第228話 また特許

 ギルマスからの要請で、駿助達は、バロンの町全体をカバーする魔物レーダーの設置を行いました。ナノリア曰く、まだまだ試作段階なので、かなりの数を設置する必要があるということで半日かけての設置でした。


 駿助達は、宿へ戻って早めの夕食を食べると、今日は早めに休むことにしました。

 しかし、駿助はレイモンに内緒で、こっそりとギルドへ向かいました。駿助としてはレイモンにちゃんと休みを取って欲しかったようです。


 駿助が1人でギルドへ入ると、ギルマスの待つ緊急事態対策本部の張り紙が貼られた会議室へと案内されました。


「ギルマス、魔物レーダーの設置が終わりましたよ」

「ごくろうだったな。って、駿助1人か? ナノリアはどうした?」


 駿助がギルマスに報告をすると、ギルマスが駿助1人しか見えないことに気付いて問いかけてきました。


「ナノリアは砲撃用の催涙弾を作るって引きこもってますよ。レイモンは、疲れているだろうから、今日はゆっくり休むように言ってあります」

「そうか。ほかにも相談したい事があったんだがな……」


 駿助がナノリアとレイモンの動向を知らせると、ギルマスは、少し残念そうな顔で呟いていました。


 駿助は、そんなギルマスの事など気にも留めずに脇に抱えていたタブレット石板をテーブルに置きました。


「これが魔物レーダーの端末です。通常は、バロンの町の周辺状況を地図に表示してありますが、部分的に拡大することも出来ます」


「なるほど、あー、すまないが、うちのギルド職員を呼ぶから使い方を教えてやってくれないか。今夜から交代で見張らせようと思う」


「分かりました」

「それじゃ、ちょっと待っててくれ」


 駿助が魔物レーダーのタブレット石板について説明を始めましたが、ギルマスが職員に教えて欲しいとギルド職員を呼びに会議室を出て行きました。


「やぁ、駿助君」

「あ、ジェフリーさん。こんにちは」


 ギルマスが連れて来たギルド職員と共に、ジェフリーがやって来てフレンドリーに挨拶をしてきたので、駿助はちょっと驚いたようすで挨拶を交わしました。


「なんか、新しい発明品があるっていうから見にきたよ」

「そ、そうですか……」


 ジェフリーは魔物レーダーを見に来たようです。それを聞いた駿助は、何かを感じたのでしょうか、ちょっと苦笑いをしていました。


 それから駿助は、ギルド職員3名とギルマスとジェフリーを前にして、魔物レーダーの説明とタブレット石板の操作方法を教えました。


「いやぁ、実に素晴らしい発明です。 是非、特許申請をしましょう!」

「ははは、そうですよねぇ……」


 一通り説明が終わると、すぐにジェフリーが特許申請の話を切り出してきて、駿助は顔を引き攣らせながら乾いた笑い浮かべて返事を返しました。


「ほかに照明弾というのがあるそうですね。実に実用的だったと聞きましたよ。そちらの方も、是非、特許申請をしましょう!」

「あはははははは……」


 どこから聞いたのか、ジェフリーは照明弾のことも持ち出してきて、駿助は、ただただ乾いた笑いを浮かべるだけでした。


「そうだな、駿助には、魔物レーダーの操作が分からなくなった時に備えて、今夜はギルドに泊まってもらうことにしようか」

「えー!?」


 疲れた顔をみせる駿助に追い打ちを掛けるように、ギルマスが、ギルドに泊まるように告げると、駿助は驚きの声を上げました。


「それはいいですね。その間に、特許書類を書き上げてしまいましょう」

「なんなら、駿助の為に会議室を1部屋用意しようじゃないか」


「さすがギルマス。そこで特許書類を書きながら、もしもに備えるというのですね」

「そういうことだ」


「あとは、夜食ですね。調理場を貸していただければ、私が料理しましょう」

「おお、ジェフリーの料理か。俺達の分も頼めるか?」


「ええ、人数さえ教えて頂ければ、ご提供いたしますとも」

「よし、分かった。食材はギルドの経費で落としてくれ。いやぁ、毎日夜食は携行食だったから助かるよ」


 駿助の意見など全く聞きもせず、ジェフリーとギルマスが実に楽しそうな笑顔で笑いながら、トントン拍子で話を進めてしまいました。




「どうして、こうなった……」


 その夜、駿助専用に貸し出されたギルド会議室の中、駿助は、特許書類と格闘しながら、そう呟くのでした。

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