第236話 新生ラビットマン

「う~ん、なんとか、フード部分を外して髪の毛は出せたわ」

「ほんと!!」


 ナノリアの言葉に、駿助の顔がパァっと明るくなりました。


 駿助の勇者スキルは変身すると全身白タイツ(うさ耳付)姿となり、頭もピッチリとしたフードで覆われていたのですが、ナノリアの尽力でフードが外され、髪の毛が現れたのでした。


 ずっと変身した時の姿にコンプレックスを持っていた駿助にとっては、涙が出るほど嬉しかったようで、手鏡に自分の顔を映してウルウルと涙を流しています。


 変身姿の駿助は、ナノリア特製変身ベルトをつけています。そのベルトのバックルから有線コードを引いて作業用のテーブルに乗せたタブレット石板をナノリアがあーでもない、こーでもないと操作して、やっとのことでフードを外すことが出来たのです。


「でも、ほかはダメみたい。服装くらいなら変更出来ると思ったんだけど、上手くいかないものね~」

「フードを外せただけでも嬉しいよ~、ナノリア、ありがとう!!」


 もうかれこれ半日ほど試行錯誤して、出来ることはすべてやりつくしたんだけどと言ってナノリアが溜息を吐きましたが、駿助は、わずかな前進に喜び、感謝の言葉を述べるのでした。


「服装の変更は出来なかったけど、絵は描けたわ」

「絵?」

「こんな感じよ」


 ナノリアが、タブレットをピピっと操作すると、駿助の全身白タイツの胸の部分に大きなうさぎの絵が浮かび上がりました。


「えぇ!?」

「うさぎさんよ。かわいいでしょ」


 胸元を見て驚く駿助に、ナノリアは楽しそうに言いました。


「そんなことが出来るのか。それなら、かっこよくペイントすればおかしな格好よばわりされずにすみそうだぞ」

「どんな感じでペイントするの?」


「そうだなぁ、この辺に赤いラインを入れてだな」

「こんな感じかしら」


「いいぞ、それからこの辺にもこんなふうにラインを入れよう」

「なるほどなるほど……」


 タブレット石板の画面を見ながら、駿助の指示でナノリアが画面上の駿助の白タイツにラインを描いてゆきます。すると、画面に描いたとおりに、駿助の白タイツにラインが描かれてゆきました。


 なんだか面白そうな気配を感じたのでしょうか、アキラとレイモンがやってきて駿助の白タイツにラインが浮かび上がる様子をみて感心していました。


「どうせなら、花柄にしましょう」

「うわっ! ちょっと待て! 花柄はやめて!」


「じゃぁ、水玉模様はどう?」

「なんじゃこりゃ! 却下!」


「唐草文様とか?」

「やめて!」


「カエルは?」

「まさかのド根性!? 却下だ!」


 調子に乗ったナノリアが、次から次へといろいろな絵柄を描いては消して、消してはまた描いてゆきました。絵柄が変わるたびに駿助がいろいろと反応しますが、ナノリアはその反応を楽しんでいるようでした。


「いろいろな模様が描けて楽しかったわ」

「疲れた……」


 さんざん描いた後で、楽しそうに笑うナノリアの横で、げっそりとした顔で駿助がぼそりと呟きました。


「で、どれが良かった?」

「自分は、桜吹雪が一押しっすね」

「ぼくは、熊の顔がよかったです」

「勘弁してくれ~」


 ナノリアが、アキラとレイモンに尋ねると、2人とも素直に意見を述べてくれましたが、その後ろから泣きそうな顔で訴える駿助の姿がありました。


「仕方ないわねぇ、駿助の好きなようにペイントするといいわ」

「ほんと! ありがとう、ナノリア」


 ナノリアは、半泣きになっている駿助をこれ以上揶揄うのはやめたようです。ナノリアの言葉に、駿助は涙をぬぐって笑顔を見せました。


「それじゃぁ、一度全部消してっと……。あれ? うさちゃんが現れたわ」


 タブレット石板を操作していたナノリアが首を傾げました。

 ナノリアの操作により、駿助の白タイツに書いてあった落書きがすうっと消えたのですが、代わりに胸の部分にうさぎのマークがでかでかと浮き上がって来たのです。


 ナノリアがタブレットを必死に操作していましたが、いっこうにうさぎのマークは消えません。


「えっと、ナノリアさん?」

「う~ん、消えないわね? どうなってるのかしら?」


 駿助が不安そうにナノリアへと声を掛けますが、ナノリアはタブレットを眺めながら首を傾げてしまいました。


 しばらく宙にふよふよ浮かびながら、難しい顔で考えていたナノリアでしたが、なにか閃いたかのようにポンと手を打ちました。


「うん、分からないわ。諦めましょう」


 そんなナノリアの一言に、駿助達はガクッとコケてしまいました。


「えーっと、いったい俺はどうすればいいんだ?」

「いいじゃない、うさ耳も健在だし、改めてラビットマンって名乗るといいわ」

「そんな~」


 こうして、胸に輝く?ラビットマークをシンボルとして新生ラビットマンが誕生しました。この後、駿助が腕や足に赤いラインを入れて、少しでも格好よく見えるように努力していたようです。

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