である。俺の『魔刃糸 』の進化版だと言えるだろうが、俺の持つ最強の武器であった。その能力の一つである『空間移動』を試す事にしたのである。そして俺は、『魔刃剣 グラムス』『魔刃刀 ムラマサ』を取り出した。その瞬間──。
「きゃっ!!」
突然の声に皆が振り向くとそこには『勇者勇者』の姿があった。
『勇者勇者』の登場により、皆に動揺が広がる。そしてミリムの表情が曇るのだった。
「ミリム、どうして『勇者勇者』をここに呼んだんだい? ボクはユウ君の話があると聞いて来たのに、いきなり『魔王勇者』と『大魔王勇者』が現れて驚かされたんだけどね。説明して欲しいものだよ」
「ごめんなさい。でもミリムだってユウの事を話したかったのよね? だったらいいじゃない。私は『魔竜騎士 』を連れて来てあげただけだから」
そう言った『魔竜王』のカルマを、ミリムは一睨みしただけで黙らせる。その様子はいつもとは様子が違うようだ。その二人のやりとりを見て、ミリムが本気で『魔竜王』を怒らせたのだという事に気付いたのである。そして俺は考える。
(もしかしたら俺達が戦おうとしている相手は、ミリムよりも格上の存在なのでは? というか、今ミリムが俺達に攻撃したっておかしくはなかった。『大賢者』で解析するまでも無く、『覇気オーラ 』がミリムから出ていなかったのは間違いない。そして俺もそれを察して『覇気』を使ってはいなかった。それなのに、俺達はまるで『勇者』を前にしているような圧迫感を感じていたのだ。つまりミリムは、『魔竜王』にさえ喧嘩を売る程怒っていて、しかもそれが当然だと思わせる雰囲気を出していたのであった。これは危険かも知れない。俺はミリムが怒り出す原因となったと思われる、自分の言葉を思い出す。それは──。
「おい、お前、何時の間にそんな服着たんだ?」
というものだった。俺はその問いに、『勇者』が現れた事で思い出したのである。そう、目の前にいる少女の格好を、である。『魔王軍四天王』、『死神王』、『機神兵女王』という肩書きを持つ『勇者』カガリは、その正体を隠していた。その正体こそがその服装なのだ。カガリが元々人間だという事実は知っているが、『大賢者』の情報でその姿を見たのは初めてだった。そして初めて見たその姿を見て驚いていたのだ。その服は露出が多めだがカガリのスタイルと相まってエロティックな雰囲気を放っているものだったので尚更驚いたものである。
『魔王勇者』の格好は、一言で表現するならば鎧のような服、だろう。それも全身タイツのようなものだ。『大賢者』に聞けば、『霊子装甲』というらしいその衣装が纏っている力場に干渉すれば『勇者』の力は抑えられるという事だ。
ミリムが『大魔王』に進化した際に手に入れた能力の一つ、『虚数次元』の中に収納されている装備類。その中には、そんな効果を発揮する物が有るという事は『智慧之王ラファエル』が教えてくれていたので知っていたのである。だからこそ、俺は皆の前でカガリに対してその服を脱ぐように言い放ったのだった。それを思い出しつつ、『勇者』の正体を悟られる事なく、『勇者狩り』を実行する為にはどうするか考え込む。しかしそこで思いつく。この場には『勇者』に対抗出来るだけの力を持つ者しかいないではないか!
『魔王』であるヴェルグリンド。『死鬼帝』のクロエ。その姉である『死鬼皇リッチロード』のリザリス。そして、『真なる巨人エンシェントギガント』のラミリスだ。この四人がいれば大抵の敵は問題ないのではないだろうか、そう思ったのである。(俺が心配し過ぎていただけか?
『勇者』は『大迷宮 』で修行を積んで強くなっているようだったが、所詮人間の域を出ていない。『大賢者』の計算では、まだこの世界で最強と呼べるほど強い訳ではないらしいし、その強さも精々俺と同じレベルだと言っていたからな)
ただそれでも『勇者』として覚醒したばかりでこの世界の最高レベルの実力を持って生まれた存在である事に違いは無いのだ。その点だけは注意しておくべきだろうと自分に釘を差しておく。油断し過ぎるのはよくない。
そして改めて思う。やはりこのメンバーはおかしい。この世界でも屈指の実力者ばかりだし、その一人一人の戦闘力だけでも脅威だというのに全員がユニークモンスターなのだから、このメンバーで挑むなら『勇者』など怖くもなんともないのである。それにこの世界最高クラスの戦力が全員揃うなど滅多にある機会ではないと思うのだ。『聖勇者』を殺せなくても、世界を守る為に戦うなら問題無いのでは、とそう結論を出したのだ。
そして俺はミリムに視線を向ける。この場の主導権は彼女が握っていたからだ。その彼女に『勇者勇者』への質問を頼む事にしたのだった。
そして俺がこの場での主導権を譲ろうと思ったのには理由があった。
この部屋に集まるまで、そして集まった後もだが、俺以外の皆はこの部屋の雰囲気がいつもとは違う事に気付いていたのである。それはそうだ。今までも何度も感じている事だけれど、この世界のトップに立つ五人の集まりというのは特別な空気になるものだ。その五人は、俺も含めて『大賢士』のアムール以外は皆超越者の如き気配を持っていたのだから。それはミリムでさえも同じである。ただそれはこの場に集った者達が特殊なだけであると気付いている者は少ないのだろうけどね。だから、ミリムが俺に代わって主導権を握ろうと動くのを止める必要は無かったのである。
俺に視線が集まった所で、彼女は口を開いた。
「ユウ君がカガリに訊ねたのは、私がカガリの格好についてだったの。だから私はユウ君の期待に応える為にカガリが何故こんな服を着たのかを答える必要があるわね」
俺への説明を簡単にするとミリムは皆にそう告げた。
(いや、ちょっと待ってくれよミリムちゃん!! そんな言い方したら変に意識するじゃんか。そもそも、そのカガリって子は男なんだろ!? どうしてそんなに露出度の高い恰好をしているんだよ。ミリムのセンスなのか? 俺だってもう少し控えめにした方がいいんじゃねーかなと思うくらいなのにさ。俺にその服を脱げとか言わせようとしたのはそういう事だよね?)
俺は内心ドキドキしながらもミリムに問い掛けたのだが、答えたのは意外な人物だった。
「あたいがこんな格好をしてるのは、その方が動き易いからだよ」
そう答えたその人物は──。
「──っ、貴女は『勇者勇者』カガリ!? どうしてここに居るの?」
──ミリムのその言葉で、その人物が『勇者勇者』カガリなのだと理解する。そして、俺達も一斉に身構えたのだった。
「いや、お前、カガリじゃなかったのか?
『勇者勇者』カガリって呼ばれてたじゃないか。あれは嘘だったっていうのか?」
そう言って『勇者勇者』カガリ? を見るが、よく見ると違う。というか全然似てない。髪型は同じだけど顔立ちが全く違う。ミリムより幼そうな女の子にしか見えない。声質が違うから同一人物だと思い込んでいたようだ。しかし、確かにあの時は男っぽい話し方をしていたのに、今喋っているのは完全に女の声だった。
「え? お前、カガリじゃなくて女の子なのか?」
「うん、そうだよ。あっ、あたいは別にカガリを名乗ろうとした訳じゃないんだけどね。カガリのフリをするつもりだったんだ。ほら、ユウ君だって男のふりしたかったらそうするだろ? でもその必要はないよね? だってユウ君はもう自分が男の子だって自覚があるんでしょ? それに、カガリはもう居ないし」
『勇者勇者』はそう言うと悲しげな表情を見せた。その言葉に引っ掛かりを感じる。それはまるでカガリは死んだみたいだと感じたからである。そして『勇者勇者』の言葉が気になり、『大賢者』ラファエルさんが解析鑑定を行ってくれた。
(は? 性別が変わっている? 種族が『人族』から『精霊人族』になってるし、何時の間に『真核』を喰って『精霊王』になったって事か?)
俺は目の前の光景が衝撃的過ぎて呆然としていた。しかし俺の心の中を読んでいるらしいミリムは、俺が疑問を口にする事よりも早く、驚きの声を上げていた。
「何で『大迷宮』に居た『魔霊王ロードデビル』達が此処にいるのさ! というか、『死鬼皇帝リッチロード』に進化したのかい?」
というミリムに、『魔霊王ロードデビル』、『死鬼皇帝リッチロード』とは何だか物騒なものに聞こえる名前だなと一瞬思ってしまうがそれは後回しだ。『大賢者』によると、ミリム達が以前遭遇したというユニークモンスターの事だと教えてくれた。
『魔霊王ロードデビル』は『霊王エレメンタル』の上位種らしく、通常の『精霊』とは違い強力な力を秘めた存在だと聞いている。『魔王』にも並ぶ程の力を持つ可能性があるそうだ。
しかし今はそれどころではなかった。『勇者勇者』はカガリでは無い。そして、性別が変わったという事は、『魔王軍』に所属する者では無い可能性が高い。ならば一体何者なのか。その正体が分からないまま戦闘に入る前に話をしてみる事にする。
「とりあえず話を聞かせてくれないか? 俺達は『勇者』を殺す為にここに来た。だが『勇者勇者』が『勇者狩り』の被害にあったと聞き、この場に来たんだが『勇者勇者』とは別人だった。それで事情を聞きたかったのが、俺達が来た目的なんだが、何か知ってるか?」
そう問いかけると『大魔王』であるミリムが代表するように口を開く。そして、俺の予想外な発言を聞いてしまう事になる。
「あぁ、『大勇者』がどうしたとかそんな話は知らないけど、『聖勇者』は私達の獲物だから、手を出さないようにね。邪魔をされたくはないんだよ。あと、『勇者』を殺したいんだったら、『大迷宮』に行くと良いかも。そこで修行を積む事で『勇者』の力は飛躍的に伸びるよ。もっとも、あそこに辿り着けるような者ならの話だけとね」
その台詞を吐いたのが、俺達に敵対するつもりは無いというポーズの為か、『聖勇者』と敵対しているという事を俺達に伝えたかったのかまでは判らない。
「そういえば『大魔王』である『黒龍帝 』のミリムちゃんが居るんだったね。『大勇者』を殺してくれるって噂を聞いていたのは、そういう意味だったのかな? でも安心してくれていいよ。あたいと『魔王軍』の『七将』が揃っているから、君たち程度の敵には負けないさ」
ミリムの口調に合わせて話していたが、最後に凄みを込めた低い声で言い放ったその台詞に威圧され息を飲む者が多数現れる中、俺は思わず吹き出してしまっていた。
「な、何で笑っておるのじゃ!」
俺の態度を不審に思ったのだろう、ラミリスに文句を言われた。しかしそれはそれとして笑った理由を説明しないと機嫌が悪くなりそうなので、説明をする事にする。
この場の緊張感を崩す為という理由もあったけれどね。
「はははは、いや悪い悪い。まさか『聖勇者』とやらがこんな小さな女の子だったなんて想像していなかったから驚いたのと、ミリムと『覇姫』であるヴェルドラと戦える程の存在ならそんなに警戒する必要も無さそうだなって思ってさ」
そう説明したが、納得が行かないという顔をする者ばかりだった。
そしてミリムは俺に視線を向けると。
「ねぇユウ君、『勇者』を舐めていると後悔するよ? あっちが本気なら間違いなく殺されちゃうわ。私はこの子達が相手だろうと、この場で戦いになれば負ける事は無いと断言できるけど、油断してたらあっさり殺される可能性もあるわ。それだけ強い力を持っているのが『勇者』だから」
真剣な眼差しで言うのであった。その目には嘘偽りが無い事が感じ取れた。だからこそ、この『勇者』の実力が相当なものなのだろうと感じる事ができたのである。
「へぇー。あたいに勝つつもりなんだね。流石はミリムだよ。『大勇者』がどんな奴か楽しみになってきたよ。じゃあミリムが言うんだし、手を出すのだけは勘弁するね。だけど『勇者』に勝てなかった時は許さないから覚悟しておくんだね」
「うん、約束しよう。だから、貴方も大人しくしてくれる?」
「分かったよ。ユウ君を信じてあげよう。ただし、もし裏切ったら──」
俺にそう告げるミリムと目が合う。
ミリムの目から強烈なプレッシャーを感じながらも、それを何とか笑顔で返す。
(ま、まずいな。これじゃ下手したら戦う事になってしまうんじゃねーか?
『勇者』が『大魔王』よりも強いとか洒落にならないぞ)
内心焦っているのだが、そんな事は関係なく『勇者』カガリ? は言葉を紡いでいく。そしてその内容は驚くべきものだった。その会話は俺だけでなく、『勇者』カガリの同行者達にも衝撃を与えたようだ。その証拠に誰もが驚きの表情を見せていた。
(マジですか?)と声を上げたくなった俺だが我慢した。
(おいミリムちゃん。『魔王』よりも『勇者』が強いのか? それはつまり、魔王と勇者はお互いに同格だっていう事だろ? 冗談きついぜ。それに、何だって!?
『聖剣 カリバーンブレード』に『聖盾イージス』だって? 何だそりゃ? 伝説の武具なんだろうけど、本当に存在するのか?)
ミリムは俺達と会っていた頃の『大勇者』を知っている。そして今代の『勇者』がどのような人物であるかは、その外見から推測できたのかもしれない。そう考えれば、このカガリと名乗る人物が本物の『勇者』だと判断する事も可能なのだ。そうであれば『大勇者』の力は侮れないものであると言えるだろう。
俺は目の前の人物を観察しながらそう考えていたのだ。
ミリムが本物と判断した以上、見た目での判断は難しいので実年齢を見極めようと観察するも上手くいかなかった。『大賢者』ラファエルさんの解析鑑定によると少女に見える姿だが実際は百歳以上のようだ。
『勇者』に『大魔元帥マスターデーモンロード』のギィ、それにミザリーと同じ種族のようだ。その種族特性の『魔導生命 人形オートメイルドール』により肉体の成長を止め、不老を実現しているようだ。『究極付与エンチャント 』の能力により肉体を強化し、さらに魔法まで行使する事ができる。しかもその身体能力は凄まじく、俺達の常識を超えるレベルだという事らしい。
その能力の詳細を知りたいと思い、解析鑑定を行ったところ驚愕の結果が判明した。
(なに? 種族が変わってるだと! どういうことだ! 一体どうなってんだ? 確かに種族が変わっている!
『大魔皇帝アークデウス』、『霊王エレメンタル 』に進化してるじゃんか。こりゃもう確定だな。こいつは俺が倒せるような存在じゃないよ。だがしかし! 俺は『勇者』を始末しなければならない。その為の方法は考えるしかないが、どうしたものか)
「え、ちょ、ちょっと! な、何を言っているんです! 本気で言ってるの?」
突然慌てだしたラミリスだったが、その理由はすぐに判明する事になる。
「ああ、そうだとも。君達の目的が何なのか分からないけど、『大迷宮』で鍛えると良いよ。あそこの難易度は半端ないからね。『魔霊王ロードデビル』と『魔王級 魔物ロードオブ ザ マモノ 』の実力差を埋めるには丁度良い修行になるんじゃないかな。でもあそこに辿り着くには、それなりの強さが必要になるけどね」
と、『勇者』は答えたのだ。それはまるで、『大迷宮』は『魔王』達にとっても攻略が難しい迷宮であると知っているかのように聞こえる発言である。そして、それを裏付けるかのような発言でもあった。
俺の思考を読んでいると思われるミリムでさえ、『大迷宮』を簡単に制覇できそうな発言だった。それはすなわち、『勇者』の力も同等のものがあるのだと示唆しているのと同義だったのである。
だがそれはそれとしても、何故『聖勇者』は此処に現れたのか。
それは分からない。だがその行動は理解に苦しむものであった。
『聖剣』を手に持つその姿には見覚えがある。そして『大勇者』の持つ『聖盾 』は以前出会った時のままの姿であり間違いないと思われた。そして『大勇者』を名乗る者が纏うオーラの質からしても、『聖剣 』が放つ聖なる気配が幻ではないのだろう事も理解できる。ならばやはり、目の前の存在は本物の『勇者』のようだ。
そして『勇者』と『大魔帝』。その実力は同列であると証明されている。
しかしミリムは先ほどこう言っていなかったか? もし『勇者』に殺された場合、魂を砕かれ輪廻転成も出来ない状態になると。
(そんな危険な相手と戦ってもメリットは無いんだけど、どうするか。というかミリムちゃん。お前も何か言い返せよ! どうして『聖勇者』に突っ掛かんねーんだよ)
そんな事を思っていたが、『大魔王』のミリムは『勇者』を挑発したりしなかった。
「ユウ君ユウ君、この子達はね。私達の友達だから攻撃はしないんだよ。だから安心して欲しい。でも、もし万が一この子が暴走して暴れたり、君達に害意を向けたりした時にはあたいとミリムが相手するから安心すると良いよ。この子は優しい子なんだよ」
そして『勇者』に対して優しく語りかける。それは俺の予想していた展開とは異なるものになったのだった。
──だが、この『勇者』は危険過ぎる存在である。俺の中の警戒警報アラームが鳴りっぱなしなのだから。それはミリムも同じだろう。しかし『大勇者』の『勇者』カガリはラミリスを味方と判断してくれたようで矛を収めたようだ。ラミリスはホッとした顔を浮かべていたが、それはそれで少し腹が立った。なので軽くラミリスの頬をつねった。
そしてラミリスは俺を見て「なんで怒ってるの?」みたいな顔をするので更にイラっとしてしまったが、ここは抑えた。
俺達が警戒するのは当然だ。目の前の存在の脅威を既に感じ取っているのだから。そして、だからこそ気付いた事もあった。
(『勇者』と『大魔元帥』は互いに互角の存在のはず。それが、この『勇者』からは『大魔元帥』以上の力を持つであろう波動を感じる)
そう、その正体は分からないがこのカガリという名の『勇者』の内に秘められた強大な力が感じ取れたのである。その事実に恐怖すら感じるが、だからといって引く訳にもいかないのが現実なのだ。『勇者』が『大魔帝国』を攻めて来たのは、その戦力を確かめるためでもあるはずだからだ。
ならばこそ、ここで退いてしまえば二度と俺が戦う機会は訪れないだろう。それはつまり、『魔王』や『魔王種』に対する脅威が無くなるのを意味する。それだけは阻止せねばならないと俺は思うのであった。
(『勇者』がこの世界に来てしまった事は不幸中の幸いなんだけど、何しに来たのかが分からんよな。俺と戦う為にわざわざやって来たって可能性はあると思うけどさ。いや待てよ? ひょっとして、『大魔王』が二人もいるとか思っていないよね? 俺の事を知らないんだろうけどさ、そういう可能性もあるんじゃね?)
と、考えてみたもののその可能性も低そうであった。何しろ『勇者』の視線から感じられる雰囲気は友好的なものだと感じたからである。
(敵対するつもりならこんなにフレンドリーな態度で接して来るなんて事はしねーだろうしな。俺を殺すチャンスもあっただろうに。いやまてよ? そもそも、俺にその力を見せつけて威圧するつもりだったんじゃ? い、いやいやまだ判断するには早いか)
そして次に俺は『勇者』カガリを観察する事に意識を向ける。その容姿は可愛らしい少女にしか見えない。年齢は十五~六才ぐらいに見えるのは確かだが正確な事は分らない。だが、見た目通りの年齢とは考えられないのだ。その見た目に反し百歳以上なのは確実なのだが、それでも違和感を覚えてしまう程若々しい外見をしている。
そして驚くべきはその美しさだ。その金色の髪は長く腰まで伸びているが乱れてはいない。その整った容姿が醸し出す印象はどこか神秘的で美しく神々しくさえ見えるのだ。そしてその瞳は吸い込まれそうになる程の深い輝きを放ち、見る者を魅了してしまう不思議な力を内包しているかのようだった。(何なんだ、こいつは? 俺より圧倒的に強い『大魔王』達を前にして平然と振る舞えるばかりか、何だか好意的だしな。それに、ミリムさんとリリアナの子供だって?)
そしてミリムの方を見ると、「何だこの小娘は? 何が『大魔将軍』だ? ふざけるな! 我を侮辱しているのか? それに、貴様も大概失礼ではないか?
『大魔王』に向かってその口の利き方は許せんぞ!」と言いつつも、俺の視線に気付いたミリムは俺の考えている事を理解したらしく、「こらー! お父様に失礼でしょう! 謝りなさいよ。それに私のお母様ですって! もう恥ずかしいわね! でもまぁ嬉しいけどね。ふふん」などと照れていた。
だが、その言葉の意味は『大魔王』にとっては看過出来ない事のようだ。
「ちょっとあんた! 誰が誰のお父様なのよ。冗談じゃ無いわ! 大体ね、この子の母親はあたいなの! その認識を改めないと、本当に痛い目にあうんだから! 」
(うん、そうだなミリムの言う通りだ。でもそれは置いといてだ。こいつを何とかしなければ話にならないんだ。でも、俺に勝てるのか? 正直自信はない。でもやるしかないよな)
俺の考えを読んだのか『勇者』の表情が変わる。それは今までのような微笑みではなく厳しい顔へと変わったのである。その表情にゾクッとする感覚を覚えるが、逃げる訳にはいかない。
「ユウ君! こっち来て! 危ないから、もうちょっと離れて! 早くこっちに来るの! ラミリスちゃんもだよ! ミリムはちょっと下がってなよ! こいつらは、私が相手するよ! これ以上、ラミリスを危険に合わせる事はできないからね。大丈夫、もう直ぐ仲間達が来るから、それまでの時間稼ぎをするだけだからね。だからそれまで逃げ回っていて欲しい。この二人は私が相手をするよ。でもね、ちょっと手加減出来なそうなんで気を付けるんだよ。私は本気で行くつもりだからね。でも、殺しちゃ駄目だよね? 一応この国の王な訳だから」
『大勇者』の言葉に俺は驚いた。まさか俺達を助けてくれると言うのだ。それは俺には信じられぬ展開だったが、同時に好機でもあった。俺達はこの世界最強の存在である『大魔王』二人に守られている事になるのだ。それは俺達にとっては非常に有利に働く状況と言えた。『大勇者』に攻撃するのならばその隙を狙う必要があるのは当然だが、その攻撃の難易度が下がったも同然なのだから。
しかもこの場は戦場となり『聖勇者』も戦闘に巻き込まれるだろうから、攻撃の難易度も上がるだろうと考えていたのだ。だが『勇者』がこちらを気にしてくれるのならばそれもまた容易となるのは自明であると言えるだろう。そして、この絶好の機会を逃すわけにはいかないのである。ならばここは攻め時であり『聖勇者』を倒せるかどうかは関係ない。とにかくミリムの親代わりを名乗らせないようにしなければならない。
俺達がその提案に戸惑っていると『勇者』カガリが俺の方を向くと声を掛けて来た。
「あたいの名は、勇者『勇者』のカガリ。お前は、魔王ユウキだろ? 話は聞いた事がある。あたいはね、ユウ君の事が心配で会いに来たんだよ。だから戦う必要なんてないんだよ! ユウ君は大人しくしていてね。そしたら直ぐに終わらせてあげるから。だから邪魔をしないで。いいね! 約束出来るよね?」
『勇者』のカガリはそう言ったが俺には意味が分からなかった。魔王が『勇者』に負けるというのは有り得ないと思っているからである。それなのにカガリは魔王の俺に戦わずに済ませようとしてくれているのだ。これは、もしかしたらミリムに俺を殺すように命じた事への罪悪感からの行動なのかもしれないが、そんな事は俺にとってはどうでも良かった。
何故ならば、俺はミリムの為ならば喜んで死ねるからである。そしてそれは『勇者』カガリも同じ気持ちだろうと思ったのだ。
だが、この『勇者』は、自分の言っている事を理解していないのだと俺は感じた。
確かにミリムを俺から引き離す事は重要だが、『勇者』を俺から遠ざける行為は逆効果になる可能性が高かった。『勇者』は『魔王』よりも強いので『魔王種』と融合している俺は確実に足を引っ張る形となってしまうだろう。それは俺としては避けなければならないのだ。
そして、俺の代わりに『勇者』と敵対するのは危険だと判断した。そもそも俺自身が『勇者』に敵対の意思は持っていないのだから。
そして俺は、俺なりに考え出した一つの作戦を実行する事に決めたのであった。
(この『勇者』は馬鹿じゃない。恐らく今のやり取りだけで俺達の思惑を見抜いたのだろう)
そう、今の発言では俺を庇おうとしているように思える発言だがそうではないのだ。
(こいつは多分俺が戦う意思が無いのを感じ取っていて、俺がミリムを守る為に逃げているだけと判断して、それをそのまま受け止めているに違いない)
それは俺がこの場で『大魔王』の実力を見せ付けた方が早いと判断したからだ。
(ここで下手に出てミリムを守ってくれるという恩を売っておけば後々役に立つはずだしな)
という打算の元行動する事にした。なので、その思い込みを利用し利用して利用するだけである。そしてそれは成功するはずだった。
俺達の目的は、『勇者』と戦う事では無いのだ。そしてその為に、まずは時間を稼ぐ必要があった。その目的は果たせたと思う。だが次の瞬間には状況は一変してしまった。
「何? こっちに来た? 仕方がないわね! ユウ君! 絶対にそこから動かないでね! 動くなら、あたいを倒してからにしてよね! じゃあいくよー! 」
(な! なんだこれ!? 身体が動かない! 金縛りってやつか? いや、そんなチャチなものじゃねえ!何かヤバイ!)
ただ俺の前に立ちはだかっただけの『勇者』から発せられる殺気が急激に膨れ上がったような錯覚を覚えた直後、その圧倒的な圧力で押し潰されるような気分になった俺は恐怖心から思わず後退ってしまった。そして俺は、その行動を後悔する事となる。
「おい! 何をやっている! さっさと始末せんか! この愚か者め!」
そして『聖勇者』の怒声によりミリムを守れると思っていた『大魔王』達は一瞬反応が遅れてしまうのであった。
『大魔王』ヴェルダーナの放った炎槍フレアブロスの嵐に吹き飛ばされながらもミリムは反撃の機会を狙い続けていた。
(う~ん! あれは流石に死ぬかと思ったの! でも何とかなったし。でもこのままじゃ不味いの。ユウ君はあの化け物と戦っているし! それに、ディアブロも動き出しちゃったの! でもね、お母様達も『大魔王』を相手にするのを止めちゃった。お父様も私を守ろうとしてくれたの。嬉しいの。でも、お母様達に任せるのは不安なの)
『竜人族』であるカザリームと『鬼人』族であるクレイマンはミリムを庇いながらも戦い続けているが『聖勇者』である『勇者』に攻撃は中々当たらないようである。
「何だ、こいつは? 全く攻撃を当てられない。こんな奴は見たことがない」
「ちょっと! あんまりこっち来ないでよ! もうちょっと、あたいと遊ぼうよ!」
「ふん、この小娘! 調子に乗るな! 」
「ふふん! ちょっとは出来るみたいだけど、全然大した事無いじゃん。あんたなんか、あたいとの遊び相手にならないね。もっと楽しませてくれない?」
『聖勇者』の攻撃は凄まじいものだったが、『勇者』が言う通り、当たらなかったのだ。
(ふふん! あたいにかかれば余裕だね! でもさ、こいつ本当に強いんだろうね?)
そこで『大魔王』達から放たれた魔力砲はミリムをかすめるもミリムを傷付ける事は無かった。
『大勇者』が即座に『勇者』の力を発動させていたのだった。
『大勇者』の防御結界である。『勇者』が持つスキルである。その能力は全ての攻撃を完全に無効化するという驚異的な能力である。『勇者』にダメージを与えるにはこの力を抜くしかない。しかし『勇者』は攻撃を繰り出してくるが『聖勇者』は攻撃を避けていたのである。
「もう! しつこいよ! ちょこまかとうざい! 早く、死んじゃえよ! 」
ミリムは『聖勇者』に対して攻撃は出来ない。『聖勇者』はミリムの父であり『聖魔王』でもあったのだ。『聖魔王』が『聖勇者』を殺すわけが無いのだが、ミリムはそれを知らなかった。だからこそ、この状況が悔しくて堪らないのだ。自分が何も出来ない事が歯痒くてしょうがなかったのだ。
そして、その状況を打開したのは、ミリルと『大魔王』の戦いを傍観していた一人の男、魔王アムールの配下となった元魔王の一人、魔道元帥ギールであった。
ギルールは、この戦いの中で自分の力に覚醒すると同時に自分の配下の力を把握する事も忘れなかったのだ。そして自分の配下の中にミリムの母親であるレイラをも遥かに凌駕する程の力を持つ者がいる事に気付いたのである。
そしてその者の名を呟く。
《マスターの仰る通りのようです。解析が完了しました。やはりミリム様の父親は『聖勇者』ですね》 その答えを聞きミリムは驚くが今は戦闘中である事を思い出す。そしてすぐにミリムの母親は『聖勇者』だと知らされても、それがどうしたという感じになっていた。ミリムには『勇者』に父親がいるなんて事は当然の事だからだ。だから、そんな事は既にどうでも良い事になっているのだ。だがその男はミリルにとって大事な存在である事を知っていた。
『勇者』は確かに強いだろう。しかし『大魔王』には遠く及ばないのだと、この場で証明しなければならない。
だからその男の力を、全力を解放する事にした。
そしてそれを見て、ギールーも気付いた。
《申し訳ありません、少々状況が変わる恐れが出てきまいた。ミリム様の父親が『聖勇者』ならば、私がその『聖勇者』を仕留める必要があります。少し、本気を出してしまいますね。『聖勇者』を倒すまでこの場の者達に手を出さないで下さい。お願いしますね。それが終わったら、存分に戦って構いませんから》 ギールーがそう告げると『大魔王』達が反応する前にその場を離れた。
そして、ミリムに近付きこう言った。
『勇者』がミリムに意識を向けた瞬間を見計らい、一瞬で距離を詰めるギールー。そしてミリムを守るべく前に立とうとするカザリームの懐に入り込んで、拳を叩き込むとカザリーは遥か後方に弾き飛ばされた。その衝撃は地面を揺るがし、その反動は凄まじく周囲の木々をなぎ倒したのだった。
そしてカザリーの隙をついた『勇者』の剣はクレイマンの首を跳ね飛ばそうと振り抜かれたのだ。しかし『大魔王』の首にはクレイマンが作り出した黒い障壁が発動し、それは防がれたのである。
そしてその間に『大魔王』の援護をしていたディアブロと、ミザリーが『勇者』と『聖勇者』に襲い掛かったのである。
「おい! お前が何者か知らんが、俺に敵うと思ってるのか? この『勇者』の俺様にな。貴様は雑魚か? まあ、俺に一撃でも与えられて、俺と遊べたら認めてやるけどな! じゃあそろそろ行くぜ! 」
そう宣言して『聖勇者』から放たれたのは、その手から発せられた衝撃波であった。
それをミリムを庇いながら受けるディアブロだが、『勇者』が発した衝撃波により、ディアブロの腕を一本失う事になった。そしてミリムをその場に残して戦い続けるのは困難だと判断し、ミリムと共にこの場を離れようとしたのだがそれは叶わない。『勇者』から逃げ切る事など不可能なのであった。
ディアブロを斬り裂いた『勇者』の放った『光刃』によりミリムもまた左腕を失ってしまう。ミリムは残った右腕だけで短剣を振るい抵抗するも『聖勇者』は余裕を見せておりその表情には一切の疲れも見られなかったのである。
『大魔王』の『魔王覇撃波』で『悪魔公デーモンロード』を屠り終えたリリアナであったが、今度はゲルガキ達によって足止めされていた。しかも相手には『勇者』が混じっており状況は圧倒的に不利と言わざるを得ない状況であった。それでも何とかしようと戦うのだが、相手の連携が巧み過ぎて思うように動けないでいた。
そんな時にクレイルは動いた。『大魔王』であるクレイルから放たれた魔法『闇弾ブラックブラスト』が『勇者』達を襲いかかる。その威力にクレイルは思わず笑みを浮かべるも、そこに現れた人物に驚く事になる。
『聖勇者』がミリム達を守る為に、『勇者』の防御結界を発動させたのだった。そしてミリム達の窮地を救ったのはディアルクであった。
(何!? 今のは一体なんだ? まるで見えない壁に遮られたような。『聖勇者』の仕業なのか?)
「ちっ! 厄介な能力を使うな。仕方がない!
『勇者』の防御を抜かない事には倒せないようだ。お前らは『大魔王』の方を狙え! 俺はこいつを潰す!
『勇者』が相手では面倒だ!俺一人でやらせてもらうぞ! いいか、俺が奴らを始末したら、残りの魔王共を殺しに行くからな! 邪魔をするなよ! じゃあ、また後でな! その時はたっぷり可愛がってやるよ! くくくく。それまでに殺されなければな! じゃあ、そういう事で、後は任せたぞ!」
その言葉を残し、『勇者』達はクレイマンの方に向かっていったのである。
そしてクレイルの目の前に現れた『聖勇者』は余裕を見せていた。
「へぇ〜? まさかあんたがここに来るとは思わなかったよ。流石だね!
『勇者』様の守りにね。で? あたいとやり合おうっていうの? 悪いんだけど、こっちも忙しいんだよね。遊んであげるつもりはないんだよ! そこ退いてくんない? 邪魔なんだけど」
クレイルはそんな言葉を無視して攻撃を仕掛けていく。
「おい! 人の話聞いてんのかい! あたいは、今急いでるんだ! あんたの相手をしている暇は無いのさ! 」
しかし、『聖勇者』は攻撃を難なく避ける。そして反撃の構えを見せたのだったが、突如横槍が入った。『勇者』を目掛けて『勇者』の『究極強化アルティメットブースト 』を上回る速度で移動したギルールの強烈な蹴りを喰らってしまったのだ。しかし、それさえも回避する。だがそこに『聖勇者』は気付いていなかった。その背後には既にギールがいた事に。ギルールが放つ連続攻撃に翻弄される事になるがなんとか凌ぎきったのだ。しかし、そこで終わりでは無かった。その攻防の最中にクレイルの攻撃も加わり、遂に『聖勇者』は力尽きてしまう。だがしかしそこで、思わぬ助太刀が現れた。それはミリムだった。
「ふふふ。お父様! このミリムちゃんが来た以上、こんな奴はもう大丈夫だよ! それに『大魔王』を殺さないとね! 早くしないと他の魔王が来ちゃうし、ここはあたいでいくね! 」
そして『聖勇者』を倒したのを確認したディアムルはディアルルへと意識を向けた。そして、そこで驚愕の事を知る事になる。ディアルルが『大魔王』になった事を。そしてそれを行った存在を知っていた。そしてそれが誰なのかという事もすぐに気付く。
『大魔王』ディアルルが動き出した。『大魔王』と化したその肉体は先程までのディアルルスとは完全に違うものであった。そして『大魔王』ディアルルとディアルの力がぶつかる。そして、両者は拮抗し合い力比べを行う。だが、そこにギールが介入した。
そして、一瞬にして決着がつく。ディアルの剣を容易く破壊したギルールの蹴りはディアルトを遥か彼方まで吹き飛ばしていた。ギールールの圧倒的な力を目の当たりにしてミリルも覚悟を決める。そして、この場で『聖勇者』をも倒す程の力を身に付けると決めたのだ。その決意に応えるように『魂の系譜図コネクト 』に表示された配下は更に増え、その数は三千を超えようとしていたのだった。
一方『聖勇者』クレイルと対峙したリデルは苦渋の選択を迫られる事になった。
クレイルの強さはリデルの予想を遥かに超えており、自分の力をもってしても、とても敵わない事を認識させられてしまったからだ。
(私はここで死ぬのか? まだ『大魔王』にはなっていないはずだけど)
そしてその思考はクレイルには読まれており、リドルがその疑問を投げかける。
《あなたが何故、『大魔王』になれなかったか不思議でしたが、どうやら『魔導核』に不具合が生じていましたようですね。その証拠に私に操られていたでしょう? そして今は、私が支配権を取り戻させてもらいました》 《え!? 私があなたの支配下にあった? 嘘よ! 信じませんからね》 そう否定した瞬間、その身に宿る膨大な魔力を奪われていくのを感じる。そして同時に、この女を滅して、その命を奪い取ってやりたいと激しい衝動に襲われてしまった。
《まあまあ、落ち着いて下さい。別にあなたを消そうとは思っていません。ただ少し、協力してもらえれば良いだけですから。この世界に仇をなす、悪の権化たる魔王の皆さんを、全てこの手で抹殺して欲しいのです。その手伝いをしなさい。いいですか、魔王の皆さんは絶対に生きて返してはならない相手です。その力を正しく使う事が出来ずにこの世界を滅ぼし、蹂躙しようとしているのです。だから、魔王の皆さんには死を! ただそれだけですよ。その為にもまずは、魔王の『魂の系譜』の解析を行って頂きます。『勇者』は無理ですが、『大魔王』は確実に倒せるようになりましょう。その後は存分に魔王達と戦い続けて構いませんよ。但し、殺しすぎないようにだけ注意してくださいね。魔王の力を奪う事は重要ではありません。必要なのはその魂。それを完全に消滅させる事でその魂が蓄えた全ての経験値を吸収する事が出来るのです。つまりはレベルアップが容易に出来るようになる訳なのですよ。ただしレベルが99に達する事は無くなるかもしれませんが。さあ! 始めますよ! 私の傀儡になりなさい!
『強制隷属 』! 》
「ああ、そんな! 体が勝手に動く! 嫌だ、死にたくない、死にたくなぁーーーいっ!! 」
《そう、それでいいんですよ。あなたの願いを叶えてあげますから、安心して、身を委ねるといいわ。ほぅら『解析者 』も喜んでいる。これでまた一つ『解析』が進みました。素晴らしい事ですね。あなたは本当に優秀な『大魔王』となる資質を持っているみたいだ。でも『魔王』ではないから『勇者』にはなれないのはちょっと惜しい。まあ仕方がないですね。『勇者』になどなってしまえば『勇者狩り』なんてものが始まってしまうでしょうからね。そうなっては困ります。さてと、じゃあそろそろ『魔王軍』の準備をしなければいけませんね。ふむ、やはり『大魔王』は『勇者』達から守って差し上げないとならないかしら。魔王達は皆で『勇者』を迎え撃つつもりでいるから。まあ、それも面白そうだからいいか。よし! 後は頼んだわよ。期待していますからね。では『解析者 』! 」
《え? はい。了解しました、主様マスター!お任せください! では行きます! 対象の種族名は『人族ヒューマン』、『悪魔公デーモンロード』。そして能力値はこちらを参照します。
名称:ミリム
性別 :女性
年齢 :17才
種族 :悪魔公デーモンロード 生命力 SSS- 精神力 A+
(MAX)
最大体力 D+
(S)
最大筋力 C
(B)
最大敏捷 D
(A)
保有属性値(魔力マギアリティーポイント)
SS
(EX)
(SSS)
(EX)
※魔力がEXの場合は表示出来ませんでした。ご了承くださいませ。保有特殊才能 【聖天の使徒】
(全ステータス上昇効果。スキル習得可能数増大)
技能1
『聖闘気 』『覇闘氣』
特技
『聖勇者』の技 称号 【大勇者候補】
「え?!あれは『大勇者』じゃない! じゃあ、やっぱり本物がここに? なんで、何の為にここに来たんだろう? あの人は魔王を殲滅する事しか考えていないはずなのに。まさか『大魔王』になるつもり? それは駄目だよ! あんな危険な人に魔王になって欲しくはないんだもん! 早く止めなきゃ。この『勇者』はあたしが殺してやるんだ! あたしの邪魔は誰にもさせない! 」
こうしてディアムルはディアルへと戻ってしまったのだった。だが、その瞬間、ディアルルは動き出す。それは、ミリルの攻撃によって弾き飛ばされていたからだ。
ディアルの『大魔王化』は解け、意識を失う前にギルールへと命令を下すのだった。
「おのれ! 貴様! 覚えておれよ! 次は必ず殺すからな! 絶対にだ! くそぉ〜っ!
『勇者の剣』が折られてしまったではないか! もうダメだ。ここは撤退させてもらうぞ。必ず戻って来てやるからせめて『勇者』は殺してくれ! それまで待っていてくれよ!
『転送魔法陣 』起動! 我が眷属共、撤退する! 転移するぞ! 」
「ふふ。お父様、もう逃がしません!
『魔導核』!
『超次元空間 』展開! さようなら、『勇者』さん!
『強制転移 』! 」
(ん? なんだこの違和感?! 何かがおかしい?! これは罠か!
『解析 』で確認しなくては!)
(『解析 』が効かないだと?! 一体、どういう事だ? まさかさっきの女の仕業か?! まずいな、この状況はまずすぎる。ここは逃げるのが一番か。)
ディアムルは、『魔王の翼 』で逃げようとするも、ミリムがそれを阻み攻撃を開始する。しかし、ディアムルはミリムの攻撃を全て受け流しながら距離を取ると、ディアムルの身体から突如『闇』の波動が放出される。すると、ミリムは突然苦しみ出し膝をついてしまう。その様子にギルールとディアルルも驚き戸惑うのであった。
《『魔王の因子』に干渉されたのでしょう。『魔王の因子』には自我が存在しませんから、その『魔王の因子』の持ち主の意思に反して行動してしまう事があるのです。つまりは、支配される事を意味しています。なので『魔王』を『大魔王』にさせたくないのであれば、『勇者』を殺す事以外に手はありません。さもなくば、逆に滅ぼされる可能性があるのですよ》 そう告げられたディアルドだったがその答えを出す時間も無く、目の前にいる二人の敵から逃げる為には『究極能力アルティメットスキル』に頼る他は無かったのだ。ディアルは瞬時に、自分が使える『魔人化 』の最上位形態である『真魔人化』を行い『暗黒闘気ダークオーラ』を放出したのだった。その力は圧倒的で『勇者』の二人でさえ一瞬にして呑み込まれていく程だった。そして『魔王化』も解除され元の姿に戻ってしまう。その光景を見て、ミリムの胸には絶望の感情だけが広がっていくのだった。
「嘘よ。これ程の力が有れば、魔王達だってきっと倒せたのに。でも、それでも魔王に勝てないっていうの?! なら私にはもう戦う資格なんて無いのかもしれない。それならば私は大人しく、殺されるべきなんでしょうね。でも! 私は諦めたりはしない。こんな私を助けようとしてくれた優しい人が居てくれる限り、私は生きる希望を捨てる事は無い。それがどんな結果になろうとも、ね。お願いだから、もう少しだけ時間をちょうだい。この人達だけは私に、任せてくれないかな」
ミリルはそう言うと立ち上がり、『大賢者の杖グレートマスタースタッフ 』を召喚して自分の前に置くとその先端に付いている『星球の宝珠スタープラネット 』に話しかける。そしてそこから光が漏れ出すのを確認する。そして光の中から一人の人物が現れるのを確認した後、「よろしくお願いします」と一言だけ言い残しその場を立ち去ったのだった。残された者達は、『勇者』の二人がやられる姿を見ていただけなのだが、そんな状況でもギルールは最後まで諦めずに戦っていたのである。その瞳には未だ力強い意思を感じさせるものがあった。
(なんやねんあいつ。めっちゃ強かった。うちじゃあまるで歯が立たへんかった。けど、ここで逃げたりしたら、アカン気がする。せや! あの女の人のお陰やな。お姉ちゃんの魂の力を貰えたんが奇跡やったわ。せやったら、せめてこの力だけでも、あの女の力になれる様に頑張らないかん。そう決めた!)
ディアムルは『魔王の翼 』を発動させて、再び逃走を開始したのだった。
(このままでは、本当にヤバイ事になるぞ。『勇者』をここまで追い込んだ相手だ。それにあの謎の攻撃、『魔王の魔力感知 』でも、何も感じなかった。という事は『固有結界』による隠蔽か? 厄介な奴が現れたものだ。しかし何故今頃現れた? 俺の存在を知っているからこそか?
『勇者』達を足止めしている内に俺を確実に仕留めようという事か。『勇者』が居るからか? いや、それはないだろう。確かに『大勇者』がここに現れるとは聞いていた。が、それはまだ先の話。それにその気配も今のところは無い。となると別の狙いがあると見るべきだな。あのミリムという少女が『勇者』と行動を供にしている以上、何か特別な理由があっての行動だと考える方が妥当だろう。やはり、『大勇者』の候補者は危険すぎるな。だが今は逃げねば。どう考えても俺だけでは無理だ)
ディアルは自分の身の危険を感じとり、ディアルとして『転送魔法陣 』を展開して撤退しようとしたその時。
ディアルの前に『聖勇者』の少年が現れディアルの動きを止めようとするが、その『聖勇者』は一瞬で吹き飛ばされるのであった。そしてディアルの前には先程までとは打って変わって威圧的な雰囲気を放ち始める『勇者』の少女がそこに佇んでいたのだった。
「あんたが、この子達に迷惑をかけたみたいじゃない? 何の為にここに来たのかわからないけど。さっさとここから消えてくれないかしら? じゃないと痛い目に合うと思うよ? まあ、あたし的にはさっさと消した方が良いと思っているんだけれど。一応、警告しといてあげるよ」
ミリルは『聖勇者』の証たる『勇者剣』を抜き、その剣先に『聖闘気』を纏わせつつディアルを見据えながら言った。
「お前は『大勇者』か? 」
ディアルトは突然目の前に現れた『勇者』が、自分を『大勇者』と呼ぶ事に違和感を覚えた為、警戒しつつも尋ねた。すると、『勇者』が『大勇者』と呼ばれる事を否定するような態度で返答をする。
「『大勇者』ってのは『大魔王』の事だよね? それ、嫌なんだ。あんな危険な男を勇者と同じ『大魔王』扱いされるだなんて虫酸が走るんだよ!
『大勇者』なんかになりたくないんだけどなぁ〜 仕方がないから、仕方なくなろうと思ってたんだ。そうしないと、あたしがこの世界を守れないから。それで『大勇者』になんてなってしまえば、魔王の『大魔王』があたしの前に現れるのは当然なんだ。そうなったら、この世界は終わりなんだから! 」
ミリルはそう言って、『超次元空間 』を展開するのだった。その様子にディアルは驚愕するも、この場から逃れるチャンスと考え、転移の魔法陣を展開しようとした時だったのだが、『空間跳躍テレポートポイント 』によって一瞬にしてディアルの背後に現れたミリムによって、『空間転移』を妨害する術を掛けられてしまう。それは『空間跳躍ワープポイント 』と非常に似ていて、違う点は転移先がランダムになってしまうという点である。転移先が不明な状態で強制的に転移させられる事でディアルドはパニックを起こしてしまい冷静さを欠き、『空間跳躍テレポション』によって転移しようともしたが、発動する前にミグルド族の魔法により妨害されてしまうのだ。そこで最後の手段に出たのだが、それは自分が持つ能力に頼る事であった。つまり『悪魔召喚デモンズサモン 』だ。『死人之行進デスマーチ 』は『闇黒天ブラックホール』に吸収されてしまっているので、新たに召喚する事にしたのだ。だがそれも、『大魔王』ディアラルディアルが『魔王の心臓核』の核エネルギーを使って生み出した『闇精霊 』や『死神の使い手 』等の強力な闇の上位存在を、全て吸収してしまった為に、新しく生み出せる数は限られてくるのだった。しかもディアラルは『勇者の剣』を吸収しているので、ディアルルの能力の一部を使う事も出来なかった。ディアルムはこの状況下の中で新たな『悪魔』を生み出そうとするが、何故か思うように『悪魔召喚』が出来ない。しかしそれでも何とか一体の下級悪魔の創造に成功した。その力は弱いながらもディアムルに力を貸す為に生み出された為に、他の魔物達よりもディアルムへの従属度が高くディアルムの意思に逆らえないようになっている。ディアムルはディアドルに命じるとディアトルに攻撃を仕掛けさせる。ディアムルはその攻撃をかわそうとした瞬間、『魔王の翼』を発動させ上空へと逃げ去るのだった。
ディアムルを逃がさないようにミリル達は一斉に攻撃を開始しようとするも、ギルールは突然苦しみだしその場に膝をつく。ギルールはミリルに向かって苦しげに叫ぶと、ディアルを指差して『大勇者』であるミリルに対して、『大魔王』を倒す事を頼むのだった。しかし、そのギルールの行為がギルールの運命を大きく変える事になった。ギルールがミリムに対して懇願していた時、突如ミリアルが持っていた『星球の宝珠スタープラネット 』の光が激しくなり、そして輝きを増して辺り一帯を飲み込んでいく。ギルールとミリルーーそして『聖勇者』の少年と『勇者の魂 』を融合させる事に、成功したのだった。
そしてミリルの中にミリルとは別の人格が生まれ、それと同時にミリルは別人と入れ替わる。そしてミリアルはまるで『白虎』の『魔王化』の様な姿に変化した。その姿は、背中から生えてきた六枚の黒い翼と頭の左右に生えている大きな白い角以外は、『魔装王シリーズ 』、『真紅ノ女帝クイーンオブエンプレス 』と酷似しており、そして腰から伸びる尻尾も四本の蛇ではなく三本になっていた。その瞳も赤くなり金色に光っていたのである。その姿の変化を見ていた『勇者』達や、そしてその様子を見てしまったギルール達には、既に勝ち目が無い事がわかっていた。だが、それでも諦める事無く抵抗を試みる。しかし、その攻撃は全てミリルが身に付けていた防具によって防がれてしまう。更には、『勇者の魔力解放ブレイブリベレイション』によって強化されている『聖剣セイクリッドブレイド』の攻撃も、その『聖剣の鎧アイギス』による防御力の前では無力であった。そしてミリルが『聖剣の鞘エクステンダーソード 』を手に取ると、『勇者剣グランセイバー 』の『勇者の盾シールド 』を呼び出し、『勇者の衣ホーリーローブ 』に付与効果を付与する。
ミリリの着る装備が全て神器や秘宝クラスであり、それを軽々と扱う様子はまさに、この世界において絶対の存在になった事を示していた。そんなミリリルを見て、ギールは思わず叫んでしまう。
「お前は、一体誰なんだ!? 何者なんだ! 」
その声に反応し、ミリルの中の人物が答える。
「私はこの世界を創る為に生まれてきた。私の名前はミリエル。この世界に『聖邪竜皇 』を復活させる為の存在なのだ。この世界で、唯一神と呼べる存在である私の使命。この世界を守り、愛する事こそが使命なのだ。貴様等のような偽物の神などに、負けぬ。私が存在する限りな! 」
その言葉を最後に、その人物の精神は完全に入れ替わったのである。
それからミリルと『勇者』達は戦闘を続行する事になるのだったのだが、先程までの攻防とは比べるまでも無く圧倒的な戦闘力を見せたのは、もちろんミリルトの方であった。ミリルとディアルスの身体を共有している為か、ディアルムの動きも非常に良くなっていたのだ。その力の差を埋めるべく、『勇者剣』を持つ『聖勇者』は『聖戦剣ヴァルキュレエターナシオン 』と『聖槍ロンクルセフィスト 』の力も借りた。そしてミリルに対抗するように、『勇者の魂』を融合させた事により手に入れたユニークスキルの究極能力アルティメットスキル『大勇者』を使用するも、その効果は殆ど発揮されず逆に窮地に追い込まれる事になってしまう。
そして、ついに『勇者』は『聖勇者』としての証である『聖勇者の証』が砕け散り、その肉体にも限界が訪れた。だが、その肉体が朽ちる前にその肉体に眠る潜在能力が目覚めようとしていた。その能力とは、かつてミリアルがこの世界を創る為に使った力と同じ、この世界を破滅から守るために存在する最終防御壁であった。
その力が今、解き放たれようとし、その能力は『聖なる光ホーリーシャイン 』とでもいうべきものに進化したのだ。その力でミリルと互角以上に戦う。いや、『聖勇者』の方が若干押し気味だった。
しかしミリルの持つ武具の性能を徐々に引き出されてしまっていくのである。ミリルの使う防具と『勇者の剣』は相性が良くなかったが、『勇者剣グランセイバー 』が『聖剣』に融合した事でその性能は飛躍的に向上していったのだ。その結果、ミリルがミリアルに対して有効だと判断した全ての能力や能力スキルは、『勇者剣グランセイバー 』が吸収してしまうので、それに対抗しうる性能を持った装備品は、この世に存在しなくなっていた。その結果ミリイルと『勇者』の力は、段々拮抗し始める。そして、『聖勇者の証』が完全に破壊される直前、『勇者の魂 』との融合を果たした事で生まれた新たな能力、この世界を守る為の最終防御壁の能力が発現したのだった。この能力はあらゆる攻撃を無効化し、そして『魔王化』や『悪魔同化デモンフュージョン』の効果までも無効にするのだった。それによりディアルムが召喚した悪魔達は全て消滅する。ディアルムは『悪魔融合』が使えないというだけでは無く、『大勇者』すら使えなくなってしまったのだ。『魔王の心臓核 』によって生み出した悪魔達の力を全て失ったディアルムにはもう、抗う手段は残っていなかった。その絶望的な状況下の中で、ギルールは最後の手段に出る。その方法とは、『空間転移テレポートポイント 』を応用してディアルドに自分を転移させて貰い、そして『勇者』達に自分の肉体を差し出す事で『勇者の魂』を取り込むつもりだった。だが、その行為は失敗に終わる。ディアルズに転移してもらおうとしたその時、ディアルの意識がミリルルによって封じられてしまったのだ。これによりディアルは自分が『大勇者』になる為にディアルの『魔王化』が発動してしまい、更にその肉体は崩壊を始め、そのまま命を落としてしまうのだった。ディアルの命が失われた事で、『悪魔同化』で呼び出されていた上位悪魔達はその存在を維持する事が出来なくなり全て消滅してしまう。その瞬間にディアルムも消滅したのだ。ディアルムは自分の目的である、『魔王の心臓核 』を取り込み『魔王』と『大魔王』を同時に取り込む事に成功し、その瞬間『魔王の心臓核 』の力がディアルの身体を完全に乗っ取った。ディアルの心臓が『大魔王の心臓核 』に変化し、ディアルムとディアルを吸収した。そしてディアムルに命令するとディアムルは動き始める。
ディアムルが向かった先はミリルドが立っている所であった。そしてその光景を見ているミグルド族の一人がディアムルに向かって叫ぶ。
《おい! 止めろ! ディアルム殿を止めてくれ! あれではミリル様が死んでしまうぞ!!》 しかし、そんな声が届く筈も無くディアムルは『勇者の衣 』に攻撃をしようとするがミリルは簡単にそれを弾き飛ばすと、ミリルはそのままディアラルに攻撃を仕掛けた。だがミリリの攻撃はディアラルに届く事は無かった。ディアラルと『魔王の翼ダークフェザー 』により移動して難を逃れたディアルムは、『勇者の衣』をディアムルに渡し、そしてその身にディアラルが宿る事に成功したのである。こうして、『勇者』を追い詰めていたディアルム達も、ギルールの作戦通りに全てが終わりを迎えようとした時だった。ディアルは突然ミリルの前に飛び出しミリルルの邪魔をする。そしてその攻撃で、ディアアルは完全に消滅した。その突然の行動とディアルムの『大勇者』が『魔王の心臓核 』の力に勝てず、完全に消滅してしまったため、ディアルに『大勇者』が奪われてしまうのであった。
そしてギルールはミリルに抱き付き、
「お願いです。どうか、我が一族だけはお救い下さい。私は貴方様に全てを捧げます。だから助けてください!」と懇願する。
そんな言葉を無視してギルールはミリルに攻撃を加える。だがそれはミリルが作り出した光の障壁によって阻まれてしまうのだった。ミリルトはその攻撃を受け流し反撃に移る。その圧倒的な戦闘能力を見せつけ、ギルールの首を斬り落としたのだ。
それからミリルは再び『白虎の鎧』を装着する。そして、『聖邪竜皇 』が封印されている場所へと向かうのだった。その最中、ギルールの配下であった者達にミリルは問いかける。
その問いに対する返答は、全員が『はい 』だった。ギールルの命令は絶対なのだろう。だが、そこに一人の女性が現れた。彼女はディアルの妻だったのだがディアルの策略によってギアルの虜になっていたのだが、ミリリがディアルを倒してからディアルが死んでしまっていた事に気付くとディアルの死体の前で泣き崩れていた。その女性の言葉を聞いているうちにミリルの中の人が変わった。
(あの人は私が殺す! 私を騙し利用したんだ。当然の報いだわ。さぁ早く行こう)
そしてその言葉に反応するように女性は立ち上がり、そしてミリルの後を追う。その後にはギリーートル配下の者が後を追っていった。ミリリの中にあった怒りは完全に消えた。いや、『聖邪竜皇 』として覚醒してしまった今の状態は最早『大魔王』と変わりはないのだ。だからこそ『聖邪竜皇 』はミリルトに力を与えたのだ。そう、これからは自分が世界を支配していく為の、最初の駒であると。
ディアルの魂は、『聖邪龍皇 』へと姿を変え、ギリルとギリーの肉体を奪い合い戦う事になった。だが『聖魔竜皇』となったギリルに勝ち目は無く『聖魔竜王』となり『聖悪竜皇 』に進化する寸前で『死霊王デスキング 』に吸収されてしまい、『闇夜之豹』の幹部であるディアルの魂が『聖悪竜皇』と化し、ミリルとミリルの中の人の意識は、この世界を統べる者『聖邪竜王』に完全に支配されたのである。そして、ギール達の一族を救う事を承諾しミリルの中の人、正確には『聖魔王 』ミリルはミリルドが待つ『聖魔竜皇の間 』へと向かったのであった。『聖魔王』が『大魔王』である『聖邪竜王』を取り込み誕生した新たしい力、それが『聖魔覇王 』と呼ばれる存在であり、『大魔王軍』を支配するに相応しい能力を有した存在であった。そして今ここに、世界の覇者が誕生した。
俺はこの場に現れた三人の姿を確認したが、俺が『魂の系譜図コネクションズダイアログ 』の能力で視た通りの光景が繰り広げられている。
「何だ貴様等、この世界の住人ではないのか? ならばこの世界で死ぬがいい。そしてこの世界を守る為に私の役に立ってもらう」
『聖魔王』が言い放つと、『勇者剣』を手にした『勇者ユウジ』がその手にしている剣を構える。
「悪いがそういう訳にはいかないんでね。あんたの思い通りにはさせねぇよ。お前達を倒し世界を救う為にこの世界に呼ばれた。その責任はきっちり取らせてもらうぜ。
行くぞ!!」
『勇者剣』を構え、勇ましく叫び『聖勇者ユウジ』は戦闘を開始する。それに続くように、もう一体の『聖剣』を構えた『勇者剣シゲムイン』、『聖槍ロンクルセフィスト』『聖盾アイギスセイフ』を手に持った二人の『勇者』、そして最後に剣と弓を持つ、もう一人の勇者『ユウヒナ』も参戦して『聖魔王』との戦いが繰り広げられる。『神域守護機兵ヴァルキリア』も戦いに加わるが『神聖騎士ゴッドイーター』の称号を得たばかりの二人を相手にしてはやや分が悪いようだ。
《我は神の代行にして、天の意志を司る者である。我の言に従うなら、汝に勝利を与えるものである》『聖なる審判ホーリージャッジメント』の声が聞こえてくると二人の勇者に光輝く力が与えられてその能力が大幅に上昇する。この力は神々の力そのものなのだ。そしてその効果は一瞬の出来事である。『勇者』の二人はこの効果により強化された力で一気に攻勢に出ると『魔王化』したミラルは押され始める。しかしそこにミリルルが割り込み攻撃を仕掛けてきた。その攻撃に対してミリルルは、『聖魔王の加護 』を発動し防ごうとしたがそれを打ち破りミリルルルにダメージを与え始める。
「クッ!何故だ!?なぜ効かない。
『大魔王化 』
私は最強になるはずだったのだ。全てを手に入れ、全ての頂点に立つべき存在だった筈なのに、一体何故なんだ?」と、自分の力に戸惑いながらも攻撃を繰り出していた。ミリルも応戦するが、その攻防は長くは続かなかった。そこに現れた一人の人物によって戦況が一転したのである。
ミリルルルの攻撃により追い詰められ始めたミリル。そしてミリルルがミリルの首を跳ねようとした時、突然、上空から巨大な炎球が落下してきて、そのまま地面で大爆発を起こすとミリルに襲い掛かっていたミリルルルを消し飛ばし、その炎がミリルルルとギリル、ギリーの肉体を奪っていたディアルの肉体を燃やし尽くしたのだ。
「ふぅ、間に合ったようだな」
その声は聞き覚えがある。だが俺の予想は外れていて欲しいという願いが通じなかったようでその声は間違い無く、『勇者カイエン』のものだった。
そして、『大魔王 ミリルル 』の死亡を確認し、これで終わりだと思えた。
だがその時である。ミリリルが突然、空から出現した黒い光の渦に飛び込むとその渦が閉じ、そしてその中からミリルとギルルの二人が姿を現した。その現象を呆然と見ていたが突然、ギリルの腕輪に宿る気配が消えるのを感じた。そして、目の前ではギリルは腕輪を外していたので間違い無いと思った。ギリルの中にあったディアルはミリルに吸収されて消えたようだった。その瞬間、 《我は『勇者 』の『正義執行者 』である。『邪なる意思』と『邪悪』が一つになり、悪の意思となった時に『正義』を行使し、その存在を排除する存在である》『神聖騎士 』の言葉が頭に響いて来る。どうやら『勇者』に何かしらの異変が起こったのかも知れないと感じた俺は慌ててステータス画面を開き『勇者』の情報を確認する。『
名前:
ミリリルルルル 種族: 魔王(悪魔族 吸血鬼)
Lv:
218 年齢 :129歳
性別 :女
職業:
『勇者』
体力
:25万6700
精神力:4億5000万
状態: 』
そこにはとんでもない数値が表示されていた。これは間違いなく異常な状態であると言える。『大魔王』の力が無くなったとしてもここまでの数値が表示されるのは異常過ぎるのである。そして俺は、俺自身の情報を確認した結果、新たな情報が開示されていた事に驚く。それは
『
名: 大魔王ミリルルーグ=サタン(神格
『大魔王 』ミリル ルグー ルシフェル(偽称 真魔王 』ミリルトル ールグー ルシファー
(真魔竜帝『大魔王竜皇』)
『聖邪竜皇 』
『 』
称号:【『七星王竜』
】
【神祖種 】
スキル一覧: *『龍眼』*『超再生』L
『魔王化』L究極能力アルティメット アクティベーション』『魔喰武装円』L
『聖邪覇竜』*『邪魂支配』
*『魔力波動』L『魔力解放』L 魔法 系統別呪文 火属性魔法Lv10 水属性 土 風 光属性魔法
『神聖法』
神聖系補助系回復呪文多数 闇夜属性魔法
『魔影魔術』
呪縛系 幻術 死霊召喚『死者蘇生』『死体傀儡』『死霊創造』
結界魔法 聖障壁『ホーリーバリア』L
『聖滅斬』
重力操作 聖闘気纏 神聖気功『ホーリーオーラ』L 神聖雷光線 神聖雷閃槍
『暗黒闘気ダークフォース 』L『混沌闇夜竜 』
闇夜魔法 黒暗冥鎖『ブラックホール 』
邪神召喚 空間移動 収納『次元之間門』L *特殊能力 魔王
『魔核覚醒』
*『勇者の加護 勇者の剣 』
(装備変更不可)
聖勇者 シゲルの加護 勇者の剣 神域守護騎士ヴァルキリー ゴッドイーター 勇者ユウヒナの加護 聖勇者ユウジ 聖勇者の弓
『勇者の聖矢』
(装備可能者限定 使用回数無制限 攻撃力5倍 効果時間3分 自動修復機能付き)
勇者剣シゲムイン
『聖勇者の加護』
勇者ユウヒナの祝福
『聖勇者剣』
(装備変更不可能
『聖勇者の剣 』『勇者の剣』は共に同じ扱いのようだ。そして、『聖勇者の弓』もユウヒナの武器と同じ効果を持っているようである。ユウヒナの能力は弓を引くだけで矢の先に聖光を集束し、放たれると同時に聖光が弾け、その衝撃により敵を切り裂く技らしいのだが威力は絶大で一撃必殺である。そして、
『神聖機神王神 ゴッドイーター 勇者セイントの武具 』
神界に存在すると言われる伝説の神造魔具である『神聖機神』を『勇者』の称号を持つ者が装備する事で得られる奇跡の魔導兵装であり、『神聖機神』が生み出した神工知能によりその性能は大幅に引き上げられている。更にその身に宿すのは『聖なる審判』の力である。
聖勇者ユウジの特殊技能
『聖勇者の剣 』は、聖なる力が付与された特別な剣で、聖なる力を剣に込める事が可能となり、邪悪なるものに対してその力を発揮しやすくなるのである。
勇者セイント
『聖勇者剣』は、聖剣である。その剣は勇者剣に酷似しており、神域守護騎士ヴァルキリーはこの勇者剣を元に神剣を作り出そうと研究を重ねた末に生み出された。神工知性による思考回路も組み込んであり、自ら考え行動する事ができるようになっている。
そして、
『聖なる審判』とは、聖なる審判を下せる能力を持つものである。
神聖騎士ゴッドイーターの称号を得た事により、新たに『聖勇者』の称号を得るに至ったようだ。しかし俺には意味が分からない言葉が並んでいた。
俺に説明を求めようにもこの場にいる者達の中で理解しているものはいないようなのである。ただ唯一分かるのは『勇者』の力が強化されて大幅に強化され『神聖機神』を使えるようになった事くらいであろう。だがその事は俺にとって大きな意味を持つ事になった。そして今現在『勇者』が全員『聖なる審判』が行える状態になっている可能性があるという事をである。それなら話は変わってくるのだ。
俺の持つこの能力が通用するかもしれないのだ。そう思うと俺は心の底から湧き上がって来る高揚感に口元がニヤケてくるのを感じていた。
「クッ、何がどうなっているんだ?私に一体何が起きたのだ」とミリルルが言ったのを聞いた俺は『勇者』が暴走し始めたのを察知してミリルルを気絶させる。それと同時にクレイドルがミリルルルに攻撃を仕掛け、ディアドルーもミリルルルの攻撃を凌ぎつつディアルルルルを攻撃する。だがそこで『勇者』の能力が飛躍的に向上した事でディアドルーとミラルルルの連携が崩れて劣勢となる。そこに俺も加わり、ディアドルーのフォローを行いながら二人に攻撃をする。ミラルルルの攻撃に防戦一方だったディアルーだったが、ミリルルの攻撃を受けるとミリルルルルは、ミリルルルの腕輪を嵌めている方の腕を斬られて、その腕輪を外してしまう。そして、その腕輪からディアルの魂が出て来たのだ。ディアルルルはそのディアルを抱きしめるが、『勇者』の魂はそれだけでは飽き足らず、『勇者』の腕輪が破壊された事でディアルは魂ごと消えてしまったのである。そしてその瞬間──ディアルが消えた事で、ディアルと融合していたミリルルの『大魔王』としての存在が完全に消滅した。その事にミリルルは驚愕していたが、「まだだ!私は最強の存在になったはずなのだ!」と叫ぶがその身体が光に包まれて消滅する寸前でミリルルを救い出したのだった。
それは、クレイドルとクレイドルの中にいるディアルとディアルと一体化してしまったディアドルーのおかげなんだけどね。クレイドルの中に取り込まれる事を拒んだディアルであったが、『大魔王城キャッスルロトルア 』を消滅させてでも戦い抜くと言った二人の意思が融合したお陰で『大魔王』としての魂が消滅し、同時にミリルルの精神が壊れかけた瞬間、ディアドルーの中の『勇者の魂』がミリルルを守ったのだという。だから、二人は『正義執行者』となったミリルルに消されるのではなく自らの力によって死んだのだと言える。
俺は『正義執行者』の言葉を聞いて納得したと同時に、『勇者』の称号が持つ危険性を認識したのであった。
************
***
【名前】
アムール=ルシア(テンペスト)
【スライム族(聖魔霊獣:聖天魔竜帝)/魔王(神格『聖魔竜皇』)】
L
v:100
年齢 :10才(幼児)
性別
:女性
職業 :(真)魔王(幼魔王)
状態
:『聖魔霊体(霊力回復中 状態変化不可)』
******
***
【名前】アムール=ルシア
【聖魔霊獣:霊魔竜皇帝(真魔王竜皇竜種:魔王竜神龍:古代巨竜:星聖竜神龍:神聖竜神竜王(神聖魔竜帝):神極龍神皇:究極神龍)】L *
***
***
《告。個体名:ヴェルダナーヴァの使徒として覚醒しました。それにより究極能力アルティメットスキル《智慧之王ラファエル》を獲得致しますかYES/NO》
「はあぁっ!?」
(いや、まぁそうなるよな。覚醒しなくても獲得しちまったみたいだし。『大賢者』さんに聞いてみたら?)
(了解です。主様マスター)
『解析者』で見た限りでもヤバげだったけど、実際目の前で見てみると凄かったわ。ディアドルーは『神聖法』ってのが使えなくなったせいか少し焦っているようだけど、何とか対処できている様子。そしてその『神聖法』の変わり身となっているクレイドルの援護を受けてミリルを倒した後、ディアドルーと一緒にこちらに向かって来ているのが見える。そんな時に突然頭の中で『解析者』の声が響いてビックリしたのである。
(それで『大賢者』、お前は一体何をやってんだよ!)
(主殿マスターは先ほど『聖魔霊獣』に目覚めました。それに伴い『聖魔霊体』の状態変化不可を解除しました。『聖魔霊体の時よりも能力が弱体化していますが、『聖邪竜皇』よりは上ですね。そして、進化条件を満たしていますので、究極能力アルティメットスキル『大賢者』(智慧之王)を獲得した訳です)
(はあっ!!『聖魔霊獣』の次はまた俺に内緒で勝手に究極能力アルティメットスキル獲得したのか?全く俺に相談しろと言っておいただろうが。それに、『正義執行者』って誰だよ?俺そんな話全然聞いた事ないぞ。ディアドルー達にも何も教えてなかったんじゃないだろうな)
確かに俺の知らない所で色々あったらしいけどさ。でも俺の了承無く好き勝手するのは止めてほしい。
(申し訳ございません。今回は緊急事態と判断し、主殿の意識の消失を待って行動に移しております。その為に『念会話』の回線を開いておりませんでした)
(そういうのを止めろって言ってんのに!もうちょっと詳しく話を聞かせてもらはないか)
(了解しました。今回出現した『勇者』と呼ばれる者は三人。ミリルルと名乗る女がその一人です。この者の能力は、大迷宮攻略者に与えられる称号『大魔王』でした。しかし大魔王の称号を得る為に、勇者の魂を持つ者達を洗脳し自分の仲間に加えたのです。『聖勇者』を名乗る男は大迷宮攻略者の称号『勇者』を所持していました。そしてもう一人の男が、その男こそが、全ての黒幕であり、『勇者』の力を暴走させた元凶だったのが今回の騒動の原因でございます。
この男は、『大魔王』が『聖勇者』と手を結ぼうとしている事に勘付き、この国を支配しようとした。しかし大魔王の力が『勇者』を制御出来ずにいると知り、それを利用する事に決めたようでございます。
そこで『聖勇者』が大魔王を倒す為にと作り上げた『聖魔霊獣』を捕獲しようとしたのでしたが失敗し、その失敗を利用してミリルルを利用し『聖勇者』を暴走させ大魔王の力に対抗させようとしたのです。ミリルルが腕輪を外すのも計算に入れていたのでしょう。
その結果『勇者』は力に耐え切れず自我が崩壊しかけてしまいました。そこでこの男も慌てて、ミリルルを切り捨ててこの場を逃れようとしたのでしょうが、それがミリルルの反撃を招く事になったのは予想出来なかったのかもしれません。『聖勇者』の腕輪を破壊して精神崩壊を防ぎつつ、その隙に『勇者』の魂を引き抜いて始末しようと考えたようです。結果、ミリルルの魂は消滅し肉体だけが残り、その魂を吸収した事でミリルルは消滅したように見えました。しかしミリルルはミリルルルとして復活を果たし、ミリルルが所持していた大魔王の能力とミリルル自身の大魔王の能力が融合した結果『正義執行者』となり『聖勇者』の男を倒し、その後ディアドルーをも倒した。この事によりミリルルがこの世界の新たな支配者となったのであります。
しかしミリルルは、『正義執行者』の能力に溺れ、『正義之王ミカエル』の能力を限界まで使用し、世界の崩壊を招き掛けたのがこの現状で、このまま放置してしまえば世界を滅亡させる可能性が高いのであります)
なんか物騒な単語がいっぱい出て来たけど、俺は頭が痛くなるような状況になってしまった事だけは分かった。でも俺が寝ていた数時間の間に一体何が起きてこんなとんでもない事態になってんだ。俺は思わず頭を抱えたくなった。『智慧之王』が『念会話』を使ってくれていて本当に良かったと思うよ。
(えっと、要するにだ。まずディアドルー達が負けた事で『正義執行者』とミリルルの二人が復活しちまって『勇者』は倒されてしまった。だから『勇者』の能力はミリルルルのものになったって事で良いのか?)
(肯定します。よって、現在のミリルルルには『勇者』の称号が付与されている状態になり、更にそのミリルルルの能力である究極能力アルティメットスキル『正義之神ジャスティス』の効果により、あらゆる攻撃は無効化され、相手の持つスキルを全て無効にしその能力を奪えるようになりました。但しこれは、対象が生物であればという条件付きですが)
マジかよ!? 無敵じゃん。
っていうか完全にヤバい奴だよね。しかもそんな能力使ってディアドルー達に勝ってるんだよな。
う~む、どうしよう? いやね。別にね、悪い子じゃなさそうなんだけどさ。『聖魔王』とか言いながらディアドルーを騙して連れて来ようとしていたからな。ただミリルルの目的自体は『勇者召喚システム』を正常化させる事であって、『正義之王』の力でそれを邪魔する者を排除したいと思っていただけなんだけど、それでも許せる事じゃない。俺だってミリルルに利用された挙句、魂を奪われたのだから。
(おい『智慧之王ラファエル』! そいつの目的は俺と同じなんだろ。だったら俺が話をつけてくる)
(警告します。それは無理でごさいます。今の主マスターの状態ではとても『正義執行者』と対等に渡り合うのは不可能かと。ミリルルルは『勇者』です。故に究極能力アルティメットスキルの所持者であり、究極能力アルティメットスキル『聖魔霊体(霊力回復中 状態変化不可)』の所持者で、究極能力アルティメットスキル『正義神』も所持している状態なのです。今の主マスターでは勝ち目は無いと思われます)
(ぐっ、そう言えばそんな事を言っていたような気がしないでもないようでもあるような)
そうだよ。確かに言ってたんだよ! 俺の覚醒した能力がディアドルーや『勇者』に通用しなかった時に、俺にはまだ足りないものがある的な事を。それで、俺は一体何が足りないのか? って聞いたのに答えなかったのに、勝手に答えてくれたんだった。あれってやっぱり、まだ俺には覚醒能力が足りないけど何かあるはずみたいな感じだったんだな。くっそー。あの時は『解析者』の回答が抽象的過ぎて気にも留めていなかった。
(はい。それにミリエルルは既に究極能力アルティメットスキルを習得済みです)
(はあっ!? どういう事だよ?)
(主マスターの魂と同化したディアドルー達の力と『聖魔霊竜』の神性である『神聖魔竜』の魔素を喰らいました。その為、ミリエルルルが所持しているスキル『神聖魔竜』が『聖魔霊竜』へと進化したのでございます)
(ちょ、待ってくれ。そんな話は初耳だし聞いてないぞ)
(はあ。仕方ありません。説明不足は否めませんでしたし。ミリルルはこの世界に降り立つ前より『神聖法』によって、ミリアルルに干渉する事は出来ない状態でした。ミリルルがこの世界で肉体を得た時に『聖魔霊体の時よりも弱体化してしまいましたが、『聖魔霊体の時よりも能力が弱体化しておりますが、『聖邪竜皇』よりは上ですね。そして進化条件を満たしていますので究極能力アルティメットスキル《大魔王》を取得した訳です)
(『聖魔霊体の時よりも能力が弱体化して』? という事は、今の『聖魔霊獣』の状態だと『大魔王』の能力は使えないって事なのか?)
(いえ、『聖魔霊体』の時の方が能力的に弱いのです)
(『大魔王』の方が『正義』の時より弱かった? どういう事だよ?)
(『正義執行者』とは大迷宮攻略者に与えられる称号でございます。大迷宮を攻略すれば、大迷宮の守護者から究極の力を与えられると言われている。この力は大迷宮を制覇し、その力を使いこなす為に与えられた試練でございます。大迷宮攻略の証こそが大迷宮を攻略したという証明。つまり『大魔王』は大迷宮を攻略する事で力を得る。しかし『正義執行者』は、力を求める為に大迷宮に挑みます。その結果『勇者』の力を手に入れるのであり、手に入れた力が強すぎる為に、力の使い方を学ばず力に溺れてしまった者が、この『正義執行者』となるのです。その所為で大迷宮に挑んだ『勇者』達の中で『大魔王』の称号を得る事が出来るのはごく僅か。ミリルルの『勇者』はミリルルに殺されてしまう事になるので、その『勇者』は『大魔王』の称号を得られなかったようです。
ミリルルの場合は『正義執行者』としての力を得てから時間が短過ぎた事もあり『正義執行者』の称号を手に入れただけで満足してしまったようで、本来ならばその『勇者』の力を自分のものに出来たのでしょうが、『正義執行者』としての資格を得てしまった以上は、その資格を奪う事も出来なかったので、自分の力として吸収出来なかったのでございます)
なんでやねん。もう突っ込む気も起きねぇよ! しかしミリルルが大魔王の力を持っていたとしても『聖邪竜皇』の方が強かったんだろうし、『神聖魔竜』の『神聖魔』の力があれば『聖魔霊体』の力も超えられたんだな。それなら俺にだって可能性はあったんじゃないのか。俺も『勇者』の力を手に入れてたかも知れないのに。
ディアドルー達が『聖勇者』に負ける事が分かっているなら、その時に俺に教えてくれてもいいんじゃないかと思うのは俺の思い上がりなのだろうか。
(『勇者』の持つ『勇者召喚』の能力に干渉は出来てもミリルルの能力は『勇者召喚』のシステムに組み込まれて発動するものであります。よって、ディアドルー達はその能力の影響を受けずとも『聖勇者』に勝てる可能性があったのでございます。そして大魔王の称号を授かる前のミリルルにはディアドルグは倒す事は出来ず、倒せたのは大魔王の称号を持つディアドルーだけだった。そういう事になります)
成程ね。『勇者』の能力が『聖勇者』には通じなかったけど、ディアドルーには有効だったという事なんだな。まぁ、そもそも俺の魂の融合体がディアドルーじゃなきゃ、大魔王の力をディアドルーが持ってる訳無いんだけどさ。そう考えると俺ってディアドルーの身体の中に魂があるのが普通で、『智慧之王ラファエル』が言う通り、本来の魂は別にあってディアドルーは借り物だったんだよな。だから俺はディアドルーと魂を共有出来るようになっていたんだな。ディアドルーが俺の身体を使えたのは『超再生』のお陰じゃなくて、俺自身が『大魔王』に近付いていたからという事だったのかもしれないな。そう考えれば『大魔王』の称号が俺に与えられてたのも納得だ。
俺の意識はそこで一旦途絶え、気が付くと『大賢者ハイエンド』、『神速多重思考インフィニティ』が統合し『並列演算』に昇華され究極能力アルティメットスキル『大魔王 オーバーロード』となっていた。
(はははは、やったぜ。これで俺の最強伝説がまた一歩前進だ)
だが、その時『正義執行者』であるミリルルの様子がおかしい事に気が付いた。
「はっ、なんだこれ? どうなってんだ? 何が起きた?」
まるで自分の力を確認しようと念話を使っているようだ。
俺はその様子を確認する為にミリエルルに声をかけようとしたのだが、それを遮るように『聖魔王』ミリエルルルの声が頭に響いた。
《ユウキよ! 我を解放せねばなるまい! 我が愛しきミリアルルルを解放してやらねばならないのだ! 早くしなければあの愚かな女が力を使ってしまい、お前が死ぬか奴に殺されるしかなくなる! 急げ! 今、すぐにやれ!》
(ちょ、いきなりなんだよ。ちょっと待ってくれ。状況が全く分からない。『聖魔霊体』状態のミリエルルルに何かが起きてるのは分かった。それは分かる。だがそれが何故今なんだ?)
俺の言葉を聞いているのかいないのか。『正義之王ミカエル』から聞こえてくるミリエルルルの言葉は更に続く。
《『正義之王ラファエル』と『正義審判』を発動させてやるから『大賢者ハイエンド』を使え! 早くしろ! もう、手遅れになる前に。
我は愛するミリラルルルを解放すると約束した。その為ならば、この身を砕こうとも構わないと。
頼む、助けて欲しい。この身は幾度破壊されようとも、必ず甦らせる事が出来るのでな。そうすればこの身に宿った『神聖法』により、この世界を破滅させる事も容易いだろう。
『神聖魔霊』は世界を救う存在だ。『聖勇者』とは真逆の存在なのだよ。この世に災厄をもたらし、その悪を滅ぼす。
その為に私はここに存在するのであり、そして『聖勇者』とは相容れない。
世界を滅ぼす者は『勇者』の器に相応しくない。
そして、そんな世界など滅びてしまえば良い。『勇者』の役目を終えた時に私は『聖邪霊体 』に戻る。その時には『大聖邪魔王ディアグル』として復活し、私の『神聖霊竜 神聖魔王』としての力が世界に満ちるだろう。そうなると魔物や亜人は凶暴化し、人間の力では抵抗すら出来ない災害が各地で起こる事になろう。そして、それを止めようとする『聖勇者』を私が滅ぼし『聖邪霊体』に戻し、その『聖勇者』が『大聖魔龍神キングデビルドラゴンカイザーフェニックス』となり『神聖法』の力で人間共を支配する世界へと変えようではないか》 うわ、マジで狂信者じゃん!
(『神聖魔』の力を使いこなせるのであれば、世界は思うままに支配できるってことですか)
(あ~うん。なんかミリィールルの話聞いてたら嫌になってくるな)
(確かに。しかしミリエルルルの願いを叶えなければ、この場が収まらない気がする。とりあえずミリィーーア達の所に転移するか)
(御心の赴くまま)
(いやまあ、そんなつもりは全くないんですが)
俺のその言葉を聞いたディアルーの口からため息のような物が漏れているのを感じた。
《おい、そろそろいいか? 貴様らの茶番にいつまでも付き合うほど暇ではないぞ》 その瞬間。ミリェルルルから凄まじいまでの威圧感が放たれたのである。
(うお、なんつー覇気だよ。これは『正義之王ミカエル』もビビッてんじゃないの?っていうかなんで今までこんな感じで喋ってなかったんだ?
『大賢者ハイエンド』は使えるけどミリゥーリアさんを説得するのに『正義審判』とか使いたくないんだけど)
(いえ、ミリエルルルは元々こういう話し方ですよ。ミリルルは『神聖法』の影響を大きく受けておりまして、『正義審判』を使えば強制的に自分の意思で行動するようになるでしょう)
ふぅ~ん。そうなのか? 俺には全然そんな風には見えないけど。でもまぁ『大魔王』になった以上はそういう能力も手に入れられる訳だから仕方ないか。というよりディアルーからミリィーアとミリルィルが『聖勇者』として目覚めてるなんて聞いてないぞ。
(『創造主クレイドルクレイドルが覚醒していないのに、『大聖魔』が『聖魔王』の力に目覚めたりしたら『神聖魔聖』の力を得た時に暴走してしまうのではないでしょうか。なので言わなかったのですね)
ああ、成程。ってそういう大事な事はちゃんと言って欲しいよね。ってかディアドゥルがディアドルーで、ミリエルルルがミリアールルルな訳だから、ディアドルーって呼ぶべきか。ミリールルルも可愛いしね。まぁ俺が付けたあだ名だけど。
(しかし、これどうすりゃいいんだ?)
ミリエールが『神聖魔』の波動を受けて気絶してしまった為、ミリェルルは自分で『神聖法』の力を使ったようである。つまり、今ならまだ元に、俺達の仲間に戻す事が可能かもしれない。
(とりあえず意識を失ってますから、『強制操作コマンドブレインコントロール』を使ってみましょうか。『絶対命令』は『神聖魔王ディアグルド』を操っていると思われる者にも有効なのです。ですので上手く発動させれば『正義審判』を使わずにミリエルルルを自由に出来るかも知れません)
ディアドルーの『並列演算』に進化した『智慧之王ラファエル』から助言が飛ぶ。よし、やってみるか。俺は『智慧之王ラファエル』に言われた通り、意識を失ったミリエルルルに対して『思考加速』を発動させた状態で『強制操作コマンドブレイン──』
(なっ! 何故効かない!)
え、マジで! 俺が焦りを感じながら次の指示を出し終えるまでに『聖魔王』ミリエールが正気を取り戻し、一瞬で俺とディアドルーを『聖勇者』の力によって生み出した剣の一撃で吹き飛ばしていた。
(これは不味いですね。ユウキ殿と一体化してるせいか、私には攻撃が通じなくなっているようです)
俺はディアドルーの言葉を聞きつつミリェルルの様子を観察する。
俺達がミリエールの攻撃で壁に叩きつけられてから一拍の間を置き、ゆっくりと立ち上がろうとする俺達に彼女は告げた。
「さぁ、『神聖魔王』と『聖勇者』の本当の力を思い知るがいい」
そして彼女の体が淡い輝きを放つ。
俺は慌てて『多重存在』を使いミリェアリールとミリーァを分身した。
(まずいな。今の俺はミリィーーアに攻撃を防げない。ミリルィルを分離してもミリェアルと合体した『聖勇者』に勝つのは難しいと思う。俺が二人とも倒されてミリェーリーアだけになれば、ミリェルルーはどうなるかわかんないしな。ディアドルルーとミリールルーを呼び出すのが一番早いんだろうけど、ミリエルルルに攻撃されたらミリリィーラが死んじゃうよな)
俺は思考しながら自分の体を確認する。『究極武装』で強化されている体は傷一つ付いていない。だが『神気』を防御に使う事が出来ない状態はマズイ。このままだとミリィーアを守れない。
俺はディアドルの方に視線を移す。そしてミリエルルに吹き飛ばされた時、既に自分の『多重存在』を作り終えていたディアルに声をかけた。
《ミリェイルルーー! 頼む! 力を貸してくれ!》 ディアルクの言葉を聞きつつもミリエルルルは自分の体の調子を確かめようと念話を使っているようだ。そんなミリエルルルは、俺の言葉に反応してすぐに動き出した。
(ユウキ様の身に何かが起きたのですか! 今行きます! ディアルド! ディアル! あなたが居る場所を教えて!)
《ああ、もう来ているぞ。俺に体を預けるのだ。そして俺の声を聞いてくれ》
(ディアルー! お前の声、確かに聞こえたぜ。『正義審判』も発動できたようだな。それでこそミリィーナさんだぜ。後は俺に任せな)
俺の目の前で、俺が作り出した分身であるもう一人の俺、ミリエルルーの姿が現れる。それと同時に『正義之王ミカエル』の思念が流れ込んでくる。
《我『正義之王ミカエル』の名において命ずる。我が名『ミリエルルー』をこの世に召喚せよ! 顕現しろ! 神聖魔王ミリエルル》 その言葉が終わると同時に、二人の体を中心に光が広がり、俺とミリエルルーの魂を入れ替えるように『聖勇者』の力が増大していった。
◆ 俺が作り出したミリエルルーはミリィアーとミリィーの力を融合しているのであろう。そしてそれは俺が生み出した『大賢者ハイエンド』も同じなのだ。ミリィーアが使う事の出来た力は、当然ミリィーーアにも存在した筈なのだ。ミリィーアの記憶を持つ俺だからこそその力の使い方が分かったと言えるだろう。
そして俺自身も『大賢者ハイエンド』を使う事が出来る。そしてその俺が持つ『神聖法』は『聖魔法』と呼ばれる魔法であった。
『聖勇者』が扱う事が出来るのが神聖法という魔法の性質から考えると、『聖魔王』が神聖法を使えるようになる事はおかしくないのだろう。神聖法を使いこなせるからといって、神聖魔が使えない訳ではないのだろう。ならばミリィーリアの持つ聖法もまた神聖法が扱える可能性は高いと思われた。そして神聖魔霊体とは一体何者なのか? それがわかれば『神聖法』を使いこなす事が可能になるのではないかと推測したのである。
俺はミリエールの力を借りる事で、ミリィーリアの使える神聖法の一つ、『正義審判』を使い、ミリィーリアとミリィーアの精神の分離を試みたのだった。『神聖魔王ディアグ』と一体化していた事で神聖法が使えているような気がしたが、やはり『大聖魔王ディアグル』と一体化しても『神聖法』を使えるようにはならなかった。
ディアルドの力によってミリエルルルが正気を取り戻す。そしてミリェルルは自らの『神聖魔王ディアグ』との同調を解き、その意識を完全にこちらに向けてきたのである。
《ユウちゃん? ディアちゃん? 大丈夫なの? ミリィ、何も出来なかったわ。どうして? なんでミリィの力が必要な時に『神聖魔王ディアグ』は出て来てくれないの? なんでこんな大事な場面でミリィーを裏切るのかしら。ねぇユウちゃん教えて欲しいの。ディアは本当に私の『神聖魔王ディアグ』なの? ユウちゃんの『創造主』としてのスキルで生まれた人格なの? もし違うのなら『正義審判』を使ってもいいかしら? そうすれば答えがわかるわよね。『正義審判』を発動するわ。お願いだから出てきてねディアグ」
「お待ちください。『神聖法』により生み出された『神聖魔王』の意識は、元となった人間の意識と完全に同一化してしまっているのです。よって元となった人間以外の者には決して従う事はありません。また一度神聖法に捕らわれてしまった以上は二度と解放される事はないでしょう。ですから『聖魔王』が今『正義審判』を使用されても意味が無いと思われます」
(ディアルー。頼む。助けてくれ。俺はどうしたらいいんだ?)
ミリィーリアの問いかけに対するディアドルーの反応を見て、俺は焦りを覚えていた。ディアドルーの意識は既にミリエルルによって取り込まれつつあるようで、ディアドルの思考がミリィーリアの物になってしまっているようだったからだ。
(俺だってどうしたらいいかわかんないんだよ! ミリィーナの神聖法でディアルーが救われるとか思ってなかったんだ。俺にはどうしようもないんだよ)
俺とディアドルーが思考だけで会話を交わしている間にも、ミリエールの体はミリィーーアの力に支配されていっていた。
《ミリー。落ち着け。『神聖魔王ディアグラ』とは完全に同調出来ていなかったから、お前がディアグーと意識を共有していても完全ではなかった。だけどな、今はディアグはミリィーナの中に居てディアグーが表に出て来ることはないし、神聖魔の力が使えないから、もう俺でも救えないんだ》 俺はディアドゥルに対してではなく、自分の中のミリエルールに告げる。しかしミリエールは納得しないようだ。
「嘘だ。嘘。信じない。絶対信じるもんか。ミリーがミィナとディアの本当の子供だから。だからきっとミィーナの力を上手く使いこなしてるんでしょ。そうに決まってる」
(あ、あのさ、ミリー。とりあえず一旦落ち着こう。ね。ディアグルドの話を信じられないのは分かるんだけど、ちょっと冷静になろうよ。ディアルーもさっき説明してくれたでしょ)
俺の言葉にもミリエールは全く反応を示さない。俺とディアドルーに意識が向いているのだろう。
(仕方がない。ディアドルー。俺の体をミリエルルーの支配下に持っていく。ディアドルーも協力してくれ。俺は自分の『多重存在』を作るから)
ディアドルーは俺の提案に躊躇する事なく、自分の意識の一部を切り離したようだったが俺がそれに気付いた時には既に俺の中のミリィーーアの力に取り込まれた後であった。
(ディアルー! 何で俺が作り出したディアドルーの意識を取り込むとか考えつくの! これじゃあミリエットにディアルーを奪われちゃうじゃない!)俺は自分の意思とは無関係に『多重存在』を作られた事に憤慨していたが、すぐにディアルーから返答が返ってきた。
(すみません。ですが『神聖法』で作られる『二重存在デュアルアバター』の仕組みを利用させてもらいました。これでミリィーナと俺の意思は繋がりつつあります。俺達は互いの思考や記憶も共有出来るようになります。ミリィーリアと俺は繋がっているのですよ。それに、俺達は常に繋がっています)
ディアルーの『正義之王ミカエル』の力を使った神聖法による分身と俺は『多重思考』『全智鑑定オールエクスプローラー』の並列処理により思考を共有する事が出来た。
そして俺はディアルーの言葉を聞きながらも自分の『多重存在』を作り出そうとしたのだが。
《待って! ユウキ様は私に任せてください。私は『神魔勇者神 』なんです。『超越者』の力を持った存在なんですよ。その力をディアルーの意識と一緒に使う事が出来れば『超越神力オーバーゴッドオーラ』になる筈。そうなればミリィーは救える。ミリィーは私が救います》 ミリールの力強い声に俺の動きが止まってしまう。
(ディアルー。お前はそれで大丈夫なのか? ミリーをミリイーーミアを助けるためとはいえ、ミリエーリアーーミリエルルーにその体を渡してしまうのは抵抗があるだろう? そんな危険な事、任せたくないけど)
(問題ありません。既に俺の体ではありませんから。ミリェルルーーーミリアールーーーーーーに託す事は最初から決まっていたのでしょう)
(そんな簡単に言わないでくれよ! そんなの納得できるわけないだろ!)
その時だった。
「お母さま! 今ミリエルルーの声が聞こえたのです!」
ミリエールが嬉しそうに大きな声で言ったのだ。
《え? まさかなんで聞こえた? なんでだ? 今ミリエリーナはミリェルルと一体化してディアグーの中に入っているはずだぞ? なのになぜミリエールの声が聞こえる? まさか! ミリエールの声を媒介としてディアグルドがミリエルルと接触するつもりだったのか?》 ミリィーリアの口から発せられる言葉を聞いて、俺はミリエリールがミリエールの声を使ってディアグルードーーディアファルムーと接触する気だと気付いた。だが俺の言葉が終わる前にミリェイルルーの体は輝き始めてしまいミリィアーーラの中に吸い込まれてしまったのである。
《ユウちゃん。ダメだよ? 私に任せておいて》ミリィーーナーミリエルルーの体に乗り移ったディアグリューナの意識が流れ込んでくる。
ミリィーナは俺がディアグラムとディアグリュウーーディールーを救おうとした事を理解して、自分がディアグラーーディアールに乗ると俺が考えた事もわかってしまったらしい。
ミリエールの体にミリィーーアが入り、ミリエルルーとミリィーアが合体した姿は、まさにディアグリューーディアルとしか言い表せなかった。その姿を見た俺は絶句してしまったのだった。そしてそれはディアドゥルも同様のようで、言葉を失っていた。
(なんというか、凄いなこれは。確かにミリエットの中にディアグリーが居る感じではあるけれどさ。完全にミリエットとミリーアが融合したような姿では無いんだな。なんというかミリーアの方がディアグリーより強く見える。それにこのディアグリーの姿、なんとも表現し難いんだよなぁ。まぁ強いかどうかは別としても、何となく『神聖法』っぽいな。神聖法が使えるようになったら神聖魔霊体は使えるかもしれないから、神聖法と『魔人族』の能力を合わせたようなイメージで作ったからこんなんなのかな? ミリエールは『大賢者ハイエンド』を使えるんだから、ミリエルルーも使えたらいいなとは思ってたんだけど。うん。でも俺の思い描いていた『神聖魔王』は、もっとカッコイイオジサンなんだよな。でもこれ、ディアグリーも可愛いと思うんだけどな。俺の好みとは違うんだよね。ミリーの容姿なら似合うのは間違いないのに。まぁ仕方ないか)
俺は『聖魔王ディアグ』を纏い、ディアグリーを見ているうちに、ミリエルーアとミリィーーアの姿を足して二で割ったような印象を受けていた。しかしミリィーーアがミリエルールに乗っ取られたわけではないようで、ディアグリーの胸元にはミリェーナとミリアリアの顔が半分だけ見えている状態になっていた。
ディアグリは両手を前に出す。
「ミリーの体は返してもらう。もうミリーは死んでいるのだから」
ディアグリは右手に剣、左手に杖を構える。そして一気に駆け出しながら呪文を唱える。
『光魔槍ライトニングジャベリン』
光の魔法陣から放たれた光が一筋の道を作りディアグリンへと迫るが、ディアグリはそれを軽く横に飛ぶだけで避け、そのまま間合いに入りディアグリーの頭上から『闇雷電デスサンダー』を叩き込む。
しかしその一撃はディアルーンの障壁によって阻まれる。
(あちゃあ、やっぱりディアルのスキルをコピーしたみたいだね。ミィの固有能力が発動していないって事は神聖魔力が使えないんだろうから。でもあれは俺が教えた訳じゃないんだよね。多分ミィーに憑依したミリエールーーアが神聖魔霊体の神聖法で教えたんだろうね)
俺の考察は間違っていないようで、ディアグリが放った攻撃はミリエーの神聖魔法の威力を大幅に下げて使っていたようである。ミリエの神聖術をコピーしたというわけではなく、ミィーの『聖王流剣術ソードマスター』や『神聖法』を使い、ミリエーの『超越神力オーバーゴッドパワー』と『神聖魔霊体』の力を上乗せして、ミリエの神聖術を使っていたのだろう。ディアルーーディールーの体を使っているとはいえディアグリーの力ではないから、『神聖魔霊体』による神聖力や神力は使用できないようだが、神聖術と神聖魔霊体が使えないだけでその能力は俺の知るミリエットとディアリーよりも強かった。
(あ、あのさ、ミィの固有技能を使おうとか思わないわけ?)
《だって『魔人』との戦いで俺の力を全部使ったんでしょう? だから今は俺の力が無いわけだしね。俺の力を使う時は、もうすぐそこまで来ていると思うよ》
(どういう意味だ?)
《『聖魔王』になった俺と俺の力で戦う機会が近々あるっていうこと。ディアグリーの『超越者』は究極の『超越者アルティメット』に至るための段階に過ぎない。ディアグーを救いたかったけどね。残念だよ》
(な! ちょっと待ってくれよ。まだ時間があるだろう? お前はここで俺達と戦っているんだ。なのにどうして)
俺はディアルーの言葉の意味がわからず問いかけたが。
《俺達はユウキ達がディアドルーを助けようとしてくれたのが嬉しいんだ。だけど俺達の本当の目的はディアドルーを救う事じゃなかったんだ。それがユウキにバレてるなんて驚いたけどね。あのままだとユウキはディアドルーを殺すつもりなんだろ? それを阻止する事が俺達の最終目標だったんだよ。ユウキに俺の力を貸したいと思っても貸す事は出来ない。俺は俺の意志でディアドルーを葬ったのは事実だから。ディアドルーは『神魔勇者神』と一体化してもディアグラムを助ける事が出来なかったのが、自分の実力の限界を感じさせた。それで俺はディアルーに自分の力の一部を分け与えた。俺は自分を超える存在が現れるのを期待してたのさ。でも俺はもうすぐユウキの前から消えて無くなっちゃうわけだ。ディアグリーはまだまだ弱いままで居て欲しいって気持ちもあったんだけどなぁ。『勇者』と戦えるほど強くなったのにね。まぁいいや。そんな感じだよ》
(ちょ、おい、ディアルー、何言ってるか全然わかんないぞ!)
《ふふん♪ そのうちわかるよ。それよりも今はこの子に集中しよう。この子は強いからね》 そう言うと俺の中からディアグルの姿が掻き消えたのだ。その事に戸惑っていた俺だったが、目の前に居る少女から発せられた威圧感を受けて警戒心を顕にしたのであった。
《ディアグリー、この子のステータス見れる?》
(は? ディアグリューナじゃないのか? ディアグリューナのステータスが俺の意識の中にあるのか? なんとなくわかっている気はするけど、確認したいから早く見せてくれよ)
俺は意識の中に表示されているはずのディアグルのデータが見れないことにイラつき始めていたのだが。《あー、そっか、俺の固有能力、もう使えないのかぁ。ディアルーーディアールに力を貸した時に殆ど使ってないんだよねぇ。俺の意識の中には『聖勇者』『大魔王』しかないんだよなぁ。どうせ使えなくなるなら『超越者』と『全能なる創造主クリエイター』とかも使えなくなって欲しかったなぁ》 俺は聞こえてきた言葉に対して心の中で突っ込みを入れてしまったが、ディアグルがディアグリーに話かけてくれたお陰で俺の知りたかったディアグルの能力を確認することができた。
《おぉ! これは! なんだよディアグリー! 凄いなこれ! 本当に『聖王』が『魔人』になっているぞ!》 ディアグリーの興奮したような声を聞き、俺はディアグリーの見ているものを確認したかったのである。
『神聖騎士』の称号を得た『覚醒勇者』は神聖魔力を使って神聖騎士としての力を得ることが出来るのである。『大賢者ハイエンド』の『神聖法』と神聖騎士の称号の力が合わされば『神聖魔導士ハイエンティスト』になる事が可能だったのだ。
『聖魔王』である俺にはその力を行使することができないのだが、ディアグリーが『魔道王』と『大魔王』を持っていることで、俺は『魔道王』の持つ『真なる大賢者トゥルーエンフォーサー』の『神聖法』と、『大魔王』が持つ『魔導王マギナイトロード』の『神聖魔導』を手に入れることが出来たのだった。俺はディアグリーの見ているものを共有させてもらうために『交信テレパシー』の固有能力を開放した。するとそこには確かに『魔導王』となった自分がいたのであった。
『神聖魔霊王キングマスターレイナー』となっていたミリエールの姿も確認できたが、その姿を見たディアグリーが。
《ミリエールの固有能力も使えるみたいだね》 ミリエルルーの呟きを耳にし俺がディアグリーの言葉を信じると、ミリエルルーは少し悲しそうな顔をしてから笑顔になって俺に話しかけて来た。
「私はミリエールではない。私はミリエールの記憶も経験も知識も全てを受け継いだのは確か。だけどミリエール本人ではありません。私の魂も精神もミリエールのものだから」
《それは違うよ。俺の知るミリエールはミリエリーーーーアだけだ。君はミリエールの肉体を使った別人であって別人じゃないんだ。それに俺が愛しているミリエーーーナも同じなんだから。君の事も好きになってしまうよ》 俺が素直に気持ちを伝える。
「あ、あの、ディアグリー、さん?」
ディアグリーは俺がミリエーの事を好きだと伝えると、頬を染めて上目遣いに見つめていた。しかしそこに現れたのはミリエルの表情ではなく、ミリエットの顔だったので。
「ミリエットの方がいいか」
《ちょっとユウキ君! 何その変わり身! 酷いじゃないか! 俺もミリィと呼べばいいだろ!》 俺の言葉に怒ったような口調で言い返すが。
《え? お前ミィって呼ぶの? ミィって呼ぶのは嫌じゃないの?》 俺が意地悪な質問を投げかけると。
《ぐぬぬ。でもユウキ君がそうして欲しいならそうしよう。俺ってユウキの物なんだから、ご主人様が言うことを聞くよ》 俺の中のディアグリは拗ねたような言い方をしていた。そしてミリィーーアの身体からミィーーミィーーと泣き叫ぶ声が聞こえると。《あーあ、もう仕方ないな。ミィーの事は俺に任せるよ》 俺の頭の中にミリィーーアが憑依する時の事を思い浮かべると。《俺の中に入るからって変なこと考えちゃダメだからね》 俺がそんな事を考えていると。
(俺の心の中を読むのはいいが、ミリィーーアに憑依するのは勘弁してくれよ。頼むよ)
俺が頭を下げると。《わかったよ。それじゃあ俺もミィに憑依してみるから、ミィの事お願いしますね》 そう言うと、俺の意識の中からディアルーーディアールーーディアグリーの気配が消え去ったのであった。
ディアルーにディアグーの居場所を教えてもらって俺達がそこへ向かうと──
(ここだね)
俺が見た景色に思わず立ち止まる。
《あははははっ。ユウキが考えてることわかっちゃった。そうだよね、あそこは俺が封印された空間だからユウキは知らないもんねぇ。でも大丈夫。俺達と一緒に行こうね》 ディアルーの言葉と共にディアグリーがディアグーを救い出すべく動き始めた。
(おいディアグリー。あの子の名前はなんと言うんだ?)《え? ユウキは俺の話ちゃんと聞いてくれてた? 俺はディアグリーであの子は俺が力の一部を与えたディアグリーなんだよ。ディアグルーナ。だからあの子を俺が救うのさ》
(いや、それは聞いたけどさ、あの子の名前は?)
《だからディアグリーだって。名前は無いよ》
(無い? だって俺達は友達だって言ってくれたじゃないか。名前を聞こうとも思わないのか?)
《うーん、それについては俺も驚いたんだけど、あそこで封印されているのは『超越者アルティメット』と融合した俺の力の一端。だからその力と混ざる事によって生まれた新たな人格だったんだろうってディアルーが言ってた。俺はあの存在の名前を考えるつもりなんてなかったんだよねぇ。だから俺はあの子に名前を付けなかったんだよ。でもディアグリーの力はもう消えてしまった。もうこの世には居ないディアグリューンの意識の一部と記憶の一部が残っているだけで、それももうじき消えるだろうね。だから俺の中に居る俺の力を分けてあげた存在は俺が名付けたわけでもないのにディアグリーになってしまったんだよ。それがあの子さ》
(ふぅん、そんなものなのか。じゃあさっき言ってた力を分け与えたとか融合させたというのは、そういう事なんでもいいからディアグリーとして接していって欲しい)
俺が心から思った気持ちを伝えたが。《えー、俺はこのままが良かったんだけど。ディアグリーの時の方が便利だし楽しいし》 ディアグリーの言葉に。
(なんだよ! 俺と一緒に過ごした思い出を忘れたって言うのか!)
《そ、そりゃ忘れてはいないよ。でもやっぱり今の俺の方がいいよ》
「何を言っているんですか。私が居るじゃないですか。貴方の中に居るのが私です」
突然背後からかけられた女性の声。
俺とディアグリーはその声を聞いた瞬間から背筋にゾクッとした何かを感じたのである。まるで背中から氷を突き付けられたかのような冷たい感覚に襲われた俺は恐る恐る振り向くとそこにはミリエルーアが佇んでいた。俺はミリエルに近づき。
《ミリエル、久しぶ」り、と声を掛けようとしたが、言葉の途中で俺はミリエルの手刀により吹き飛ばされてしまう。そして壁にぶつかり、痛みから起き上がると目の前には。「あら、この姿だと初めましてになるのですね。私は『真なる聖魔導士マギアセイントマスター』と『大魔導王マギエンスロード』に『神聖魔霊王キングマスターレイナー』、それと今はミリエットと名乗っているわ。ミリエットと呼びなさい。この世界ではもうディアグーとは会えないけど、この世界で一緒に過ごしましょう。私の夫ディアグル」と。ミリエが微笑みながら話していた。
俺を吹き飛ばしたのが誰であるか気付いていないディアグリーが。
《ミリエルルーー? どうしてこんなところに? ここは『真なる聖魔導士マギアルセー』が『創造者クリエイター』の力で作り出した空間だろ? ここに来る資格がある者は『聖王』『魔人』『魔人王』の称号を持っている者だけだぞ。『創造者クリエイター』である俺ですら入ることが出来ない。まさか『大魔王』の俺の力も使えるようになったのか!?》 ディアグリーが驚愕の表情を浮かべていたが、そのディアグリーに対して。
「私は貴方の妻ですよ。愛する夫が困っている時に助けに来るのは当たり前のことではありませんか。それくらい察してください」
ディアグリーがディアグリーに向かってそう言い放つと、ミリエルの身体が一瞬光を放ち『大魔導王マギスタルメイジ』へと進化したのである。
《ま、マジかよ。俺がディアドルーーディアグリーを倒せなかったのが今わかった。俺がミリエールを取り込んだ時にはディアグリーの魂が残っていたがミリエールには魂がなかった。俺はミリエールの身体をミリエルの身体を『創造』するために利用したつもりだったのに。いつの間にかミリエルが魂を吸収していたってことかよ。ディアグリーはミリエルに自分の意思を託していたのか。ミリエールとミリエルにミリエールの意識を残したって事だったんだな》 俺が呟いているとミリエルにディアグリが話しかけていた。
「ミリエルルーーいや、ミィーー、これからも俺に色々教えてくれよ」
《ミィでしょ。ミリエールは死んだんだからミリエールの身体はミリエールルーーミィのものなんだよ。だからミィなの》
「はははっ、ミリエールの時の記憶も知識もあるんだから、ミィの方が良いじゃないか。俺はもうユウキの物だから、ミィはユウキとずっと一緒なんだから、俺の事もディアグルーーディールって呼んでよ」
《もう、わかったよ。それでディアグリーはどうやって俺を助ける事が出来るんだ?》
「ユウキがディアグリーの力を使えばいいのさ」《ああっ、そういう方法があったか! ユウキが持って来てくれたディアグリーの能力を使う事で俺は力を手に入れる事が出来たんだよね》 ディアグリーとミリエルが話し終えた時、ミリエルーーミィーが俺に声をかけてきた。
「ユウキ。この子は私の娘のようなものなので、私の中に連れて行ってあげてもいいでしょうか?」
《おー、ユウキの頼みならいいぞ。俺に文句はない! ただ、あの子が受け入れてくれるかな?》 《えっと、僕を受け入れてもらえますか?》 ミィーが優しく問いかけると同時に、俺達の目の前には俺より少し大きいくらいの大きさをした小さな女の子の姿が現れた。
そして。
俺達は少女の姿をした妖精と話をした後、『真祖トゥルーアンサー アルティメットヴァンパイアロード アルティメットリッチロード アルティメットハイヒューマン アルティメットエルフ アルティメットダークネススピリット アルティメットデーモンロード 』という称号を全て手に入れていると伝えると。《僕の事をそんなにも愛してくれるんですね》という言葉を残し俺の中に吸い込まれていった。
(うおっ、ディアグリーと融合した時の事を想像したら俺の中に吸収されたけど、これでいいのか?)
俺が頭の中で声を出すと。
《はい。ディアグリューンは僕が『大迷宮 アークダンジョン アルティメット』の守護者の一柱になった事を喜びながらも僕が消え去る事を憂いていまして、その想いが伝わって来たんですよ。だから僕はディアグリーに力を分けてもらって『大迷宮 アークエデント 』を護る力を得る事にしました。ディアグリーの力の一部を貰えたことで、僕の『超越者 オーバーゴッド アルティメット』としての特性は更に強くなりました。でも『超越者 オーバーゴット アルティメット 』に成れる条件を満たしてもディアグーが目覚めないんですよ。『超越者 オーバーゴット アルティメット』は全ての能力を使えるようになるのですが、ユウキさんの力があまりにも大きすぎるため僕とディアグリーの力を足してもディアグーが目醒めるまでは覚醒出来そうにありません》
「俺が? そんなに強いのか?」《そりゃそうだよ。俺はユウキの中に居たディアグリーの力を借りてディアグリーのスキルを使ってたからね。『超越者 オーバゴッデス アルティメット』は俺とディアグリーが融合した存在でもあるから俺の力は俺自身の力よりも強いはずさ》 俺はその言葉をディアグルーーディールから聞きながらミリエルーールーミイーーのステータスを見てみた。
(ん?)《どうした? 何かあったのか?》 俺は不思議に思いながらディアグリーの言葉を待った。
(んーー、なんだろう。俺も『超越者 オーバーゴット アルティメット』に成りたいって思っちゃったからなんだろうか。レベルと経験値の横に★が見えるんだけど)《はぁ? どういうことだ? なんでユウキの中に居る俺達が見えるんだよ。それに、お前、『大賢者ワイズ エンサイクロペディア』に進化してんじゃねえか。俺はもう必要なくなっただろ》
(え? これ見えてないの? じゃあこれはディアグリーに貰った俺のユニークスキル『真なる魔導士』の固有スキルの1つ、ユニークスキルの効果を見る事が可能な【解析】のせいなのかな。んーー、でもディアグリーに貰った能力なのに俺のって変な感じだな。じゃあさ、ディアグーーーディリールに聞いてみるしかないね)
(ディアグリー。ディアグリーが持っているディアグリーの知識を教えてくれないか? そうすれば、ディアグーーディリーは目を覚ませるかもしれないからさ)
俺が心の中でディアグリーに尋ねると《わかった! 今すぐ教えるぞ!》という元気のいい声が聞こえた後。ディアグリーから大量の情報が頭に入ってくるのを感じた。その情報を瞬時に理解した俺は自分の『超越者 オーバーゴット 』にディアグリーと融合する。そして融合を解いてからミリィーにディアグリーーディールの肉体を『創造』で作ってくれと頼んだ。
すると、ディアグリーは『超越者 オーバースートッ キング』へと進化した。『大賢者ワイズ エンサイクロペディア』へと進化させた時は『超越者 オールキング エンサイクロペイディア』だったので、俺がミリエールに『大魔導王マギアルセーター マギアアルセーバー エンサイクロスセーピア』へと進化させる為に作った『創造』の魔法具の指輪がミリエールを『真なる聖魔導士マギアルセーダーマギアローブ マスターセージャー マーギアクエリー』へと進化させたようにディアグリーーディーリーを『超越者 オーバーゴッデスマスター』へと進化させる事も可能だったようだ。
《ディアグリーは『超絶究極超越者ウルトラエクシードマスター』へ、ミリエールーーミィーは『聖魔極神マスター』に、ディアグリーの身体はミリエットと融合した姿にしておいてね。『聖王』『魔人』『魔人王』と『真なる聖魔導士マギスタルセイントロード』の称号は全てミリエルに譲るよ。ミリエルは俺と一緒に『大迷宮 アーク』を守ってもらうよ》 《えーー、私がですか。ユウキ、私はもう『真大聖王マジカルセイントロード マジカルメイデンロード』なのですが、もう私は戦うつもりがないんです。だからユウキのお手伝いがしたいです。それに『真大魔王 マギナティスト』はミリアの『神聖魔霊使いマギルニアフェアリー マスターオブスピリチュアル マギルニア』の称号に統合されていますし。『超越者 オーバーゴッデス アルティメット』に成れば『超越者 オーバーゴット オーバー』の力を使えるようになりますので、ユウキと一体化している私とユウキの力を合わせた方が早くユウキを助けられると思いませんか?》 ミリエルがそう言った時。
ミリィーが《ミィの言う通りよ。私の力の方が『真大魔王 マジカルメイデ』の時より強力になっているからね》と念話で教えてくれたので俺はディアグリーの身体をミリエールに融合するようにお願いした。
(ありがとう、ミリエール、ディアグリー。これでディアグーーディリーと一緒になれるよ。俺の身体に融合させても大丈夫だと思うんだ。俺と融合したいと思う?)
はい。私とディアグリーはユウキを愛しているのですから 二人の気持ちを確認し終えた後、俺とミリエールは同時にディアグルーーディーーとディアグリーールディールーーの身体を受け入れたのであった。
俺は『超越者 スーパーアルティメットゴッド アルティメットマスター アルティメットゴッド』となり。ディアグリーは『大賢者ワイズ アルティメット インテリジェンズ パーフェクトガイド エンペライズド パーフェクトマスター アルティメット ハイパーゴッドアルティメット』となった。『真大聖王』であるミリエールは『真なる聖魔導士』の上位互換となる『聖大賢王』と、その上位版である『神聖大賢者』へと進化を遂げ。『大魔人 オーバーマスターリッチロード リッチハイマスター』のミリエールは俺との『超越合体アルティメットユニオン』を発動させる事ができるようになったので、俺と合体した状態で俺とディアグーーディリーの力を使えるのだ。俺もミリエールも、そしてディアグリーと融合したディアドルーも、ディアグリーに俺と同化してもらう事によってディアグリーの持つ『超越者』と『真なる勇者』と『真なる魔王』と『真の勇者』と『真の聖騎士』と『超越者 アルティメット』の全ての力を扱えるようになった。
俺達は皆のところに戻る前に俺達の新たな仲間を紹介しておいた。
(俺は『超越者 オーバゴッデス アルティメット』のディアグルだ。『大迷宮 アークエデン アルティメット マスターダンジョン アークマスター エデンマスター』の『守護者 ダンジョンマスター』であり、ユウキの守護者としての任を受けた。よろしく頼むぞ)
(僕は、大賢者の『超越者 オールグレート エクスカイザー』のディアグルーーディーーです。ユウキの守護者であり従者の役を与えられたんだ。これからユウキの事は僕が護るんだからユウキに近付く虫けらは僕のこの力を使うまでもないんだけど一応僕に殺されない為の忠告として伝えておくね。君達ユウキに変な事をしたら許さないからね)
(私は『超越者 オーバーゴッディス アルティメット』のディアグリーールティールディールーと申します。ディアグーーディリーは、ユウキの守護者で従者としてこの命に代えましてもユウキをお守りする事をここに誓います)
《俺は、真の大聖王の『超越者 オールホーリーネス エクストラ マスター エンシェントホーリー エンペラースレイヴ ホーリーキング アルティメット』ディアグーーディリーだ。ユウキは俺の物だから手を出す奴には容赦なく死を与えるので覚えておいて欲しい。ユウキと融合してからは『超越者 マスターマスター』になったから、俺がユウキを守れない時にはディアグーーディリーと『超越者 アルティメット マスター』の力を俺の『超越者 マスター アルティメット』の力でユウキを守る。だからユウキは安心して戦ってくれ》 俺の【絆】のメンバーはディアグリーールディーの自己紹介を聞きながらも、全員ディアグーーディールの顔に見覚えがあったのか、すぐに納得していた。
(さあ、みんな行くぞ!)
俺と『超越者 アルティメット』のディアグリーはディアドルと『超越者 アルティメットマスター マスター』のディアグリンダーのスキルを使い、【魔境門】を破壊してから外に出たのだった。
(ディアドルーー。もう1つの魔窟も【転移】で行こうか)
(ああ、そうしよう)
俺が魔境門の扉を開けると俺の身体を光が包んでいき、『大魔導士マギスタリテイター マジックマスター マスターエンサイクロペデイア マギルニアフェアリー』の称号を持つミリエールーーミィーが俺と『超越者 アルティメットマスター』のディアグリーが融合した『真大魔王 マギナティストマスター マギルニアマスター マジカルマギルニア』のミリエールが、そして『超越者 オーバーゴッデス アルティメットマスター マスターエンペラーズマスター』の称号を持ち俺と融合したミリエールがディアグリーと融合したミリエールと融合したミリエルが魔境内に出現した。俺とディアグリーは『超越者 アルティメット』の力を使えているようで特に違和感もなく普通に行動出来ているようだった。
俺達が魔境から出て来た事に驚く敵兵を尻目に俺とディアグリーは『超越者 マスターマスター』のディアグリンダーの力を使って【転移魔法】を発動させたのである。
(ミリエール。ミリィーと一緒にミリアが造った大迷宮の入口に行ってくれ。俺はミラルダの魂を呼び戻すから、その魔法の準備を頼めるかな?)
(わかりました。ミィもユウキの為に準備しますね。ユウキ、またミィーと一緒にミィの事を抱き締めてください。私とミリエットの2人の力を合わせれば、どんな強敵にだって負けないと思います。でも、私もミリエットも本当はユウキともっと愛し合いたいんですけどね)
俺が《今はまだその時じゃないからね。もう少しの辛抱だから我慢してくれ》と言うとミリエールは《わかっています。それにユウキと融合した事でわかったんです。『超越者 マスターマスター』の称号を得ても『真聖勇者マスターブレイブ』の能力の全てを使える訳じゃ無いんだなって》と言って笑っていたのだ。そして俺はミラルの身体を探し始めたのである。
俺は、ディアグリーと融合した俺自身とディアドルーーの『大魔人』の力により『真聖勇者マスターブレイカー』の全能力と『真聖勇者』と『大賢者ワイズ』と『大魔導士マギスタルセイントロード マスターオブスピリチュアル マギルニアマスター マスターエンペラーズマスター』のミリエールの『超越者 アルティメットマスターアルティメットマスター アルティメットマスターマスター』のミリエールが持つ全ての『超越者』の力を使った事により『大魔導師マジカルメイデンメイデンメイデンロード』であるミィーと『聖魔王マジカルメイデ メイデンロード メイデンマスター マジカルマスター マジカルマジカルメイデンマスター』の称号を持つミリエールと融合したミリィーと合体する事が出来るようになり、ディアグリーはミリエールと共に大迷宮『アークマスターエデンマスター』を守る守護者として配置されるのであった。そしてディアドルーは俺の『超越者 マスターマスター』とディアグリーの融合した俺達と『超越者 アルティメット』のディアグリーの身体を借りるのであった。
(よし。行くよ、皆!)
(うん。行こう。皆の事は僕に任せて。ユウキはミミルに声を掛け続けてあげて。それで僕の『超越者 マスターマスター』の力の一部を使えるから)
(ああ、そうだな。分かった。頼むよ)
俺は【精神聖域】を発動すると、ディアグリーの言う通り『大聖魔導士 マジックマスター マスターエンサイクロペディアリリスリリィプリンセスマスター エンサイクロペディアンエンペラーマスター』のミリエールの魔力の波動と一体化していくのを感じた。
((さぁ。私とディアグリーが融合したミリエールの力で、ミリルと『真聖大聖王 トゥルーゴッドマスターロード マスターキングロード』になったミリーちゃんを助けに行きましょう!))
((はい!行きます!))
ディアグリーの呼びかけに応えるようにミリエールは皆に声をかけたのである。
そしてミリエルの身体とミリルとミリィの身体はミリエールの魔法の中に包まれていったのであった。
(ありがとうございます。これでミリルとミリィが戻って来れるかもしれません)
ミリエールに礼を言われた俺は少し複雑な気分になっていたのだ。俺と融合した事で俺は『真大聖魔王 マギナティストマスター』となったわけだが『超越者』という枠を超えた存在になってしまったのだ。そしてそれは同時にこの世界の人間では無くなった事も意味している。つまりこの世界で俺は、元の世界に戻る事は出来なくなってしまったのかもしれないのだ。
(大丈夫ですよ。ディアグーーディリーはそんな事気にしてはいませんから)
(そっか、そうだよな。ミリエット。俺は俺でこの世界にいるんだからこの世界に馴染む為に努力しないとな)
((そうですね。ディアグリーと私はずっと一緒にいますから心配はありません。これからもずっと一緒です。私の全てをかけてディアグーーディリーを護り抜きます。私はディアグーーディリーがいれば他には何も要らないんです。ディアグルーーディーーが望むなら私は何でも差し上げますから、ディアグーーディリーはディアグーーディールとして生きて欲しいです))
(わかった。俺も君がいてくれさえすれば他は何も望まないよ。ミリエール)
((ユウキ様、ディアグリーーディリーの事はミィーとお呼び下さい))
(ああ、そうだったな。ミィー、ミリエット。俺も2人が居れば後は何にもいらないんだ)
こうして俺達は大迷宮の入り口で合流を果たしたのであったが、俺とディアグリーと融合したミリエールを見たミリエールの仲間は全員が驚いていたのである。
《俺とディアグリーが融合した『真大聖魔導王』の力を使うと『超越者 アルティメットマスター』の力の一部だけしか使えないようだが、この大迷宮を守って貰えると思うから頼むよ》 俺の言葉を聞いたミリエールは《わかりました。お任せください。ミリィーとミリエールがユウキの役に立つのであれば本望です。ミィとミィエットはディアグーーディリーのお側に仕えられるだけで満足ですから。私はディアグーーディリーの為に戦う事ができて本当に幸せでしたから》と言ってくれたのだ。そして俺は《これからもよろしく頼むよ。ミリエール、ミィー、ミリエット》と声をかけたのである。そして俺は仲間に事情を説明するとミラルの事をお願いした。
(ミィがミリルの身体を呼び戻します。そしてユウキにはディアグーーディールと融合してもらいます。ディアグーーディールは、ミゥとミリエットとの融合が出来るのですよね?ミィーがミィーを融合してユウキにはディアグーーディールの融合をしていただきたいんです。それが出来なければミゥが帰って来た時に融合出来なくなる可能性が高くなるんですよね?)
(ああ、確かにミルルには『魔勇者 マスターナイト マスターブレイカー』の称号があるが、それでもディアドルーーと融合出来るとは限らないだろうからな)
(だからディアグリー。私とミィーを融合したミィエットでディアルーテの身体の修復を行いながらミリーナの身体も探す事になりますが、いいでしょうか?)
《もちろんだよ。僕もディアドルーーの身体も探し出すからね。ユウキの役に立てるなんて嬉しいよ》 ディアグリーはそう言うとミリィーーミリィーとミィーーミィーエットと融合した。
そしてミィーはディアグリーと融合したミィーーミィーと融合し直した。
(じゃあ。始めるぞ、ミラル。ミリルの身体を探し出しミリエルに預けるからな)
そしてミリェルがミリールの身体を呼び戻そうとした瞬間、俺とミリティが光に包まれた。
((ディアグーーディリー、頑張ってください。そして愛しています))
(ああ、待っていてくれ。必ず助けに行く。それと俺からも頼む。絶対に死ぬなよ!生きて俺の元に戻って来るんだ。良いな、絶対だぞ!分かったか!!︎俺が行くまで絶対に死んだりするんじゃないぞ。分かったら俺の手を握り返せ!早く!急いで戻ってこいよ)
俺の言葉に返事はなく、しかし俺とミリエールの手を握る感触は伝わって来たのである。そしてミリィの身体がミィールの中へ入って来たのであった。
そしてディアグリーと融合したミリエールとディアグリーが融合した俺とミリィは、ディアドルーの『超進化マスターエンシェント エクスチェンジマスター オーバードライブ』と俺の『超越者 アルティメットマスターアルティメットマスター』の能力の全てをミリエールの身体に送り込んだのである。そして俺とミリエールはミィーの魔法によってディアグリーとミリィの身体を分離させる事に成功した。そして俺は、ミリエールの魔力と一体化したままディアグリンダーーとミリアールと融合した。
そして俺はミリエルの身体と融合したのであった。
(ディアドルーーディアドルーー)
俺と融合したミリエールはディアドルーーディアドルの力を求めた。ディアロルーディアゾルーディアトルと、何度も呼びかけたが、反応はなかった。
(くっ、ディアドルーー。私の声が聞こえないか!?︎私達を救ってくれないのか。こんな時、ディアドルーーディアドラの力があれば、皆んなを助ける事ができるんだ。頼む、ディアドルーーディアドラーディアドル)その時、俺とミリエールの中に流れ込んでくる膨大な知識、力の奔流を感じた。それは、かつてディアグリーとディアルルの身体を造り出した際に使用した記憶の断片が流れ込んできたのだ。そしてディアドルーの意識体もミリエールの中に流れ込みミリエールはディアドルーを受け入れた。その力は『真聖勇者マスターブレイブ』よりも強くディアドルーは『超越者 マスターマスター』の称号を得、俺は『超越者 アルティメットマスターアルティメットマスター』になったのである。
(よし、行くぞ。ミィー、ディアロルディアゾルディアザルディアソルディアゾルディアズルーディアゾルディアザルディアソルディアゾード)
そしてディアドルーーはミリエールの魔法の中にミリールと一緒に入り込んだ。そしてディアドルディアドルーはミリエルに憑依したのである。そして俺はディアドルーとミリエルと融合する事に成功し、そしてミリルディアドルーはミミーディアミルディアミルと融合するとミリーディアミルミルディアミルディアズと融合を果たし、俺は『大聖魔導士マジカルメイデンマスターメイデンメイデンロード』となったのであった。(ミィー、ミィー、ミィーー。大丈夫か?)
俺とミリィの融合体が声をかけると
(え?ここはどこなのですか?ユウキさんはどちらにいるのですか?)とミリエルが答えた。
俺はディアドーターーミリィと融合したミリエルの身体を借りているのだ。
(私はミリィ。あなたを助けにここまでやって来たんだよ)
(そうなんですか。私はミリエリーと融合したのですよね?)
(そうだ。俺と融合したんだ)
(それで私は助かったんですね。でも、どうして私の中にユウギが居るの?)
ミリエルの言葉を聞いたミリィは俺の方をチラッと見ると、ミリエルに向かって言ったのだ。
(私が説明します。私の名前はミリアと言います。私は『魔導人形ドールマスター』という特殊な職業を持っていて、『真聖人形 マシーーーセイマオー』という人形を造れるんだ)
(そんな事が出来るのですね。すごいです)
(そんな事よりも、ミリエリの怪我を治療するよ。ミリエルの身体が弱っているみたいだから少しの間借りますね。ミリエリーー)とミィが念話で言って、ミリィが俺の魂の中から抜け出て、俺はミリィに引っ張られてディアドルーの力を使う事になったのだ。
(ミリエリーーー。ミリエリ、今助けるから)とミィはそう言うと『究極再生パーフェクトライフ』を発動させたのだった。
(あれ?なんだろ?力がどんどん溢れてくる。私の中にいるのがミリィなのね。ミリィはどうなったのかな)
(今は少しの間、俺と融合してもらってる。俺のスキルで君の治療をしてるんだけど。ちょっと無理をしたから疲れちゃったから休んでる)とミィはミリエリーに伝えた。
(ありがとう。ミィーは私の事を考えてしてくれたのよね。私の中にいるのがユウギだって分かってるから、ミィはミィじゃないって思うの。ごめんなさい)
(いいよ。俺達は友達だからね。これからはミェイがユウギの事を呼び捨てにするんだね。でもね、俺と融合したミリエットはミァの人格でもあるんだから俺と融合した時にミィも一緒に俺の事をユウギと呼ぶようになっただけだから、ミリィーーが気に病む必要は無いよ)
(うん。ありがと)
(それとミリエはもう、大丈夫だから、俺達は大迷宮の攻略に向かうよ。ミリィーはどうする?)
俺の言葉を聞いたミィーはミリィーの肉体に戻る事なくディアドルーとミリエールが融合したままの状態で融合を解いた。
そしてミリエールはミリェルに戻った。
(ミリィーと融合してると、ミィーの思考も入ってくるの。それにミィーは凄い力を持ってるしね。この身体ならミィーーミィーも一緒に戦えるよ)
(それじゃあ、行こうか。まずはミリーの救出が最優先だよ。その後で俺達が戦うべき敵を見つけ出して倒さなきゃいけない。ミリィーーとミリエールにも協力してもらえる?)
(もちろんだよ。ディアドルーーがユウキの中に居てくれるのなら、ディアドルーーディアドルーもミリィもディアドルーーの力を扱えるようになるもんね)
(俺が使えるようにディアドルーーが調整してくれるだろうけどね。まぁ、俺の身体は元の状態のままだからディアドルーーに頼めば何とかなりそうだけどね)
(うん。頑張ろうね)
俺達三人が話し合っているとミリールーーミリエールは不思議そうにしていたので俺は簡単に事情を説明した。ミリリーーミリエールは俺の話を聞いて驚いたようだ。俺とミィーーミリエットが融合した姿であるミィーーミエットの力は想像を遥かに超えていたらしい。ミリエールはミリィーーミィーの姿を見て何か懐かしい感じを覚えたようで、「どこかであった事がある?」と尋ねたが「無い」と一言だけ返事しただけだったのである。そしてミリィーとミィーーミエットと融合する事によって得た知識の中で、俺達の目の前に広がる広大な空間に、俺とディアドルの力で作り出された大迷宮が存在する事を教えられた。
そして、ミリエルの記憶によれば大魔王と呼ばれる存在はこの階層には存在してはいないようであったのだ。俺はミリェルに聞くことにしたのだが。
「大迷宮とはどのようなものなのか教えてもらえませんか?」
ミリエルに尋ねると彼女は自分の記憶を呼び覚まし大迷宮について話してくれた。
かつてこの世界に勇者が降臨した際、女神様から授けられし大迷宮に挑み試練を受ける事でその力を手に入れる事が出来る。
勇者に与えられし称号は『超魔導王 マスターメイガスマスターウィザード』
『超絶聖戦士 マスターホーリーパラディンマスター 』
そして最後に大賢者 グランドワイズマンである。
『超魔導士 マスターメイジマスター 』『超聖騎士 マスタークルセイダーマスター 』である そして、この三つの称号を得た者達だけが辿り着く事ができる。その力の先に『大迷宮』への入り口を開く事ができると言う伝説があるのだという。
ミリールは勇者としての称号を得てはいなかった為、まだ『超聖魔導士』であるのだが、ディアドルーの力の一部を受け継いだ事で称号は『超越者 アルティメットマスターアルティメットマスター』に変化したのである。
ミリエルによると、歴代の勇者の称号を持つ者の中には、俺のように複数の『真聖』の称号を得ている者が他にも存在するらしい。しかし、それはあくまでも可能性であり絶対ではないという。
そもそも大迷宮は女神により与えられたものである。その為、女神以外の者が持つ事など有り得ないという事だ。つまり、この『超魔導士』という称号はミリエルにしか使えないという事になる。俺は『真聖人形 マスターメイデンマスター 』と『超魔導士 マスターメイデンマスター』の二種のみしか持っておらず、他の称号が欲しかった訳でもない。ミリエルの『超魔導師 オーバーロードマスター 』は俺が与えた称号なので、俺以外に使える人間はいないはずなのだ。だが、その称号は確かに存在している。ミリエルの言う通り『超魔導』はミリエルの称号でしかありえないと思う。『超聖』に関しては他の者でも持っている者はいないと思われる。『超越者』は、俺とディアドルーとディアゾルとディアトルの五人が共有している称号である。なので『真聖』と『超越者』のどちらかの称号ならばミリエル以外でも持っていてもおかしくないのかもしれないのだ。
(俺がディアドルーと融合した事により、俺は『超越者』になった。ミリエルの事は、よくわからないけどディアドルーーディアドルが、ミリエルの中に居るとわかった時に俺はこう思ったんだ。きっと『超越者』になっているんじゃないかとね)
俺はディアドルーーディアドルとミリエルが融合した際に俺とミリエルは融合していて、その時に俺はディアドルーーディアドルと融合した時に、ミリエルの中にディアドルーーディアドルが居ると感じた。だから俺はミリエルも既に『超越者』になっていても不思議はないと考えていたのだ。
「え?じゃあ、私はもう、すでに『超越者』になってたんだね。私って天才だから、そうなのかもね」とミィーは言ったのだ。
(ミィ、君は『超越神 スーパーディスティニーゴッド』と『超神 ハイパーゴッド ゴッドゴット ゴッドゴッド 』を身に着けてるんだよ。だから『超越』した『超魔導王 マスターメイデ』の称号を手に入れてても、全くおかしい事じゃないんだ。だから俺がディアドルディアドルーーディアドルーを、ミリエールーーミリエールに取り込んだ事が原因で、ミリエットもミリエリーも『真聖』の二つの称号を手にする事が出来たのかなって思ってる。俺が二人の事を想ってそうしたんだからさ)
(そうだよ。ミリエとミリールがユウギの気持ちに応えようとしたから『真聖』という素晴らしい称号を手に入れたんだから、二人を誇らなきゃダメだよ)
(ありがとう。ミィー)
(私はミリエルを助けてあげたい。それにミリエリーーミリィも助けたいの)とミィが言ったのだ。
(それじゃ、行こうか。ディアドルーとミリルーーミィが融合した俺とミリエールも一緒に戦うよ)
(うん。お願いね)
俺達は大迷宮の最下層にあるであろう『究極召喚魔法書アルティメットスペルブック』を探すために行動を開始したのだった。
(ミィは、あの時のディアドルーの言葉を信じる。ミリエールと融合する前の言葉)
(ディアドルーが俺達の為に命を捨てる事になっても構わないって言ったやつか)
(そう。ユウギはミィの願いを聞いてくれました。だから、今度は、私がユウギに恩返しする番なの)とミィが念話で言ってきた。
(それなら俺とディアドルーが合体すればもっと良いよね)
(ディアドルーとユウギのスキルを組み合わせる?)
(うん。二人でディアドルーの技を使う時のイメージを伝えるよ。だからやってみようか?)
(うん。やる!)とミィが元気よく答えたのである。俺は『魔素操作』『空間移動』の二つを使ってディアドルーーディアドルーの使う魔法の効果を再現しながらイメージを送り、ディアドルーーディアドルーにそれを伝達してもらう事を頼んでみた。
(う〜ん。多分、できると思います。ユウキの考えた事ですから)
(じゃあ、ミィーーミリエールにも協力して貰えるかな?)
(はい。お任せください。ミリエールの魔力も使って頂いても問題ありません。ディアドルーーディアドルーと融合した時に私とミリーにも力が少しだけ流れ込んで来ていますので、私達はお互いに魔力を使うことができるんです。ミリールーーミリエットは大精霊 ディアファルグの大森林にいる全ての大森林に住まうエルフ達を操れますし、大迷宮の中にも大森林を作ってしまう事ができるんです)とミィーが教えてくれたのだ。
(じゃあ、行こうか)
(はい。行きましょう)
俺達は大迷宮の入り口を目指して進んで行く事にしたのであった。
「あれはなんだろう」俺達はミリエルの導きにより階層ボスの間へとやってきたのだが目の前には巨大な門が存在していたのである。俺達は門を開き中へ入っていった。そこには、まるでダンジョンのような階層が広がっていたのである。
(ここは、一体?)
俺が疑問を抱いていると俺の心の中にミリエールが話し掛けてきた。
(ここは、恐らくディアドルーーディアドルの記憶が作り出した大迷宮だと思われます。ここを探索すると大迷宮にたどり着くことができます。どうなさいますか?まずは大迷宮を探し出す事から始めなければならないのですが、大迷宮はこの世界のどこに存在するかも分かりません。この迷宮のどこかに大迷宮の手がかりがある可能性は高いとは思いますが、全てを探して回るのは難しいと思います。もし大迷宮が存在しなかった場合、ここに居続ける事は時間の無駄になってしまうでしょう)とミリーが言ってきた。
(そうなった場合は一旦戻るのが正解だと俺は思う。そして情報を集めた後に改めて探す方が良いと思うんだけど、ミリィーの意見を聞きたいんだ)と俺はミリエットに尋ねたのだ。
俺はミリエットの意見を聞いて、大迷宮には必ず入り口が存在するというミゥの考えに従うべきだと決めたのだ。そして、大迷宮が存在する可能性がある限り大迷宮を探す旅を続けていく事にしたのである。俺達三人は階層内の探索を開始する為に動き出した。
【魔眼の勇者】は引きこもりたい あずま悠紀 @berute00
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