第230話 変身魔道具

 改めて近いうちに旅立つことを確認した駿助達は、旅立つ前に済ませておくことを話し合ったのでした。


 その後、寝不足気味の駿助は、ナノリアにおかしな言動が目立つから休みなさいと言われて素直に宿の部屋で眠りにつきました。


「ふわぁ~、良く寝た~」


 目覚めた駿助は、ベッドに寝ころんだまま大きく伸びをしました。

 すると、ベッドの中からもそもそとヘキサ君が出て来ました。


「あれ? ヘキサ君? どうしたんだ?」

「……」


 駿助は、ヘキサ君に尋ねましたが返事がありません。それもそのはず、ゴーレムのヘキサ君にはおしゃべり機能がついていないのです。


「おまえ、喋れないんだな。まぁいい。お腹空いたな。ってもう夕方か……」


 時計を見て軽く驚いた後、駿助はベッドから起き出して着替えると、ヘキサ君を連れて宿に併設されているレストランへと向かいました。


 夕食には少し早い時間でしたが、レストランは営業していたので、駿助は早めの夕食を取ることにしました。


「駿助ってば、やっと起きたと思ったら、呑気にご飯をたべてるわ」

「おう、レイモン、ナノリア」


 レイモンと共にレストランに入って来たナノリアが、ちょっと呆れた調子で駿助のようすを言葉にすると、駿助が軽く手を上げレイモンとナノリアに挨拶をしました。


「駿助、おはよう。ヘキサ君から起きたって聞いたから様子を見にきたわ」

「あー、それで、ヘキサ君がベッドにもぐりこんでいたのか」


 どうやら、ナノリアがヘキサ君を連絡係として駿助のところへ置いていったようです。ヘキサ君はしゃべれませんが、ナノリアとは意思疎通が出来るようです。


「調子はどう?」

「ああ、ぐっすり寝たから、気分爽快だよ」

「良かったです」


 ナノリアに体の調子を聞かれ、駿助が軽く拳を握りしめて答えると、レイモンが嬉しそうに良かったと言いました。


「ちょっと早いけど、あたし達も夕食にしようか?」

「食べるです」


 駿助の食べる食事を見て、食欲が刺激されたのでしょうか、ナノリアとレイモンも早めの夕食を取ることにしました。


 ナノリアとレイモンは、今日のおすすめのシチューを頼みました。魔獣のお肉の入った特製シチューはとても美味しくて、みんな幸せそうにもぐもぐと味わって食べています。


「ゴブリン討伐は順調らしいから、討伐隊は早ければ明日にでも帰って来るそうよ」

「それは良かった。ジョンソンさん達の村が無事だといいのだけど……」


 レイモンとナノリアは、駿助が寝ている間にギルドに立ち寄ったようで、ナノリアが最新の情報を話してくれました。


「村の様子は聞けなかったけど、子供たちは元気だったわよ」

「一緒に遊んだです」


「あたしが変身すると、ものすごい喜んでくれたわ」

「ナノリアさんの変身、すごかったです」


 レイモンとナノリアは、ジョンソンの子供達と遊んでいたようで、その時の様子を楽しそうに話してくれました。


「ぼくも、変身したいです」

「そう? それじゃ、レイモンの変身魔道具を作ってみようかしら?」


 レイモンが、瞳をキラキラ輝かせて変身したいと言うと、ナノリアが魔道具を作ると言い出しました。


「ほんとですか!?」

「少し時間を掛けて格好いいのを作ってあげるわね」

「よろしくお願いしますです」


 ちょっと興奮気味のレイモンを抑えながら、ナノリアは、レイモン用に変身魔道具を作ることに決めたようです。


 夕食を終えて、駿助達は、駿助の泊まっている部屋へと移動しました。

 ナノリアは、さっそく変身魔道具を作るつもりのようで、駿助のお腹のポケットの中から短めの丸棒を取り出して来ました。


「さぁ、始めるわよ。レイモンはこっちの端を持ってね」

「はいです」


「駿助は反対側を持ってちょうだい」

「あれ? 俺も?」


 ナノリアの指示で、レイモンと駿助が丸棒の両端を持ちましたが、駿助は、自分も魔道具作りに関わるとは思っていなかったようで、きょとんとしながら指示に従っていました。


 そして、ナノリアが丸棒の真ん中あたりに手を添えました。


「2人とも、あたしが合図したら、この棒に魔力を流し込んでちょうだい」

「「了解」です」


「いくわよ! せーの!」

「ほい」

「はい!」


 ナノリアの合図で、駿助とレイモンは、丸棒に魔力を流し込みました。

 すると、丸棒はぼんやりと薄青く淡い光を放ち、その光は強くなったり弱くなったりを繰り返します。


「いい感じよ。もう少しそのまま魔力を流し続けてちょうだい」

「んー、なんかデジャヴ?」

「なんか、光ってるです」


 ナノリアの言葉から上手くいっているようですが、駿助は首を傾げて過去を思い出すような仕草をし、レイモンは純粋に不思議がっています。


 丸棒の放つ光は、薄い青色から薄い紫色に変わり、徐々に薄い赤色に変わってゆきました。そして、薄い橙色を経て薄い黄色に変化しました。


 ボフン!


 丸棒が、突如ボフンと音を立てて小さく煙を吐き出すと、レイモンが目をパチクリさせてましたが、駿助は、落ち着いたようすでやっぱりなといった感じです。


「よし! 成功よ。 魔力を流すのを止めてちょうだい」

「なんか煙が出たです……」


 ナノリアが得意げに成功だと言いましたが、レイモンは、ちょっと心配そうに煙が出たことを気にしていました。


「レイモン、あの煙が出るのが成功の印らしいぞ」

「そうだったですか?」


「以前、ナノリア用のを作ったときも、あんな感じだったから間違いないぞ」

「失敗しちゃったかと思ったです」


 駿助が心配顔のレイモンに、以前作ったときのことを話して聞かせると、レイモンもほっとした顔を見せました。


「あたしに任せておけば大丈夫よ。格好いい変身魔道具を作って見せるわ」

「よろしくお願いしますです」


 ナノリアが自信満々に良い変身魔道具を作ると宣言すると、レイモンは、期待に瞳をキラキラ輝かせて、よろしくと頼むのでした。

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