第232話 旅立ちの挨拶

 ハンターギルドから無事に魔物レーダーのタブレット石板を回収した駿助達は、町の周辺に張り巡らせた魔物レーダーのセンサーにあたる魔道具の回収を始めました。


 魔道具を設置した時よりは早く回収できましたが、それでも午前中一杯まで時間が掛かりました。


「午後からは、旅に必要な物の買い出しね」

「あ、俺はジェフリーさんところへ行って、特許がどうなったか確認してくるよ」


 お昼のお弁当を食べながら、ナノリアが午後からの予定を話すと、駿助は、ハローコンサルタントへ行くと言い出しました。


「それなら、自分とレイモンで買い出しをしてくるっすよ」

「じゃぁ、あたしと駿助で特許の確認に行ってくるわ」


 どうやら、午後からは2手に分かれて行動するようです。

 お弁当を食べ終えると、駿助達は、さっそく行動を開始しました。




 駿助とナノリアは、ハローコンサルタントのジェフリーを尋ねました。


「特許申請の方はどんな感じですか?」

「もちろん提出済みだよ。ちょっと待っててもらえるかな」


 挨拶もそこそこに、駿助が特許申請の話を切り出すと、ジェフリーはすぐに書類を取ってきてくれました。


「こちらが、魔物レーダーと照明弾の特許申請書の写しだよ。前にも話したけど特許審査には少し時間が掛かるから、特許登録は後日になるよ」

「さすが、仕事が早いですね」


「はっはっは、特許は時間との戦いだからね。わが社は可能な限り迅速に申請することにしているよ」

「では、残りの代金を払いますね」


 駿助は、ささっと書類を確認しました。特許申請書の写しには、特許審議会の受付番号が記載されていて特許に関する問い合わせはこの番号で行うことになります。駿助は特許審議会の検印と受付番号を確認すると、代金の支払いを済ませました。これで、ハローコンサルタントに依頼した仕事は完了です。


「ジェフリーさんには、いろいろお世話になりました」

「とんでもない。また新製品を開発したら、いつでも来てください」


「あの、俺達、近々バロンの町を離れるつもりですので」

「そうですか。そういえば以前そのような話をしていましたね。特許審査の状況は、こまめに確認してくださいね。登録には期限がありますから」


「はい、忘れずに登録します」

「ほかの町にもわが社の支店がありますから、是非ご利用してください」


「いろいろありがとうございました」

「では、良い旅となりますように」


 駿助が旅に出ると伝えると、ジェフリーは特許登録の期限について軽く念押ししてから、すがすがしく送り出してくれました。


 その後、駿助とナノリアは、町の商店街へと繰り出してアキラ達買い出し組と合流し、旅路に必要なものを揃えました。




 そして、翌日、駿助達フェアリーナイツは、お世話になった宿の主人とおかみさんに挨拶をして宿を出ました。


 長い間レイモンの世話をしてくれていた宿の主とおかみさんは、レイモンを自分の子供のように感じていたようで、いつでも戻って来いと涙ながらに送り出してくれたのでした。


 宿を出た駿助達は、旅立ちの挨拶にとハンターギルドへと立ち寄りました。


「ギルマス、お世話になったっす」

「今まで、いろいろありがとうございましたです」

「今から、旅にでるのよ。元気でね」

「お世話になりました」


 ちょうどギルマスがいたので、アキラ、レイモン、ナノリア、駿助の順で挨拶をしました。


「え? もう旅に出るの? 早くない?」

「いやぁ、随分長居した感じっすよ」

「軽く路銀を稼いだら、すぐに旅立つつもりだったもんね」


 ギルマスがきょとんとした顔で旅立つのが早過ぎないかと問うと、アキラと駿助が遅すぎたぐらいだと当初の予定を懐かしそうに語りました。


「そう急がなくてもいいだろ? もう少しゆっくりしていったらどうだ?」

「もう、旅の準備も出来たっす。これ以上滞在する理由はないっすよ」


 ギルマスがフェアリーナイツを引き留めに掛かりますが、リーダーのアキラが代表して、そっけない態度で返しました。


「いやいやいや、そっちに無くても、こっちにあるんだよ。 魔物レーダーの復旧とか催涙弾の供給はどうするかとか、あちこちから催促されてるんだよ」

「そんなの知らないっすよ」


 これはまずいと思ったのでしょうか、ギルマスが慌てた様子でフェアリーナイツを引き留めようとしましたが、アキラは飄々としてそっけない返事を返すのでした。


「そんなこと言わないでくれ、なぁ、頼むよ、せめて催涙弾の作り方だけでも教えてください。この通り……」


 いよいよヤバいと思ったのでしょう、ギルマスは、アキラにすがりついて頼み込むとしまいには土下座までする始末です。

 これには、さすがのアキラも困った顔をして、駿助達と顔を見合わせるのでした。


「しょうがないわねぇ。ちょっと待ってなさい」

「おお! ナノリアさま!」


 ナノリアが腰に手を当て、溜息を吐きながら待ってろと言うと、ギルマスは天使でも見たかのように瞳を輝かせてナノリアをあがめました。


 ナノリアは、ぴゅいっと駿助のポケットに入っていくと、灰色のウサギを引っ張り出してきました。


「じゃじゃーん! こんなこともあろうかと、催涙弾製造ゴーレムのタマちゃんを作っておいたわ」

「タマちゃん?」


 ナノリアが、自信満々にウサギのタマちゃんを紹介すると、ギルマスはきょとんと呆けた声を漏らすのでした。

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