第227話 安請け合い

 バブルモンキーの群れによる襲撃をなんとかしのいだハンター達は、念のためにと警戒を怠ることなく朝を迎えました。


 みんな夜を徹しての防衛線で相当疲れているかと思われましたが、ハンター達は仕事柄、野営には慣れているのでしょう、すっきりした顔で朝を迎えています。


「あ、駿助さんが戻って来たです」

「おっ、やっと帰ってきよったか」


 レイモンが駿助がとぼとぼ歩いてくるのを見つけると、ギルマスが、やれやれといった調子で駿助の方を見やりました。


 駿助は、ラビットマンの変身を解いています。そして、バブルモンキー共が大人しくなったのを確認した後、駿助の下へと向かったナノリアを頭の上に乗せています。


「駿助さーん」


 レイモンが、大きく手を振りながら駿助の下へと駆けて行くと、駿助は疲れた顔で軽く手を振り上げました。


「レイモン、ただいまー!」

「お帰りなさいです!」

「やっと、帰ってこれた……」


 ナノリアが、駿助の頭の上から飛び上がって元気にただいまを言うと、レイモンがお帰りと言ってくれました。しかし、駿助は疲れ切ったようすで、げっそりと言葉を零すのでした。


「駿助さん、すごくお疲れです」

「そりゃぁ、朝までずーっとハンマー振ってバブルモンキーを倒してたからな。さすがに疲れたよ」


 レイモンが心配そうに駿助へと声を掛けると、駿助は、疲れた顔で肩を竦めて愚痴を零しました。


「この程度で疲れるなんて、駿助も、まだまだ訓練が足りないわね」

「ずっとハンマー振り続けるのって結構大変だったんだよ。単調作業の繰り返しで休憩なしで頑張ったんだよ」


「あたしが手伝ってあげなかったら、まだまだ時間が掛かっていたところよ」

「ナノリアは、魔石を拾ってただけだよね。それに、明け方にはバブルモンキー共が復活して逃げて行ったから時間は一緒だったと思うよ」


「まぁ、あたしのおかげで、たくさん稼げたってことね」

「あぁ、帰って寝たい……」


 どうにも調子のいいナノリアを見て、駿助はさらに疲れが増したようです。

 そんないつもの駿助とナノリアのようすに、レイモンは、微笑みながら隣を一緒に歩きます。


「あー、疲れているところ、すまんが、駿助とナノリアは、この後、ちょっと話があるからな」

「えー……」

「ふふっ、特別報酬でもくれるのかしら?」


 ようやく、物見やぐらのある場所までたどり着いたところで、待ち構えていたギルマスから話しかけられ、駿助が嫌そうな顔をするのをよそに、ナノリアがノリノリで報酬の話かと切り出しました。


「ははは、今回、フェアリーナイツは大活躍だったからな。まぁ、報酬の話も含めて相談だ」

「やったー!!」

「相談ですか……」


 ニヤリと口角を上げて、フェアリーナイツを褒め称えるギルマスに、ナノリアは素直に喜びましたが、駿助は、やはり何か嫌そうな顔で呟くのでした。




 その日の午後、駿助達フェアリーナイツは、バロンの町の郊外で穴を掘り、とある魔道具を埋めていました。


「あー、あとどんだけあるんだ?」

「ちょうど半分くらいよ」


 駿助が穴を掘り終えたところで、額の汗をぬぐいながら尋ねると、ナノリアが円盤状の魔道具を穴の中に設置しながら答えました。


「やっと半分か。思ってたよりも大変だな……」

「駿助が安請け合いするからよ」


 レイモンと共に穴を埋めながら駿助がぼやくと、ナノリアが、ちくりと駿助のせいだと言いました。


「いや、だって、ギルマスが土下座して頼んできたんだよ。断れないだろ?」

「あたしはちゃんと嫌だっていったわよ。町全体をカバーするレーダーを設置しろなんて面倒くさいったらありゃしないわ。それを駿助が『俺が設置するから』なんて言って安請け合いしたんだから、ちゃんと働きなさい」


 駿助が事の成り行きを引っ張り出して弁明しましたが、ナノリアも負けていませんでした。


 事の発端は、ギルマスからの相談でした。ギルマスが、人員不足を理由に町全体をカバーするレーダーを設置してくれと要請してきたのですが、それを1度ナノリアが断ったのです。


 しかし、ギルマスが土下座して頼み込んできたため、駿助がなんとかナノリアを宥めて引き受けたという経緯でした。


「ナノリアさん、プリプリしてるです」

「はぁ~、どうしてこうなった」


 ぴゅいっと次の設置場所へと飛んで行くナノリアの後を追いながら、レイモンが、ちょっと困った顔でナノリアの様子を呟くと、駿助が盛大に溜息を吐くのでした。

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