第235話 変身ベルト

 バロンの町を旅立った駿助達は、バロンの町の西方にそびえる山岳地帯で武者修行と称して訓練に励んでいます。


 先日、ナノリアがレイモンに作って渡した変身ベルトを使いこなすため、レイモンは基礎訓練の時以外は変身して訓練を行っています。ちなみにレイモンの要望で、うさ耳は外した姿となっています。


 アキラとレイモンが訓練をしている間、駿助はナノリアから魔道具作りについて教わっています。レイモンがへばって休憩が必要になると、アキラと駿助が激しい戦闘訓練を繰り広げるという感じで毎日訓練を行っています。


 ナノリアは、駿助の魔道具作りの先生をしている時を除いて、駿助のお腹のポケットの中で、アキラの変身ベルトを製作していました。


「アキラの変身ベルトが出来たわよー」


 ベルト型の魔道具を引っ張って、駿助のお腹のポケットからぴゅいっと飛び出してきたナノリアが、大きな声でアキラに向かって叫びました。突然お腹のポケットからナノリアが飛び出してきても、駿助は慣れたようすで驚くこともなく、すっとナノリアが引っ張り出した変身ベルトを受け取りました。なんか阿吽の呼吸って感じです。


「本当っすか!!」


 レイモンと対人戦闘訓練をしていたアキラは、軽くレイモンを転がすと、ダッシュで駆けつけてきました。いきなり転がされたレイモンですが、日々の訓練の成果でしょう、くるりと綺麗に回転してすちゃっと立ち上がり、アキラの子供のような喜びように苦笑いしていました。


「さぁ、さっそく試してちょうだい」

「もちろんっす!」


 ナノリアの言葉に、アキラは少し興奮気味に駿助からベルトを受け取ると、付けていたベルトを変身ベルトと交換しました。


 製作期間に10日ほどかけて出来上がった変身ベルトは、ナノリアの趣味でバックルのところに可愛らしくうさぎのマークが描かれていますが、アキラは特に気にしていないようです。


「ベルトに魔力を通して例のセリフを言うといいんすよね」

「そうよ。格好よく変身ポーズを取るのもいいわね」

「分かったっす」


 アキラは、変身ベルトの使い方をナノリアに確認すると、ナノリアの言うことを真に受けて変身ポーズを取ることに頷きました。


「ふん、ふん、バトルボディ、オン!!」


 アキラが良く分からない変身ポーズを取ってから変身のセリフを叫ぶと、変身ベルトがキラリと光り、アキラの体を淡い光が包み込んで、一瞬のうちに青系統の戦闘服へと変身しました。


「「おおー」」

「うんうん、変身成功ね」

「ブルー系でいい感じっすね」


 格好よく変身したアキラの姿に駿助とレイモンが感嘆の声をあげて拍手をし、ナノリアが成功を確認する中、アキラは自身の体を見回して青系統の色合いでまとまっている姿ににんまりと笑みを浮かべました。


 それから、アキラはトントンと軽くジャンプをして変身した体の調子を確認したあと、パンチやキックを空中へ打ち出してみました。


「これはいいっすね。体が軽くなった感じっすよ」

「でしょ、でしょ。うさ耳も似合ってるわよ」

「えっ!?」


 嬉しそうに体の軽さを口にするアキラに、ナノリアがうさ耳の話をすると、アキラは頭に手を乗せて、うさ耳の感触に身を凍らせたのでした。


「むふっ、お似合いですよ、アキラさん」

「あはははは……」


 凍り付いたアキラがギギギと駿助達の方へ視線を向けると、駿助はにやけた顔でぼそりと囁き、レイモンはどうしたものかと困り顔で空笑いをして見せました。


「くぅっ、まさか自分がうさ耳姿をさらしてしまうなんて……。ナノリア殿、うさ耳を、うさ耳を外して欲しいっす」


 がっくりと膝をついたアキラは、藁にも縋るかのように、わなわなと手を震わせてナノリアへと頼み込みました。


「えー、結構似合ってるのに、もったいないわよ」

「むふっ、そうですよ。似合ってますよ、アキラさん」

「ぐはっ!!」


 しかし、ナノリアに続いて、にやけた顔をした駿助に似合っていると言われてしまって、アキラは血反吐を吐いて倒れ伏してしまいました。


「もう、アキラったら、しっかりしなさい! うさ耳は後で外してあげるから、取りあえず変身ベルトの効果を試すわよ」

「くっ、約束っすよ。それで、効果を試すって言っても何をすればいいっすか? 例のライフル銃でも撃つっすか?」


 うさ耳を後で外すことを約束し、アキラが気力を振り絞って立ち上がりながら、ライフル銃の話を切り出しました。


「ん? アキラの変身魔道具に魔法銃は付けてないわよ」

「そうなんすか? なんか残念っす」


 しかし、ナノリアにあっさりとライフル銃は無いと言われ、アキラはがっかりと肩を落としました。


「じゃぁ、アキラ、魔獣を相手に変身ベルトの効果を確認するわよ。そして、お肉を手に入れるのよ」

「ナノリア、魔獣肉が食べたいだけじゃね?」


「お肉はついでよ。つ・い・で」

「さいですかー」


 魔獣を狩りに行くと張り切るナノリアは、駿助に軽く突っ込まれましたが、にっこり笑顔でお肉はついでだと言い切っていました。



 アキラとナノリアは、魔獣を求めて山の奥へと向かい、ほどなく大きな熊型の魔獣を見つけました。


 アキラの力量ならば普通に戦っても楽に仕留められる魔獣ですが、今回は変身ベルトの機能を確かめるため、ナノリアのアドバイスを聞きながら時間をかけて仕留めました。


「この変身ベルトは軽やかな動きが出来ていいっすけど、変身前の姿のまま変身後の動きが出来ると勘違いして戦ってしまうと危ない気がするっすね」

「そこは、魔道具側ではどうしようもないわ。日頃の訓練で感覚の違いを覚えてもらうしかないわね」


「日頃のトレーニングが大事ってことっすね」

「そういうことよ」


 倒した熊型魔獣を前に、アキラとナノリアは変身前後の身体能力の差異を勘違いすると危険だと話していました。変身していないのに変身した時の動きが出来ると思って戦うと痛い目を見るのは明らかです。日頃の訓練が大事だということで互いに納得するのでした。

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