第229話 そろそろ
バロンの町の周辺に魔物レーダーを張り巡らせて、駿助が、ハンターギルドへ報告しに行くと、特許のにおいを嗅ぎつけて現れたジェフリーとギルマスにいいようにあしらわれ、駿助はギルドに泊まり込むことになってしまいました。
駿助は、ジェフリーと共に夜中まで掛かって特許申請書類を仕上げると、もしもの時に備えて、貸し切りとなった会議室で仮眠をとりました。
さすがに、連日の魔物襲撃ということはなく平和なまま朝を迎えましたが、駿助は寝付かれなかったようすで朝早くに起き出して、ギルド職員に宿へ戻ると告げて帰りました。
「あー、朝日が眩しいなー」
駿助は、宿への道をてくてくと歩きながら疲れた顔で呟きました。
宿へ着くと、レイモンが朝練前のストレッチをしていたところでした。
「駿助さん? 出掛けてたですか?」
「おはよう、レイモン。今帰って来たところだよ」
「なんか疲れてるです?」
「ふふっ、ギルマス達に拉致されて、ギルドで一夜を明かしたところさ」
レイモンが心配そうに尋ねると、駿助は、寝不足気味のおかしなテンションで自虐的に答えるのでした。
そして、おかしなテンションのまま、レイモンに心配されながらも、いつものように一緒に朝練を行って朝食の席に着くのでした。
「レイモン、ナノリア、聞いてくれ」
「どうしたのよ、変な顔して」
朝食もほぼ食べ終わった頃、駿助が神妙な面持ちで話を切り出すと、ナノリアが、口をもぐもぐさせながら茶化しに掛かりました。しかし、駿助は特に反応するようなことはありませんでした。
いつもと違う調子の駿助を前にして、レイモンは朝練の時からずっと緊張気味でいたのですが、ここへきて何かを感じたのでしょうか、ごくりと唾を飲み込みました。
「俺達、そろそろ、バロンの町を出て旅をした方がいいと思うんだ」
「そうね、あたし達、旅をしているんだったわね」
「そう、まだ、最初の町から出てないけどな」
「なんだかんだで、出遅れてる感じよね」
駿助とナノリアが話している通り、本来ならば、駿助達は、いろいろな場所を旅しているはずでした。
「いったい、いつになったら旅立つんだと、どこかの誰かが叫んでいるような気がするんだ」
「駿助、大丈夫? 幻聴が聞こえるなんてやばいわよ」
駿助が急におかしなことを言い出したので、ナノリアが、じっとりとした目で見つめながら、客観的にみて感じたことを告げました。
「いや、何も聞こえてないし、そろそろ読者もおかしいなと思い始めてるかも、とか考えてる作者の思いを代弁してるわけじゃないからね」
「駿助……。今のは聞かなかったことにしておくわ」
さらに、おかしなことを被せてきた駿助の言葉については、ナノリアはスルーすることに決めたようです。
そんなやり取りを間近でみていたレイモンは、どうしていいのか分からないようすでおろおろしていました。
「とにかくだ。日に日にハンターギルドからの扱いが雑になってきている気がする」
「ふーん、それが本音なのね」
「いや、まぁ、なんだ……。今のままでは良くないと思うんだ。もっと、こう、強くなるためには旅に出て訓練を積むのがいいんじゃないかなと思うんだよ」
「つまり、いいように使われて嫌気がさしてきたのね」
「えーと……」
駿助は、あまり良く眠れなかったせいなのか、雑な主張を口走ってしまい、ナノリアに突っ込まれて言葉に詰まってしまいました。
「まぁ、いいわ。あたしも他の町を見て回りたいと思うから、アキラが帰ってきたら早めに旅に出ることにしましょう」
「お、おう……」
結局のところ、ナノリアが場をまとめてしまい、駿助は拍子抜けしたように生返事を返していました。
「レイモンも、それでいいわね?」
「は、はい!」
レイモンは、フェアリーナイツとして既に旅に出ることを決めていたため、迷うことなく返事を返しました。
その後、なぜかナノリアがリーダーシップを発揮して、旅に出る前にやっておくべきことを話しあいました。
「駿助が出している特許のことが気になるわね。バロンの町を離れても大丈夫なのかしら」
「ああ、それね、ジェフリーさんに聞いたら、大きな街なら役場で問い合わせれば特許の取得状況が分かるって。それに、ほかの町にもハローコンサルタントの支店があるから、そこでジェフリーさんの名刺を見せれば、いろいろ相談に乗ってくれるだろうって言ってたよ。お金は掛かるけどね」
ナノリアが自身の開発した魔道具関係の特許のことが気になると話すと、駿助がジェフリーから聞いた話を持ち出して、問題ないとにこやかに説明しました。
「それなら大丈夫ね。あとは、魔物レーダーを回収しなくちゃね」
「あー、また半日かけて穴掘りかー。放っておいたらだめなのか?」
ナノリアが魔物レーダーの話を出すと、駿助は、設置した時のことを思い出して酷く疲れた顔をみせました。
「ダメよ。あんな試作品の出来損ないは絶対残しておけないわ。絶対の絶対に回収するんだからね」
ナノリアは、まだ試作段階の魔物レーダーは絶対に回収するんだと、鼻息荒く主張するのでした。
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