第233話 タマちゃん
旅立ちの朝、ハンターギルドに出発の挨拶に向かった駿助達は、ギルマスから催涙弾の製造について泣きつかれ、ナノリアが駿助のお腹のポケットから灰色ウサギ型ゴーレムのタマちゃんを引っ張り出してきました。
「タマちゃんは、催涙弾の材料を食べると、お腹の中で催涙弾を製造するのよ」
「おおっ!! すばらしい!!」
ナノリアがタマちゃんの催涙弾製造プロセスを簡単に説明すると、ギルマスは呆けた顔から一転、目を輝かせて絶賛しました。
「お腹の中で製造ってことは、催涙弾が出てくるのは……」
「もちろん、お尻から出て来るわ」
駿助がタマちゃんの催涙弾製造プロセスを聞いて、何やら想像しながら呟いていると、ナノリアが催涙弾の排出口をさらっと教えてくれました。
「あー、やっぱり。うんこみたいにプリプリっと出てくるわけか」
「駿助と一緒ね!」
「何で俺!?」
駿助が想像どおりだと納得気味に頷いていると、ナノリアに名前を出され、激しく突っ込むのでした。
「で、これが材料よ。 催涙弾のほかに、睡眠弾とクラクラ弾も製造するから弾丸の色で見分けてちょうだい」
「これをギルドに寄贈してくれるのか、ありがとう!」
「何言ってるの? 製造委託よ。 ハンターギルドのバロン支部で製造、販売した利益の少なくとも半分をあたしの口座に振り込んでちょうだい」
「ええっ!?」
ナノリアがタマちゃんの餌となる材料が書かれた紙を渡して製造する弾丸の説明をすると、ギルマスは、ギルドに寄贈してくれるのだ勝手に勘違いしていたようでしたが、ナノリアに製造委託と言われて、ギルマスは悲し気な顔で声を上げました。
「そうねぇ、最低でも弾丸1発当たり、このくらいの金額は振り込んでもらうわ」
「そ、そんな……」
「嫌ならいいのよ。 タマちゃんはあたし達が連れて行くから」
「ナノリア様、ハンターギルドバロン支部にて催涙弾の製造、販売をさせていただきます!」
ナノリアが最低金額を書いたメモを渡すと、ギルマスは、泣きそうな顔で何か言おうとしましたが、ナノリアがタマちゃんを連れて行くと言うと、態度をがらりと変えて製造販売の件を敬礼をしながら了承するのでした。
この後、念のためにと、ナノリアはハンターギルドバロン支部と製造販売委託の契約書を取り交わしました。
「むふふ、金のなる木ならぬ、金のなるウサギだな。よしよし、タマちゃ~ん、こっちへおいで~」
プイッ。
ギルマスが、タマちゃんへ笑顔を向けておいでおいでと声を掛けましたが、タマちゃんはプイっと、そっぽを向いて別のギルド職員の方へぴょこぴょこ跳ねて行きました。
「なんで!?」
「ギルマスのことが嫌いみたいね」
「えっ? 俺って嫌われちゃったの?」
「そうみたいよ」
タマちゃんにそっぽを向かれてショックを受けたギルマスに、ナノリアがタマちゃんのようすからギルマスのことが嫌いなのだと言いました。
「くっ、ゴーレムのくせに生意気な。こうなれば、力ずくでもふもふしてやる」
それならばと、ギルマスは、悪い顔をしながら手をワキワキさせて、タマちゃんへと近づきました。
「そうそう、タマちゃんはストレスを感じると弾丸を作らなくなっちゃうから気をつけてちょうだい」
「なにそれ!? そんなのあり!?」
そこで、ナノリアが思い出したかのようにタマちゃんを扱う上での注意事項をつらっと述べると、ギルマスは驚きと抗議の入り混じった声を上げました。
「タマちゃんはデリケートなのよ」
「デリケートなゴーレムって何!?」
「うふふ、かわいいでしょ?」
ナノリアは、ギルマスの驚くようすを見て、にっこり笑顔でタマちゃんの繊細さと可愛らしさをアピールします。
そして、タマちゃんがギルドの女性職員達にもふもふされるのをギルマスは羨ましそうに眺めるのでした。
「ギルマス、いろいろありがとございましたです」
「レイモン、立派なハンターになって帰って来いよ」
最後に、レイモンがギルマスにぺこりと頭を下げて挨拶をすると、ギルマスは、微笑ましい顔つきで激励してからレイモンの小さな背中をバシッと叩きました。
「は、はい! 頑張るです!」
背中を叩かれたレイモンは、少しよろけましたが、すぐに顔を上げて元気よく返事を返しました。
そんなレイモンの旅立ちを、ギルマスを始めとしてギルド職員達が暖かく送り出してくれたのでした。
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